関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、AI活用による労働力不足の解決に取り組む株式会社RUTILEA(ルテリア)代表取締役社長 矢野 貴文氏にお話を伺いました。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)
森令子(ライター)
矢野貴文(やの たかふみ)氏 略歴
1990年生まれ、岡山県出身。京都大学 電気工学専攻 修士修了&博士後期課程中退。修士課程中にデータ統合技術の会社を友人と起業、博士課程中に売却し、グループのDX責任者として上場を経験。製造業の課題をAIで解決する新分野での世界トップを目指し2018年に創業。
■ノーコードAIによる外観検査自動化で、製造業の生産性向上。
生態会 西山(以下 西山):本日はよろしくお願いします。まずは、事業内容を教えてください。
RUTILEA 矢野氏(以下 矢野):「AIを簡単に。」をミッションに、ノーコードでAIプログラムを簡単に開発できる、外観検査用のノーコード画像処理ソフト「ImagePro」などの製品を開発・販売しています。
「ImagePro」は、深層学習によるセグメンテーション、読み取り、分類などのAI機能と位置決めや画像計測を行うためのルールベースを組み合わせにより、業界最多水準のビジョンツールを搭載した開発ツールです。製品の外観検査、検数、形状認知など検査したい項目に応じて必要なツールを選択し、ドラッグ&ドロップ操作するだけで検査レシピを構成、産業用水準のAIを簡単に実現することができます。「ImagePro」により、これまで複雑なプログラミングが必要だった検査AIの開発工数を80%削減でき、導入企業は生産現場での保守コストを削減し、高い投資対効果を実現しています。
「ImagePro」をはじめとした取引実績は179件(2022年8月時点)で、トヨタ自動車、コマツ製作所、パナソニックなど大手製造業でも導入実績があります。世界展開に向け、産業用オートメーションおよびデジタルトランスフォーメーションのグローバルリーダーであるRockwell Automationとも提携しています。
西山:大企業との取引実績も多く、素晴らしいですね。どのように事業を拡大してきたのですか?
矢野: RUTILEAは製造業向け画像処理AI事業を行うために、2018年8月に創業しました。当初はソフトウェア開発を進め、2019年8月に、異常検知AIに基づく外観検査ソフトウェア「SDTest」をオープンソースのソフトウェアとして公開しました。工業製品に関わるオープンソースのソフトウェアは珍しく、非常に注目が集まり、半年間で500社超の企業のダウンロードを記録しました。オープンソースにしたのは、まずは試してもらうことを重視したからです。大企業では、コンペや見積り、評価検証、稟議申請など導入プロセスが複雑ですが、オープンソースであれば、気軽に試用してもらうことができ、創業間もないスタートアップの製品でも、中身を公開したことで、フェアな評価を得ることができました。
「SDTest」をきっかけに、多くのユーザー企業や、販売代理をしてくれる商社などと繋がり、2020年には、トヨタ自動車をはじめ大手国内メーカーに、検査自動化ソリューションを提供開始しました。平行して、製造現場の課題について理解を深め、製品開発に反映してきました。
例えば、従来のAIソリューションの開発では、学習データ収集、エンジニアチーム組成など含めプロジェクトが⻑期間になりがちでコストがかかりますが、製造現場へのAI導入にあたっては、投資対効果を厳しく追求する現場のニーズとなかなか合致しません。であれば、私たちは、「AIを導入する」から、さらにその先の「AI導入を簡単にすること」をミッションにしようと、2020年末ごろからノーコードAIの開発を開始、ノーコードAIによる検査自動化のパッケージ製品「ImagePro」を2021年に販売開始しました。
■動画解析をノーコードAIで行う作業分析システムをリリース予定
森:「ImagePro」はオープンソースではなく、パッケージ製品なんですね?
矢野:そうですね。「ImagePro」では、ソフトのライセンス販売や導入支援を行っています。また、刃具・プレス・ギア部品といった特定分野では、ハードである検査装置と「ImagePro」を組み合わせた製品も販売しています。
さらに、2023年中に、動画解析をノーコードAIで行う作業分析システム「Rutilea Efficient Operations」をリリース予定です。例えば、自動車業界では少量多品種生産が主流になっているうえ、燃料車だけでなく、EV車など新しいラインが次々と増えており、業界全体が慢性的な人手不足です。「Rutilea Efficient Operations」により、AIを簡単に導入できるようになり、工場の製造工程における作業ミス検知、作業プロセス改善などの効率が大きく向上します。現在、このシステムはリリース前ですが、すでに大手自動車メーカーなどで試験的に使っていただいています。
西山:矢野さんは、大学在学中にも起業された連続起業家とお聞きしています。これまでのご経歴について、教えていただけますか?
