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執筆者の写真松井 知敬

「香り×テック」で新市場を切り拓く! 舞台からメタバースまで香りの空間演出:SceneryScent

更新日:2022年11月3日

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、さまざまな空間の香り演出をおこなう「香り×テック」のスタートアップ株式会社SceneryScent(シーナリーセント)の代表取締役、郡香苗(こおり かなえ)さんにお話を伺いました。


取材・レポート:橋尾 日登美 (生態会事務局)、松井 知敬(ライター)



 

郡 香苗(こおり かなえ)氏 略歴


1977年生まれ、大阪育ち。もともとアロマセラピストとして個人事業を営んでいたが、趣味で始めたジャズダンス教室の先生から声をかけられ、ステージの香り演出を手掛けたことで、空間の香り演出に興味を持つ。その後、より効果的な香り演出を可能にするため、様々な人の力を借りながら、香り演出機器「Scent Machine(セントマシン)」の開発に成功。2019年に法人化し、同社の代表取締役となる。

 

■香りや匂いを使って「感動の記憶」をつくる


生態会 松井(以下 松井):本日は、どうぞよろしくお願いします。まずはじめに、SceneryScent の事業内容を教えてもらえますか?


SceneryScent 郡氏(以下 郡):香りや匂いを使って「感動の記憶」をつくる会社です。独自開発した香り演出機器を使って、さまざまな空間の香り演出をおこなっています。これまでに、舞台、展示会、イベント、ブライダル、商業施設、テレビ番組、テーマパーク、アート作品などの香り演出を手掛けてきました。最近は、メタバース内で香りを販売する事業も進めています。


松井:起業の経緯をお伺いしてもいいでしょうか?


:もともとは、アロマセラピストとして活動していました。こどもが3歳のとき、ジャズダンスを習わせ始めたんですが、途中から自分も大人クラスを習い始めたんです。そしたら、ある日、ダンスの先生からステージの香り演出をしてみないかと打診されたんですよ。


松井:なるほど。アロマセラピストである郡さんに、香りの演出を依頼したと。


:はい。ただ、当時、香りはつくれても、大きなホールやステージでの演出経験というものはなかったんですよね。先生にそう伝えたら、特殊効果の会社の方を紹介してくれました。


松井:そういう会社があるんですね。


:その会社の方が言うには、香りや匂いの演出というのは昔からニーズがあったと。お芝居にしろ、ライブにしろ。大昔は、カセットコンロと扇風機を使って匂いを拡散させていたそうです。そして、それを専門とする事業者さんがいないので一緒にやりませんかと、その事業者さんからオファーをいただいたのが、今の事業を始めたきっかけです。


松井:それはいつぐらいですか?


:2014年です。ただ、皆さん知らないようなお仕事ですし、すぐにお仕事がある訳ではないので、サロン業務を続けながら、少しずつそちらの比重が大きくなっていったという感じです。だんだん関西以外でのお仕事も増えていきました。




■ホール3階奥まで1分30秒で香りを届けるマシン


:2017年、サロン業務をやめて、香りの空間演出へ事業内容をシフトさせることを決めました。当時、まだ個人事業でしたが、銀行から融資してもらい、独自のハードウェアを開発しました。その販路拡大のために応募したのが、LED関西(女性起業家応援プロジェクト)です。そこでファイナリストに選ばれ、大阪信用金庫さんがサポーターとしてついてくださることになり、1年後に「だいしん創業ファンド」にて資金調達しました。


松井:昔から起業意欲は高かったんですかね?


:そんなことないです。起業したかったというより、ただやりたいことをやってきたという感じですね。実は、当時、臨床心理士の資格を取るために大学院に行く選択肢もあったんですよ。セラピストをしていると精神的な病理に触れることも多くて。通信制の大学で勉強し、院試にも受かり、入学金も払ったんですが、最終的には空間演出の方を選びました。


松井:分かれ道だったんですね。


:やってみたい気持ちはどちらもあったんですけど、ビジネスってやっぱり今の波に乗らないとだめですよね。大学院に行っている間に、香りのビジネスで同じことをする人が出てきたら、すごく悔しいだろうなと思って。


松井:開発したハードウェアを見せてもらってもいいですか?


