関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家。今回は、京都府相良郡精華町の京都府立大学精華キャンパス内に拠点を置く、株式会社 恵葉&菜 健康野菜(けいはんな けんこうやさい)の代表取締役、池 祐史久(いけ ゆしひさ)さんにお話を伺いました。
池さんのオフィスは植物工場が併設されており、小松菜やレタス、菊菜、イチゴ、そして「栽培実験中です」と、マンゴーやマスカットまでもありました!植物工場では、蛍光灯や赤・青・緑のLEDの光と、養液を使って水耕栽培をしています。光の色と養液のダブル効果で、野菜の食感や抗酸化成分を高め、栄養価の高い、高品質な野菜作りを実現されています。
取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局長)、越智 乃里子(フリーライター)
池 祐史久 代表取締役 略歴
1973年4月6日生まれ。ラ・サール高校、早稲田大学理工学部建築学科卒業後、外資系コン
サルティング会社に勤務。その後、LED開発会社での植物工場事業に携わり、個人創業よ
り、(株)恵葉&菜 健康野菜を設立。
生態会 西山(以下、西山):ここは、空気の良いところですね!植物工場は初めて来ましたが、生き生きと野菜が育っていて、驚きました。恵葉&菜 健康野菜さんは、どのようなことをされているのでしょうか。
恵葉&菜 健康野菜 池(以下、池):主な事業は建築業で、抗酸化値の高い健康野菜の研究開発業務と、植物工場栽培プラントの開発設計・製造、建築業を行っています。プラント導入企業様には、栽培ノウハウを伝え、現地で栽培指導を行います。植物工場は、初期コストがかかりますが、栽培プラントの様々な部材の金型とLED基盤は自社で保有し、製造を内製化することで、高性能プラントを低価格でご提供しています。また、抗酸化値を上げるために必要となる養液循環システムと、植物工場の課題となっている人件費を大幅に削減する収穫システムについては、特許を取得しております。
西山:なるほど。設備を自社で製造されていることが、ポイントなのですね。
池:現在の植物工場野菜が抱える課題は2つあり、1つは、植物工場設備コストが高いということです。そこは、生産に必要となる設備金型を所有し、弊社の専門エンジニアリングが製造することで導入コストを削減しています。もう1つは、植物工場野菜の品質は、露地野菜より低いということです。弊社は、抗酸化値の高い、他社と差別化した健康野菜の栽培技術を実用化していますので、現在、少しずつですが、新規事業として民間企業、医療法人、教育業界、研究機関等の様々な業界に、植物工場の建設・運営が進んでいます。
西山:そもそもなぜ、植物工場野菜に携わることにされたのですか?
池:世界の人口が地球環境機能を超える現代、植物工場の事業化は食糧の安定供給の一つの手段、インフラ事業として必要であると考えています。しかし、従来の植物工場野菜の品質は、露地野菜より低い。これは、露地水耕栽培の技術をほぼそのまま植物工場での栽培方法として転用されるにとどまっていたためです。消費者目線での野菜の品質・美味しさに対するマーケティング不足と、技術開発が進んでいない状況があったかと思います。植物工場は、光の量と質、さらには、重要な養液組成等もコントールが可能です。ならば、植物生理学に基づいた環境制御を行うことも可能なのではないかということに着目しました。
そこで、植物生理学の権威である京都府立大学元学長・竹葉剛名誉教授と研究契約・シーズライセンス契約・技術指導契約を結び、従来の植物工場野菜に比べて、約5~10倍、抗酸化値の高い植物工場野菜の量産化に成功しました。
高品質野菜の工業化を実現することで、アンチエイジング等の新たな高付加価値マーケットを創出することも出来ます。植物工場と聞くと、消費者は何か混ぜたり添加している、と思う方もいらっしゃいます。弊社の野菜はそのようなことは一切なく、植物生理学に基づいた、成長段階に応じた育て方をすることで、栄養価の高い野菜を作っています。竹葉名誉教授は、抗酸化成分等の野菜成分分析に関しても権威の方です。来年からは、特別顧問の形で弊社にお呼びする予定です。
西山:会社紹介動画やパンフレットに、“主婦目線”とか、“女性目線”という言葉が出てきますが、どのようなことですか?
