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汗分析で体の内側を見える化。スキンケアからヘルスケアまで対応し、世界進出も視野に:PITTAN

執筆者の写真: 和田 翔和田 翔


関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は株式会社PITTANで代表取締役CEOを務める辻本和也氏に話を伺いました。


PITTANは、汗の成分分析という独自技術で、体内の栄養状態を可視化するサービスを展開中。エステやフィットネス業界向けに、非侵襲かつ低コストな分析サービスをBtoBtoCモデルで提供し、一人ひとりの生活を健康でポジティブにする支援を行っています。


これまでにない技術を具現化し、グローバル展開も視野に入れる同社の革新的な取り組みに迫りました。

取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)

和田翔   (ライター)

 

辻本 和也(つじもと かずや)氏 略歴

京都大学院工学研究科でMEMS(微小電気機械システム)分野の研究に従事。デバイス小型化技術の社会実装を目指し、博士課程の修了後は東京エレクトロン、ロームに勤務。その後、より迅速かつ強力な変革を志し、コンサルファームやVCを経て、2022年に友人とスタートアップスタジオを設立。パイロットPJとして自身がEIR(客員起業家)となり、島津製作所出身の児山浩崇氏(現・取締役CTO)とともに、PITTANを創業した。

 

体の内側を可視化して、ポジティブな人生を


生態会事務局 大洞(以下、大洞):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、PITTANが取り組んでいる事業について教えていただけますか?


辻本和也氏(以下、辻本氏):私たちは、汗の成分分析を通じ、肌の状態を可視化するサービスを提供しています。基盤にあるのは「Lifelong Positivity(ライフロングポジティビティ)」という考え方です。


ライター 和田(以下、和田):「ライフロングポジティビティ」について、具体的に教えていただけますか?


辻本氏:「ロングライフ」ではなく「ライフロング」なのがポイントで、人生の長さは一人ひとり異なりますが、それぞれの一生をポジティブに暮らせる世の中にしていきたい、という考え方です。今の日本を見てみると、非常に幸福度が低い状況だと言わざるを得ません。そんなネガティブな現状を変えていきたいんです。


そのためには、自分自身のことをもっと知らないといけない。とはいえ体の中のことまで、そう簡単にはわかりません。私たちは、体の状態を正確かつ簡単に可視化して、一人ひとりの人生を最大限に楽しくすることをミッションに掲げ、日々取り組んでいます。


インタビューに応じる代表取締役CEO辻本氏(写真左)と取締役COO西川氏(写真中央)
インタビューに応じる代表取締役CEO辻本氏(写真左)と取締役COO西川氏(写真中央)

和田:人生を最大限に楽しく生きるためには、例えばどんな課題を解決する必要があるでしょうか?


辻本氏:私たちが解決したいのは、エイジングにまつわる体の問題です。年を重ねること自体はもちろん悪いことではありません。しかし体がどんどん老化することで、病気になったり、寝たきりになったり、いろんな問題が出てきます。それを防ぐには、生物学的に若い状態を保つこと、つまりエイジングを遅らせることが大切だと考えています。


そこで私たちが着目したのが、肌です。「肌は健康の鏡」といった言葉があるように、見た目の若々しさと細胞の若々しさには強い相関があります。つまり肌の状態を知ることは、実は体の内側の健康にも関係している、ということです。



PITTAN独自の分析技術で、汗に含まれているは細胞の情報を「見える化」できる
PITTAN独自の分析技術で、汗に含まれているは細胞の情報を「見える化」できる


「汗」から知る自分の体。高度な分析をより手軽に

分析キット見本(ロゴはリニューアル前のもの)
分析キット見本(ロゴはリニューアル前のもの)

和田:具体的にはどんなサービスを提供しているのでしょうか?


辻本氏:現在は、独自開発の分析キットによる郵送モデルを展開しています。医療用の止血パッチで採取した汗を弊社のラボで分析し、5営業日以内に結果をWebアプリ上でお知らせする仕組みです。汗はパッチを顔に3分間貼るだけで簡単に採取でき、注射したり採血したりする工程は必要ありません。


汗の中のアミノ酸を分析することで、肌の潤いやハリを作り出すための栄養状態を点数化できることが特徴です。例えば肌のハリを保つにはコラーゲンが重要で、そのコラーゲンの原料となるアミノ酸などの栄養素が体の内側にどれくらいあるのか、といったポイントを点数化しています。


汗の採取に使うパッチ
汗の採取に使うパッチ

和田:例えばどんな業界で利用されているのでしょうか?


