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執筆者の写真Yoko Yagi

安全な水を7億人へ!プリペイド式自動料金回収サービスで生み出す、インフラと雇用:Sunda Technology Global





関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、アフリカのウガンダで従量課金型自動井戸水料金回収システム「SUNDA」の製造・販売・サービスを運営する、株式会社Sunda Technology Global(スンダテクノロジーグローバル)坪井 彩代表取締役にお話を伺いました。


取材・レポート:西山 裕子(生態会 事務局)、八木 曜子(ライター)

 

代表取締役 坪井 彩(つぼい あや)さん 略歴


1988年福井県生まれ。奈良女子大学物理科学科、京都大学大学院理学研究科卒業。2013年にパナソニック株式会社入社。社会課題解決の社内ワークショップに参加後、2018年に青年海外協力隊としてウガンダに渡航、SUNDAを考案・開発開始。試作機第1号設置後、任期終了。その後パナソニックを退職し、株式会社Sunda Technology Global設立。

 

JICAでの協力隊経験からSUNDAを考案


ライター八木(以下、八木):本日はお時間いただきありがとうございます。まず起業の経緯をバックグラウンド含めてお話いただけますか?


代表取締役 坪井さん(以下、坪井):はい。私は奈良女子大学で物理学を学んだ後、物理学を使った学問を研究したくて京都大学大学院で気象学を専攻していました。その時に人生初の海外渡航としてバングラディシュ研修に参加し、視野が海外へと広がりました。


卒業後は パナソニックに就職し、IT部門でデータ分析チームとして働くなかで、途上国の社会課題をビジネスで解決するワークショップに2度参加してインドネシアとケニアを対象にしました。その経験を通じて、途上国×ビジネス×アフリカという組み合わせに興味が出ました。


八木:興味深いワークショップがパナソニック社内で開催されていたのですね。


坪井:はい。珍しいと思います。そのワークショップで企画した新事業を提案したのですが、なかなか社内に響きませんでした。なぜ伝わらないのか考えたのですが、直接現場に行っていないから説得力が足りないのではと考え、 会社に在籍したまま人材育成の一環の研修という形で、JICA海外協力隊員としてウガンダに行きました。


そこで水に困っている現地の人たちと出会い、SUNDAを考案しました。結果的にはSUNDAを1台設置したところで協力隊の任期は終わったのですが、私がやめると何万人もの人が安全な水にアクセスできないことから、やめられなくなった、やるしかないと使命を感じたというのが正直なところです(笑)。実際はパナソニックの中でやりたかったのですが、今すぐ進めることができないので、退職を選び起業しました。その過程で、第6回日本アントレプレナー大賞も受賞しました。


持続可能な井戸管理エコシステムを開発


八木:使命感を感じての起業だったのですね。それではSUNDAの説明をお願い致します。


坪井:SUNDAは「すべての人が安全な水にアクセスできるようにする」をコンセプトに、ウガンダで活動しています。アフリカ農村部では不衛生な水を使っている人がまだ3億人以上います。安全な水にアクセスするには、①水源としての井戸を増やす、②作った井戸を持続可能にする井戸管理、の二点が重要です。しかし②の井戸管理を支えるには「水料金回収」が必須にも関わらず、未解決課題として残っていて、この②の井戸管理がSUNDAの事業領域です。


これまでは一つの井戸を数百人が使い、村の代表者が“月額定額”で“現金”で回収していましたが、手作業ということからも不正や不公平感、回収業務の負担などが積み重なり、料金回収ができないという状況となっていました。この課題に対して、SUNDAシステムを考案しました。


八木:なぜ維持管理がボトルネックなのでしょうか? ローカルに根ざした課題なのですか?


坪井:アフリカではコミュニティでシェアするタイプの井戸が多く、維持管理に関する問題が見られます。 対してアジアでは、家ごとに井戸があるケースが多いです。アフリカではコミュニティ型の水源が普及している中、さらに開発援助が入って同じコミュニティ型の井戸数が増えています。しかし壊れたまま放置されていることもあり、水問題の課題となっています。


1990年ごろからJICAがウガンダに対し、ハンドポンプ付き井戸の建設を支援しはじめました。その後、ハンドポンプ付き井戸の設置後の維持管理についての課題が着目されるようになり、維持管理の支援も対象となっていきました。


こういった状況の中、JICAが水環境省を支援する形で、それまでの「住民による自主管理」による維持管理方法ではなく、「各県に井戸サービスセンターを作って管理しする仕組み」が提案されました。しかし、住民からの水料金回収については、従来どおり住民によって月額定額で現金による方法がとられており、不公平感などから料金回収がうまくっていませんでした。それと同じタイミングで、私たちがSUNDAを作っていたこともあり、JICAのプロジェクトの中でSUNDAの導入も行い、検証を行うこととなりました。



八木:エコシステムはできたものの、人力だと集金がうまくいかなかったのですね。ではSUNDAではどのように持続的なシステムにしたのですか?


坪井:SUNDAでは、現金からモバイルマネーでキャッシュレス決済、月額定額から従量課金に変更、人手による回収から自動回収へと、プリペイド式に変更しました。


また、個別の井戸には従量課金をチェックするために 水量を測り、水利用データをサーバーに送るオレンジボックスとそれを維持するソーラーパネルとバッテリーを設置します。そしてSUNDAを設置した井戸の利用者にIDとなるタグを世帯ごとに1つずつ配ります。 このIDにモバイルマネーをチャージし、オレンジボックスにIDタグを挿入すると水が汲めます。そして汲んだ分だけIDにチャージされた残高から引き落とされます。使用金額は一旦SUNDAの口座に入ります。そこから事務手数料を引いて、井戸サービスセンターに毎月送金する仕組みです。





このユニットはインターネットにつながっているので水の利用データがサーバーに上がってきています。このサーバーデータを活用して、井戸のモニタリングをしながら料金回収&井戸修理を行っています。また、ウガンダ水環境省とはSUNDAの普及について覚書に合意しています。


生態会 西山(以下、西山):SUNDAは興味深いコンセプト ですね。これはどなたが考えたのですか?