矢野:京大在学中、大学の仲間たちとARなどのプログラミングのバイトをしていました。優秀な人が大勢いて、1社目でも今の会社でも一緒に事業を進めている柴田恭佑(RUTILEA取締役・事業部⻑)にも、そこで出会いました。修士課程中の2014年に、自分達が得意なデータ統合技術を使って、ビジネスが伸ばせる分野で事業をやろうと会社を立ち上げ、中古ブランド品の買い取りプロセス効率化のためのソフトウェアを開発、2016年にM&A
で会社を売却しました。
M&A後は中古ブランド品の買取会社のグループ会社となり、グループ全体のDX責任者として、2018年に上場も経験しました。
上場を経て、次になにをしようかと海外を見て回っていた時、世界中で日本企業の看板を見かけ、「これらの企業は世界に必要とされている」と感じました。自分も、「次は、世界に必要とされる会社、何かの分野で世界でTOPになる会社をやりたい」と思ったのです。1社目の起業は、”研究でも事業でも、やりたいことを自由にやっていける資金を得る”という目的があり、初めからM&Aがゴールだと思っていました。
RUTILEAでは、”世界でTOP”というゴールに到達できる分野は何か、世界のマーケット、日本企業の強み、自分達が得意かつ興味がある分野などで、一番になれることはなにかを検討し、事業イメージを構築しました。
西山:私も創業期のスタートアップで働いていたことがあり、生態会でも多くのスタートアップに取材をしていますが、最初から「M&Aがゴール」というのは日本の起業家では珍しいように思います。
矢野:M&AもIPOも”株を売る”という本質は同じですよね。IPOで大勢に売るか、M&Aで1人に売るか、という違いです。RUTILEAではIPOを目指して準備をしています。
西山:御社ではグローバル企業との提携や、海外投資家からの資金調達など、世界展開に向けた準備も進んでいるようですね。資金調達状況についても教えてもらえますか?
矢野:2022年に、リード投資家Abies Vebturesとサウジアラビア王国の政府系ファンドRiyadh Valley CompanyからシリーズBラウンドの資金調達を実施しました。外国からどれだけ評価されるかは重視しており、日本だけでなく、海外の投資家からも資金を調達したいと考えています。次の調達ラウンドについても準備中です。
海外展開については、2023年中に開始したいと計画していますが、自分達で積極的に海外進出するというより、代理店販売など現地パートナーと連携するやり方です。その他、製品開発については、オフショア開発の体制を整えていきます。
西山:着実に事業を展開されていることが、よくわかりました。今後の展開はどのように考えていますか?
■AIは今後の企業活動にとって欠かせない存在になる
矢野:AIは、今後の企業活動にとって欠かせないものになるはずです。A導入の有無で生産性に大差がつき、導入していない企業は厳しい・・・といった状況になると考えています。リーマンショック後に創業したテック企業が、現在、時価総額の上位にいるように、景気回復を支える新しいテクノロジーとして、AI分野に資金が集まってくるだろうとも思っています。”AI特需”のようなチャンスが来るはずです。それをしっかり捉えたいですね。
「ノーコードAIによる製造業の生産性向上」という今の事業分野は3年目になりました。私たちの創業時と比べても、テクノロジーは著しく進歩しています。今の事業・製品はいいポジションに立てていると思いますが、当初の事業イメージだけにこだわらず、方向性を常に修正し、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を達成し、「この分野ならRUTILEA」という企業になりたいです。
西山:世界TOPになること、私たちも期待しています!本日はありがとうございました。
取材を終えて
明確なゴールから逆算した事業の構築、それを常に見直し続ける柔軟な経営姿勢に、“さすが連続起業家!”と感嘆しました。学生時代の仲間も含め、周囲に事業売却の経験がある起業家が多く、互いに情報交換しているというお話もあり、矢野さんたちのような起業家コミュニティが、起業エコシステム(生態系)を豊かにしていくことを、改めて実感しました。(ライター 森令子)
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