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SDGsに特化したプレスリリース配信。異色の起業家が挑む新たなトライ:The Lodges

執筆者の写真: Yoko YagiYoko Yagi

更新日:14 分前

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、SDGsの実現を促進することで、持続可能な未来を創ることを目指す株式会社The Lodgesの代表取締役、長澤 奏喜氏にお話を伺いました。同社は、企業のプレスリリース配信やクチコミでSDGs活動を可視化し、共創を生み出すプラットフォームを事業展開することで、社会の分断を防ぎ、最終的には戦争のない世界の実現を目指しています。

取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長) 八木曜子(生態会ライター)

 

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代表取締役 長澤 奏喜(ながさわ そうき)略歴

1984年生。愛知県出身。慶應義塾大学理工学部卒業後、㈱NTTデータでシステム開発に従事。その後、現職参加制度でJICA(国際協力機構)に参画。ジンバブエ農業大学でIT講師を2年経験後、25カ国の国と地域の最高峰にトライするプロジェクトを展開。その後、㈱好日山荘で、ECモールの事業責任者として勤務。2022年に起業、2023年にウクライナ-パリを750kmを人力で駆け抜け、現地での教育現場でSDGsに触れた経験からピボットし今の事業へ。

 

異色のキャリアからSDGs実現へ


生態会 事務局長 西山(以下、西山):本日はありがとうございます。まずは、会社設立に至る経緯やキャリアについてお聞かせください。


長澤代表(以下長澤):はい。私のキャリアは、少し変わっています。現在は登山家でありシステムエンジニアであり起業家と、3つのわらじにトライしております。大学卒業後、最初は東京でNTTデータでシステムエンジニアとしてNasdaq OMXと協業しながら大阪取引所の先物取引システムの開発などに携わっていました。その後、自分を試してみたいという思いから現職参加制度を活用してJICA(国際協力機構)の青年海外協力隊に参加し、27歳の頃ジンバブエの農業大学で2年間IT講師を務めました。


ライター 八木(以下八木):ジンバブエでは、どういったことをされたんですか?


長澤:現地では、インターネットを農業にどのように活用すればよいのかが十分に理解されていない状況 でした。そのため、派遣先の農業大学では IT関連の授業や試験の作成、IT環境の整備 などを担当しました。

ジンバブエ写真(長澤氏より写真提供)
ジンバブエにて(長澤氏より写真提供)

とはいえ、水や電気が止まるのは日常茶飯事。家の中に置いていた果物は、窓の網格子をすり抜けて入ってきた子どもの猿に盗まれ、学生の火の消し忘れで住んでいた村が炎に囲まれ、一緒になって必死に火を消したこともありました。雨季には大量のバッタが発生し、おびただしい数が窓にぶつかってくる――そんな予想もしない出来事の連続でした。


学生時代はラグビー部でハードな日々を過ごし、オフの時期にはアジアや南米をバックパッカーとして旅していたこともあり、「アフリカなんて全然大丈夫だろう」と高を括っていました。しかし、ハイパーインフレで経済が破綻した直後のジンバブエは、想像以上に刺激的な環境でした。

登山写真
ラグビー登山家として登頂(長澤氏より写真提供)

そしてジンバブエから帰国後、しばらくして2017年に脱サラし2019年にラグビーワールドカップ開催にちなんで世界初のラグビー登山家として、25カ国の出場国の最高峰を目指すというプロジェクトを立ち上げました。なお、会社のロゴはかつて登った山々をモチーフにしています。


八木:登山は、昔からお好きだったのですか?


長澤:いえ、それまで経験はなかったのですが、社会人になり挑戦してみたいと思い始めました。そしてそのプロジェクトが終わると、2020年に神戸で登山・クライミング・アウトドア用品の総合専門店の株式会社好日山荘のIT責任者として、働きはじめました。業績は厳しい状況だったのですが、黒字転換までの業績改善に貢献し、ビジネスの楽しさを知りました。その後は、4年に一度ラグビーW杯を掲げた冒険をするという自分自身のミッションもあり、2022年12月22日に神戸で起業をしました。


八木:初期は、どういったビジネスプランだったのですか?


