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独自のCO₂分離膜で脱炭素社会を目指す、英国人教授の京大発ディープテック:OOYOO

更新日:10月10日



関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、 株式会社OOYOOの創業者で取締役のイーサン・シバニア教授にお話を伺いました。


同社は、空気やその他のガスを分離・精製するガス分離技術をコアに、高性能なCO₂分離膜を開発しています。通常、工場や船、発電所等からCO₂を回収する設備は高額で大規模なスペースが必要です。OOYOOの分離膜は、安価で省スペースなのが特長です。


イギリスから日本に移って起業した経緯や、OOYOOにかける想いをお聞きしました。


取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)

垣端たくみ    (ライター)

 

イーサン シバニア教授 略歴

ケンブリッジ大学でPhD(博士号)取得後、アメリカ、日本などで「Creative Solutions to a Cleaner world」をテーマに研究・活動する。30歳と43歳の時に日本に渡り、京都大学に着任。2020年、自身の研究成果を事業化するために、株式会社OOYOOを設立。京都大学高等研究院の研究機関「物質-細胞統合システム拠点(iCeMS:アイセムス)」の教授。

 

二酸化炭素吸収事業に注力しつつ、事業領域には柔軟性を維持


生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、OOYOOという名前の由来について教えていただけますか?


OOYOO 代表 イーサン シバニア(以下、シバニア):実は、社名に意味はありません。社名に縛られずどんなことにでもチャレンジできるようにしたかったからです。私たちは、二酸化炭素を吸収する会社であることにとらわれず、幅広く挑戦しており、ガス分離に全く関係ない事業も手掛けています。元々は検索エンジンを提供して発展したGoogleのように、OOYOOも多角化していきたいと思っています。


イーサン シバニア 教授

西山:とはいえ、OOYOOという社名にするにもきっかけがあったと思います。どのようにして思いついた名前なのですか?


シバニア:OOYOOという名前は、その音の響きの面白さに惹かれて、決めました。意味を調べたところ、特に意味のない言葉だったので、これで良しとしました。文字のシンメトリーも気に入り、ロゴの色は黒にしました。しかし、後日時間をかけて調べてみると、韓国ではOOYOOは「牛乳」を意味することがわかりました。韓国ではもしかすると、牛乳の会社と思われているかもしれないですね(笑)。

シンメトリーになっているOOYOOのロゴ

シバニア:私たちの会社が重視していることは、「Core Value Sentences」です。特に「Altruism(利他の心)」は、その中でも最も重要な価値観と考えています。OOYOOは単なる利益追求の企業ではありません。もちろんNPOでもありませんが、利益以上の価値を提供することを理念としています。OOYOOという名前には限界や制約を設けず、不可能を可能にする姿勢を大切にしています。技術開発のスピードを追求し、問題が発生した際には、一つのアイデアに固執せず、すぐに次の解決策へと移行する柔軟性を持っています。このフレキシビリティこそが、私たちの会社の哲学の一つです。


フレキシブルなガス分離技術で、二酸化炭素回収技術で脱炭素社会の実現に寄与


将来的にはさまざまな事業に取り組む予定ですが、現在は主に二酸化炭素回収技術の開発と提供に注力しています。今私たちが解決したい課題は、発電所や中小企業、船からは排出される二酸化炭素を削減することです。通常、二酸化炭素削減のソリューションは埋め立てや他の用途への転用が一般的です。しかし、回収コストが高いので、多くの企業がためらいます。そこで、私たちがリーズナブルでフレキシブルなガス分離の技術開発に挑戦しました。この技術では、大規模な工場周辺から小さな部屋の中に至るまで、様々な環境で二酸化炭素を効率的に吸収することができます。


OOYOOの中核技術である分離膜

特筆すべきこととしてOOYOOは昨年12月、COP28 (第28回気候変動枠組条約締約国会議)に、65社のスタートアップの一つとして招待されました

ドバイでCOP28に参加した際の写真

私たちは2年前に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるグリーンイノベーション基金事業に採択され、50億円の補助金を獲得できました。約10年間、住友化学株式会社と共同で「分離膜を用いた工場排ガス等からのCO₂分離回収システムの開発」に取り組むことになりました。


現在、社員は二十人です。少しずつ売上も出てきて、できることが増えてきました。会社としての拠点は4つあります。京都大学でゼロから技術を生み出し、伏見でパイロット機の装置で実装化をしています。


OOYOOのユニークさの一つは、私の個人資金500万円からスタートした点だと思います。これまで資金調達を行わず、NEDOの開発資金と売上を活用して事業を進めてきました。これから初めての資金調達のラウンドを迎えますが、私は頑固者なので、株を安く売るつもりはりません(笑)。ここまで誰の助けも借りずに進んできました。国内・海外も含め資金調達を実現し、大きく成長することを目指しています。


西山:他のスタートアップのためにも、道を開いていただきたいですね!


