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執筆者の写真大洞 静枝

属人化された営業ナレッジをAI搭載アプリで標準化し、誰もが成果を!:SalesNavi

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、営業活動において、継続的に成果を挙げていくことを目的とした仕組みづくりであるセールスイネーブルメント事業を展開する株式会社 Sales Navi代表取締役 田中大貴さん にお話を伺いました。

      取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局長)、大洞 静枝(ライター)


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田中 大貴(たなか だいき)氏 略歴:1986年岐阜県生まれ。短期大学にて保育士・幼稚園教諭の免許を取得後、同志社大学へ編入し教育学を学ぶ。卒業後、株式会社キーエンスにて営業職に従事し、連続目標達成したのち、プルデンシャル生命保険株式会社にスカウトされ入社。入社以来11期連続社長杯入賞。2017年当時全国最年少で部長に就任。2017 - 2021年度MDRT TOT会員(上位0.01%の営業成果)認定。2021年株式会社Sales Naviを設立。


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生態会 事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間をいただきありがとうございます。事業を始められたきっかけについて教えてください。


田中 大貴氏(以下、田中):はい、もともと私は教育者を目指して、大学では教育学を専攻していました。海外のインターンシップでは、国も文化も価値観も異なる子どもたちに日本語を教える機会がありました。子どもたちの著しい成長を支援するのは楽しかったものの、異文化の環境下で様々な経験を積むうちに、学校という、ある種限られたフィールドよりも、ビジネスという、もう少し広いフィールドで活躍したいと思うようになりました。


漠然と起業したいという気持ちを抱えながらも、知識がない中で、すぐに起業家になるのは難しいと感じました。就職活動中、将来的に起業するためにはどのような能力を身につけるべきか考えた結果、たどり着いたのが営業力でした。どのようなビジネスをするにしても、営業が必要ないビジネスはないだろうと。そんな営業力を短期間で培える会社という視点で、就職活動を始め、株式会社キーエンスに就職することになりました。キーエンスは、他の会社で6年ほどかけて身につける営業力を2~3年で習得できると聞いたのも、決め手になりました。


ライター大洞(以下、大洞):キーエンスでは、どのような営業をしていたのでしょうか?


田中:製造業の工場向けに営業を行っていました。私が取り扱っていたのは、マイクロスコープといって、一番高額な商品でした。半額以下で売っている競合他社がいる中で、商品を販売する必要がありました。もちろん高額なので、すんなり決裁はしてもらえません。営業力がないと、売ることができない、というのが前提になっていました。


キーエンスの営業の特徴として、トップセールスを育てるのが上手いと思われがちですが、実際は違います。売れない営業を作らないことが、最大の特徴です。仕組み化、型化がなされているので、その通りにすれば成果がでます。言い方を変えれば、120点の営業パーソンを作るのではなく、80点の営業を大量生産することに長けている会社です。


一方で、自由度はありませんでした。会社の訪問や商談に至るまで、手順や方法がマニュアル化されています。次第に、自身を働きアリのように感じてしまうようになりました。そんなことを思っていたタイミングで、外資系生命保険会社であるプルデンシャル生命保険株式会社から、スカウトの連絡をいただきました。各業界でトップクラスの営業成果をあげた人たちが、どんどん集まってくる会社です。働き方も、個人事業主の形に近く、時間や働き方は全て自由。いわゆる上司・部下という概念もなく、給料もフルコミッションという世界です。その環境がすごく興味深いと思ったのと、保険という形のない商品を売る経験は必ず勉強になると思い、24歳のときに転職しました。

株式会社Sales Navi 代表取締役 田中大貴氏

大洞:プルデンシャル生命保険でも、Sales Naviの土台となるような営業について学ばれたのでしょうか?


田中:はい。プルデンシャル生命保険も非常に営業の型化が進んでいました。キーエンスとは全く異なる側面があり、大きな学びがありました。私は小学生のころから、みんながしているのと同じことをするのが嫌いでした。なぜなら、みんなと同じことをしていても、成功するわけがないと思っていたからです。


プルデンシャル生命保険でも、基本の部分は学びながら、他の人がやってないような戦略を練り続けて成果を出す、ということを繰り返していました。目標達成意識が強く、全部クリアしないと気がすまない性格です。その過程がすごく楽しくて、どんどん高い目標を掲げていくうちに、気づけばのめり込み、12年ほど在籍していました。全国最年少で営業部長になり、目標にしていたTOT(Top of the Table)※も、30歳で達成したとき、それ以上の目標がなくなってしまったのです。                              ※上位0.01%の営業成果


このときに、私は、そもそも起業したかったのではないか、ということを思い出しました。会社が取り扱っている商材を、高いレベルで販売するということは、やり切ったという自負があったので、次は自分が世界や社会を変えたいと思ったのです。今まで、社会を変えてきた人たちは、仕組みを作る側。私も、自分の強みを生かして、ビジネスの世界に何らかの足跡を残したい、と思う気持ちが高まり、起業することにしました。


