関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、医療従事者による情報発信プラットフォームの構築を目指す株式会社メディタレントの代表取締役 副田 渓氏にお話を伺いました。
取材・レポート:大洞 静枝(生態会事務局)
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代表取締役 副田 渓氏 略歴:1994年生まれ、東京都出身。大阪大学薬学部卒業。薬剤師。大学在学中に前立腺ガンの健康管理アプリを提供するResolverを設立するも、断念。薬剤師として薬局にて勤務し、その後フリーランスとして、企業のITコンサルやWebコンテンツの作成に携わる。2024年に株式会社メディタレント創業。
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生態会事務局 大洞静枝(以下、大洞):本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、メディタレントの事業内容について教えていただけますか?
メディタレント代表取締役 副田 渓氏(以下、副田氏):私たちが目指しているのは、医療従事者による情報発信プラットフォームの構築です。SNSは誰でも情報を発信できる手段ですが、中には誤解を招くコンテンツが多く存在しています。科学的根拠に欠けているものや、疑わしい商品も世の中に多く出回っており、消費者を惑わす情報源になっているのが現状です。このような背景から、SNSやメディアを通じて、医療従事者による信頼性の高い情報発信が重要だと考えました。正確な医療情報をもとにしたコンテンツの制作を行うプラットフォームを作っていきたいと思っています。
実は今、自分でアカウントを試験的に運用しています。健康や市販薬に関するショート動画を投稿し、テストマーケティングを行っています。3000人のフォロワーがつき、月に40万回再生されるまでに成長しました。今後、どのようなコンテンツが消費者に響くのかを分析し、プラットフォーム開発に役立てる予定です。
“メディタレ印”で医療コンテンツに信頼性を
大洞:月に40万回再生はすごいですね!多くの方に興味を持たれているということですね。具体的にはどのような情報発信プラットフォームなのでしょうか?
副田氏:メディタレントでは、今後、インフルエンサーを育てていく予定です。属性としては、医者や看護師、薬剤師などの医療資格を持っていて、かつ〇〇の経験者という方です。例えば、妊娠期はロキソニン入りの湿布利用は禁忌ですが、知らない方もいます。妊娠経験のある薬剤師であれば、自分の経験に基づいて、妊娠期に使用する薬の注意すべき点を、より具体的にに挙げることができると思います。資格と経験をかけ合わせれば、その人にしか発信できない情報コンテンツになります。説得力を持つインフルエンサーを、増やしていきたいなと思っています。
大洞:資格×経験が相乗効果になりそうですね。インフルエンサーはどのように、メディタレントの事業に関わっていくのでしょうか?
副田氏:お声がけいただいているのは、コンテンツの裏付けのところです。医療関係者による副作用や注意点の解説にニーズがあるようです。コンテンツの裏付けを必要とされている企業様とご一緒できると考えています。
大洞:2016年に、DeNAの健康情報サイト「WELQ(ウェルク)」が公開していた掲載記事に、医学的に根拠のない誤った医療情報が含まれていたことが大問題になりましたね。SNSでは未だに無法地帯になっているところもあり、そこに切り込むビジネスということなのですね。
副田氏:医療従事者は具体的な製品名を出して、公に効果を謳うことに規制はありますが、医療資格がないインフルエンサーには規制がありません。偽の情報を信じて、「バナナ食べるのを止めた」というような行動制限をかけている方もいらっしゃるのが現状です。無責任に発信された情報を信じてしまうのは、受け手にとっても損です。このような情報を正していきたいと思っています。例えば、“メディタレ印”のような、「メディタレントを通して発信しているから安心」と言われるのが理想ですね。
ビジネスサイドで語れる医療従事者
大洞:起業することになった経緯について教えてください。
副田氏:大学卒業後、約2年間薬局で働いていました。その傍らで、前立腺がん予防のためのアプリを開発するResolver(リゾルバー)というスタートアップを立ち上げました。大学時代には抗がん剤と有機合成の分野にいたので、その経験を生かしたかったのと、スタートアップに興味があったからです。「U-25 kansai pitch contest (関西若手起業家ピッチコンテスト)」で優秀賞もいただきましたが、最終的には市場のニーズに合わず、そのプロジェクトは断念しました。
大洞:スタートアップを断念した後は何をされていたのでしょうか?
