関西スタートアップレポートで紹介している、注目企業。今回は一線株式会社代表取締役の胡 凱玲(コ ガイレイ)さんをご紹介します。
2013年に兵庫県立大学大学院 経営研究科ビジネスイノベーションコースを修了後、日本製の繊維製品を中国に輸出するため、香港で貿易会社を設立。その後、神戸・香港・広州を行き来しながら、中国人女性に人気が出そうな日用品を企画し、製造してくれる日本の繊維メーカーを自ら開拓して回ったというバイタリティの持ち主です。2016年に念願の日本法人・一線株式会社を設立し、新たな事業展開を模索中。言葉の壁、文化の違いを経て「日本のカルチャーが好き」と語る胡さんに、起業の経緯や今後のビジョンについて伺いました。
取材・レポート:池田奈帆美(中小企業診断士・生態会事務局)
池田:日本語がとてもお上手ですね。
一線株式会社 胡 凱玲氏(以下、胡):ありがとうございます。でも、日本に来たころは日本の企業に就職できるレベルじゃなくて、悩んだこともありました。
池田:日本の企業は、どんなに優秀な留学生でも、言葉の問題で内定を出さないというケースが多いですよね。
胡:実家が事業をしていたこともあり、10代のころから自分で経営したいという夢は持っていました。だから就職できなくても、起業して日本に残ろうと。大学院のフィールドワークで日本の製造業について勉強していく中で、もう少しアイデアを加えたら、中国の20~30代女性に支持される日用品が作れるなと考えるようになりました。実家の事業の関係で、広州近辺に衣服系の販路があったのと、繊維製品は賞味期限がないので、起業するなら、繊維製品で貿易しようと思いました。
池田:入学当時の2011年は、日本は震災直後や円高で、まだ中国人による爆買いブームも始まっていなかったかと。
胡:そうです。日本に来る中国人も今ほど多くはなかったし、買い物の仕組みも今のようには整っていなかった。でも日本品質の良さは中国人も知っているし、色々やっていたら道が開けそうな気がしたんです(笑)。
池田:素晴らしいカンと行動力!
胡:でも最初は、日本の工場に「こんなものを作りたいんです」って飛び込みで行っても、なかなか相手にしてもらえませんでした。外国人の若い女性を信頼してビジネスをするというのは、そう簡単なことではないと思いました。
池田:ブレイクスルーのきっかけは何だったのでしょうか?
胡:大学院のゼミの教授が、知り合いの繊維工場を紹介してくださって。その企業の社長に事業案をプレゼンしたら気に入って下さり、「その計画に合った別の工場を紹介するよ」と仲間の社長をご紹介して下さったんです。その工場が日本でも有数の繊維メーカーで、その企業との実績ができたことで、ほかの企業にも信用していただけるようになりました。
池田:教授も、最初に会って下さった社長も、胡さんの思いを聞いて、応援したいと思われたんでしょうね。「紹介」は確かに強い手段ですが、紹介する側にも責任が発生する以上、ヘンな人はおつなぎできない。起業家は「応援されてナンボ」だと、私は個人的に思っています。
胡:初めて作った商品(ストッキング)は、今考えたら、ただ丈夫なだけでした。その後、爆買いブームが起こって、このままだと価格競争に陥るなと。何か特長を出さないといけないと思い、骨盤矯正や腹巻き機能を兼ねたストッキングを作るようになりました。当時、まだ機能性付きタイツは中国になかったので、展示会で出したら、取引先が拡大しました。
池田:中国人女性が欲しい物を企画して、日本品質で製造して、中国のECサイトを活用して売る。日本の商習慣と中国の流通・マーケティング、どちらも理解している胡さんだからこそできるビジネスですね。
(左・真ん中)製造工程の様子 (右)中国のECサイトで販売
胡:まだまだ小さな会社ですけど、何とか軌道に乗ったので、これからはもっと多くの企業とのコラボに力を入れたいと思っています。
池田:具体な行動計画があれば教えてください。
胡:新たな大手企業とタイアップして、「虫除けタイツ」を作る予定です。タイツだけだと季節要因があるので、売上を平準化するために、スキンケアの取扱も始める予定です。中国の20〜30代女性が喜んでくれるような商品企画会社として、もっと実績を積んでいきたいです。アイデアとマーケティング力と培ってきた販路を活かして、製造してくれる工場にも稼働率向上というメリットを提供できたらなと。
池田:取引相手のメリットを考えた提案をするというのは、ビジネスを継続させる上で、とても大事な姿勢ですね。
胡:あと、中国の佛山という場所に日本の文化を体感できるカルチャーセンターを開設する予定です。佛山の高校では日本語授業もスタートしましたし、言葉と文化を一体的に学べる民間施設は需要が高まると思っています。私もお花をやっているのですが、そうした日本文化を伝えてくれる先生たちを中国に招致して、お互いの文化をリスペクトできるような交流を促進できればと。3年後にはカルチャーセンターを複数拡大するつもりです。
池田:政治レベルはややこしいことが多いけれど、民間だからこそできる交流はとても価値があると思います。持ち前のバイタリティで、新しい事業もぜひ軌道に乗せてくださいね。
取材を終えて。池田より
「私、チャレンジ精神だけはあるんです」と語る胡さんはまさに起業家の典型。「日本が好き」という思いをビジネスという形に昇華して、ややこしい政治問題に翻弄されることなく、人対人の付き合いを大切に、真摯に向き合う姿は、とても清々しく感じました。稼働率が下がっているけれど新商品開発のアイデアに乏しいという工場や、日本の伝統文化に携わる人たちと有機的なコラボできれば、きっと新しい可能性が生まれると思います。
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