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執筆者の写真恵子 藤本

目視が必要な画像認識をAIが代行。専門知識がなくてもAI開発ができる「自分で育てるAI」を展開。

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、画像認識AIシステムを開発しているTakumiVision株式会社の代表取締役 片桐 一樹さんにインタビュー。

独自のアルゴリズムによって、精度高く人や車両などを検知する技術で大手鉄道会社、公共部門に実用システムとして既に採用されており、今後の画像認識AIの更なる一般利用化促進に向けて、お話を伺いました。


        取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)、藤本恵子(ライター)

 

片桐 一樹(かたぎり かずき)略歴

1972年滋賀県出身。理工学部を卒業後、半導体の設計開発/販売を中心とする大手商社のイノテック株式会社で営業技術者として従事。

その後、電子設計ツールの開発、販売およびサポートと設計支援サービスを行う米国系企業日本法人の日本ケイデンス・デザイン・システムズ社へ転職した後、32歳で技術者派遣の会社を創業。

続いて、現企業の画像処理解析事業を引き継ぎ、2022年11月にTakumi Vision株式会社を起業。日系・外資系の大手企業にて専門的技術と知識を身につけ、現在に至る連続起業家。

 

■画像処理×AI開発による、社会活用を目指して


生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ではありますが、片桐さんが現在展開されているAIの技術開発について教えていただけますか?


片桐 一樹氏(以下、片桐氏):はい、当社は2022年11月に創業しました。本社はここ京都に置いています。2005年に立命館大学の教授が作った会社がベースになっています。


もともとの発祥は画像の鮮明化技術です。ボケて見えない、もしくは見えにくいものを見えやすくして次に繋げるといった画像処理の研究・開発を2010年頃まで行っていました。

この技術がどのように活用できるかというと、色の鮮明化などがあります。例えば、画素数の低いものをズームアップするとボケますよね。そのボケをきれいに抑えて、ディテールを発揮させたり、明暗の強調だったりを技術的に処理するために役立っています。この技術は、大手デジタルカメラメーカーさんのカメラの処理フィルターとして入っていたりします。




ところが、近年ではハードウェアのパフォーマンス向上などに伴い、お客様のニーズもどんどん変化していきました。当時は画像を見やすくした後、そこに写っているものが人なのか、車なのか等の判断は人が識別していましたが、その判断も自動的に処理したいというニーズが出てくるようになりました。

そこで、我々はこれまで培ってきた画像の鮮明化技術に加えてAIの開発にも注力し、写っているものが何なのか、それによってどういった処理を行いたいかを学習させるAI技術の開発を行っています。


このように、画像処理のアルゴリズム開発から実際に現場で活用できるソフトウェアの実装まで、一貫して対応できるというのが我々の特徴です。


■培ってきた技術を日常のインフラへ導入


ライター 藤本(以下、藤本):いつ頃から、AIの技術開発を始められたのですか?


片桐氏:2016年頃からスタートし、最初に「骨格推定エンジン」というものの開発に着手しました。人の全身の骨格ポイント、目、鼻、口、耳、肩等の19ポイントの関節点を抽出して繋ぎ合わせることで人の骨格が見えるようになり、機械的に人の識別が可能となる技術です。これは静止画、動画どちらでも検知可能で、人の重なりや座っている状態、同系色・モノクロでも検知可能となっています。

活用いただきやすい機会としては、人数のカウントや侵入禁止エリアへの人の侵入を検知したい際などに導入いただいております。


例えば、踏切の遮断機が降りた後、その中に人や車などが侵入した際に検知し、アラートを出すことが可能となっています。この技術は実際に西武鉄道と富士急で正式採用されて、少しずつ設置箇所を増やしながら展開しています。

これまでも、踏切には検知システム導入と監視はされているのですが、その検知器1つの設置に数千万ほどの予算がかかっており、本来であれば検知システムを設置すべき場所でも予算の都合上、簡単に設置できないのが現状です。

しかし、我々のこの機器だとハードウェア代だけで15〜20万円で設置可能なので、圧倒的に予算を押さえることができます。

西山:それは素晴らしいですね。このAI技術の導入はどれぐらいの予算なのですか?





