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諦めない歯科治療の実現へ! 世界初となる歯の再生治療薬を開発:トレジェムバイオファーマ株式会社

執筆者の写真: 松井 知敬松井 知敬

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、歯の再生治療薬を開発するトレジェムバイオファーマ株式会社の 喜早 ほのか(きそう ほのか)さんにお話を伺いました。


取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局長)、松井 知敬(ライター)



 

喜早 ほのか(きそう ほのか)氏 略歴


1981年生まれ、京都市出身。中学生のときに病気で歯を2本失った経験から、口腔外科医を目指す。2006年に大阪歯科大学を卒業し、京都大学医学部附属病院に勤務。臨床医として働きながら、2008年、京都大学大学院医学研究科に入学。後の共同創業者となる髙橋克氏の下、再生研究に携わる。2020年、トレジェムバイオファーマ株式会社を設立。

 

■30年近くの研究成果を基に立ち上げた、京大発スタートアップ


生態会 松井(以下 松井):本日は、どうぞよろしくお願いします。まずはじめに、御社の事業内容を簡単にご説明いただけますか?


トレジェムバイオファーマ 喜早(以下、喜早):私たちの会社は、「歯の再生治療薬」を研究開発しています。世界初の「歯生え薬」です。永久歯が生えない「先天性無歯症」という病気があるんですが、その治療薬となります。


松井:設立は2022年5月とのことですが、研究自体はもっと以前からされていたんでしょうか?


喜早:はい。創業メンバーの高橋が、大学院生だった1995年頃からずっと温めてきたものなので、30年近くの研究成果を基に立ち上げた会社になります。


生態会 西山(以下、西山):喜早さんがこの研究のことを知ったのは、いつなんですか?


喜早私が知ったのは、大学院生になった2008年です。私、2006年に歯科医師となり、京大病院に勤めていたんですけど、診療と並行して研究もしたいと思って、京大の大学院に入りました。そこで、高橋の研究グループに加えてもらったんです。


西山:歯科医師は今も継続しているんですか?


喜早:実は、株主間契約で会社に専念することになり、歯科医師はこの3月でやめています。本当は、診療も続けたかったんですけどね。高橋は、会社の活動と並行して、今も現役の歯科医師を続けています。




■2018年、京都大学のインキュベーションプログラムに採択される


左から CTO髙橋氏、CEO喜早氏、CBO髙谷氏
左から CTO髙橋氏、CEO喜早氏、CBO髙谷氏

松井起業までの経緯を教えてください。


喜早:2018年に、京都大学のインキュベーションプログラムに採択されました。研究成果を事業化するための支援プログラムで、年間3000万円を2期いただくことができたんです。おかげで、薬を投与したマウスおよびフェレットに歯が生えるのを確認できるまでになりました。それで、特許申請して、会社を立ち上げることにしたんです。


西山:もともと、起業家になりたいという思いはあったんですか?


喜早:いえ、全然、なかったです。前述のインキュベーションプログラムに、「研究開発責任者と事業化責任者の2人1組で」という応募条件がありまして、その流れで、研究開発を高橋が、事業化を私が引き受けることになったんです。そこからですね。ビジネスについて学び始めましたのは。


松井:確か、喜早さんご自身が歯を失ったことをきっかけに、歯科医師を目指されたんでしたよね。


喜早:そうです。顎の骨の病気で、中学2年生の時に奥歯を2本失っています。そのときに執刀してくれたのが京大病院の先生で、その方に憧れていたこともあり、以前は大学で上を目指したいと思っていました。


松井:今は研究から経営の方に移られた訳なんですが、その辺りの心境はいかがですか?


喜早:経営も楽しいですよ。確かに、臨床もしたいし、研究もしたいんですけど、今はこの薬を患者さんに届けることが最優先なので。ビジネスについて学ぶため、2024年4月から同志社大学のビジネススクールにも通い始めました。すごく刺激になっています。




■体内の「USAG-1タンパク」を抑えることができれば、歯を成長させられる


松井:どういったメカニズムで、歯が生えてくるんですか?


喜早:「先天性無歯症」って、正確には、歯が生えないのではなく、歯が育たないんですよね。「歯の芽」があることは分かっていて、途中まで育つんですけど、最終的に歯にならない。だから、歯の成長を促進させてあげればいいという考え方です。


松井:なるほど、「歯の成長を助ける薬」なんですね。


喜早:「過剰歯モデルマウス」と言って、通常より歯の数が多いマウスがいるんですが、このマウス、一生、体の中で「USAG-1タンパク」が作られないことが明らかになっています。つまり、歯ができる時期に、体内の「USAG-1タンパク」を抑えることができれば、歯を成長させられるのではないか?ということで開発を続けてきました。


松井:開発はどこまで進んでいるんですか?


喜早この10月から治験が始まっていまして、2030年には患者さんの元へ届けたいと思っています。


西山:「先天性無歯症」に対して、現在はどのような治療があるのですか?


喜早:「歯科インプラント」と言って、顎の骨に人工歯根を埋め込む方法があります。ただ、顎の骨が成長しきってからじゃないと無理なので、歯の生え変わる小学生ぐらいから「入れ歯」で過ごさないといけない。でも、「入れ歯」って適合が結構難しかったりするし、いちいち出し入れするのが面倒くさかったりして、どうしても噛む力が弱くなっちゃうんです。そうすると、顎の骨が発達せず、インプラント手術の前に顎の骨を作る手術が必要となるケースもあるんです。


西山:結構、深刻ですね。


喜早:心理的な面でも、歯を失うと人前に出にくくなったりするので、本当に切実です。この薬をできるだけ早く届けられるようにしたいと思っています。





■最終的なゴールは、「第3の歯」が生えるようにすること


松井:今後の展望を教えてください。


喜早:目下の目標は、「先天性無歯症」の患者さんにこの薬を届けて、永久歯が生えるようにすること。そして、最終的なゴールは、「第3の歯」が生えるようにすることです。ワニとかサメとかって何回も歯が生え変わるんですけど、実は、人間にも「第3の歯の芽」があることは分かっているんです。それを成長させることができれば、歯を失ったとしても、再度、生やすことができるということです。


松井:それは、夢がありますね。


喜早:歯科医師として診療していると、「しょうがない」っていう場面がよくあるんですよね。たとえば、永久歯が歯周病になってグラグラし始めても、「持つまで持たせましょう」となる。なぜなら、「永久歯で終わり」だからです。もっと「しょうがない」で終わらせない歯科治療を実現したいと思っています。


西山:確かに、虫歯の治療にしても削るか抜くかですし、「しょうがない」という感覚はよく分かります。


喜早:実は、歯の再生医療を研究している先生はたくさんいるんです。ただ、そういった研究って、研究段階で止まってしまっていることも多い。もしすごくいいシーズがあるのであれば、ぜひ一緒に実用化まで持っていって患者さんに届けられればと思っています。


松井 西山:本日はありがとうございました。


 

取材を終えて

トレジェムバイオファーマ株式会社が目指すのは、諦めない歯科治療。現在、歯の治療には「削る」「人工物で代替」といったアプローチがとられているが、それは一重に、歯を再生させることができないため。同社の技術は、この当たり前を覆す。目下の目標は、再生治療による先天性無歯症の解決だが、ゆくゆくは、虫歯歯周病などによる後天的な歯の欠損も再生治療で解決していきたいと代表の喜早氏は語る。多忙な中、ビジネススクールにも通い始めたという喜早氏。持ち前の強い意志で歯科医療に革命を起こし続けていってほしい。(ライター 松井)


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