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神戸大の研究者と経営のプロが、事業化。セキュアなAIエンジン提供で、着実に成⻑:テラアクソン

執筆者の写真: 大洞 静枝大洞 静枝

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社テラアクソンの共同創業者の安田 鉄平氏に話を伺いました。同社は神戸大学の先端技術をもとに、人工知能の開発運営を行い、人口知能の社会実装を目指す神戸大学発のスタートアップです。

取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)、大洞静枝(生態会事務局/ライター)

 
ブログ名称と西村氏写真

 

代表取締役研究責任者 小澤 誠一(おざわ せいいち)氏 略歴

神戶大学大学院修士課程から35年以上にわたり、人工知能一筋で研究。現在、神戶大学数理・データサイエンスセンター・センター⻑、大学院工学研究科教授、未来医工学研究開発センター教授を兼任。


代表取締役経営責任者 安田 鉄平 (やすだ てっぺい)氏 略歴 1982年生まれ、大阪出身。新卒後、博報堂・京セラで広告、電通総研・アクセンチュアでDX系のコンサルタントを行う。その後、イグニション・ポイントの創業期より参画し、複数の新事業創出、エグジットを導く。2022年より、渋谷区のスタートアップエコシステムアドバイザリーを兼任。


 

社会実装を前提とした「使える人工知能」の開発


生態会 事務局長 西山(以下、西山):本日はありがとうございます。早速ですが、事業概要を教えていただけますか?


代表取締役経営責任者 安田 鉄平氏(以下、安田氏):テラアクソンは、2022年に神戸大学の小澤誠一教授と私が共同で設立しました。人工知能は今や研究の段階を終え、いろいろな場所で社会実装され、活用されています。人の生活をより豊かにしていくために、情報セキュリティや倫理的配慮がより重要視されるようになってきました。このような課題に対して、実際にAIを実装をするための技術の研究を、国のプロジェクトとして2019年に始めたのが私たちの技術の始まりです。小澤先生の「人工知能の社会実装における情報セキュリティ等に関わる研究」がもとになっています。




私たちの事業は、いわゆる「使える人工知能」の開発です。セキュリティが担保されていて、人に害を与えない、社会実装を前提とした人工知能です。私たちのミッションである「人とAIが共生する未来を作る」ために、3つのコア技術を持っています。一つ目は、情報漏洩のリスクを最小限にして人工知能を作る技術。二つ目は、人工知能が持続的に成長していく技術。三つ目は、人工知能が人の心を理解する技術です。これら3つの技術を柱にして、「情報に配慮した人工知能の開発」と、「人や社会に対して倫理に配慮した人工知能の活用」、「社会の第三者から人工知能を守る」事業を展開しています。


AIエンジンの提供で新たな価値をエンドユーザーに届ける


西山:具体的にはどのような事業になりますか?


安田氏:例えば、銀行ではリアルタイムにオレオレ詐欺と不正送金の詐欺を防ぐ人工知能システムを提供しています。他にも、人工知能と人がコミュニケーションすることで、心身の健康状態を可視化する心療内科のサポートシステムや、人の声から喜怒哀楽の感情を認識するシステムを提供しています。


生態会事務局 大洞 (以下、大洞):もう既に導入されているのでしょうか?


安田氏:はい。金融データ、健康データ、音声データ、営業機密データを使ったAIエンジンの事業は少しずつ進めています。私たちは、エンドユーザーに直接アプリケーションを提供するのではなく、エンドユーザー向けのサービスを展開する事業会社に対して、AIエンジンを提供しています。私たちのAIエンジンを活用していただいて、新しい価値をエンドユーザーに届けるという構図です。


金融データを使った事業に関しては、実際には複数の銀行でお使いいただいていますが、無料提供する代わりにデータを頂戴するという関係を今は維持しています。マネタイズに至るまでには事業の性格上、あと3年ほどはかかると思っています。現在は、健康データのプロジェクトが売り上げを牽引しています。


左:生態会事務局長 西山 右:テラアクソン 安田氏
左:生態会事務局長 西山 右:代表取締役経営責任者 安田氏

特に、心身の健康分析に関わるAIエンジンが好調で​​す。AIエンジンの販売だけで、2023年は1億円以上の売上を達成しています。現在、神戸大学未来医工学研究開発センターと共同で、疾患キャリアがある動物の重症化や病気の再発防止を支えるサービスを開発しています。バイタルデータや行動データを基に、犬や猫の心身の健康状態を把握して、心身の健康を見守るサービスです。


音声データを解析して、人の感情を理解する技術についても、同じく「エンジン提供」という形で展開しています。たとえば、ホテル向けのカスタマーハラスメント監視サービスなどがその一例です。この場合、ライセンス料を収益としています。こちらも売り上げを伸ばし始めており、2025年には、私たちが展開する4つの事業の中で、最大の収益を生む事業となる可能性もあります。成長をさらに加速させていくために、引き続き事業会社との連携を継続していく方針です。


多種多様な企業がAIエンジンを利用


西山:企業の導入事例はありますか?

