2024年5月22〜25日にフランス・パリで開催されたテック&スタートアップ見本市VIVA TECHNOLOGY 2024に、生態会ライターの森令子が参加しました。特別招待国として日本が参加し、LVMHアワードに日本のスタートアップが初選出されるなど、盛り上がった今年の様子、関西スタートアップの活躍をレポートします。
生態会からの視察は昨年に続き2度目となります。昨年のレポート記事はこちら↓
今年は、過去最大の16万5,000人来場!
VIVA TECHNOLOGY(以下VIVATECH)は、フランスの新聞社と広告代理店が共催するヨーロッパ最大規模のテックイベントです。大企業とスタートアップの協業によるオープンイノベーションの展示が豊富なこと、全世界からスタートアップや参加者が集うグローバルな影響力、一般市民への最終日開放などが特徴です。8回目となる今年は16万人以上が来場し、13,500 社を超えるスタートアップが参加しました。
VIVATECH盛況の背景にある、フランスの政策「フレンチテック / La French Tech」
VIVATECHがこれほど盛り上がっている背景には、 2013年にスタートしたフランスのスタートアップを振興政策「フレンチテック」があります。官民が様々な施策でスタートアップ育成を図っており、2024年5月現在でユニコーン(評価額10億ドル以上の非上場企業) 33社を創出するなどの成果がでています*1。
*1 JETRO短信2024/6/3「政府、2024年の支援強化対象スタートアップ120社を発表(フランス)」
今年の特別招待国は日本! JAPANパビリオンが盛況
日本は今年のVIVATECH特別招待国として、存在感がありました。 JETROが出展しJAPANパビリオンにはスタートアップ・大企業など60社が参加し、ブース展示、ピッチイベントなどで連日盛り上がりました。
JAPANパビリオンはメインホールの目立つ位置に位置し、とても目立っていました。
また、毎年、VIVATECHで注目を集めるLVMH*2イノベーションアワードでは、日本のスタートアップ2社がファイナリストに初めて選出されました。
JAPANパビリオン以外でも、日本に関する多数のセッションやサイドイベント、トヨタの「TOYOTA WOVEN CITY」ブース出展などもあり、日本の技術力、ユニークなビジネスを発信する素晴らしい機会となっていました。
昨年は、韓国が特別招待国として広いパビリオンに何十社ものスタートアップが出展していました。今年も、大きな韓国パビリオンがあり、中国・台湾も大規模な展示をしていました。ぜひ、日本も来年以降も継続出展し、日本の技術・ビジネスを広く発信して欲しいです。
*2 モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン。世界的なラグジュアリーブランドを傘下に置くフランスの巨大コングロマリット企業
写真左:今年も韓国は大きなパビリオンを出展、写真右:台湾パビリオンにはオードリー・タン氏も来場。
生態会取材の関西スタートアップ2社がパリ出展!
JAPANパビリオンには、生態会が取材したことのある2社も出展していました。
glafit:和歌山
「スペインの展示会でも体感しましたが、ヨーロッパでは電動バイクなどマイクロモビリティの人気が非常に高く、ここVIVATECHでもとても反応がよいです。私も、パリの街をレンタル自転車で走ってみましたが、glafitの開発するモビリティとの相性の良さを実感しましたよ!」
と、好感触を得られていました。帰国後もフランス・日本などの企業と商談が進行しているそうです。
実際のプロダクトも登場したglafit社のプレゼン。JAPANパビリオンのピッチスタジオにて。
mui Lab:京都
スマートホームのハードウェアからソフトウェアまで一気通貫で提供する京都のmui Lab社(2022年12月取材記事はこちら)は、国際規格Matterに対応したプロダクト、スマートホームコントローラー「muiボード第2世代」を展示し、注目を集めていました。出展目的について、大木和典 代表取締役社長は
「協業に向けた大企業の探索と、欧州の企業や消費者のニーズ確認」
と話されていました。
スマートホームコントローラー「muiボード第2世代」が展示されたmui Labのブース。
大阪発スタートアップJIKANTECHNO、LVMHイノベーションアワードのファイナリストに選出!
