関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、全国46万人の子どもたちへプログラミング教材「ロジカ式」を提供する株式会社ロジカ・エデュケーションの代表取締役CEO、関 愛(せき あい)さんにお話を伺いました。
取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局長)、松井 知敬(ライター)
関 愛(せき あい)氏 略歴
中学校を卒業後、働きながら独学でプログラミングを習得。18歳で開業し、プログラミングの仕事を始める。19歳のとき、経済産業省が推進する、突出したIT能力を持つ人材を発掘・育成する「未踏事業」に採択され、その中でも特に卓越した能力をもつ「天才プログラマー/スーパークリエータ」に認定される。23歳で企業内プログラミング研修の講師業を始め、15年で1500名以上の現役SE・プログラマーを育成。2015年に大阪の池田駅前に子ども向けプログラミング教室を立ち上げ、2018年には池田市全公立小学校でのプログラミング教育を一任される。株式会社ロジカ・エデュケーション代表取締役CEO。
■「食っていくためには絶対必要」、独学でプログラミングを習得し18歳で開業
生態会 西山(以下 西山):本日は、どうぞよろしくお願いします。まず、ロジカ・エデュケーションについてお聞かせください。
ロジカ・エデュケーション 関氏(以下 関):プログラミング教材「ロジカ式」の開発販売と、プログラミング教室のフランチャイズをおこなっています。
西山:関さん自身の生い立ちもお伺いできますか?
関:1984年、大阪府箕面市生まれです。小学6年生のときに、父の意向で北海道の士幌町へ移住しました。北海道への憧れがあったみたいで。
西山:士幌町って、どんなところなんですか?
関:ほんと畑しかないようなところです(笑)。カルチャーショックでしたね。小学校は、全校生徒18人で学校全体が家族みたいな雰囲気。進学の選択肢も少なかったです。中学を卒業しても、通える圏内に農業高校しかなくて。結局、中学を出てすぐに働き始めました。
西山:どんなお仕事をされたんですか?
関:いろいろやりましたね。宅配員だったり、新聞配達だったり、牛舎の建設だったり。でも、手に職がないと将来大変そうだと思って、プログラミングの本を買って学び始めたんです。ただ、プログラミングって独学が難しく、ほとんどの人が挫折すると言われているんですよ。でも、「食っていくためには絶対必要だ」と思って一生懸命勉強しました。3年かかってようやく仕事ができるぐらいになったので、プログラマーとして開業しました。18歳のときです。
西山:18歳で開業、すごいですね。仕事はどのように獲得を?
関:士幌町には仕事がないんですよね(笑)。なので、札幌まで営業に行き、「ただでもいいので仕事ください」という感じで、実績づくりから始めました。徐々に信頼を得ていき、食うのに困らないぐらいには稼げるようになりました。
■23歳で講師業をスタート、プログラミング教育で社会人力を育てる
関:23歳の頃、企業の新入社員研修を手掛けている会社から「講師をしてみないか」という話をいただきました。そこから、プログラミングの講師業を始めたんです。最初の現場は、大手銀行のシステム開発部でした。3ヶ月でプログラマーとして働けるようにする、というハードな研修。みなさん新卒で、僕と同い年。東大京大を出た人たちを中卒の僕が教えるというね。当時は、年齢や学歴をひた隠しにしていました(笑)。
西山:教える立場になって、どうでしたか?
関:教育の力を実感しましたね。独学で3年かかったものが、ちゃんとした教育のもとであれば、10分の1ほどで身につくんだなって。あと、学生と社会人とのマインド面のギャップも感じました。新入社員研修って、社会人のマインドにしていかなきゃいけなくて、そこでいつも苦労するんですよね。日本の学校教育って働き方を全然教えてこないんだな、と。
西山:なるほど、教育現場の課題を感じたと。
関:一方で、プログラミング教育で社会人力が育つ、というのも実感したんですよ。であれば、子どもの頃からプログラミング教育をおこなって、そこにもっと社会人教育の要素を混ぜ込めばいいんじゃないか、そう思ってつくったのが「ロジカ式」です。
西山:なぜ、プログラミング教育で社会人力が身につくんですか?