:こちら(写真)が、香り演出機器「Scent Machine(セントマシン)」です。ここ(写真前方部)から香りが噴射され、1秒間で5m先まで香りが拡がります。たとえばNHKホールのような広い会場でも、送風機を併用し、3階一番奥の席まで1分30秒で香りを届けることが可能です。お芝居のワンシーンやライブの1曲だけに香りが欲しい場合も、素早く届けることができ、次のシーンではちゃんと消えてくれるようになっています。


松井:操作は手動ですか?


:手動でも自動でも、両方いけます。舞台だと後ろの真ん中あたりに音響さんや照明さんがブースを構えていますよね。あそこから遠隔で操作します。舞台演出用の規格でつくってあるので、照明や映像に合わせて自動で香りを出すこともできます。




■その日その時の感動体験を、忘れられない「思い出」に変える


松井:このお仕事の醍醐味を教えてください。


:クライアントと一対一で接するセラピストのお仕事と違い、空間演出で携わるエンタメのお仕事って、ひとつの作品にたくさんのプロフェッショナルが関わる「チームのお仕事」なんですよ。いろんな方が関わってひとつのものをつくりあげていく中、わたしも香りのスペシャリストとして関われるのがすごく嬉しくて。


松井:なるほど、香りを扱う仕事でも、タイプがぜんぜん違うと。


:そうですね。それと、セラピストって、しんどい人を癒やすお仕事で、言ってみればマイナスをプラスマイナスゼロのところまで引き上げていくお仕事。でも、空間演出のお仕事って、そこからプラスの感情を引き出してあげるものなんです。事業内容をシフトさせたのは、そういった楽しさを経験したからでもあります。


松井:冒頭にも「感動」というワードが出ていましたね。


:数年前に「香水」という歌が流行りましたよね。香りって良い意味でも悪い意味でも記憶に残って、嗅いだときに否が応でもそのときのことを思い出すんです。そういう特性を利用して、その日その時に体験した感動を、忘れられない「思い出」に変える、それが「感動の記憶をつくる」ということです。


松井:いつ頃から「感動」を意識するようになったんですか?


:空間演出として2回目のお仕事が「ヘンゼルとグレーテル」をアレンジしたミュージカルだったんですが、お菓子の家が出てくるシーンでお菓子の甘い匂いを演出したら、お子さんたちがすごく喜んでくれて。やっぱり記憶に残ったみたいで、後々、たくさん感想もいただいたんです。「感動」を意識するようになったのは、その頃からですかね。




■「デジタルサイネージ×香り」で、嗅覚に訴えかける新しい看板を


松井:今後の展望を教えてください。


:デジタルサイネージに香りの装置をつけて、香りの看板として使っていただくデバイス「Ambiscent アンビセント」を開発していまして、3年越しでようやくお披露目になります(2022年7月発表)。イベントやエンターテインメントではなくて、マーケティングのひとつとして香りを使っていただくということです。


松井:それは新しい領域ですね。


:うちの既存の機械は、ステージの演出がメインで、広い空間に早く香りを届けるというものだったんですけど、この装置は、人感センサーが反応して、サイネージの前に立った方にだけピンポイントで香りを届けます一般の方々が行き交うようなところでは、香りが邪魔になることもありますので。


松井:どのようにして開発を進めたんですか?


:アネスト岩田株式会社のアクセラレータープログラムに採択されまして、そこで開発しました。いろんなところでいろんな人に協力してもらいながら進めています。


松井:協力者を見つけてアイデアをしっかり形にしていることが、すごいなと思います。最後に、読者の方に向けたメッセージをお願いします。


:空間演出もデジタルサイネージも、わたしたちの業務は「嗅覚に訴えかけて記憶を残す」というものです。新しいビジネス分野ですので、まだまだいろんなアイデアが考えられると思います。これからも、さまざまな人たちと協力して新しいビジネスをつくっていけたらと思っています。


松井:ますますのご発展を期待しています。本日は、ありがとうございました。


 

取材を終えて


個人事業の段階で、メーカーを見つけハードウェア開発をされたという話には、正直、驚かされました。営業専任者のいない状況にも関わらず、着実にクライアントを獲得されていっていますし、リピートも多いとのこと。先進的な事業領域ゆえに競合が少なく、効率的に事業展開されている印象です。これからは、「メタバース×香り」「デジタルサイネージ×香り」といった新サービスに注力されるとのことで、「香り×テック」の先駆者がどういう展開を見せてくれるのか、楽しみでなりません。(ライター 松井)​




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