今年のLVMHアワードは、89か国1,545社という過去最多の応募から、2社の日本企業が初めてファイナリスト(18社)に選ばれました。岩手のへラルボニー、そして、大阪のJIKANTECHNOがファイナリスト選出!という嬉しい知らせは、開催1ヶ月前の2024年4月に発表され、フランス出発に向け大変盛り上がるニュースとなりました。
LVMHアワードのファイナリストには、LVMHから様々な支援プログラムや、グループ会社との協業機会などが提供され、その一つとして、VIVATECH出展サポートがあります。ファイナリスト18社は、VIVATECH会場で毎年最も注目を集め、常に多くの人で賑わうLVMHブース内に出展できるのです。
私も、VIVATECH開催中に何度か、JIKANTECHNOのブースを訪れましたが、絶え間なく商談をされている様子が印象的でした。
写真左:JIKANTECHNOはLVMHブースに出展、多くの人が訪れていました。写真右:豪華で美しいデザインが毎年注目のLVMHの巨大ブース。今年のテーマは「THE DREAM GARDEN」。
JIKANTECHNOは、温室効果ガス排出の削減効果が高いバイオマス由来のナノカーボンを開発し、様々な業界に素材として販売しています。VIVATECH開催中、そして、帰国後にも、代表取締役 木下貴博氏にお話をお聞きすることができました。
「VIVATECH出展のきっかけは?」
「今年2024年1月、「ジャパンテック」として出展したラスベガスのテクノロジー展示会CESで、LVMHの幹部が、弊社のブースに立ち寄ったことがきっかけです。私たちの技術は、農業廃棄物を産業資材に変える大変ユニークなもので、カーボンニュートラルであることも含め、高級化粧品の材料として大きな可能性があると、すぐに理解いただき、彼らから”今年のLVMHアワードに応募するべきだ”と勧められたのです。」
「VIVATECHでの手応えは?」
「LVMHアワードのファイナリストとして、VIVATECHのLVMHブースに出展しました。実は、VIVATECHについては、出展するまでよく知りませんでしたが、開催期間を通して、LVMHの超有名メゾンをはじめ世界的な大企業の上層部が次々とブースに訪ねてきてくれ、しかも、本気の商談が多く、驚きました。私たちのプロダクトにも、多くの企業が興味を持ってくれました。帰国後も世界的企業との業務提携の交渉など、色々な案件が進行しており、海外展開が急速に進展しています。」
「VIVATECHの後も、パリに再訪されたそうですね?」
「LVMHに招聘され、パリのStation F(世界最大規模のスタートアップインキュベーション施設)に、2024年9月から約1年間、期間限定で入居します。入居が決まって以降、特に海外からの反応が大きく、例えば、シンガポールやシリコンバレーの企業などからも連絡がきています。”Station Fに入居するスタートアップは有望”という信用がすごいと実感しています。」
パリ13区のStation F。元・貨物駅の建物をいたした縦長の施設が特徴。
「スタートアップとして心掛けていることは?」
「自ら動いて情報を取ること、オンラインだけに頼らず現場を大切にすることですね。例えば、CESやVIVATECHのように海外の展示会はもちろん、国内の展示会もチャンスとアイデアの宝庫です。ブース来訪者の質問で、自社製品の改良点を教えてもらったことが何度もあります。自治体や省庁のブースでも、効率的に情報収集ができるなど、いつも色々な気づきがあります。」
行動力あふれる木下社長が率いる同社の成長に期待しています!
