関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、国際物流の航空貨物に特化したSaaS“CARGO LABO(カーゴラボ)”の開発運営を行うジャパンヒュペリナー株式会社 代表取締役 稲葉憲邦氏にお話を伺いました。
取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)、八木曜子(ライター)
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稲葉憲邦(いなば のりくに)代表取締役 略歴
1987年生。大学卒業後、航空貨物業界一筋で営業、予約業務、輸出ハンドリングまで経験。NCA Japan株式会社運送サービス部 で搭載プラン、Weight & Balance作成業務を担当。エクスペダイターズ・ジャパン株式会社で新規顧客開拓営業として、荷主企業に輸送プランを提案。フィリピン航空会社で既存営業、貨物予約、輸出ハンドリング業務に従事。2019年10月起業のため退職。
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航空貨物マンとして航空貨物業務の全工程を網羅
生態会 垣端(以下、垣端):本日はお時間いただきありがとうございます。まずは稲葉さんの略歴と事業内容を教えていただけますか?
稲葉代表取締役(以下、稲葉):はい。当社は航空貨物業界を垂直統合するSaaSであり業界全体のDXを推進するプロダクト、“CARGO LABO”を提供しています。
創業者の私自身は大阪出身で、元々航空貨物業界に興味があり、関西外国語大学を卒業後、NCA Japan株式会社という日本貨物航空のグループ会社の輸出ハンドリング会社で業務に当たっていました。
その後アメリカ本社のエクスペダイターズ・ジャパンの日本法人で輸出入をされている荷主企業 に対する航空・海上輸送の最適な輸送プランを提案する新規開拓営業を経験後、フィリピン航空の大阪支店で既存営業から予約、搭載プランなど一連の業務を行っていました。その後、2020年7月にジャパンヒュペリナー株式会社を設立しました。
航空貨物領域はDXから程遠いのが現状
垣端:航空貨物一筋のキャリアだったのですね。
稲葉:そうです。この航空貨物業界での業務経験において、営業から予約、搭載プランの作成や指示といった工程それぞれがメールや電話、Faxなどでのやりとりで、煩雑な業務が残っていることに効率の悪さを感じていました。
この課題の根本は、国際貨物はフォワーダーという荷主と航空会社の間に入る物流会社を介さないといけないのですが、業態間の予約導線が非効率的なことがボトルネックになっています。このフォワーダーでの課題を解決することにより航空貨物業界全体が効率化できるクラウドサービスを提供しています。
例えば大手中小のフォワーダーの課題として、航空便を予約するときに電話やメールなどのアナログな方法で予約を行っていたり、各社それぞれの個別システムにログインしなければいけないという問題がありました。また、各航空会社から料金表が定期的に送られてきますが、そのフォーマットがExcelだったりWordだったりとバラバラなので、フォワーダーがExcelでまとめ直すといった二度手間な作業が発生しています。こういった作業を不要にするためにクラウド管理が必要だと常々考えていました。
垣端:具体的にどの時期に業界の課題に気づかれたのですか?
稲葉:一社目のNCAJapanという航空会社のハンドリング業務に関する会社で気づきました。例えば各仕向地毎に対して数百枚という航空運送状や貨物目録をFaxで送信する業務があったり、フォワーダーから貨物動静に関する問い合わせへの電話対応をしていて、全てシステム化できれば効率的なのにと思っていたのです。
二社目のエクスペダイターズ・ジャパンはフォワーダーにあたります。三社目のフィリピン航空会社はエアライン側、ということで航空貨物に関する三者の立場を経験したことで、航空貨物業界に関する全体像を理解でき、その思いは強くなりました。
会社員のときは外資系の航空会社で様々な業務を一手に担当させてもらえる環境が最終目標でしたので、次に何を目標にしたいか考えた時に、航空貨物業界において解消するべき課題が多く残っていて、長年変わらないレガシーな運用を革新したいと思ったのが起業のきっかけです。
クラウド化で5分の1にコスト削減
垣端:そうなんですね。ではCARGO LABOの詳細を教えてください。
稲葉:はい。全体像としてはフォワーダーと航空会社間の予約管理のコミュニケーションからデータの可視化まで提供しています。予約管理としてはフライトの一括検索機能から、料金計算、過去の予約履歴まで、従来のやり取りを指します。
入札管理は荷主とフォワーダー間で年間あるいは半年契約で輸送される予定の貨物量に合わせて荷主企業がフォワーダーに対して相見積もりを取って、フォワーダーが料金を提示した上で 、荷主企業が料金やリードタイムなど条件に見合ったフォワーダーを選定するという慣習があり、今まではExcelでやり取りから管理までしていたのですが、それもCARGO LABOのプラットフォームで一元管理できます。
また今後追加される機能としては、CARGO LABOを通じて輸送された貨物のデータも提供していきます。仕向地毎の売上比較や貨物量など項目別のデータの可視化が可能になります。さらに今後はAIを用いた自動見積もり機能や請求レポートの自動発行、航空輸送に必要な書類作成機能などを搭載していきます。
垣端:どのくらい作業効率があがるのですか?
