関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社SUSTAINABLEMEの代表取締役 後藤友美氏に話を伺いました。同社は「戦略的健康経営で企業価値を高める」をミッションに 、医療専門家の知見に基づく製品・サービスを開発提供しています。
取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)、森令子(ライター)
後藤 友美(ごとう ともみ)氏 略歴
1981年北海道生まれ。祖母の病気をきっかけに作業療法士を志す。医療機関に約20年勤務し、女性医療を中心に周産期から緩和ケアまで様々な臨床に従事。在職中に専門療法を学ぶためにドイツ留学。また、業界団体要職などでの人脈から医療従事者コミュニティを立ち上げ、現在では1000名超のメンバーを組織。京都府の「2020年 京のヘルスケアインキュベーションプログラム」優勝を機に法人設立した後、会社名をSUSTAINABLEMEに変更。
作業療法士としての長年の思いを原点に、「働く世代」の健康課題に取り組む
生態会 垣端(以下、垣端):本日はありがとうございます。SUSTAINABLEME社の事業について教えてください。
SUSTAINABLEME 後藤 友美氏(以下、後藤氏):既存事業として、2つの事業を展開してきました。
一つは、フェムテック開発支援サービス「femcore」です。「femcore」では、作業療法士である私を含め医療国家資格保有者によるコンサルティングや、1000名を超える独自の医療者ネットワークを活用したマーケティング・リサーチなどを提供し、女性向け製品開発を支援しています。大企業から中小企業まで、多くの会社で導入いただいており、、私たちが開発に関わった様々な製品が市場で販売されています。公開できる事例としては、帝人フロンティア様との製品開発(女性向けアパレル開発)などがあります。
女性特有の健康課題=フェムケアの専門家を養成する講座も事業化しており、医療従事者を中心に既に約100名の卒業生がいます。この方々の一部も、「femcore」での企業支援に関わっていただいてます。
二つ目は、男女の更年期など「働き世代」の健康増進とキャリアの両立を支援する、更年期離職予防支援サービス「menome」です。
経済産業省が2024年2月にレポート「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」を発表したように、更年期を含め女性特有の健康課題について、世の中の意識は少しずつ高まっています。このレポートでは、「男性特有の健康課題による経済損失は約1.3兆円」という試算が公開され、男性の更年期障害についても、その存在がようやく認知されてきました。
「menome」では、健康経営の実現に向け、医療国家資格保有者によるセミナーなどの提供、健康課題のある従業員を医療専門家チームが専属サポートするサービス(3名のチーム、検査キット、ウェアラブル端末によるヘルスモニタリング、オンライン面談など含む)など企業のニーズに応じた支援サービスを提供しています 。
垣端:後藤さんご自身が、医療従事者でいらっしゃるんですね
後藤氏:はい。私は作業療法士として、約20年間、臨床の現場に従事してきました。作業療法士としては非常に珍しく、周産期・女性特有癌疾患・その他女性特有の不調など女性医療を専門として、総合病院で多くの女性たちと関わってきました。その経験が、起業の原点です。
それに加え、病院勤務時代には、作業療法士の全国規模の研修会の事務局長を務めるなど、院外でも積極的に活動してきました。そこでのネットワークをベースに立ち上げたコミュニティが、今は約1000名の多様な医療者ネットワークとなって、SUSTAINABLEMEの強みとなっています。
受賞・採択歴多数。チャンスをつかんで事業を成長。支援者との壁打ちで、BtoCからBtoBへのピボットも決断
森:ビジネスコンテンスト受賞、アクセラレーションプログラム採択など、多数の実績がありますね。
後藤氏:起業を決めたのは、2020年、まだ病院に勤務していた頃に「京都府 京のヘルスケアインキュベーションプログラム」に事業アイデアを応募し、優勝したことがきっかけです。SUSTAINABLEMEとしては、2021年の「京都女性起業家賞」で京都銀行賞・京都リビング新聞社賞を受賞しました。
採択歴には、2021年度 経産省フェムテック実証事業補助金(リハビリ業界初採択)、2022年度 中小機構アクセラレーション「FASTAR」第8期などがあります。直近の2024年は、経済産業省・JETRO主催 イノベーター育成プログラム「始動 Next Innovator」と、EYが運営する女性起業家向けアクセラレータープログラム「EYアクセラ」第5期に採択され参加していました。
どのプログラムも内容が濃く、経営者として大きく成長してこれたと感じています。メンターや専門家の皆さんとの壁打ちを繰り返し、コンセプト整理やSWOT分析、顧客ヒアリングなどを深めて、事業開発を進めてきました。当初の事業はフェムテック分野のBtoCでしたが、現在の注力事業は健康経営実現に向けたBtoBサービスです。このようなピボットも、いろいろな方と検討し挑戦してきた結果です。
プログラム参加で人脈も大きく拡大しています。現在、開発中の新サービスについては、アクセラプログラムで出会った凄腕のエンジニアが、事業理念に共感しプロボノとして開発してくれています。
2024年10月開業の日本最大のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」(名古屋)のメンバーにも採択され、入居予定です。「STATION Ai」での支援を通して、関西だけでなく、東海や関東への事業展開も進めていきたいと考えています。
受賞・採択歴、提携先などの一覧(2024年10月現在/SUSTAINABLEMEサイトより)
森:ビジコンやアクセラなどチャンスを掴み、しっかり活かしてこられたんですね!開発中の新サービスとはどのようなものなのですか?