池:商品開発段階で、女性中心にアンケートを取っていました。家族の健康を預かる主婦や食を意識している女性のニーズを捉えることで、味、栄養価、品質の方向性を見定めてきました。植物工場野菜は、無農薬で洗わずに食べられるというメリットはありますが、本来は、品質・味が重要であると思います。
そこで、70名の方に、野菜を味わう上で重視すること、野菜に含まれる栄養素の中で気にしているものや、不足を自覚していて意識して摂取しているものがあるか、そのために日頃サプリメントを摂取しているか、等かなり細かく聞きました。サプリメントを摂取しているのであれば、その効能において期待しているものが何か(体のサビ取り、美肌、アンチエイジング、など)をより具体的にアンケートを取ってきました。最終的には、野菜の微妙な味の違い、ほんのりした甘味等が分かる、舌の敏感な方に味見をしていただき、商品開発を進めていました。
弊社クライアントの株式会社YASAIが、京都府舞鶴市に廃校を活用した植物工場を建設されました。ここで作った小松菜は、苦みが少ないので、離乳食としても使用されています。最近は、お母さんが子どもに野菜の味を覚えてもらいたいというニーズがある中、路地の野菜だと苦くて食べられないことが多い。でも、この植物工場野菜は硝酸態窒素を低減しているので、苦みが少なくなり、赤ちゃんでも食べられるということを聞いています。
西山:これまで、営業はどんな風にされてきたんですか?
池:研究開発が主体で、営業にかける時間はほとんどありませんでしたので、個人的な繋がりで事業を進めていました。昨年より、展示会に出展し、抗酸化値が高い・低硝酸な野菜の試食を行っています。非常に高い関心をいただき、社会性のある事業として新たな植物工場が進んでいると感じています。今年も引き続き10月に農業Week(於:東京ビックサイト)に出展します。
※今年の展示会では、恵葉&菜さんのFacebookページをご覧になって訪れた方も多かったそうです。
西山:現在はB to B だけですね。直接、消費者に売られてはいないですか?
池:ご自宅に小さいプラント設備を置きたいというお声をいただき、幅1m×高さ2m程のミニプラントを販売しています。室内で簡単に好きな野菜を育てることが出来、何より、栄養価の高い野菜を食べることが出来るので、今後、特に都市圏を中心にニーズが拡がるのでは、と感じています。
さらに今、抗酸化値の高い野菜をコンセプトにしたテイクアウト型飲食店事業を計画しています。調理専門学校・料理長と連携し、栄養価の高い野菜のメニュー開発を行い、地元農家さんの京野菜も含めて、野菜の品質が消費者に見えるように普及・販売を進めたいと思っています。
今後は子ども教育の面で、植物工場の体験を取り組むことができればと考えております。植物工場は、植物を育てる工程において、光、空気、水、イオンの自然科学を実体験することが出来ます。子どもにとっては、どの工程においても、目新しい作業がありますので、「やりたい」気持ちをかきたてることができ、良い教育材料になると思ってます。
世界の中で、日本の農業技術、品質は高い。露地野菜は、同じ野菜でも、生産地、栽培方法によって、その品質は大きく異なります。弊社は、京都府立大学内で野菜成分分析業務も行っております。植物工場に留まらず、露地野菜も含めて、野菜の品質を消費者に普及することを目指します。
(取材を終えて)植物工場は、日本ではまだまだ根付いておらず、生産コストが高いことから事業化のハードルが高いようです。しかし、未来の社会には、植物工場野菜の事業化は食糧の安定供給に必要だと強く語る、池さんのお話に感銘を受けました。
「医食同源」という言葉があるように、栄養価の高い野菜を摂取することは、健康にも繋がります。日頃、野菜を買う時は値段ばかりが気になり、野菜そのものの栄養価に関しては無頓着でしたが、今後は気にしてみたいと思いました。取材中、池さんも何度か口にされていましたが、とても社会性のある、未来に繋がる素晴らしい事業だと感じました。
ちなみに、“恵葉&菜”という社名は、京阪奈学研都市で仕事をしているということから、
奥様が考えられた社名だそうです。こちらにも、女性目線・主婦目線が活かされていました。(ライター・越智)
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