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脳と機械をつなぎ、ALS患者のコミュニケーションを可能に: JiMED

更新日:2022年11月3日

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、製薬会社やコンサルティング会社を経て、2022年4月にCEOのバトンを引き継いだ株式会社JiMED(ジーメド)の中村仁(なかむら じん)さんにお話を伺いました。


取材・レポート: 西山裕子(生態会事務局長)/

久世尚(ライター)



 

代表取締役 中村仁氏 略歴

2010年 京都工芸繊維大学 工芸学部 卒業

2012年 京都大学大学院 医科学修士 修了

2016年 京都大学大学院 医科博士 単位取得退学

2016年 アステラス製薬株式会社

     研究本部にて、医薬品開発やワクチン開発のプロジェクト管理など

2019年 テロイトトーマツコンサルティング合同会社

     製薬会社の中期経営計画策定、システムの導入支援、組織体制の構築など

2022年 株式会社JiMEDの代表取締役に就任

 

言葉や手振りで意思を伝えることができない患者さんの意思を具現化するヘルスケアサービス


生態会 西山(以下、西山):この度は取材にご対応いただきありがとうございます。まずは、御社の事業概要を教えていただけますか。


代表取締役 中村 仁 氏

株式会社 JiMED 代表取締役 中村仁(以下、中村):当社は埋込デバイスBMI(Brain Machine Interface)とAIを用いて、脳活動を正確に読み取ることで、ALS患者など、身体が全く動かせずに、言葉や手振りで意思を伝えることができない患者さんの意思を具現化する新しいヘルスケアサービスを提供していきます。


西山:脳表面に電極を設置し、その電極が脳波をキャッチすることで、人が考えていることが、文字として表現されるということでしょうか?


中村:はい。ですが、初期段階では、もっとシンプルな文字表現となります。ディスプレイに「あいうえお…」と五十音パネルが並んでいて、その上をカーソルが移動していき、自分が表現したい文字の上にカーソルが来たときに、「右腕をあげる」などの動作をイメージすると、それがスイッチ信号として処理され、カーソルがその文字で止まる。といったものです。もちろん、最終的には、もっと研究を進めて、より正確かつスピーディに患者さんの意思を文字として表現することを目指しています。





西山:なるほど。脳に電極を埋めて、コミュニケーションをするなんて、未来の世界そのものですね。


中村:そうですね。ただ、実現不可能な未来というわけではありません。世界でも、色々な方が研究を進めていますし、テスラで有名なイーロン・マスクさんも、実はNEURALINKという会社を設立しています。彼の場合は、我々とは違い、チップではなく、電極そのものを脳内に埋め込むことで、より複雑な脳波をキャッチするデバイスを開発し、患者さんのみならず健常者向けのサービスも想定しているようです。いかにも彼らしい、大胆な発想ですが、脳に電極を埋め込むため、大きな侵襲を伴うことから安全性の観点での課題があり、FDA承認にいたっておりません。

頭蓋骨にチップを埋め込む様子

西山:他の競合ベンチャーと比較した際の御社の強みや特徴は、どのあたりにあるのでしょうか?


中村:脳波をより正確に、安定的にキャッチできるところではないでしょうか。特に頭⽪に電極を取り付ける非侵襲型のBMIを開発する企業は多く存在していますが、非侵襲であることが大きなメリットである反面、検出できる脳波が非常に限定的で精度も高くないため、身体が動かなくなった患者さんのニーズに応えるアウトプット(コミュニケーション等を可能とする外部機器操作)を実現することが非常に困難な状況です。意思を正確かつタイムリーに読み取れないのです。当社は電極を頭蓋骨の内側、つまり脳表面に設置することで正確に脳波をキャッチしていきます。電極で検出された脳波は頭蓋骨に設置した脳波計を介して外部機器に伝達されます。


西山:頭蓋骨… さらに、その内側ですか… ちょっと怖いですね。




約4cmのチップ

中村:そうですよね。実際、技術的に課題とな っているのも、そこでして…。頭蓋⾻やその内側に機器を埋め込む以上、その機器が⼈体に影響ないようにしないといけません。そのために、しっかりと埋込医療機器としての基準を満たした密封性を担保することが課題のひとつとなっています。⽇本では密封する技術を持つメーカーがいないため、現在は海外のメーカーと製造工程開発に向けて協議しています。ただ、すでに、過去の臨床試験で埋込型BMI にて外部機器を操作し文字入力することで意思伝達が可能であることは実証できています。


BMIによる意思伝達のPoC検証



■世界最先端の技術で世界初のサービスを創り出せるチャンスと考え、2022年4月にCEO就任

西山:ところで、中村さんは、2022年4月にCEOに就任されたばかりと伺いました。どのような経緯で就任されたんでしょうか?