片桐氏:具体的な費用は言えませんが、年間で数十万円という費用です。


西山:かなりお安いですね・・・!


片桐氏:そうですね。笑 ちょっと安くしすぎたかなとも思ったのですが、人の命が関わる所で活用いただけていることが大きな第一歩なので、少しずつ起用できる場所を拡大していければと考えています。


■専門知識不要で使える「自分で育てるAI」の開発




片桐氏:更にこれまで培ってきた技術を活かして、今後「自分で育てるAI」をコンセプトに、専門知識を必要とせず誰でもAI開発が可能になるアプリケーションの開発を行っています。

これまでは、AIの開発に対して専門知識を持つ人材が必要で、開発コストもかかり、その2つが大きな障壁となっていました。我々は、「AIって、もっと身近にあるべきものなんだ」という思いがあり、誰でも使えるAIアプリケーションの展開を目指して取り組んでいます。


AIを作るということは、


1)検出希望データの収集

お客様が検知したい画像のデータを集める

2)アノテーション

我々AIベンダーがそれを自動的に検知できるよう、AI学習の開発を行う

3)検証・チューニング

成果検証をし、使用可能な状態まで持っていく

4)納品クライアントへ提供


といった流れで行うのですが、我々はこのAIベンダーを介さずお客さん自身でAI学習をさせられるアプリケーションを作ろうとしています。




これらの作業の中でAIベンダーが行っており、一番工数がかかるのは2)のアノテーションと3)の検証・チューニングになるのですが、この作業をお客様自身で行っていただくことでコストを押さえたいと考えています。


西山:難しそうに聞こえますが、そんな簡単にできるものなのですか?


片桐氏:実は、意外と簡単なんです。

お客様にAI学習に繋がるデータを追加してもらい、目標とする検知率を超える基準まで実行してもらう。という作業をやっていただくだけなんです。そのお客様の作業が簡単にできるようなアプリケーションを現在開発中なのですが、こういったサービスが展開できるようになると、AIがもっと身近なものになり、助かる方も増えてくると思っています。


どんなお客様がターゲットになるかというと、製造業で言えば多品種少量生産だったり、製品サイクルが短いものを扱う企業ですね。

簡単な例で言うと、何らかの機器や組み立て家具などを発送する際に同梱するネジ等のパーツが複数種類ありますよね。この梱包の中身が適切な種類と数量かどうかのチェックをAIの画像処理技術を用いて自動的に確認作業を行えるようになることで、業務効率化を図ることが可能になります。


これまでは、AIベンダーに開発予算をかけなければ実現できなかったこれらの自動化をお客様でも開発できるようにすることで、外注コストを抑えられ、活用できる場所も増えるのではと考えています。


■映像を活かしたAIのリーディングカンパニーを目指す


西山:それでは最後に、今後の展望を教えていただけますか?


片桐氏:はい、我々はこの「自分で育てるAI」アプリケーションβ版の2024年リリースに向けて現在開発を進めています。β版の導入クライアントも既にいくつか目処が立っており、一緒に実証と改修を繰り返しながら、2026年には商用サービスとしての正式リリースを目指しています。


Takumi Visionには半導体の技術開発やAIアルゴリズム開発、アプリケーションの開発等、多岐にわたる主要メンバーが在籍しており、このメンバーだからこそ実現できると自負しています。


今では自然言語処理のチャットGPTは、脚光を浴びて実生活に使われていますが、映像に関してはまだそこまで浸透していないのが現状です。我々は映像を用いた人工知能をもっと使いやすい形に落とし込んで世の中に広めていきたいですし、それを実現できるアイデアと技術があると考えています。


西山:今後の展開が楽しみですね。本日はありがとうございました!




 

取材を終えて


10年以上前から大学と研究開発をしてきた知見があるからこそ、AIの発展に対しても精度の高い技術を提供できている企業であること。また、これらの技術発展に伴って、ユーザーが取り扱える領域を増やすなど、社会・技術の変化に合わせて柔軟に事業を進化させていることがお話から伺えました。

これまで人の目での確認が必要だった作業を気軽に自動化できる日が近々訪れるのかと考えると、どんな世界になっているのか、私も待ち遠しくなりました。(ライター 藤本恵子)




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