副田氏:その後、薬局への勤務や、個人事業主として企業のDX支援やITツールのコンサルなどをしていました。個人事業主としての活動を通じて、Web周りからさまざまな業界のビジネスモデルに触れました。Webマーケティングの会社では、業務委託から正社員になり、1年ほど働きました。
大洞:そこからなぜ、再びスタートアップを立ち上げたいと思われたのでしょうか?
副田氏:自営業の親の背中を見て育ったということもあり、もう一度スタートアップに挑戦したいと思いました。また、たまたま弁護士YouTuberの刑事事件に関するショート動画を目にする機会があり、おもしろいなと思いました。SNSでの医療情報について、疑問を持っていたこともあり、弁護士YouTuberの薬剤師版があれば、正しい情報を伝えられるのではないかと思ったのが、設立のきっかけです。
大洞:スタートアップを立ち上げて断念したこと、薬剤師、個人事業主としての経験すべてが、今の事業につながっているのですね。
副田氏:企業の担当者は医療の知見を持っていないので、ビジネスサイドで語ってくれる医療従事者というのが珍しいようで、重宝いただいております。
旅先やオフィスで利用できる、オンライン薬剤師事業の展開を予定
大洞:まだ設立されて1年に満たないということなのですが、今後の展開について教えてください。
副田氏:医療従事者による情報発信プラットフォームは、現在テストマーケティングを行いながら、具体的な事業構築を進めています。別の事業にはなるのですが、保険会社や宿泊業界との連携や、医療機関のDX支援も進行中です。
大洞:保険会社や宿泊業界とはどのように連携されているのでしょうか?
副田氏:例えば、宿泊施設では医薬品医療機器法という法律の制約から市販薬を置けません。旅先で病気になった場合に、フロントに相談をしても、結局、病院の住所を教えてもらったり、救急車を呼んだりと、一遍等なサービスの提供しかできないのが現状です。例えば、フロントにオンライン薬剤師を配置すれば、より細やかな健康相談ができるようになりますよね。オンライン薬剤師のマネジメントや、薬局や薬剤師の分析で、事業構築に関わらせていただいています。
大洞:旅先でフロントにオンライン薬剤師がいれば、積極的に利用したいですね。医療機関のDX支援についても教えていただけますか?
副田氏:医療機関の予約システムをLINE上で簡単に行えるようなサービスを提供しています。ニーズをヒアリングしながら、動線を作っています。また、業務時間外の問い合わせに薬剤師AIや医師AIが自動で回答するというチャットボットも開発中です。将来的には、企業内のSlackやTeamsとAPI連携して、お薬相談アカウントも開設できればいいなと考えています。
大洞:SlackやTeamsのお薬相談アカウントは企業の従業員が使うのでしょうか?
副田氏:そうですね。ITコンサルとしていろいろ企業を回らせていただいた際に、勤務時間が17時までだと、なかなか医療機関に行けないという状況を目の当たりにしました。そんな時に、普段使っているチャットでオンライン薬剤師に、不安な症状や健康の相談ができてたら、安心できるのではないかと考えました。企業のウェルビーイング経営にも役立てると思います。
大洞:企業勤めでなかなか病院に行けない方にとっては、ありがたいサービスですね。薬剤師、会社員の経験を生かした事業を手広く展開していくご予定なのですね。‟メディタレ印”の信頼できるコンテンツを目にする日を楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました!
取材を終えて:代表の副田氏は、「父が薬局を経営をしていて、社長業について聞いたり、チームマネジメントの本を読んだりするのが好きだった」と、小さな頃から起業家マインドを持っていたようです。今回で2度目の起業。薬学部で学んだ知識と、薬剤師の現場経験で得た問題意識、ITツールへの強みを生かし、今後は、「ビジネスサイドにいる医療従事者」として、ヘルスケア業界のメディア事業やDX事業に新風を吹き込んでいきます。(事務局 大洞)
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