ユニコーン企業を目指し、得意分野で起業


いろいろな事業モデルとアイデアを考えたのですが、やるからには絶対にユニコーン企業を作りたいと思いました。そんな中で、セールステックと出会い、営業が根本的に大好きな私にとってピッタリの領域だと思いました。そこからは、ひたすら海外のウェブサイトを翻訳しながら、セールステックについて調べました。調べていく中で、セールステックの中心になっているアメリカでの最先端事情が見えてきました。結果的に、セールスイネーブルメントという分野に絞りました。労働人口が減少し、生産性を上げることが急務の日本において、大きなチャンスがあると思ったからです。


また、10年ほど前、私の経歴に興味を持った企業の経営者から、営業セミナーの依頼をいただくことが多々ありました。営業課題を抱えている企業が多い一方で、セミナーのような短時間では、営業力を根本的に上げることが難しいとも感じました。私が経験したことを、セールスイネーブルメントの観点でプロダクトに落としこみ、サービスとして提供できれば、真の営業支援ができるのではないかと思ったことも、セールスイネーブルメントに絞ったきっかけです。


G7の労働生産性という観点で見ると、日本はダントツで最下位です。アメリカの6割しか生産性がないという悲しい状況です。実は、営業の生産性という観点で見ても同じです。日本には、総労働人口が7,000万人弱いますが、このうち営業従事者は842万人です。我々としては、842万人の生産性を上げることが、日本のGDP改善につながるのではという大義を持って取り組んでいます。


営業の標準化を図るセールスイネーブルメントの分野で勝負

西山:セールスイネーブルメントについて詳しく教えてください。


田中:セールスイネーブルメントは、データを活用して、営業の標準化を図るための取り組みです。


営業は、どの企業でも、ハイパフォーマー、ミドルパフォーマー、ローパフォーマーが2:6:2の分布になりがちです。標準化というのは、みんなが売れる営業になり、同じ人数での売り上げを最大化するということ。キーエンスには売れない営業を作らないという仕組みがあり、プルデンシャル生命保険でも営業の型化が非常に進んでいました。


アメリカでは、2019年時点で、既に61%の企業がセールスイネーブルメントを推進しています。セールスイネーブルメントを推進することで契約率が上がる、という明確なデータが出ています。アメリカのセールスイネーブルメント市場規模は、2020年代後半にかけて9,000億円までの伸びると言われており、米国最大手のGongは時価総額1兆円、2番手のOutreachは時価総額7,500億円です。一方で、日本に関してはまだまだ黎明期です。 西山:営業の標準化は、多くの企業が実現したいと思っているはずですが、現実的に非常に難しいと思います。どのような仕組みで実現されていますか?


田中:職種別の離職率ランキングでは、営業職は最も離職率が高いです。コツを掴んだ人は成果が上がるけれども、そうではない方は成果が上がらず、モチベーションを維持できなくなり、退職する、という負のサイクルに陥っています。営業には、教科書や体系化された教育方法がないことが大きな原因だと考えています。


多くの営業職は、感覚的に営業活動を行っていて、営業マネージャーはその人の主観に偏った営業指導をやりがちです。その結果、成果のばらつきが生まれています。我々は、感覚的な部分を合理的に、主観から客観に基づいた指導に変え、ばらつきの少ない標準化された状態を作ることを目的にしています。2023年3月には、スマートフォン上で利用できる営業標準化システム「Sales Navi」をリリースしました。


アプリ上のAIコーチが指導し、営業力を底上げ


左:生態会 事務局長 西山  右:田中氏

西山:クラウドベースのCRM(=顧客管理システム)やSFA(=営業支援システム)、MA(=マーケティングオートメーション)を提供しているSalesforceとのサービスの違いを教えてください。


田中:Salesforceさんは、CRM、SFA、MAの代表格だと思っています。これらは、あくまで管理に特化したシステムです。普及が進んでいますが、必ずしも直接的に企業の売り上げ向上につながっているわけではありません。営業担当者の目的は、目先の商談で何をしたら受注につながるか。営業マネージャーの目的は、営業標準化の実現です。そのため我々は、この領域に特化し、SEA(セールスイネーブルメントオートメーション)を提唱したプロダクトを提供しています。


従来、営業担当者はマネージャーに報告し、指導を受けるのが一般的でした。我々の営業標準化システム「Sales Navi」では、両者の間にAIコーチというキャラクターを作り、仲介役を担わせています。営業担当者は、AIコーチに商談の状況を報告すれば、それに応じた指導や気づきを自動で提供してもらえます。また、AIコーチ経由で、マネージャーに商談の要点が共有されます。