海外スタートアップ動向は? 〜SINEORA社ツアーより
昨年に続き、今年もSINEORA社(以下、シンノラ)のVIVATECHガイドツアーに参加し、海外の注目スタートアップを取材しました。
シンノラは、グローバル事業やオープンイノベーションのため、ヨーロッパとアジアの企業をつなぐパートナーシップを強みとするフランス企業で、VIVATECHでは日本企業向けツアーを開催しています。
シンノラのツアーでは、VIVATECHをよく知る今井公子 シンノラ社長や、同社メンバーが、ツアーに参加する日本企業にあわせて、オープンイノベーションに積極的な有望スタートアップを厳選してくれます。ツアーで取材したスタートアップから、数社をご紹介します。
シンノラ今井氏(写真左)、日経新聞社 上田氏(写真右)とともに。
イノベーションの中心には、やはり生成AI
生成AIを活用し、様々な分野でイノベーションが起こっています。今年の会場には、AIに特化したエリア「AI AVENUE」もありました。
Jua:気象予測AI開発(スイス)
気象予測に特化した世界初のAIを独自開発中。気象データだけでなく、自然界の物理法則を含む膨大なデータソース学習で、高精度の気象予測を可能にしている。気象予報のほか、エネルギーや化学物質など様々な分野での活用が期待されている。
enspired:AIを活用した、再エネの自動取引プラットフォーム(オーストリア)
リアルタイムでエネルギー市場の取引を最適化し、再エネ資源の柔軟で効率的な利用を支援するプラットフォームを開発。国際的な公共事業、仮想発電所(VPP)などにサービスを提供。ドイツでは、化石燃料削減のためエネルギー事業者と協業し、リアルタイムに状況予測し風力や太陽光のネットワーク拡大に貢献した事例がある。
XXII:リアルタイムで映像をAI解析するSaaSプラットフォーム(フランス)
AI映像をリアルタイムで分析し、安全や効率を高めるSaaSプラットフォーム「CORE」が、都市や空港、駅など交通ハブの安全管理、小売店舗での効率化・マーケティング効果測定など多くの業界や自治体・政府で利用されている。フレンチテックのFrance 2030プログラムを受賞。
写真左:Jua(気象予測AIを、立体展示で説明)、写真中:enspired(リアルタイムのトレーディング画面がブースに展示されていました)、写真右:XXII(AIによる異常検知やパターン認識を、一目でわかる直感的なインターフェースのプロダクトで提供)。
ディープテックのスタートアップも数多く出展
ヨーロッパは、環境・エネルギーへの関心が高い地域です。また、VIVATECHには、フランスをはじめ各国の研究機関・大学も多数出展しています。シンノラはディープテックのイノベーションにも強みがあることから、ツアーではエネルギー分野の研究開発型スタートアップにも、話を聞きました。
mecaware:バッテリーから戦略的金属をリサイクル(フランス)
使用済みバッテリーや生産廃棄物から、重要な原材料をリサイクルする技術を開発。リチウム、コバルト、ニッケルなど戦略的金属を効率的に回収し、持続可能な経済推進を目指す。CO2回収と金属リサイクルを組み合わせた革新的手法で特許4件を取得。
neology:アンモニア分解で水素を生産する技術を開発(スイス)
高純度な水素を生産するアンモニア分解システムを開発。将来の無炭素エネルギーの貯蔵・輸送の実現を目指す。コンパクトでコストパフォーマンスもよく、既存のエネルギーインフラに簡単に設備できるため、発電機やトラックのような移動用途にも応用可能。
写真左・中:mecaware(カラフルで美しい金属がリサイクル原材料だということに驚きました。)、写真右:neology(設立者・CEO Aris Maroonian氏(右)は元トヨタ勤務で日本語も流暢、日本企業との協業に意欲的でした。)
市場が変われば評価も変わる。国際展示会での気付きは大きい!
国際展示会に出展し、サービスやプロダクトへ日本と異なる評価を受けることについて、多くのスタートアップからポジティブな感想をお聞きしました。今回、パリで会った関西のスタートアップに帰国後もお話をお聞きしましたが、各社とも、VIVVATECHでのチャンスを事業成長につなげていこうと動かれていました。
VIVATECHでは、環境問題へ取り組む本気度が企業・消費者ともに日本とは全く異なること、そこにビジネスチャンスがあることを、私も体感しました。市場・顧客が変わることで、ビジネスが変わるということですね。
今後も、関西スタートアップの活躍をウォッチし、生態会を通じて応援していきたいと思っています。
写真左:JAPANパビリオンにてPOKET RD社の籾倉社長(左)と森(右)で記念撮影。同社の3Dボディースキャナー「AVATARIUM」による自分そっくりアバター体験は、パリでも大人気でした! 写真右:帰国後、VIVATECH報告会(大阪)に、森も登壇しました。
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