関:プログラミングって、トライアル&エラー、つまり「間違ってやり直す」を何千回何万回と繰り返します。その過程で、「諦めず続ける力」や「思考力」が鍛えられるんですよ。また、コンピューターに処理をお願いするには、コンピューターに分かる文法で伝えることが必要です。つまり、「文章力」や「読み解く力」が向上します。それにより「コミュニケーション力」が上がる場合もあります。社会人として必要ないろんな力が醸成されていく感じです。「ロジカ式」では、プレゼンのトレーニングも織り込んでいて、まさに社会人研修を子ども向けにしている感じですね。
西山:子ども向けプログラミング教育を始めたのは、いつですか?
関:2015年に大阪へ戻ったんですけど、久々に幼馴染と会ったら子どもがいて。僕が「プログラミングを教えている」って言ったら、「子どもにも教えられる?」という話になり、ボランティアで教え始めたんですよ。そしたら、クチコミでいっぱい集まってきて。それが始まりです。
■法人を立ち上げ、子ども向けプログラミング教育事業を開始
関:「2020年から学校で必修化」という流れもあり、ビジネスとして伸びるんじゃないかと思い、2017年、NPO法人ロジカ・アカデミーを立ち上げました。そしたら、なんと1年目に池田市から「小学校でプログラミング教育したい」と相談があり、全小学校を担当することになったんです。
西山:1年目から、すごいですね。
関:「ペッパーくん」というロボットあるじゃないですか。当時、ソフトバンクが池田市に「ペッパーくん」を教育用として無償貸与していたんです。ひとつの小学校に7〜8台「ペッパーくん」がいたんですよ。でも、先生はそんなの使えないし、困っていたようです。そこをうちが担うこととなり、「ペッパーくん」をプログラミングしてみよう、という授業をすることになりました。
西山:すごく楽しそうですね。
関:楽しかったですよ。喋らせる内容とか、頭を触ったらどう反応するとか、子どもたち自身でプログラミングしていきました。その後、2018年に株式会社ロジカ・エデュケーションをつくり、プログラミング教材「ロジカ式」の開発販売と、プログラミング教室のフランチャイズを始めました。なかなか評判がよく、NECさんが全国の小学校に卸している端末約150万台にも「ロジカ式」が入っています。昨年の登録ユーザー数は約46万人です。
西山:46万人って、すごいですね。
関:他にも、富士通さんのオンライン学習サービス「FMVまなびナビ」でも使っていただいていますし、2022年8月からはパソコン教室「バレッドキッズ(旧・アビバキッズ)」さんでも採用していただくことになっています。
西山:「ロジカ式」と他者教材との違いを教えてください。
関:一般の教材って、「こういうコードを書くとこういう結果が得られる」というものがほとんどで、それだと書いてあるものの丸写しになってしまい、考える力が育たないんです。「ロジカ式」は、課題だけを与え、「どうしたら思い通りの結果が出せるか」を考えさせます。
西山:単なるプログラミング用の教材ではないのが良いですね。
関:将来、どんな仕事に就いても役に立つと思います。もちろん、「ロジカ式」を続けていけば、プログラマーとして独立や就職ができるぐらいのスキルは身につきます。もともと社会人に教えていましたからね。
■業界初の大学入試用教材を開発中、2026年に上場を計画
西山:今、注力していることはありますか?
関:2025年から大学入試にプログラミングが出題されるんですが、そこではDNCLという新しい言語が使われます。今、DNCLを使った学習カリキュラムをつくっていて、完成すれば業界初となります。今の高校一年生が、大学入試で解かないといけない訳ですから、あまり時間がありません。学校では教えられないと思うので、民間で実践するしかないですね。
西山:今後の展望を聞かせてください。
関:2026年にグロース市場への上場を目指しています。今年は大学入試教材を開発して、来年春にリリース、全国に広めていきます。また、プログラミングに興味がない子どもたちの入口として、「ロジカフレンズ」が登場するアニメやマンガをつくっていて、その普及活動にも力を入れていきます。
西山:今後の展開が、本当に楽しみです。本日は、ありがとうございました。
取材を終えて
さまざまな企業や団体と提携することで、自社規模を抑えつつ、スピーディーに事業拡大している点が秀逸だと感じました。SDGsでも謳われている「パートナーシップで目標達成」を見事に実践されています。「ロジカ式」は、代表である関氏自身の長年の経験がベースとなっており、その「質の高さ」がコアコンピタンスとして機能しています。大学入試への「情報」科目導入(2025年)を見越した舵取りも盤石で、業界トップランナーとしての地位を確立していってほしいと思います。(ライター 松井)
Comments