AIコーチは親しみやすいキャラクター

特長の一つ目はUI、UXです。CRMやSFAを導入した企業の大多数は未定着となっています。その主な理由は、UI、UXが複雑で、入力作業が面倒だから。さらに、従来のSFAの日報は、人によって書く内容の質や量がバラバラです。一方Sales Naviは、営業目線でUI、UXをデザインしており、AIコーチからの質問に対し、回答を選択していくだけ。とても簡単なので、定着しやすく、回答内容を定量的に収集できるため、データ解析も可能です。システムは自社開発で、3年かかりました。ちなみにキーエンスは30年以上前から営業活動をデータ解析し、施策に落とし込み、現場に展開しています。


二つ目は、セールスインサイトといわれる営業の教科書データを体系的に取りまとめたことです。私は、セミナー講師の経験があるので、営業ノウハウを言語化するのが得意です。営業成果を上げるために、必要な要素は何なのかを洗い出していきました。同時に、各業界のトップセールスにもヒアリングを行い、営業成果を上げるための要素を特定し、4つに分類しました。要素ごとに、実際の営業指導として使える内容に落とし込んでいます。これが、弊社がセールスインサイトと呼んでいる営業のコツやノウハウです。セールスインサイトは、1,000種類以上あります。


三つ目は、AIコーチが、人間に指導を受けている感覚に近いコミュニケーションを再現できる点です。1,000種類を超えるセールスインサイトをAIコーチにプログラミングすることで、人間に代わって大半の営業指導やサポートができるようになりました。いかに人間に会話を近づけるかというところに力を入れており、現在、特許を出願中です。


AIコーチからの質問に対する回答は、選択肢から選ぶだけ

営業は、成果を挙げたら、営業マネージャーに昇進し、指導する立場に回るというキャリアパスになりがちです。しかしながら、結局、営業ノウハウは感覚的に身につけているものなので、上手く指導できないことが多いです。AIコーチを使えば、再現性を担保した営業指導が可能になります。営業マネージャーが無意識に行っている営業指導を、Sales Naviは独自のアルゴリズムにもとづいて、追究しています。


西山:具体的に、どのように使うのでしょうか?


田中:商談の前には準備、後には振り返りという形でAIコーチが登場します。AIコーチの質問に回答すると、内容の深堀りをしてくれるので、どんどん会話が進んでいきます。営業担当者には、商談する度に、毎回新たな気づきが提供され、営業マネージャーは、AIコーチと営業担当者のやり取りの記録を見ることができます。


これらの回答データは、収集して特徴を解析しています。今までは、成果が高い人と低い人の違いや、商談でどのようなことを意識しているのかについては、ブラックボックスでした。そこが、可視化できるようになります。成果が高い人と低い人の差異が明確になれば、それを起点に、標準化につなげることができると考えています。結果として、受注率の向上や契約件数の増加、営業の報告業務や営業マネージャーの指導業務の削減、オンボーディングの早期化、並びに、離職率の低下などの効果が期待されます。


大洞:実際に導入している企業を教えてください。 田中:株式会社大広、阪急阪神不動産株式会社、タマホーム株式会社、中西金属工業株式会社(順不同・2023年5月時点)などに導入いただいています。


西山:企業ごとに、内容をカスタマイズするのでしょうか?


田中:キーエンスではBtoBの有形商材を、プルデンシャル生命はBtoB、BtoCの無形商材を取り扱っていました。商品は異なるものの、営業の原理原則は共通でした。我々が作ったインサイトは業種業界に関わらず、そのまま適用できます。ただ、個々の会社ならではのナレッジがあると思いますので、別途導入支援時のインタビューでそれらを収集し、会社ごとに営業の教科書を作っています。


西山:今後、提供したい企業はありますか?


田中:生命保険会社は、長年在籍していたので、一番強みを発揮しやすいと思っています。 西山:成果は出ていますか?

左:生態会 西山 右:田中氏

田中:AIコーチが営業指導をサポートする営業標準化システム「Sales Navi」の正式リリースは2023年3月であるため、数字としては、まだ比較できる状態にはありませんが、「報告にかけていた時間を営業活動に回せた」「従来のシステムより簡単に使える」、というユーザーの生の声が集まってきています。受注率の向上に関しても、効果が見えてきている企業があるようです。

西山:いろいろな会社の経営者が、興味を持つと思います。効果があるという実績が出てきたら、すごく売れるのではないでしょうか。本日は、ありがとうございました!

 

取材を終えて:「Sales Navi」は2023年3月に正式リリースしたばかりですが、既に1.7億円の資金調達を達成。サービス内容もさることながら、代表の元トップセールスマンとしての手腕が発揮されています。今後、導入先企業での効果が認められれば、国内でも急速に需要が高まりそうです。(ライター大洞)


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