関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、不妊治療とキャリアの両立をサポートするサービスを提供する、株式会社ミスエルの代表取締役 濱野 真凪(はまの まな)氏にお話を伺いました。
取材・レポート:大洞 静枝(生態会事務局)
大野 陽菜(ライター)
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代表取締役 濱野 真凪氏 略歴:1996年生まれ。兵庫医科大学卒業後、作業療法士として病院に勤務。2022年4月、病院を退職後、独立。学会認定不妊カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格を取得。フリーランスとして不妊治療関連メディアの立ち上げ、ブランドマネージャー、カウンセリング活動等を経験。2023年10月、神戸課題解決PJに採択。同年12月、大阪産業局主催 SIO BASIC 最優秀賞を受賞。2024年2月、U30関西ピッチコンテスト 優秀賞を受賞。同年3月、LED関西10期ファイナリスト 14社からサポーター賞を受賞、株式会社ミスエルを設立。
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オープンにしづらい「不妊治療」の不安
生態会事務局 大洞(以下、大洞):本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
まずは、事業の概要を教えていただけますか?
代表取締役 濱野 真凪氏 (以下、濱野氏):私たちは、不妊治療と仕事を両立するためのオンライン相談と、治療とキャリアに関する計画表を作成するサービス 「ミスエル マップ」 や法人向けのセミナーなどを提供しています。
不妊治療は、表に出ている情報が不十分で、担当医以外に気軽に相談できる窓口も少ないことから、先が見えない治療に不安を抱えてしまうという課題があります。
さらに、不妊治療の苦しみはオープンにしづらいテーマのため、企業側はどんなことに困っているのかが分かりにくいのです。実際に、治療と仕事を両立できずに退職せざるを得ない方は多く、その経済損失は2,083億円※にものぼるというデータもあります。
※「NPO法人Fine 不妊退職の経済損失,2020」より
大洞:確かに、職場などの公の場では不妊治療について触れにくい印象があります。
濱野氏:そうなんです。さらに、医師と患者間で価値観のすり合わせができていないケースもあります。治療を前向きに継続し、自分に合った治療方針を選択するためには、患者が自身の価値観を認識することが大切です。
そこで、私たちは相談だけでなく、治療とキャリアの双方からライフプランを可視化し、患者が一歩ずつ前に進めるような支援を大切にしています。
さらに、法人向けにもセミナーを行うなど女性が働きやすい風土作りの支援事業も行っています。
ライフプランを可視化し整理する
ライター大野(以下、大野):これまでにあまり知られていなかった点に目をつけられたのだと感じます。なぜ、このサービスのアイデアに至ったのですか?
濱野氏:実は、私自身も不妊治療の経験者です。治療前は作業療法士として病院に勤めていましたが、治療と仕事の両立ができず、退職してしまいました。当時のSNSから、同じように退職している人が多いなという印象を受けました。
退職をして、家に引きこもっていると精神面的にも落ち込んでしまいます。毎月、目の前の治療に取り組んでいるのに、階段を1段ずつ登れている感覚もなく、先が見えない不安を感じていました。私と同じような人がたくさんいるとしたら、社会的にも、本人にとっても損になってしまうと実感しました。この苦しみ抜いてきた経験を社会や他の誰かに還元したいと思い、起業することを決意しました。
作業療法士として、患者と毎月の目標や計画を立てていた経験から、「ミスエル マップ」のサービスアイデアに至りました。「ミスエル マップ」では、治療計画・キャリア計画・治療費をそれぞれ時間軸に沿って整理し、一覧で見られるものを提供しています。
大野:そのような背景がおありだったのですね。同じような経験をされている方も多くいらっしゃると思うので、自分の軸や将来を見据えて治療や仕事の両立を実現できることは素晴らしいですね。
濱野氏:ありがとうございます。医療者と治療の経験者という双方の視点を持っていることも弊社の強みだと考えています。
大洞:計画表は具体的にどのように使うのでしょうか?
濱野氏:例えば、治療でホルモン剤を使用する時期に、精神的なダウンが予想される場合、重要な仕事を計画的に調整することができます。一覧にした際に、改めて治療費の不安が出てくることがあれば、補助金などの紹介も行っています。また、必要があれば、胚培養士などの専門家にも相談が可能です。
不妊治療の場合、患者は頭の中で考えているそれぞれの計画が整理しきれず、漠然とした不安を抱えてしまうのだと考えています。そのため、一覧にして整理することで理解しやすくなり、安心につながります。
大洞:とても良いサービスだと思います。相談しながら一緒に作成することで、治療にも納得して向き合えそうですね。
濱野氏:そうですね。特に、治療費の面では補助金などの支援について知らない人が多いため、専門家が詳しく伝えてあげることで、本人は治療に専念することができます。
患者のあらゆる不安を解消できるサービスへ
大洞:現在のサービスの反応はいかがでしょうか?また今後、どのようにサービスを展開されていく予定ですか?
濱野氏:現在は、個人・法人ともにトライアル提供中です。満足度は5段階のうち、4.5〜4.8と高評価をいただいています。ポジティブな感想が多く、特にライフプランを可視化することに価値を感じていただけています。
いろいろな業種の方にサービスを使っていただきたいので、さらに幅広い業種でトライアル導入を行っていきたいです。業界によって、それぞれの課題があると考えています。トライアルでいただく意見を元にサービスを改善し、ローンチ予定です。もっとサービスをブラッシュアップし、小さなニーズにも幅広く応えることができるサービスにしたいです。
また、「ミスエル マップ」以外の解決策として、旅行サービスも検討中です。治療中の方が集まって、講義や交流などを通し、学べるリトリートのようなコンセプトで考えています。
大野:最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか?
濱野氏:治療で悩んでいる一人でも多くの方の、あらゆる悩みに対して不安を解決できるよう、サービスを拡大していきたいです。
相談できる専門家の幅を広げていくことも検討しています。また、治療時には、心理的な不安もあるため、心のケアも行っていきたいです。20代の若い世代に向けたライフプランの作成など、不妊治療以外でも活用できると考えています。
納得した治療を行い、未来を見据えるためには、知識が必要です。サービスを通して、自分の価値観を認識して治療に臨むことで、悩みが解消する人が増えてほしいなと思います。
大洞:キャリアと治療の両立において、当事者目線で作られたサービスの重要性について感じました。画期的なサービスをぜひとも実装していってほしいと思います。
今日はどうも、ありがとうございました!
取材を終えて:取材を通して、不妊治療にはまだ顕在化されていない不安やストレスがあることを感じました。実際に医療者と治療経験者という両方をご経験された濱野さんだからこそ、この課題に気付き、患者に寄り添い、解決に繋げることができると思います。このサービスによって、女性が妊活とキャリアの両立を前向きに捉えることができる世界の実現に期待です。(ライター大野)
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