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皮膚薬大手マルホからのスピンアウト!AIスキンケア提案サービス”MySalon”:WellTech

執筆者の写真: Yoko YagiYoko Yagi

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、スキンケアの新たな『購買体験』の提供を目指す株式会社WellTech 中登 俊幸(なかと としゆき) 代表取締役にお話を伺いました。


取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)、八木曜子(生態会ライター)


 

中登 俊幸(なかと としゆき)代表取締役 略歴

1978年3月14日生まれ、奈良県出身。薬剤師、弁理士、経営管理学修士。大学卒業後2002年から2011年まで日本新薬㈱に勤務、安全性研究部および知的財産部で勤務。その後、WDB ㈱で博士人材のマッチングビジネスを担当。2014年から2024年までマルホ㈱でR&Dマネジメント部や経営企画部で勤務。2024年3月マルホ㈱退職、㈱WellTechをスピンアウトして創業。

 

■スキンケア領域の本当に必要な情報がすぐ見つかる


生態会 大洞(以下、大洞)本日は、どうぞよろしくお願いします。まずはじめに、会社概要を教えてください。


WellTech 中登氏(以下、中登):「MySalon」という美容やスキンケア領域の情報サービスを運営しています。日本国内で販売されている1万点以上の基礎化粧品を独自指標で評価、数値化し、AIが肌悩みに合った最適な化粧品をレコメンドして、行動改善を提案してくれるAIコスメレコメンドサービスです。toB向けとして化粧品メーカーのマーケティング、小売店のPOP製作や教育、カウンセリングサービスも展開しています。


主力製品のヒルドイドで有名な医薬品製造大手のマルホ株式会社の社内ベンチャー制度からスピンアウトして設立しました。会社の設立は2024年1月で、3月に京都市が運営するファンドから出資を受けて4月から実際に事業として本格的に動き出しました。「MySalon」のプロジェクトは会社設立前から2年半にわたりブラッシュアップを行っており、2023年の夏頃から本格的なトライアルを開始しました。6月からはスキンケア商品のワンストップ市場調査システムの提供を開始しています。




生態会 八木(以下、八木):サービス開始のきっかけについて教えてください。


中登:創業の経緯は私のキャリアと関係しています。私は製薬業界のキャリアが長く、新規事業や知的財産、研究開発に携わってきました。特に、知的財産の分野では、外部環境の調査に力を入れてきました。


調査は特許を取得する際に大切な要素で、既に取得されている特許との差を明らかにすることが重要です。違いを知らなければ価値のある特許は取れません。しかしこの調査を行う際に、必要な情報を見つけることに大変手間がかかり、苦労しました。この経験から、自分が本当に欲しい情報をすぐに見つけられることが必要だと認識しました。


「MySalon」自体の構想は2019年頃からありました。コロナ禍で社会が変わる中、マルホとしてもこれまでにない視点を取り入れた新規事業の創出を考える必要があった時期でした。先ほどお伝えしたように、「本当にほしい情報を手に入れ共有する」という課題意識を、マルホの得意なスキンケアと結びつけて、社内ベンチャー制度を利用して、プロジェクトを立ち上げたのが「MySalon」の始まりです。このプロジェクトは、知財のマネージャー業務と並行して進めていました。


コロナで人と人との接点が減り、百貨店などの販売店から直接聞ける情報が手に入らなくなったことで、デジタルで正確な情報を届ける環境の必要性を感じたことも後押ししました。


現在のスキンケアに満足している人は1割程度


八木:そこからどのようにして「MySalon」のサービス提供に至ったのでしょうか?


中登:スキンケアに関する悩みを調査する過程で、社内の女性社員にヒアリングを行った結果、多くの人が雑誌や口コミを参考に購入しても満足できないことが多いと知ったことがきっかけです。


その後、実際に、「MySalon」のシステムに機械学習させるために1万人のアンケートを取ったのですが、いまのスキンケアに満足している人は1割程度で、多くの人が惰性で製品を使っている状況でした。今使っている製品が良い製品ではない事はわかっているし、肌質が改善している感じはしないけれども、変えるのが面倒くさい、変えるきっかけがない...こういった思いを持ってる人が多数でした。


これらの調査結果から、スキンケア迷子や選び疲れている人々に向けて、AIを活用したデジタル技術を使い、適切な情報を提供するサービスとして「MySalon」を考案しました。


チャート等の活用で科学的にアドバイスが貰える

暗黙知を取り込んだAIシステムに強み


大洞:スキンケア迷子は共感できますね。では「MySalon」の特徴をもう少し詳しく教えて下さい。


中登:「MySalon」は、皮膚科学の知識とデジタル技術の融合を目指しています。実はスキンケアの多くの科学的知見は、マルホの研究者の頭の中にあって体系化されていなかったため、長期間にわたり臨床結果や処方の組み合わせのような暗黙知をヒアリングして言語化し、システムに組み込みました。


八木:どうやって暗黙知のような情報を組み込んだのですか?詳しく教えて下さい。


中登:半年以上の時間をかけて研究者や外部のドクターからヒアリングを行い、監修を受けて基盤を作りました。社内のデータや処方のデータもすべて取り込み、一般的に表に出ることはない使用感に関する情報も多く含まれています。これらの情報を体系化する作業は、私一人で行いました。外注できる部分は外注しましたが、秘匿情報は自分で整理しました。


八木:すごく労力がかかったのですね。ユーザーはどのように利用するのでしょうか?


