関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回はハンドメイド専用SNSアプリ「croccha」をリリースし、ものづくりバーティカルECを展開するtryangle株式会社の代表取締役社長 藤原 真吾(ふじわら しんご)さんにお話を伺いました。
取材:西山 裕子(生態会事務局長)、奥田 菖斗(学生スタッフ)
レポート:奥田 菖斗
代表取締役社長 藤原 真吾
1983年香川県生まれ。大阪市立大学卒業後、外資系製薬会社に入社し、業界最年少で関西支店長(34歳)に就任。2015年に経営を学ぶため、グロービス経営大学院MBA入学し、現取締役副社長の福田久美子(ハンドメイド業界でコミュニティ形成を行い、ECを運営し、創業2年目で年商2億円を達成)と出会い、起業を決意する。
2018年tryangle株式会社を設立。2019年9月にサービスを開始した「croccha」は「G-CHALLENGEビジネスプランコンテスト2019」にて大賞受賞。現在も多くのメディアに掲載されている。
■DX化が遅れるハンドメイド業界
奥田:まずはtryangle株式会社の事業概要について、詳しく教えていただけますか。
藤原:私たちは「作りたいものが作れる世界を」をテーマに、ハンドメイド作品の投稿やハンドメイド素材のECを行えるSNSアプリ「croccha」を展開しています。「croccha」はバーティカルECとして、ハンドメイド素材を扱う企業のECサイトへの送客、更には私たちが商品を仕入れ、企画し、売るというB-to-Cのビジネスモデルを取り入れています。
奥田:ありがとうございます。このビジネスモデルを取り入れた経緯を、教えていただけますか。
藤原:実はハンドメイド業界では、材料に固有名詞がついておらず、お店によって定義がバラバラであるという、大きな課題があります。リアル店舗では簡単に材料を見つけることがきても、インターネットでは文字情報で商品を見つけることが非常に困難だということです。楽天市場やAmazonで調べても、ハンドメイドの完成品は出てくるが、材料を見つけることができない現実が物語っています。要するに、ハンドメイド材料に対する業界のルールが定まっていないのです。そこを私たちが、SNSを通してデータを集め、材料を明確化し、自ら販売するところまでをビジネスとして捉えました。
奥田:そういった経緯で、事業を作られたんですね。ハンドメイド業界の、プラットフォームを目指しているのでしょうか。
藤原:はい。現在「croccha」は2万ダウンロードを達成し、月間Webサイトユーザーは8万人を突破しました。それを考えると、ハンドメイドに特化したSNSというプラットフォームは、作ることができたのではと感じています。現在は、ECの商品をできる範囲で自分たちでやり、手が届かない所は他のECサイトへ送客するという形を取っています。2年後には、ECサイトの商品をマーケットプレイス型のプラットフォームにしていければなと考えています。ビジネスモデルとしては、AmazonやZOZOTOWNに近い形を目指しています。
奥田:ありがとうございます。なぜ、ハンドメイド業界に、目を向けたのでしょうか。
藤原:ハンドメイド市場は現在、4000億円ほどあるというデータが出ています。これはリアル店舗を合わせており、EC市場は500億円ほどです。ハンドメイド市場がここまで大きかったこと自体、信じ難いものもありますが、EC化率が低いことにも驚きですよね。よく考えれば、ハンドメイド商品ってかなりECに適しています。腐らないし、持ち運びも手軽です。なのに商品の品番が定まってないことで、Amazon等に出品することができません。その課題を解決することができれば、ビジネスになるのではないかと思い、ハンドメイド業界に注目しました。
奥田:そこまで大きな市場であったとは、知りませんでした。私自身、コロナ禍でハンドメイド業界のことを知ったので、驚きです。
藤原:そうですね。コロナ禍の巣ごもり消費で、マスクの制作など、メディアに露出する機会が増えたことが大きいと思います。実際に昨年は市場が大幅に伸びていますし、ハンドメイド業界が注目を集めることとなりました。
■SDGsをも巻き込む、ハンドメイド業界の新たな進化
西山:なぜ、この東大阪市で拠点を構えたのですか。