後藤氏:今後、注力していく事業として、スマート健康経営支援クラウド「wellmanager」を開発中で、2024年8月よりベータ版の提供を開始しました。
組織の健康データを、AIを活用して見える化し、重点健康課題を迅速に発見します。どの部署にどれだけの健康課題があるのか、全社としてどこから手をつけるべきか?など、様々な切り口でデータを分析し、最適な対策を提案、対策の効果を分析するなど、組織強化と健康経営を実現するサービスです。例えば、健康課題に応じたEラーニングコンテンツを提供し、受講率や改善状況を分析するなどのフォローも、クラウドサービスなので可能です。
また、「wellmanager」では、必要書類の作成などが煩雑な「健康経営優良法人」の申請業務も支援します。申請に関わる129項目のうち85%を自動化でき、健康経営業務のDX化に貢献できます。
既存の健康管理システムは従業員1人につき数百円という価格設定が多いですが、私たちは、1契約ごと毎月定額での価格設定を予定しています。大きな組織、大企業での導入を想定しており、ぜひベータ版を試していただきたいですね。
「困っている人をなんとかしたい」と医療界を飛び出し起業を決意
森:事業を始めたきっかけを教えてください。
後藤氏:作業療法士として、キャリアアップを諦める方、離職せざるを得なかった方、お亡くなりになられた方、自ら命を絶たれてしまった方など、不調や病気に直面する多くの女性と関わってきました。「困っている方々をなんとかしたい」という思いで、臨床の現場で必死にやってきましたが、「病気になる前にできることがもっとあるのではないか」と考えるようになりました。
なかでも、働き世代が直面しやすいホルモンにまつわる不調、それに伴う更年期離職は企業の成長、そして日本の成長にとって大きな社会課題であることに注目しました。医療機関にかかる前から、情報やケアを提供し、パフォーマンスを最大化する支援をしたいと起業しました。「困っている方々をなんとかしたい」という思いは、臨床でもビジネスで変わらぬ原点です。
医療機関での現場経験しかなかったので、ビジネスも起業も全くわからないままの起業でした。法人設立した際は、「経費とは?」もわからず、税務署に通って教えてもらいました。受賞や採択の実績も、今の事業内容というより、ポテンシャルの高さを皆さんが見出してくれているからこそだと感じています。
垣端:今後の事業展開はどのように考えていますか?
後藤氏:まずは、「wellmanager」の導入企業を増やしていきたいです。例えば、保険とセットでのサービスや、オフィスビルを所有する不動産会社との提携など、様々な構想を練っています。
座右の銘は、「挑戦しないことが最大の機会損失」です。チャレンジしたから結果を得られ、次に進むことができるので、常に前を見て、行動し続けていきます。スタートアップとして、あらゆる出会いにどれだけ真摯に向き合うか?を大切にしてきました。多くの方に応援いただきたいです。
写真左より、生態会スタッフ 森、SUSTAINABLEME 後藤氏、生態会事務局 垣端、
取材を終えて
凄腕エンジニアがプロボノとしてサービス開発していたり、全国の医療従事者ネットワークのメンバーがセミナー講師となってくれたりなど「人を巻き込む力」の強さ、起業の原点である「困っている方々をなんとかしたい」という思いの強さが事業の推進力となっていると感じました。全国規模のコミュニティ立ち上げや、ドイツ留学など病院勤務時代のパワフルなエピソードも印象的な取材でした。 (スタッフ 森 令子)
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