中村:そうですね。会社設立が2020年3月で、そのころは当社のコア技術に関する研究者である平田教授と、平田前CEOが経営陣でした。元々、平田前CEOの任期は2年と決まっていまして、任期満了でCEO交代となり、私がCEOに就任しました。デロイトトーマツコンサルティングで働いてるとき(2021年秋頃)に、大阪大学ベンチャーキャピタルの方とお話する機会がありまして、JiMEDについて関心をもつきっかけとなりました。

その後、何度か打ち合わせを⾏い、「世界最先端の技術を実用化することで、世の中のアンメットニーズに対して希望ある選択肢を創出するチャンスだ。そのために自分がこれまで携わってきた医療分野での知識、経験を活用したい」という想いが強くなり、 CEO職を引き受けることにしました。4⽉に就任して、まだ3カ⽉しか経っていませんし、家も関東にあるままで出張で⼤阪にきています…汗。本当にドタバタしっぱなしですが、⾃分の意思決定が事業に反映されていく楽しさと責任感を⽇々感じています。


■2億円を調達し、開発の加速と、資金管理を強化したい


西山:とてもお忙しそうですね。そんな中でも、今、優先して取り組んでいることはなんでしょうか?


中村:まぁ、本当に、やることが⼭のようにありますが、直近は資⾦調達が欠かせないと考えております。現在は⼤阪⼤学ベンチャーキャピタルやみずほキャピタルから、金銭の出資を受けていて、AMEDからも補助⾦をいただいており、おかげさまでおおむね技術開発については一定目途が経ちましたが、この後の治験実施にむけては、製造工程の開発加速化と構築、製品試験と実際の治験機器の製造等があり、あと3億円ほどの資⾦が必要です。⼤阪⼤学ベンチャーキャピタルからの追加出資や新規VCからの調達したいと思っています。そのために、研究の進捗・実績、今後の計画などをしっかりと説明していくつもりです。

研究室の様子

西山:資金の使い道は?


中村:技術開発のメンバーを追加して、機械装置の開発を加速していきます。あとは、資本金も増えて、資金管理の重要性が高まってくるので、財務担当のCFOも採用したいです。


西山:他企業との提携・協力などはあるのでしょうか?


中村:国内の医療機器メーカーである⽇本光電さんに、特許を現物出資していただく形で、投資いただいております。また我々は阪大との共同研究の枠組みの中で技術開発を進めておりますが、そこには日本光電さんのほかに、村田製作所さんも参画されており、弊社の機器開発にあたって部材・技術供与やアドバイス等のご協力をいただいております。


■世界中にいる約10,000人いるALS患者さんや、その家族の方たちのために


西山:最後に、今後の抱負を教えてください。


中村:世界中にいる約10,000人いるALS患者さんや、その家族の方にとって、意識はあるのに意思疎通ができないことは、とても辛いことです。そんな方たちの苦痛をを少しでも軽減させる、世界初のヘルスケアサービスを完成させるため、引き続き頑張っていきます。

 

取材を終えて:


人間の仕組みの中でも、まだまだ解明が進んでないと言われている「脳」の分野に挑戦する医療系のスタートアップでした。従来は、どのような方法であれ、①人がやりたいことを考える、②なんらかの方法で出力する(口で音を出す、手振りで伝える、スマホで文字を入力するなど)、③相手に伝わる、という流れで、必ず②のステップで、必ず身体を動かすことが必要でした。身体を一切動かすことなく、人とのコミュニケーションを実現すれば世界初です。

中村さんも前任のCEOと同じく、任期2年という条件での就任だそうです。もちろん2年で辞めるつもりでの契約ではなく、2年で一定の成果を出す。というコミットメントのようなものです。まだ就任して数か月にも関わらず、事業や研究のことについて、自信をもって明瞭に話してくださいました。そんな中村さんですから、2年経った後もCEOとして、同社を引っ張っていくと思います。

(ライター久世)








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