辻本氏:現在は、エステサロンやフィットネスジムを中心にBtoBtoCモデルで展開しています。例えば最近のエステでは、体の外側からアプローチする化粧品だけでなく、サプリメントなども取り入れた「トータルケア」を重視していますから、体の内側を高精度で分析できる技術はニーズが高いんです。今後は介護や訪問診療、エイジングケアなどへの展開も検討しています。


和田:なぜ、汗の分析に着目されたのでしょうか?


辻本氏:前提として、最近はスマートウォッチなど体の状態を計測するデバイスが増えていますよね。ただ、体の内側の状態、特に栄養状態までは把握できません。そこで重要になるのが体液の分析です。


ただ、血液は体に傷をつけないと採取できませんし、尿や唾液は採取する際の心理的な抵抗がありますよね。特にエステやジムといった現場では、これらの体液を採取すること自体が難しい。非侵襲かつ採取の心理的ハードルが低いのが、汗なんです。


とはいえ、皮膚にパッチを貼るだけで採取する、いわば「薄い体液」から、これだけ細かい分析ができることは簡単ではありません。それを実現できていることが、私たちの技術的なノウハウであり強みの一つです。


技術と情熱が結びつき、起業へ


大洞:現在のコアメンバーが集まった経緯を教えていただけますか?


辻本氏:PITTANの起業前は、神戸でスタートアップスタジオを友人と立ち上げ、「この地に新しい企業を生み出そう」というモチベーションで取り組んでいました。ちょうどそのころ、神戸市のイノベーション専門官としてスタートアップ支援に携わっていた西川(取締役COO 西川嘉紀氏)とも出会いました。



有望な事業のタネを探す中で、以前から関わりのあった児山(共同創業者/取締役CTO 児山浩崇氏)から、現在のPITTANの事業につながる「濃度の薄いものを測定できる」技術の話を耳にしたんです。児山は当時、島津製作所で半導体に関する研究をしつつ、この技術の可能性を信じて、なんとか形にしようと粘り強く取り組み続けていました。


そのことを知り「なんて熱い人なんだ」と感化されまして…。そこでスタートアップスタジオは友人に任せ、自分がCEOとなってPITTANを起業することに決めました。


関西発の技術で、世界への跳躍を見据える


大洞:今後はどのような展開を考えていますか?


開発中のミニラボ(写真は試作品)
開発中のミニラボ(写真は試作品)

辻本氏:今、開発を進めているのが「ミニラボ」という小型の分析装置です。これまでの郵送モデルはパッチをラボで分析する必要がありましたが、このミニラボが完成すれば、パッチを採取したその場で分析結果を出せるようになります。


このレベルの分析装置を他社が出すとすれば1台あたり数百万円は下らないと思いますが、ミニラボなら1台40~50万円という超安価で製作が可能です。装置を導入するエステやジムのイニシャルコストを抑えることで、エンドユーザーの利用料を安価にすることにもつながります。


和田:今後、海外に進出する考えはありますか?


辻本氏:グローバル展開も視野に入れています。ちなみに西川は前職の京セラやマツダで10年ほど海外マーケティングの経験があって、そのころに築いた欧州や東南アジアでのネットワークを生かしながら、徐々に取り組みを進めているところです。


和田:欧州と東南アジアでは、取り組みの方向性は異なるのでしょうか?


辻本氏:特に欧州は、ウェルビーイングやQOLへの興味関心の高さを背景に、いわゆる「バイオハック」に関する市場がすでに発達しています。その流れの中で、現地のサプリメント企業など、私たちの技術に関心を持ってくれる相手と取り組みを進める方針です。


東南アジアではリープフロッグ(※)型の戦略を考えています。現時点でデファクトスタンダードが存在しない市場ですから、まずはそこでサービスを確立して、蓄積したデータを活用しながら日本市場へと逆輸入することも選択肢の一つですね。


※途上国で急激なイノベーションが起こること。「リープフロッグ現象」と表現されることも多い。


いずれにしても私たちが目指すのは、分析技術の「民主化」です。これまでラボの中に閉じていた高度な分析技術を、誰もが使えるようにする。それによって、一人ひとりが自分の健康状態を正確に把握し、より良い人生を送れるようにしていきたい。そのビジョンを実現するため、一歩ずつ進んでいきたいと考えています。


大洞:本日はありがとうございました。今後の取り組みも応援しています!


 

取材を終えて

2024年11月、PITTANは「Nutrifull」という新ブランドの展開を発表。その中で「ただ栄養を提供するだけでなく、日々の健康管理が特別なものではなく自然に楽しめる体験として生活に溶け込むようなサービスを届けたい」と掲げています。また、グローバル展開も視野に入れつつ、大阪・関西万博への出展も間近。関西発のスタートアップとして、世界に向けて跳躍する準備を着々と進めているところです。

(ライター 和田翔 )






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