稲葉:予約業務においては、従来のアナログ工程だと1件あたり合計40分程度かかっていたのですが、弊社のCARGO LABOだと8分まで短縮、工数は5分の1になりました。
フォワーダーは多くてチームあたり1日300-500件くらいの予約を入れるので、それを一日で換算すると160時間、年間6000万円かかっています。それを5分の1の32時間に圧縮できると、CARGO LABOの導入による削減効果として年間5000万円は見込めると考えています。
垣端:かなり効率化が見込めそうですね。競合はありますか?
稲葉:荷主企業からフォワーダー、航空会社まで繋がった一気通貫のサービスとしては世界初です。競合としては、グローバルで似たサービスを運営している会社が2社ありますが、業界における現在の運用を考えると、比較的CARGO LABOのほうが日本の商習慣には適していると考えています。
垣端:売上の見込みとしてはフォワーダーさんが多いのですか?
稲葉:想定されるユーザー数としては荷主が圧倒的に多いですので、最終的には荷主へのマネタイズで事業を加速させます。なお、直近でリリースした予約機能は航空会社とフォワーダー間のサービスで、フォワーダーでボトルネックになっている予約動線と料金などのデータ管理を刷新する機能になっています。しかし、フォワーダーの利益が低いこともあり、まずは予約機能だけで航空会社からマネタイズしていく予定です。今後、更なる生産性を向上させるフォワーダー向けの機能開発で有料プランに移行していただく予定です。
DX化が抜本的に業界全体の課題解決となる
垣端:フィリピン航空の社内ベンチャーなどでやろうとは思わなかったのですか?
稲葉:それは検討しませんでした。例えばフィリピン航空でシステムを作っても、フィリピン航空内の予約システムでしかないので、業界全体の課題解決はできないと考えたためです。
垣端:業界全体の課題解決をされたかったのですね。
八木:一つ質問させてください。現在の航空貨物業界では、このアナログな商習慣をみなさん受け入れて業務にあたっているものなのでしょうか?
稲葉:そのとおりです。現状の業務体制に不便さを感じつつも、それが当たり前だと受け入れている方が多いと思います。また同様に日本だけでなくアジア、北米地域でなどもDXが進んでいないので、海外への展開も視野に入れています 。
垣端:なぜそこまでDXが進んでいないのでしょうか?
稲葉:おそらく閉鎖的な業界なので自社でやりたい意思が強かったのではないかと思います。ただコロナをきっかけにDXしなければいけない状態に陥ったことで門戸が開いたのではないかと思います。
垣端:なるほど、よくわかりました。では苦戦された部分はありますか?
稲葉:最初は荷主から航空会社まで一気通貫のプラットフォームを構築したかったのですが、それは航空会社、フォワーダー、荷主の三者のユーザーが揃わないとシステムが回らない仕組みを構築していました。
しかし、一気に三者のユーザーを集めることは導入のハードルが高かったので、昨年末から航空会社とフォワーダーのみで完結するシステムに軌道修正いたしました。今後はフォワーダーのユーザー数が増えた段階で荷主にまで広げて行く予定です。
垣端:それはどこかからフィードバックがあったのですか?
稲葉:そうです。定期的にミーティングさせていただいているフォワーダーさんから例えば貨物動静に関しては自社の追跡システムがすでにあったりするなどの声をいただき、まずはニーズが高い機能を切り離して作っている段階です。
垣端:フォワーダーさんと連携されていらっしゃるのですね。ではいまはどんなメンバーで運営されていますか?
稲葉:現在 は業務委託のエンジニアが2名です。大学時代の友人の紹介で出会いまして、約3年前から参画頂いてます。採用に関しては、現在エンジニア、営業を中心に募集しており、これからカスタマーサクセスや人事、CFOも募集していきます。
八木:改めて社名の“ヒュペリナー”とはどういった意味なのですか?
稲葉:ヒュペリナーの意味は、ギリシャ神話に登場する神「ヒュペリオン」を人称化した名称で「高みを行く者」という意味があります。
八木:航空貨物業界の変革者である御社を表した素敵な言葉ですね!よくわかりました。本日はお時間いただきありがとうございました!
取材を終えて:航空貨物業界での課題はいままで聞いたことがなく、大変新鮮な取材でした。今の世界の航空貨物市場は41兆円、今後も市場の拡大が見込まれる大きなマーケットです。稲葉さんの荷主・フォワーダー・航空会社の三者の立場で業務に当たられた経験が生かされている大変ユニークかつ貴重なサービスであり、今後の業界の人材不足を考えると業務効率化は関係各社にとっても大命題であり、関心あることに間違いありません。これからも要注目のスタートアップです。(ライター八木)
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