「大学発ベンチャーの成功モデルを作りたい」と話す安田氏
「大学発ベンチャーの成功モデルを作りたい」と話す安田氏

安田氏:現在、大手ゼネコンと共同で、ビルオーナー様向けに、入居者の心身の健康をサポートするサービスを開発しております。AIエンジンを搭載した設備から取得した声紋情報や、入居者と人工知能とのメールコミュニケーションを活用し、ストレスや健康状態を把握する仕組みを構築中です。オフィスの価値を再定義することを目指しています。


他には、テレビ東京と、人工知能を用いた新しいお墓や仏壇を共同で開発しています。今は墓じまいが進んでいますが、故人の情報をAIで取り込むことによって、亡くなった遺族と会話ができるような新しい概念のお墓や仏壇を作ろうとしています。


健康に関するAIエンジンは、現在「グラングリーン大阪」で導入されています。従業員アプリに組み込まれて、従業員の方々の健康を見守っています。


大洞:具体的にどのようにアプリが見守るのでしょうか?


安田氏:「グラングリーン大阪」の従業員アプリは、業務を行う上で、必要不可欠な機能を備えています。例えば、鍵の開閉や空調の設定、残業申請など、従業員がスマートフォンを使って操作できるようになっています。仕事をしていると、アプリから定期的に「元気ですか?」のようなメッセージが、送られてきます。人工知能は、従業員からの回答をもとに時系列でデータを解析し、従業員の疲労度や心身の健康状態を判断します。


経営のプロ×大学発の技術シーズがマッチング


西山:安田さんは、どのような経緯で経営者として携わられているのでしょうか?


神戸大学のキャンパス
神戸大学のキャンパス

安田氏:冒頭で申し上げましたように、小澤先生が2019年から国のプロジェクトとして、テラアクソンの技術の基になる研究をスタートしました。小澤先生の技術には大企業からも声がかかっていましたが、技術移転はせず、先生が自ら神戸大学発ベンチャーを創業することになりました。とはいえ、小澤先生は純粋な研究者です。彼の技術シーズを社会に投入し、会社を引っ張っていく経営人材が必要だということで、神戸大学イノベーションが小澤先生の創業をサポートしていました。その過程で、三井住友銀行経由で神戸大学発ベンチャーを一緒に成功に導いていただけないか、と私に声がかかりました。


経営のプロとして参画をして、無事に2期目が終わり、この3期目はおそらく無事に売上高は2.5億円~3億円ぐらいになりそうです。民間の経営のプロと大学教育とのマッチングによって、何としても神戸大学発ベンチャーとして成功させたいという思いがあったと聞いています。


西山:3年目で売り上げが2.5億円とはすごいですね。資金調達の状況はいかがでしょうか?


安田氏:2023年11月に神戸大学キャピタルからシードラウンドとして3,000万円、25年1月にシリーズAラウンドとして、神戸大キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、みなとキャピタル、フューチャーベンチャーキャピタルの計4社から約1億円の資金調達をしています。


西山:安田さんのご経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか?


安田氏:博報堂、京セラ、電通総研、アクセンチュアを経て、イグニション・ポイント株式会社というコンサルティング企業を創業しました。イグニション・ポイントは電通グループにイグジットしています。電通グループとなったイクニション・ポイントの中で、現在役員をしながら覚悟を決めて、テラアクソンを共同創業しました。AIで社会を変えるということに関心はあるのはもちろんですが、何としても日本の大学発ベンチャーとしての成功モデルを作りたいという思いで参画しています。


西山:それは素晴らしいですね。ぜひ成功モデルを作っていただきたいです。


安田氏:日本でまだ事例はありませんが、神戸大学キャピタルとは、大学発ベンチャーを大学ファンドがリードしたままIPOを達成するということを、この4年間で実現したいと話しています。


日本の大学初ベンチャーの成功モデルに


西山:今後の展望をお聞かせいただけますか?


安田氏:現在、私は渋谷区で「スタートアップエコシステムアドバイザー」という役職を務めています。日本は、世界的に見ても技術シーズは非常に優秀だと評価されていますが、これらの技術が経営マーケットで十分に生かされていないという課題があります。渋谷区でも、大学とスタートアップの連携を促進する取り組みが進められていますが、思うような成果がないのが現状です。「なぜ日本では難しいのか?」という疑問に対する答えを見つけるために、テラアクソンの経営に参画し、挑戦を続けています。テラアクソンが日本の大学初ベンチャーの成功モデルとなり、スタートアップが成功して進化する道筋を作っていきたい思います。


西山:本日はどうもありがとうございました!


 

取材を終えて 生態会の取材で大学発ベンチャーの課題は、経営人材だとよく耳にします。テラアクソンは大学発の技術と経営のプロがマッチングしたことで、飛躍的に成長を遂げているスタートアップです。研究者が生み出す素晴らしい技術と、安田氏のような経験豊富な経営者がタッグを組むことで、今後どのように大学発スタートアップの成功モデルになっていくのか、目が離せません。

関西スタートアップレポート説明


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