関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、衛星データ解析による海洋情報サービスを提供している、株式会社オーシャンアイズの代表取締役社長 田中 裕介(たなか ゆうすけ)氏に取材しました。
取材・レポート:近藤 協汰(生態会学生ボランティア)・西山 裕子(生態会事務局長)
田中裕介 代表取締役 略歴:2007年京都大学理学部卒業、2009年同大学地球惑星科学修士課程修了。その後ダイキン工業などを経て、2013年より海洋研究開発機構にて勤務。2019年より株式会社オーシャンアイズ代表取締役社長。
生態会 近藤(以下、近藤):まず初めに、オーシャンアイズさんの事業概要を教えていただけますか。
株式会社オーシャンアイズ 田中裕介氏(以下、田中):私たちは、一言で言うと海の情報サービスを提供しています。漁業は1次産業の中でも情報化が進んでおらず、その分野にIoTや ICTを導入して、衰退産業だとも言われている漁業をサステイナブルな産業に変革することが目標です。
提供しているサービスは2種類あって、それが「SEAoME」と「漁場ナビ」です。「SEAoME」では、数値モデルに基づいた様々な海洋情報、例えば潮の強さなどをカスタマイズ提供しています。ありがたいことに私たちの技術力を評価していただき、様々な方面からお声掛けを頂いています。
「漁場ナビ」では、魚場を決めるために必要な情報をリアルタイムで提供しています。漁場決定の情報を提供することで、漁場を探すための時間がなくなり、漁業者の主要なコストである燃料費を削減できます。そして、海洋情報の解析に使用するのが、「ひまわり」など気象衛星・地球観測衛星の観測データです。「ひまわり」などの観測データをもとに、水温や潮流など様々な情報を計算しています。
観測データだけではなく、スーパーコンピュータを利用することで、海洋状況の予測、言い換えれば「海の天気予報」を提供しています。これらの情報は2kmメッシュで提供可能です。このような海洋情報を、観測データでは1時間ごと、スパコンのデータでは6時間ごとに配信できるのが、私たちの強みの一つです。
また「漁場ナビ」では、漁業者さんが簡単にサービスを使えるよう、アプリケーションの使いやすさにとことんこだわっています。なぜかというと、データ自体と同じくらい、サービスの使いやすさや見せ方が、利用者にとって重要だからです。
生態会 西山(以下、西山):このサービスに、競合はいますか?
田中:もちろんいます。ですが、現状のサービスでは、情報配信頻度が1日に一回だったり、データの解像度が低かったりします。また、クラウドサービスでもないため、利用が楽ではない。漁業者にとって、従来のサービスは少し物足りないんですね。私たちはそこに切り込んでいます。挑戦者としていかに新しい情報を提供し、そこに価値を見出してもらえるか、というところが勝負どころです。
例えば天気予報でも、従来は気象庁が全て行なっていたものが、新規参入が相次いだことで、結果としてより正確で質の高い情報が提供されるようになりました。私たちも、「海の天気予報」の提供者として、同じことを実現したいですね。
西山:創業されたのは、どのような経緯だったのですか?
田中:実は、初めは企業を設立するつもりがなかったんです。私を含む創業者は、RECCAやCRESTといった研究プロジェクトに関わっていて、10年近く海洋について研究していました。しかし、問題がありました。生まれた研究成果は、ライセンスなどで企業に売却することが一般的です。しかし、私たちが生み出した成果を受け入れ、事業を行える技術力を持つ企業が、日本には存在していませんでした。このことから、自分たちで社会実装することを想定しながら、研究を進めないといけないと、感じ始めました。
プロジェクトが進んでも、状況は依然として変わらなかったので、私たち研究者が集まって企業を設立しました。これはもう、自分たちでやるしかないなと。なので、ファウンダーは研究プロジェクトのメンバーでもあります。
*社会実装:研究成果を社会で実際に適用すること
近藤:そうだったんですね。研究成果を基にした起業という面で、大学や研究機関との関係はどうなっていますか?
田中:私たちは京都大学発のベンチャーで、かつJAMSTECとも関係が深いため、両組織から様々な支援をいただいています。
例えば京都大学については、同大学のインキュベーションプログラムから支援を受けていますし、2019年11月に京都大学イノベーションキャピタル株式会社から、3000万円の資金調達を行なっています。
またJAMSTECからは,JAMSTECベンチャーとしての認定を受けました。JAMSTECベンチャーとして認定されたのは、これが3例目だそうです。この制度を通して、オーシャンアイズは研究施設の利用や特許権の優遇などの支援を受けています。
近藤:創業から約1年にして、京都大学やJAMSTECからの厚い支援を受けているのですね!今後、提携していきたい業界や企業はありますか?
田中:たくさんあります。現在は漁業を中心に展開していますが、海洋情報はそれだけに必要なものではないので。例えば海洋構築物を扱う業界や、エネルギー・保険・商社・海運など、海洋を舞台に活動する業界には積極的に関わりたいと思っています。
近藤:最後に、株式会社オーシャンアイズさんの展望をお聞かせください。
田中:私たちが進めているのは、「水産業のDX」です。単純に情報化を進めただけでは意味がなくて、効率性・生産性も上がらなければなりません。これらが向上させ、産業や資源のサステナビリティにつなげることが、私たちの目標です。そのために提供しているのが、海洋情報なので、海洋情報の拡大を進めていきます。
そして漁業だけではなく、情報を活用できていない従来の業界や、情報を利用することで海洋産業に参入できるようになる企業をどんどん巻き込んでいき、産業全体の底上げを目指していきます。
取材を終えて:田中さんの話を聞いていると、「海洋産業をサステイナブルにする」という想いがひしひしと伝わりました。技術シーズによる起業でありながら、ユーザーに真っ直ぐ目を向け、ビジネスとしての社会実装を真剣に進めていることが印象的です。特に、創業後1年たたず、様々な機関から資金や研究の支援を受けていることは、事業にとってとても重要です。10年の研究蓄積・ビジネス感覚・ユーザーとの対話が揃っていて、これはまさに注目すべき企業では!
また、「海の天気予報」、「海のDX」など、魅力的なワードがたくさん。このようなキャッチーな言葉でサービスを表せるのも、一つの強みかもしれません。(生態会 近藤)
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