シバニア:その通りです。私は教授です。教授として、他のスタートアップにも道をひらきたいのです。私の目標は、京都大学の最初のユニコーンになることです。


我々の技術はCO₂分離システムです。例えば、全大気平均二酸化炭素濃度は400ppmと言われ、とりわけ大気中で二酸化炭素が占める割合は約0.04%ですが、2〜3倍に増やすことができれば、約0.1%になります。野菜の葉っぱの前にそれらを排出すると、葉っぱがより早く成長します。


例えば、この部屋がロシアのシベリアだと仮定しましょう。寒さを避けるために部屋を締め切ると、二酸化炭素が充満しています。しかし、この二酸化炭素を取り除くために窓を開ければ、寒くなりますよね。寒さを和らげるために暖房を使うと当然エネルギーが必要になります。しかし、OOYOOの技術を使えば、二酸化炭素だけを効率的に回収することが可能です。


また、船舶や発電所から排出される二酸化炭素をキャッチすることもできます。世界の二酸化炭素排出量の1%を回収するためには、約4億平方メートルの分離幕が必要です。これはスタートアップが対応できる規模でないので、大手企業のパートナーが不可欠なのです。


将来的には二酸化炭素回収サービスのビジネスを展開します。これはゴミを収集するビジネスに似ています。現在我々は年間1トンのCO₂を回収できますが、2030年までには発電所レベルの大量の二酸化炭素を回収できるようになります。そのためには、多額の資金とより多くのパートナーが必要です。成功すれば、10年以内に市場の約1%のCO₂を削減できます。我々はライセンスビジネスで展開していくので、回収可能な二酸化炭素量は今後も増え続ける見込みです。


OOYOOは「イマジネーション」の会社。不可能なことはない


西山:シバニア教授が初めて来日したのはいつですか?


シバニア:私はイギリス人で、両親はスリランカからの移民です。イギリスでケンブリッジ大学に進み、博士号を取得したあと、アメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校で研究員をしました。任期が終わった後の2000年、30歳の時が1回目、そして43歳の時が2回目の来日です。OOYOOを設立したのは4年前です。


西山:そもそも、なぜイギリスから日本に来ることになったのですか?


シバニア:私がイギリスから日本に来た理由は、新しいことをしたかったからです。ケンブリッジ大学の卒業後、一度カリフォルニアで研究員をしていました。その後、一時はサウスアメリカでも遊んでいました(笑)。その時に、二つのオファーをされました。一つは京都大学での仕事、もう一つはオーストラリアに行くことです。知り合った京都大学工学部の先生に縁もあり、京都大学でのキャリアを選択しました。

取材後、京都大学にて撮影

西山:会社を作ったのは今回初めてですか?


シバニア:起業は今回が初めてです。ケンブリッジ大学に在籍していた際にも創業を考えたましたが、2013年に京都大学に来てから本格的に会社設立を決意しました。イギリスと比べて、日本では競合が少ないです。我々は多額の補助金を獲得し、リスクも最小限に抑えながら、大きな挑戦をしてきました。


OOYOOはイマジネーションの会社です。技術だけに特化すると、関わる人が限られていまいます。「不可能なことはない」という信念を、会社の大切な価値観としてこれからも掲げていきたいです。




 

取材を終えて

「OOYOOはイマジネーションの会社で不可能なことはありません」と語る、創業者のシバニア教授。 日本語はペラペラで取材後も我々が姿が見えなくなるまでお見送りをしてくださり、大変紳士的な印象を受けました。30代の頃にも京都大学で三年任期・オーストラリアの大学で終身雇用のポストでオファーを受けられたそうですが、安定よりチャレンジを選び、現在に至っているとのこと。限界を作らず常に前向きにチャレンジしつづけるシバニア教授に心揺さぶられました。(事務局 垣端たくみ)





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