関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、オンラインでの国際交流プログラムを教育機関に提供している、株式会社With The Worldの代表取締役 五十嵐 駿太(いがらし しゅんた)氏に取材しました。
取材・レポート:西山 裕子(生態会 事務局)、近藤 協汰(生態会 学生ボランティア)
五十嵐 駿太 CEO 略歴
1992年生まれ。東洋大学卒業。大学在学中は体育会硬式テニス部に所属。フィリピンで教育活動を行う日本人を、TV番組で見て感化される。テニスラケット約100本の寄付をSNSで募り、フィリピンへ訪問。約120人の子どもたちに、テニスやマナーを指導した。
大学卒業後は株式会社パソナグループに入社、6つの新規事業立上げに参画。その後、株式会社WithThe Worldを創業。
■With The World、その事業概要
生態会 近藤(以下、近藤):本日は取材を快諾していただき、ありがとうございます。ではまず初めに、株式会社With The Worldの事業概要を教えていただけますか。
株式会社With The World 五十嵐(以下、五十嵐):当社の事業内容は、日本と海外をオンラインでつなげ、社会問題についてディスカッションする授業を教育機関に提供することです。ディスカッション後は、授業を通した成果発表として、海外学生と作り上げたプレゼンをリアルタイムで一緒に発表します。この授業に対する生徒の満足度は93%と、とても高い水準になっています。
また、オンラインで話していると相手に会いたくなる子供達も多いため、旅行業の認可をとって「会いに行くという感動体験」まで生み出しています。
現在は世界54カ国330校と繋がりがあり、2020年には日本人だけで1000人以上の学生をつなぎ合わせてきました。
2019年度と2020年を比較すると、採用校が21倍に増えており、コロナ禍を通じて、教員がZoomなどの利用に慣れ、オンライン授業に抵抗がなくなってきました。そのため、採用してくださる教育機関がどんどん増えています。
僕たちは海外の学校の開拓、授業の構成、生徒の評価など、プロジェクト全体をサポートしています。現場の先生は忙しいので、とても助かっていると仰っています。このような活動を学校が独自に行うと、運営に労力がかかりますが、僕たちが全面的にサポートすることで、先生はプログラム内容や生徒の成長にフォーカスできます。その点が、高く評価されています。
■スラム街の子供たちとの交流から、起業を志す
生態会 西山(以下、西山):どのような経緯で、この事業を行うようになったのですか?
五十嵐:学生時代にスラム街にバックパックしていた経験が元になっています。僕は体育会系のテニス部だったので、「テニスを教える」という形で渡り歩き、120人ほどの子供達と接しました。その中で、ラケットを持って2時間後には試合ができるようになる、子供達のポテンシャルをひしひしと感じました。
一方で、噂を聞いてやってきた通学児にスラム街のことを聞いても、「僕たちもあまりわからないんだよね」といった返答が返ってくるのです。このことに、僕はとても驚愕しました。この子供達は将来リーダーとして活躍していくはずなのに、自分の地域の魅力などを語れないのはすごく残念だと。同時に、それは日本も同じだと気付いたのです。
このような経験に感化され、卒業後就職したパソナに勤めつつも、3年後には起業しようと決めていました。
しかし、起業を決心しても、実際に行動を起こすことには恐怖があります。それを一歩踏み出せた理由は、タイの孤児院での体験です。
孤児院の子たちと共に過ごした後、「帰るときには泣いてしまうだろう」と思い、こっそり帰ろうとしたのですが、子供たちが気づいて駆け寄ってくれました。そして、目の前に並んで祈っている。「どうしたの」と聞くと、涙を流して「駿太の夢が叶うように」といってくれたのです。大学4年生になるまで過ごし、僕はこれほどまでに胸を打たれたことはなく、「この子供達はどんな大人になるのだろう」や「どう社会は変わっていくのだろう」という希望を宿しました。また、その瞬間、子供達に対し人生を捧げる意味があると感じ、いつか起業することを心に決めました。
パソナ時代ではとても忙しかったのですが、その中でも常に孤児院の子供達の姿が胸裏に残り、忘れられなかったのです。そこで、「頭から消えないということは、自身が本当に求めているものだ」という思いで、起業することになりました。
■「頼ること」の重要性を、起業で知る
近藤:なるほど!企業内での事業立ち上げから、自身での起業に変わる中で、起業という選択肢から得られたものはありますか?
五十嵐:一つは、「いろいろな人がいないと生きていけない」と知ったことですね!
企業の看板を背負っていると、様々な人が味方をしてくれるのですが、起業した段階ではその看板はありません。しかし、自身の思いをしっかり伝えると、人は振り向いてくれます。地道に活動を続けると、必然的に仲間が増えていくので、自分の思いを実直に伝えることが大切です。
また、僕一人で事業を行なっていても、50カ国以上には事業展開ができていなかったと思います。そこから、「いろいろな人の支えが必要だ」ということと、「頼ることが大事」ということも学びました。
二つ目は、企業内での事業立ち上げと、身一つでの起業だと、絶対に後者の方が問題に多く直面します。そのため、ハードではありますが、起業という選択肢だとより多くのことを学ぶことができるのです。
生態会 雑喉:起業して一番苦労したことは何ですか?
五十嵐:理念と現実の乖離ですね。最初は思いが募って起業するのですが、実際に事業を進めていく中で、どんどん資金が尽きていくんです。給料を0円にしても状況は変わらない。これは、何にも勝る恐怖でした。このとき、思いが事業を成り立たせているはずなのに、儲ける方法を考え始めてしまう。しかし、この誘惑に負けてしまえば、絶対に続かないビジネスであり、誰からも共感を得られなくなります。この「理念と存続」の葛藤はとても苦痛でした。
西山:確かに、ロマンとそろばんとも言いますよね。では今後のビジョンはありますか?
五十嵐:はい。現状「海外―海外」で繋げることはできていないため、この形式の授業も実現していきたいと思っています。一度パキスタンとインドをつないだのですが、対話を見守っていると、「対立は関係ない」ということや百年後の未来まで話しているんです。このように、海外の子供達を繋げる場を創るだけでも、世界平和に繋がっていくのではないかと思っています。
また、自分の地域や課題に目を向けるプログラムも作っていこうと思っています。教育を受けることができない子供たちがいれば、地元にいる人たちが青空教室のように週末に文字・数字を教えるなど、知る喜びを浸透させたいと思っています。
近藤:とても魅力的なビジョンですね。本日はありがとうございました!
取材を終えて:取材では、五十嵐さんのユニークな経験に導かれた事業について伺いました。特に、日本の英語教育は文法・読み取りに偏重しているきらいがあり、欠けているピースに同社の事業がカッチリ適合するのではないかと思います。私にとっても、高校生時にぜひ体験してみたかった授業であり、学生満足度が93%であるのも頷けます。
また、With The Worldの事業を形作っている、五十嵐さんの想いに胸を打たれた瞬間でもありました。彼が出会った子供たちや、授業を受けている学生たちについて話す際、氏からは常に熱意が読み取れ、五十嵐さんでなければこの事業は成り立たなかったと感ずるほどでした。
(生態会 近藤)
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