関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は大阪大学の医学部に在学中にmappin株式会社を起業し、代表取締役を務める吉元台(よしもと うてな)さんにお話を伺いました。同社は医療物品の在庫管理・自動発注システム「pitto(ピット)」を開発・管理し、煩雑で属人的な事務手続きの解消を目指しています。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局)、土橋尚太(ライター)
吉元台(よしもと うてな)氏 略歴
1995年沖縄県生まれ、広島県で中高をすごしたのち、大阪大学医学部に入学。医療業界に携わりたい気持ちがあったものの、医師としての適性に悩んでいたところに、医学部教授に起業の道を紹介され、元々身に着けていたプログラミング技術を医療課題の解決に活かすべく事業化を検討。2021年11月mappin株式会社を設立。2023年3月に大学を卒業し、現在は事業成長に向けまい進する。
現役医学生の時に、スタートアップへ参入
生態会事務局 西山(以下、西山):本日は、どうぞよろしくお願いします。吉元さんは大阪大学の医学部を卒業されたそうですが、昔から医師になろうと思っていたのですか?
mappin代表取締役 吉元(以下、吉元):はい、親の勧めもあって医師を目指していたのですが、大学(医学部)に入った途端、ここは違うなと思い始めて…私は割と健康で、それまであまり病院に行ったこともなく、よく分かっていなかったんです(笑)。
それで色々悩んでいたら、医学部の教授が「海外では大学の先生がスタートアップを始める例も多く、成功した人は飛行機のビジネスクラスに乗っている。日本では、国立大学の教授でも出張はエコノミークラス(笑)。悩んでいるなら、スタートアップも考えては?」と、勧めてくれたんです。その話を聞いて、自分もできるかなと思ったところがスタートです。
ちょうど、知り合いのクリニックの院長から、在庫管理に困っていると、相談を受けました。クリニック行ってみたら、全部を手作業でされている現状を目にして…私はプログラミングを趣味でやっていたので、その課題を解決するプログラムを作ってみます、ということになりました。
西山:このシステムは、どこまでご自身で作られたのですか?
吉元:初めは私一人で作って、今このバージョンは私ともう一人の役員の2名でつくっています。現在のシステムは、二つ目のバージョンです。
西山:それは、すごいですね、全て内製化されてるんですか?
吉元:はい、そうです。デザインも含めて全部です。
医療業界のインフラを整備
西山:この事業は医療系ではあるけれど、サービス自体はシステム提供ですよね。なぜ、こういうサービスが生まれたのか興味があります。教えて頂けますか?
吉元:会社として、全ての患者に適切な医療を届ける、というミッションを掲げています。医学部に入り色々な医学の現場を見てきたことで、自分が何かやるにしても、この元になる部分は医療でありたいな、と思っていました。そして、医療業界はインフラが全然足りていないと知りました。それを整備することで、医療従事者を雑務から解放して、本当に必要なことに専念していただきたいです。
インフラとして私たちが注目してるのは、「医療物品」です。それがないと患者さんを救えず、代用が効かないものもたくさんあります。それにも関わらず、杜撰な管理をされている現状です。医療業界全体として、必要な物が必要な時に、必要な場所にあるのが一番の理想と、私たちは定義しています。それを実現するためには、物品を持ってくる卸業者の人たちも、どの医療機関が、いつ何を必要としてるのか、わからないと全体が良くなりません。そのためには医療機関自身が、今、何を必要としてるかを伝えないとけないです。しかし現状は、在庫管理は人力でされ、スタッフの経験や勘を基にアバウトな発注が行われています。「明日持ってきてください」など急な配送もあり、需要予測ができずに、卸業者さんも欠品をしてしまいます。
結果として、必要な時に必要な物品がないことで、卸業者と医療現場で齟齬が生まれます。このような業界構造がある中、それを解決するプロダクトサービスを作っていこう、というのが私たちmappin株式会社になります。
将来的には、データ化により流通全体を管理できることを構想しています。「物品がなくなれば、いつの間にか届いてる」、そういう世界を実現したいと思っています。mappinが主導して、医療業界のインフラを整備したいです。
中立的な立場で、クリニックを支援できることが強み
吉元:在庫管理は、どこの医療機関もアナログです。本来は、資産に直結するのできっちりやらないといけないのに、システマチックに管理できていません。それを補完するシステムが、「pitto」です。物品の納入時と使用時にQRコードを読み込むだけで、発注作業や在庫一覧を自動化できます。今までになかった、クリニック専用の在庫管理システムです。世の中には在庫管理システムは、たくさんありますが、クリニック専用でクリニックに適したものは、見当たりません。
西山:他には無いのですか?卸業者も、やってないのでしょうか?
