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執筆者の写真松井 知敬

消防DXで安全な社会を創造する「消防テック」のスタートアップ:タヌキテック

更新日:2023年5月15日

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、消防のDXを手掛ける株式会社タヌキテックの市川浩也(いちかわ ひろや)さんにお話を伺いました。


取材・レポート:垣端 たくみ(生態会事務局)、松井 知敬(ライター)



 

市川 浩也(いちかわ ひろや)氏 略歴


近所に消防署があったこともあり、こどもの頃から消防士に憧れる。消防団員として7年の活動経験を持ち、その過程で消防DXの必要性を痛感。2018年、消防DXを手掛ける株式会社タヌキテックを創業。京都市長賞受賞。京都信用金庫起業家大賞受賞。京都市消防局署長賞受賞。

 

■DXで消防のボトムアップを目指す


生態会 松井(以下 松井)本日は、どうぞよろしくお願いします。まずはじめに、事業内容を教えていただけますか


タヌキテック 市川(以下、市川):消防系のテック事業を手掛けています。消防署や消防団のDXをおこなっているスタートアップです。総務省消防庁ですとか、地方自治体、町の消防署などがお客様になります。


松井この事業を立ち上げる以前、市川さんご自身が消防団に入っていたとお伺いしました。


市川:はい、消防団に7年間いました。そのときに痛感した課題をテクノロジーで解決しています。災害発生時の情報伝達だったり、書類作成の負担軽減だったり。DXで消防のボトムアップを目指すのが、わたしたちの事業です。


松井:消防団に入られたきっかけは、なんだったのでしょうか?


市川:こどものときになりたかった職業が消防士でした。サッカー選手もヒーローに見えますし、アーティストもそうなんですけど、僕が一番好きだったのは消防士でした。サイレンを鳴らして災害現場に駆けつけて困っている人を助けるって、こんなかっこいいことないじゃないですか。


松井こどもの頃の夢を叶えたと。


市川進路を考える年頃になったとき、消防士になる夢を思い出したんですよね。ただ、そのときはもう現場で消防士をしたいというより、彼らの安全を管理する制度や仕組みをつくりたいと思うようになっていました。消防団に入ったのも、現場を知るためにという面が大きかったです。


松井:その想いが、消防テック事業につながっていくのですね。




「これは便利だよね、ぜひ欲しい」


松井:会社設立までの経緯は?


市川:わたしが長く消防団にいて、「改革チーム」にいたこともあり、業界の感覚、「こういうことで悩んでいる」というのは分かったんですよね。それで、活動を支援するアプリのMVPをつくって消防団仲間に使ってもらいました。そうしたら、「これは便利だよね、ぜひ欲しい」と。半年ほど検証し、「これは感触がいいぞ」ということで、タヌキテックを立ち上げました。


松井:初期メンバーは?


市川:取締役がわたし含めて3名と、正社員が1名。あと、外部エンジニアが2〜3名です。


松井:初めは資金繰りが大変だと思うのですが、どうされたのですか?


市川:個人の投資家様から2000〜3000万円の出資をいただいて、それを開発資金と運営資金に回しました。


松井:どのように営業活動をおこなっていったのか、すごく興味があります。


市川:アプローチは泥臭かったですね。「我々はこういう者で、こういうサービスがあって、よかったら一度お話だけでも」と電話でアポをとって、プレゼンさせていただく、ひたすらその繰り返しでした。今でこそ、業界での知名度が上がり、自治体さまから見積もり依頼というケースも増えましたが、状況が変わったのはこの1〜2年といったところです。


松井:現在、提供されているサービスを教えていただけますか?


市川:消防活動支援システム「FireChief」、消防本部向けDX事業「FireChiefPro」、ドクターカー指令管制システム「MedicalChief」、警備会社向け「PatrolChief」などです。




「消防テック」という産業をつくって、海外に持っていきたい


松井:将来の展望をお伺いしてもよろしいでしょうか?

市川:我々は、いちサービスをつくっているのではなくて、社会のインフラをつくっていると全員が思って仕事しています。そして、「消防テック」という産業をつくって、新しいメイドインジャパンとして海外に持っていきたいと思っています。それがわたしたちのビジョンです。「スマート消防」というのをつくりたい


松井:「スマート消防」というと?


市川:これからSociety5.0、いわゆる超スマート社会が来る中で、あらゆるものがセンサーでつながってくる。そうすれば、たとえば119番通報は必要なくなると思います。


松井:つまり、自動通報になると。


市川:はい。今後、車にIoTデバイスが搭載されていけば、交通事故が起こった瞬間に、車種、乗車定員、衝突時のスピードや角度、衝突エネルギーなどを119番センターへ送れるようになると思います。そこから、どういう負傷が起こりうるかもAIが算出できると思います。そうすれば、必要な救急車の台数、必要なレスキューツール、どこの病院へ運ぶべきか、といったことが直ちに関係機関と共有できる。飛躍的に生存率が上がると思います。


松井:なるほど、そういった未来を見越して、DXを進めているのですね。


市川:分かりやすいのでいつも交通事故の例を出すのですが、火災や災害に関しても同様です。「通報しない社会」というものを実現していきたい。これが、「スマート消防」の定義の1つ。それともう1つが、消防士や消防団員自身の安全を守り、家に帰すためのテクノロジー。たとえば、安全を守るデバイスや危険管理のAIなどです。これらを合わせたものを「スマート消防」とわたしたちは呼んでいて、それを浸透させていきたいと思っています。


松井:ということは、今、届けているアプリは、「スマート消防」を実現するための第一歩であると。


市川:はい。ここから順番にDXを普及させていこうとしています。消防って、ニッチなのでマーケットは小さく見えるんですけど、とても奥深くて、十分、産業化はできると思っています。


松井:市川さんのお話を伺っていると、消防の未来がリアルに想像できます。タヌキテックのサービスが世界中に拡がっていくことを楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。


 

取材を終えて

市川氏の言葉を借りるなら、人類が到達していない領域は「宇宙」「深海」「安全」の3つあり、タヌキテックが取り組むのは「安全」。宇宙開発ベンチャーと同等のモチベーションで、日々、「安全な社会」の実現に取り組んでいるとのこと。人類の新たな未来を切り拓く、まさに開拓者という印象を受けました。「消防テック」の可能性を追究し続ける同社の挑戦から目が離せません。(スタッフ 松井)


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