坪井:コンセプトは私ですが、具体化・技術面はウガンダの技術者です。アフリカでは電気など、従量課金型でプリペイド形式のサービスが普及しています。ですから理解はしてもらいやすいですね。


八木:今現在はどれくらい設置されているのですか?また、設置費用はどのように工面されているのですか?


坪井:いまはウガンダで150基設置しています。費用に関しては、私自身が協力隊だった最初期は手弁当でしたが、JICAのプロジェクト内で設置されたユニットや設置についてはJICAが費用負担しています。今は頂いた補助金なども活用しています。実際の開発・設置はウガンダの現場のエンジニア2名が動いてくれています。


損益分岐点を超えるのは年間1000台くらいなので、2023年は品質改善と製造、量産体制を整えたいですね。現在の製造はほとんど ウガンダでやっていますが、基盤の実装 は大阪の会社でやっています。また、バルブや水量計などは特に技術的に難しく、今年は日本の技術会社との連携も深めていきたいと思っています


西山:日本の企業も連携できることがありそうですね。



アフリカ7億人の水問題は未解決で未着手のマーケット



八木:資金調達意欲や、経営側での状況はいかがですか?


坪井:現在は補助金をメインにしていますが、今後資金調達したいですね。投資家にも話し始めています。また、いまは日本法人とウガンダ法人の両方がありますが、これからウガンダ法人を日本法人の子会社化する予定で、将来的にはIPOやM&Aなどのエグジットを目指します。 WASSHA株式会社などの先輩アフリカ起業家の方たちとも相談し、アドバイスをいただいています。


西山:チームメンバーはどのような顔ぶれですか?


坪井:現地で活動する共同創業者は私の他、私と同じ情熱を持つウガンダ人エンジニア2名がいます。また、ウガンダ人スタッフも加えて合計10名で活動をしています。これからの拡大に合わせて、現地で一緒に活動する日本人の経営メンバーも募集しています。特にハードウェア技術が分かる方で、ウガンダと日本を繋ぐ重要なポジションとなります。


八木:将来的にはどれくらいの数を設置できるのでしょう?また、ビジネスマーケットとしてはどのようにお考えですか?


坪井:我々が目指すのは、なるべく早く、サブサハラアフリカのすべての人が安全な水にアクセスできるようにすること。現在サブサハラアフリカに70万基のハンドポンプ付き井戸が存在すると言われており、10年間でその半分の35万基にSUNDAを設置したいと考えています。ウガンダだけですと、ハンドポンプ付き井戸が6万基以上あります。マーケットとしては1基1000USDで販売すると800億円を見込んでいます。


八木:アフリカは水道も発展している途中だと思いますが、同時に井戸も増えていくものとお考えですか?


坪井:井戸も増えると考えています。水道は浄水設備が必要でそこからパイプを伸ばすグリッド型のインフラですが、住民が離散して生活しているアフリカの農村部には張り巡らすのは現実的に難しいです。そのため、水道は都市に増えていくと考えています。 水道向けのプリペイドシステムなどもアフリカでプレイヤーが出てきていますが、ハンドポンプ向けのプレイヤーがいなく、市場も大きく、課題も大きいと捉えました。そのためアフリカの水問題に注目する限り、ハンドポンプ問題は無視できなかったので、このポイントに注力しています。




日本の技術と経験は量産化に有用


西山:そもそもウガンダはアフリカではどのような立ち位置なのでしょうか?情勢不安などはないのでしょうか?


坪井:ウガンダ自体はアフリカの中では貧困度、注目度ともに中程度です。政情不安もなく治安も他のアフリカ諸国と比べると良い方です 。ビジネスするにはやりやすい国ですね。


西山:アフリカでの生活に不便や不安などはありませんか?


坪井:日本人の髪を切れる美容院がないのは困りますが、大きな問題などはありませんね。協力隊で現地に行った上で徐々に新しいプロダクトを作って、それから継続して起業するという流れだったため、生活面や場所に関する不安等はありません。都市部はもちろんですが、農村部もネットワークも最低限は問題ないので、不便さはありません。


八木:現在の課題はなんですか?


坪井:技術開発と製造が課題です。ハードウェアだと現場を見ないとスピードアップできないので、経験があり現場にも来て、ウガンダ人のエンジニアの人たちと一緒に開発してくださる方がサポートしてくれるとありがたいです。採用だけでなく、既存技術会社に委託するか、そういった会社に投資いただき共同開発するなど、柔軟に対応したいです。また、量産化に関しても日本の経験は有用ですので、それをウガンダに持っていきたいです。


八木:意義深い事業で応援したいと思いました。本日はお時間いただきありがとうございました。



 

取材を終えて


理念が先行しがちな社会課題解決事業ですが、“井戸管理”という着眼点の上手さに加え、持続可能なエコシステムとハードの開発、事業スピードの速さや海外ウガンダでの実行力など、感心するばかりでした。日本経由ウガンダ実施という珍しいスタートアップなので、創業理由や続けられるモチベーションを深く聞かせていただきました。坪井さんは気負わない フラットな人柄かつハイレベルなビジネス能力を併せ持つ素晴らしい経営者だと思いました。これからも応援していきます。(ライター八木)












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