中登:スマホからご利用いただけます。「MySalon」のシステムには、18,000以上のスキンケアアイテムが登録されています。ユーザーが必要な情報を登録すると、悩みや使用感に基づき、最適な製品を提案します。また、診断結果をチャートにしてご提供します。マルホの知見を活かして臨床試験やドクターの意見を取り入れ、科学的根拠に基づいたサイエンス重視のシステムです。


医薬品とは異なり、スキンケア化粧品の効果を実感するには3カ月ほどかかるため、普段の生活習慣の見直しも重要です。ニキビに悩む方が油物を多く摂取したり、ストレスを抱えることが症状悪化の原因となる場合も多いため、生活習慣の改善も含めたアドバイスも提供します。このように、「スキンケア診断」と「肌リスク診断」の二つのソリューションを提供しています。


大洞:相当な情報量をシステムに取り込んだのですね。新商品はどのようにしてシステムに反映されますか?


中登:システムは化粧品の成分を基にしており、成分の順番※や濃度もすべて考慮しています。さらに、ユーザーからの使用感や評価、SNSのFacebookやXなどからの口コミもデータに反映させています。                   化粧品の成分は含有量が多い順に記載されている


例えば、「○○を使って肌質が改善した」というポジティブな情報や、「肌荒れを起こした」というネガティブな情報をすべてのデータをもとに分析を行い、反映させています。コスメの口コミサイトのような商用サイトのデータは使用していません。


新しい成分や製品についても、論文や特許からのデータを基に評価を行っています。エビデンスが少ない成分は初期の点数が低くなることがありますが、SNSや論文の情報が増えることでデータは補正されます。


データは毎月アップデートされるため、常に最新の情報が反映されるようになっています。ただし、データにも賞味期限があると考えているため、古いデータの保証はしない旨を記載しています。


大洞:こちらのデータベースの所有権はどこにあるんですか?


中登:「MySalon」のデータベースはマルホからライセンスを受けて使用しています。今後、マルホの新しいデータがシステムに追加されることはありませんが、スピンアウトに伴い、現在のデータを基に運営していきます。



八木:実際の運用は順調ですか?


中登:昨年の夏に初めて小売店でシステムのトライアルを行い、約3カ月間のフィードバックを得ています。その際、店舗での接客という人を介したコミュニケーションの重要性を再認識しました。単にシステムを提供するだけではなく、「MySalon」所属の美容専門家と提携し、個々のユーザーに対して適切なアドバイスが必要だと感じました。現在は、美容の専門家からの具体的なアドバイスも診断結果に掲載しています。


■科学的根拠から商品を提案


八木:私も「MySalon」を使用しましたが、カウンセリングも丁寧で、分析提案4種類のAIモデル別に回答する詳細さに驚きました。競合サービスとの違いについて教えて下さい。




中登競合サービスの多くは顔写真から評価する画像診断サービスを提供していますが、これは撮影背景や補正の有無で結果が変わってしまいます。実際に私も試してみましたが、環境や光の違いで結果が異なり、ユーザーの悩みに一致しないことが多かったです。画像診断は面白いコンテンツですが、あまり有用性を感じません。


また競合の商品提案方法はNetflixのように他のユーザーの行動を基にしたレコメンドシステムが多いのですが、この手法では理由が明確でないと信頼性が低くなります。そのため、私たちはこのモデルを取らず、ユーザーが納得できる理由、科学的な根拠に基づいて個々に適した提案を行う点が特徴です。


大洞:このサービスはどういった形でマネタイズするのですか?


中登:消費者向けサービスは無料で、法人ユーザーから使用料をとるモデルです。販売促進用資料やカウンセリングへの利用のほか、市場調査にも活用いただけます。


現在はドラッグストアやメーカーと提携してポップを提供しています。ポップは商品を購入する際のガイドとして機能し、店員とのコミュニケーションを促進します。ユーザーは自分に合った商品を選びやすくなり、店員も適切なアドバイスができるようになります。


八木:お話を伺っていて、マルホがあってこその「MySalon」だと感じたのですが、なぜこの事業をマルホの中でやらなかったのでしょう?


中登:マルホはあくまで製造業であり、「MySalon」はこれまでに経験したことのないサービス業に関するものです。市場が違うため、社内で取り組んでいては事業がスケールしないのでは?との考えが最初からありました。その中で子会社化ではなく、スピンアウトを選んだのは、より独立した事業として利害関係なく自由に動けるということと、何より事業をスケールさせることを重視したためです。円満退社で良い協力関係をいまも築けていますし、マルホのデータ基盤があることが弊社の一番の強みになっています。


大洞:最後に今後の展開を教えて下さい。


中登:今後は資金調達を行い、さらに多くの企業や店舗でシステムを導入し、ユーザーに最適なスキンケア体験を提供していきます。上場の目標は7年後、2031年を目指しています。グローバル展開も視野に入れ、マルホのデータが生かせるアジア市場などでの拡大を目指しています。


八木:スキンケア迷子の人たちに朗報となるサービスだと感じました。本日はお時間いただきありがとうございました。


 

取材を終えて

知財業務に従事する中で本当に欲しい情報が見つけにくいという課題意識を強く持っている中で、「My Salon」はサービス業でありマルホの製造業とは異なる領域のため、スピンアウトという選択をしたという中登氏。実際に店頭で接客する中で、コミュニケーションの必要性を強く感じてサービスに取り入れた点や、前職での新規事業の失敗経験から「サービス全体を自分で一度は担当する必要がありいまはその時期、一人でやる」と断言するなど、実行力と事業コントロールのうまさを感じました。(ライター八木)


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