長澤当初は、登山とメンタルヘルスを組み合わせたアプリ事業を考えていました。しかし、思うように進まず、苦戦しました。そんな中でSDGsに出会い、SDGs関連のテックサービスがほとんど存在しないことに気づき、2023年2月ごろに事業の方向性を大きく転換しました。

 

SDGs領域でのサービスを模索する中で、4年に一度の冒険プロジェクトを実施しました。2023年の初夏、ウクライナからパリまでの750kmを、人力でラグビーボールを抱えながら走破する挑戦をしました。その道中、ブチャという村の学校を訪れる機会があり、そこでSDGsが教育現場で実際に教えられている様子を目の当たりにしました。


ブチャは、2022年3月のロシアによる侵攻で虐殺が起こった場所です。そんな悲劇を経験した地域でさえ、SDGsが教えられていることに大きな衝撃を受けました。戦争が起こる背景には、宗教や歴史観などの価値観の違いがあるのではないかと考えています。しかし、「SDGsは人類史上初めて、世界が共有する価値観である」と強く実感しました。

戦争をなくすためには、SDGsの実現が不可欠です。我々の事業も、その実現に向けて全力を注ぐことを決めました。


SDGs実現のための3事業


八木:なるほど、ウクライナでの経験が、ミッションをSDGsに定めることになったのですね。それでは御社の事業内容について、ご説明お願いします。


長澤:当社は、SDGsの実現促進に特化した3つのサービスを展開しています。


1つ目は、企業向けの”SDGs PR Lodgeです。SDGs専門のプレスリリース配信サービスで、SDGsに関連した情報発信を支援します。使いやすいUI/UXとAIアシスト機能がと特徴で、企業が簡単にプレスリリースを作成・配信できる仕組みを整えています。特にAI機能は競合他社はまだそこまで付帯されていないのでユニークポイントです。WEBマガジンやAIプロンプトの提供など、広報初心者も使いやすくなっています。


SDGsPRLodge画像
SDGsに特化したプレスリリースサービス

2つ目は、一般ユーザー向けの “SDGs クチコミ Lodgeです。SDGsに関心を持つ消費者が、企業や団体の取り組みを評価・応援できる口コミサイトです。これまでに 800名以上のユーザーが参加し、5,000件以上の口コミがオーガニックに集まり、新しいコミュニティが形成されています。このサービスでは、ユーザー評価に基づくランキングなどを通じて、企業の活動が可視化されます。また、ポイントシステムを導入しており、いわゆる「ポイ活」の仕組みに近いものの、単なるインセンティブではなく、贈与経済の考え方を設計思想に取り入れています。具体的には、他者にポイントを贈呈することで、その行為自体が評価される仕組みを採用しています。贈与を重視し、サポートする文化を醸成するため、ポイントを分け与えた人が優位に立つ仕組みを取り入れています。


SDGs口コミLodge画像
幅広い組織・団体の情報がよせられている


3つ目は、2024年10月にリリースしたSDGs 共創 Lodge” です。今後、メイン事業として展開していく予定です。このサービスでは、生成AIにプレスリリースデータと口コミデータを学習させ、共創シナリオを自動生成する仕組みを採用しています。これにより、異業種間のコラボレーションを促進し、SDGs達成に向けた新たなビジネス機会を創出します。現在、本システムは 9項目の分野で特許出願済み です。生成AIを活用することで、「あなたの企業と課題がマッチングする会社はここです。こういったアクションを検討しませんか?」 という具体的な提案を含めた共創シナリオを作成することができます。


SDGs共創Lodge画像
PRと口コミによる共創シナリオを提供

サステナビリティ意識の高い層や企業を獲得


八木:なるほど。共創アイデアはあっても、なかなか実装できてるサービスはないので期待大ですね。これまでに得られた反応はいかがですか?


