関西スタートアップで紹介している注目の起業家。今回は簡便かつ綺麗に口内を撮影できるプロダクトを開発し、歯科のオンライン診療を進めている株式会社スクリエの代表取締役 岡本 孝博(おかもと たかひろ)さんにお話を伺いました。
取材:垣端 たくみ(生態会事務局スタッフ)、近藤 協汰(学生スタッフ)
レポート:近藤 協汰
カテゴリ: #ヘルスケア
岡本 孝博 CEO 略歴
1976年生まれ。奈良学園高等学校卒業後、四条河原町の路面店にてアクセサリー販売店に就職。そこでヘッドハンティングされ、アパレル業界でデザイナーとして働く。
その後、朝日大学歯学部に入学・卒業し、歯科医師として京都大学医学部附属病院の医局に所属。10年以上の臨床経験を積む。研修指導医取得はじめ数々の認定医資格を取得。
基幹病院病棟医長/外来医長就任地域期間病院歯科口腔外科の所属長/地域医療連携における部門部長/難治性外来非常勤医師を勤める。その経験で感じた課題から、より良い医療を提案するため、京都大学を退職し、仲間と起業を選択。
◾️「歯医者のオンライン診療なんてできない」という定説を覆す独自デバイス
生態会 近藤(以下、近藤):本日はお時間いただきありがとうございます。まずは株式会社スクリエの事業概要をお教えいただけますか。
株式会社スクリエ CEO 岡本氏(以下、岡本):僕たちはスマートフォンに簡単に取り付けられ、綺麗に口内を撮影できるプロダクトを開発しています。このプロダクトは継続利用を想定していて、何度でも利用できるような仕組みを作っています。
また、撮影した写真を分析し、問診票を作成できる専用アプリも開発中です。写真から作成された問診票を基に、希望で顧客に歯科医を紹介するつもりです。
厚労省によると、日本には、歯科医に行きたくても行けない人、行こうと思っていても行かない人を合わせて7割いると言われています。つまり、相当数の方が歯を放置しているということです。
しかし、このプロダクトは歯科医への診療が容易にするため、割合の減少に貢献できます。
現在は、プロダクトの開発段階から量産段階に移行した段階で、できるだけ価格を下げられるように試行錯誤しています。
僕たちの理念としては、多くの人に利用していただきたい。そのため、初めのプロダクトはできるだけシンプルかつ低価格にする予定です。
近藤:競合企業は存在しますか?
岡本:現在は存在しません。これまでは、「歯医者のオンライン診療なんてできない」というのが定説だったんです。
その理由として、口の中が綺麗に見えないことが挙げられていました。歯科医のオンライン診療はブルーオーシャンと言ってよく、僕たちのプロダクトはそこに切り込んでいます。
近藤:世界的な事業環境も、ブルーオーシャンなのでしょうか?
岡本:歯科医×オンライン診療に限定すると、海外でも全く同じ競合は見当たりませんが、念のため国際特許は出願しています。
◾️最大の原動力は「やりたいから」
生態会 垣端:大学での勤務から起業に至った、原体験は何ですか?
岡本:原体験は僕の勤務経験です。病院のような組織には昔からの体質が残っていて、顧客が不便を被っていることもあります。
それに対し、写真は真実を写すため、顧客にとって最も良い治療が可能になります。事前に写真を撮っておいたり、事後に処置の内容を確認できるようにできれば、治療の目標が明確になる、といった形です。
しかし、僕にとって最大の原動力は「やりたいからやる」です。起業以前は、組織内で言われたことを実行することが大事になります。しかし、今は道筋などが決められていないため、自身で将来をコントロールすることができます。それが、本当にやっていて楽しいんです。
近藤:起業前と、起業した後で、何かギャップはありましたか?
岡本:まずひとつ伝えたいのは、スタートアップという名前はキラキラしていますが、案外やっていることは地味だということです。業務の例で言えば、売上高に対するコストを計算したり、各パーツの製造場所を考えたりなど。ただ、やればやるほど楽しさが増えていくので、そこが魅力でもありますね!
◾️デンタルテックをヘルスケアの一大分野に
近藤:今後の展望をお聞きしてもよろしいですか?
岡本:事業の展望については、プロダクトを全身の健康につなげていきたいと思っています。なぜなら、歯は全身と関係があるためです。例えば、奥歯で噛めていないと記憶力が低下するというデータが存在します。入れ歯をはめている人とそうでない人では、認知症のリスクが大きく異なるということです。
健康な歯によって全身疾患が防がれることは、社会的にも有益です。
社会保険料が上昇しつつある中、48歳までに歯の健康を保っていれば、一人当たり15万円の医療費が削減されるというデータが存在します。これは総額でいうと年間5兆円以上の経済効果です。なので、一人一人の負担は局所的に増えますが、医療全体で見れば、そのコストよりもはるかに便益が優っています。
この関係から、僕たちは「歯」だけでなく、「医療全体」を常にビジネス領域として見ています。
中長期的には、どうやってAIやデータを活用していくかを考えていて、「写真を撮るだけでリスクを感知できる」システムを構築していきたいと思っています。
より大きな視点での展望は、歯科関連の他スタートアップとも協業し、市場のパイを拡大していくことです。
業界内だと競争が優先されてしまいますが、歯科の地位自体を上げていき、デンタルテックもヘルスケアの一大分野となるようにしていかなければいけない。
そのため、業界内でムーブメントを起こしていきたいと考えています。それには、やはり仲間が必要です。
これらを通して、クローズドな医療業界をもっと開けた環境にしていきたいですね!
取材を終えて
取材で印象的だったものが、ビジネスの新規性です。意外にも歯科のオンライン診療は困難で、歯科医はイノベーションの起きてこなかった領域だそう。そこに切り込むビジネスはとても革新的です。
また、そんな事業と同じほど、岡本氏は魅力的でした。「それなり」なビジネスに帰着してしまうことを嫌い、歯から全身の健康へ展開していく構想なども立てておられました。(生態会学生スタッフ 近藤)
Comments