吉元:やっているとしても、自社の物品だけを管理できる形が多いです。各医療機関は、だいたい10社位の卸業者と取引しており、その内の1社の在庫管理ができても(他の9社の在庫管理ができなければ)意味がないです。
西山:なるほど。でも、医療に特化したシステム会社がありますが、やっていないのですか?
吉元:そういうところは大病院のシステムを作っていることが多いです。例えば病院に、システム会社従業員を二人常駐させて、その人たちがシステムを回す仕組みです。費用負担が大きいです。
西山:「pitto」は、中小規模の医療機関向けなのですね。
吉元:そうです。クリニックや中小規模の病院を、ターゲットとしています。大病院向けに作られているシステムは、費用面がネックになり、導入しにくいです。
土橋:人手不足は地方が深刻かと思います。営業範囲についてお聞きできますか?
吉元:大阪と東京から広げていこうと活動しています。そこから、地域に波及していくことが我が社の理想です。結局は地域性で、私たちも関与することができる大阪、東京から始めて、モデルができれば、そこから地域に少しずつ進出するイメージです。
「pitto」が実現する、在庫管理の効率化
吉元:医療現場の悩みは、発注作業自体に時間かかることです。例えば、卸業者が10社あると、それぞれFAXの用紙が違います。また電話、メール、ウェブサイト、ECサイトなど、という指定もあり、発注したい物品があったとして、どこの業者に、どのように発注すればいいかを調べないといけません。
発注作業自体にも、時間がかかります。「pitto」を使うと、ボタン一つで全ての業者さんに発注できるため、95%の時間の削減を実現しています。
西山:各業者の発注システムが違うのに、「pitto」を使うと、なぜ効率化できるんですか?
吉元:これが、システムの根幹です。自動的にFAXを送れるようになっています。卸業者さんは今まで通りで、受注の流れは変えず、クリニックが導入しますと言った時点で利用することができます。
西山:それぞれの業者さんに合わせたフォーマットで、発注ができるのですか?
吉元:はい、例えばメールでくださいという業者さんには、メールで発注できますし、FAXの業者にはFAXで発注できます、ウェブも対応できます。
西山: なるほど、クリニックから普通に発注された形で業者が受け取るのですね。業者に許可を取る必要もないのですね。素晴らしいです。
西山:ところで、そもそも社名の「mappin」は、どういう意味ですか?
吉元:地図を創っていくという意味で、医療業界を可視化させていくということです。また、プログラミング用語でマッピングというのがあって、最適なものを最適な場所へ割り当てていくというような意味も含めています。
西山:ロゴでは、最後にアポストロフィーをつけていますね。現在進行形的な感じですか?
吉元:そうですね、あとは省略していくという意味ですね。
取材を終えて
システム開発を自社で内製化している「開発力」に加え、卸業者や病院に偏重しないことで中立的に「顧客目線」を貫けることが強みです。物腰やわらかくmappin株式会社が関わる医療業界と、その未来について語って頂きましたが、将来的な医師という立場や職業に固執せず、医療業界の課題解決に使命を感じる現役医学部生である代表吉元氏の人柄と、課題を的確に捉え解決へ向ける能力に凄みを感じました。DX化が課題とされる医療業界において今後、ますます必要不可欠な存在になることを期待します。(ライター 土橋尚太)
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