長澤: おかげさまで、PR Lodgeには2024年末時点で300社以上が利用し、その中には上場企業が11社もあります。SDGsに特化したPRサービスというのは他に例がなく、ユニークな価値を提供できていると感じています。


ただ課題もあり、特にメディア連携が進みにくいという現実があります。これを解決するために、2025年から東京での活動を増やし、メディアに直接アプローチをして転載連携を強める予定です。


西山:東京で直接営業をかけられるのは効果的ですね。クチコミLodgeは、オーガニックで800名以上集まっていらっしゃるとのこと。広告費をかけていないことが驚きですが、どういった方が参加されてるんですか?


長澤:サステナビリティへの関心が高い方々が参加されています。例えば、学生団体のメンバーなど、これまで地球の未来を考えて啓蒙活動を続けてきたものの、なかなか広がらず、虚しさを感じていたという声をよく聞いていました。


そうした想いが集約されることで、「企業にもっとこうしてほしい」「こう動いてほしい」といった具体的な意見を発信しやすくなり、参加者からも好評をいただいています。


八木:私も拝見しましたが、企業だけでなくスポーツチームや都道府県や団体、学校組織など、幅広い組織の取り扱いもSDGsの取り組みを知ることもでき、興味深いですね。では、競合サービスはありますか?


長澤:SDGsという枠で考えると、いません。



開発フェーズからマーケティングフェーズへ


八木:たしかにSDGsが付加的についているものは多いですが、特化しているのはユニークですよね。現在の課題はどういったものですか?


取材写真
右:長澤氏、左ライター八木

長澤:資金調達ですね。また、チームの拡充も必要で、特にSDGsへの感度が高く、冒険心を持つ人材を求めています。


西山:いまのメンバー構成について、詳しく教えてください。


長澤:現在、当社には業務委託を含め約11名のメンバーが在籍しています。開発担当が3名、残りはサービス運営を担当しています。


メンバーのバックグラウンドは多様で、冒険中に知り合った旅行者、広告代理店の出身者、マーケター、企業のCSR担当経験者など、 サステナビリティへの関心が高く、国際経験豊富なメンバーが中心となってリモートで運営しています。


八木:今後の展望について、教えてください。


長澤:前述の通り、私自身が10月から東京での活動を増やしています。前期までが開発フェーズで、今期からはマーケティングに軸足を移す段階です。私たちが日常的に利用しているアプリの多くは海外製ですが、日本発で海外市場に挑むサービスを作り上げたいと考えています。


取材写真
生態会おなじみの起業プラザひょうご様にて

私はこれまで84カ国を旅してきましたが、その経験を通じて、改めて日本人は環境や平和に対する意識が強いと実感しています。SDGsは、多くの人が日常的に意識するものではありませんが、もともとグローバルな視点で設計されています。私たち日本人の願いをSDGsという枠組みに乗せ、世界に打って出るサービスを創出したいと考えています。


八木: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。


長澤:私たちは、SDGsやサステナビリティに関するコミュニケーションの「1丁目1番地」を目指しています。情報が集まることで、共創が生まれ、新たな事業が創出される。そんな未来を実現していきたいと考えています。


西山・八木:本日はありがとうございました!


 

取材を終えて 

冒険家、システムエンジニア、起業家という3つの顔を持つ長澤さん。かつてはSDGsに対して懐疑的であったとのことですが、ウクライナ訪問経験を経て『SDGsは人類史上初めて価値観を共有する』と思え、事業の核に据えたとのこと。現在、生成AI技術の精緻化や地方自治体との連携、多言語対応を進めながら東京へも活動を拡大し、既存メディアとの連携強化に注力中。サポートメンバーは優秀なSEやSDGs感度の高い大手企業のマーケターや大手代理店メンバーなどが多数で、2030年までに年商100億円を目指す新たな冒険が楽しみです。

関西スタートアップレポート説明


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