藤原:きっかけとしては、モノタロウさんが東大阪に拠点を構えていたことです。大手EC会社が構えていたことには、何か利点があるのではと想像しました。B-to-Cを視野に入れていた私たちにとって東大阪は物流に適していると判断し、後からわかったことですが、パートさんが雇いやすかったのです。この利点はかなり大きいです。
tryangleのテーマはSDGsの12「つくる責任つかう責任」に大きく関わっていますし、女性をターゲットしていることを考えても、女性の働き方支援にマッチしています。さらに言えば、東大阪市は製造業が多く、補助金の額も大きいのでそこも利点になっています。
奥田:現在の資金の運用は、どうなっていますか。
藤原:今はプロダクト開発に注力しています。アプリやECサイトを自社で開発しているので、エンジニア4名、デザイナー2名を中心に開発を進めいています。また、DX化が進んでいないハンドメイド企業に、ノウハウを教えることをしています。ハンドメイド業界全体でDX化を盛り上げていければ、もっと注目を集める業界になるのかなと考えています。加えて、物流拠点も構えたので物流にも力を入れています。1年後、2年後にプラットフォーム化を目指しているので、今は段階を踏んで資金運用を進めています。
西山:現状の売り上げを、詳しく教えていただけますか。
藤原:年商1億円弱あります。軸としてはやはり、BtoCでの売上が中心になっています。次に企業のDX、マーケティング支援ですね。この売上は業界の関係強固にも繋がってくるので大切にしてます。広告は苦しい状態ですね。というのも通常の広告を、アプリではあまり出していない状況です。アプリで広告モデルをやっていくと、ユーザーのノイズになっていくので、あまり大きくはしていないという意図があります。ただ将来性として、ハンドメイド業界外から広告を取ることができれば、売上が大きくなるとは考えています。しかし、今は強化をしておらず、ユーザーが欲しい広告、ユーザーが広告だと感じない広告だけを載せいています。アプリの世界観づくりに、こだわっている段階ですね。
現在はアプリの全体設計ができるマーケターやデザイナーといった人材を必要としています。それも女性ですね。やはり、女性をターゲットとしているので、女性の感覚を大切にしています。
西山:起業して3、4年になりますが、この期間は藤原さんにとってどんなものでしたか。
藤原:遡れば、大学生時代に起業したいという想いはありました。サラリーマン時代を経て起業した今、成長をかなり実感しています。人との出会いや話す内容、そういった面でのレベルがサラリーマン時代と比べて何倍も違います。さらに、ビジネスを俯瞰してみる力やマーケティング能力、組織を動かしていく力、ファイナンス関係の知識。それら全てがすごい勢いで成長しています。ただ営業という面では、サラリーマン時代の方が大変でした(笑)。しかし、前職で培った営業スキルは今でも生きています。
資金調達は、かなり苦労しました。資金調達ありきのビジネスモデルでしたが、東京と比べて関西で資金調達をするのは厳しいものがありました。基本的には、紹介を中心に人脈を広げ、また目を向けてもらうためにピッチコンテストにも応募しました。
西山:最後に、今後の展望を教えていただけますか。
藤原:先ほども申し上げましたが、ECをプラットフォーム化し、ハンドメイド業界外からも広告が参入できる環境を作り、ハンドメイド業界のDX化を進めていきたいと考えています。今はその目標に向けて、一つずつ階段を登っていくことに集中していきます。
取材を終えて:ハンドメイド材料市場はなんと4,000億円。さらに巣ごもり消費の影響で、ハンドメイド市場に特需が発生し、材料EC市場は150%の成長。取材を通して、普段何気なく見ている両親の趣味に、これほど大きな市場が眠っていたことに驚きを隠せませんでした。藤原氏は、ハンドメイド材料はECに適した素材であるのに、ECが普及していない状況に課題を感じており、今の時代に即した受け入れやすい土壌を作り上げていることを熱く語ってくれました。これからのハンドメイド業界はtryangleが中心となり、時代の波に遅れた業界のDX化への期待がますます高まっていきます。そして、tryangelの更なる成長にも目が離せません。(奥田)
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