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執筆者の写真Seitaikai

起業家教育インタビュー:大阪府立大学

更新日:2019年8月8日



起業予備軍や学生起業家は、居場所を求めに学校外へ行くことが多いと思います。では、大学での起業家教育は、行われていないのでしょうか?実はそんなことはなく、各大学で起業を応援してくれる環境があります!


生態会では実際に大学を訪問して、起業家教育を行なっている先生にインタビューをし、それぞれの提供する起業支援、その強みや弱みについて迫っていきます。


第1回目となる大学訪問。2019年6月13日、大阪府立大学にお邪魔してきました。

            

レポート:生態会学生ボランティア 難波 黎旨


インタビューにご協力頂いたのは、高度教育推進機構高度人材育成センターの松井教授と広瀬特認教授です。

        松井教授                広瀬特任教授



難波(生態会):本日はお時間割いて頂き、ありがとうございます!早速一つ質問させてください…!まず、府大でアントレプレナー教育を始めたきっかけについて、教えて下さい!


松井教授(府大) 以下松井と示す : アントレプレナー教育のスタートは、10年前に遡ります。当時、大学の大きな課題の一つは、博士後期課程に進む学生の減少でした。


大学の研究力の根幹は博士人材です。かつては、博士は大学教授として研究するか、国立の研究所など”研究者”がメインのキャリアでしたが、近年そのポストが減ってきました。特に、バイオサイエンス系分野を中心に”高学歴プア”が社会問題化しました。ポスドク、博士学位を持つ人材を増やす政策を行う一方で、博士人材のポスト開発を進める必要がありました。


そこで、博士が民間企業に就職しても力を発揮できるように、長期のインターンシップや、ビジネスプランを考える演習などのなどの教育プログラムを、企業の力も借りながら始めました。結果としては、学内での博士の数が少しずつ増加していきました。5~6年実施しているうちに時代も変わり、イノベーション・起業に対する大学への期待が大きくなってきました。それに伴い、教育プログラムも方向修正を行い、起業・アントレプレナーシップの要素を大きく取り込むようにしました。


生態会(難波) : 博士の減少がきっかけだったのですね。確かに日本全国で、博士の数は減っていると聞いています。その中で、増加させることに成功したのは大きな成果ですね!

実際にどのようなアントレプレナー教育を行なっているのか、教育カリキュラムについて教えてください。


府大(松井教授) : かなり多種類の教育プログラムを持っています。幹となるのは次の3つのコースです。


一つ目は、「ビジネスアイデア創出コース」で、これは、何かしたいけど、何をしていいかわからない人を対象にしたプログラムです。


二つ目は、「ビジネスプラン作成コース」です。これは、やりたいことがある人が対象。


最後に「起業実践コース」です。これはプランを考えるだけではなく、実践する人のためのコースです。


これらのコースの中で幅広い教育プログラムを提供することで、様々なレベルの学生、社会人が学べるようになっています。


また、同窓会からの資金援助で、ビジネスコンテストも実施しています。実戦形式でビジネスプランの作成やプレゼンテーションの体験ができます。E-ラーニングによって学べる教育プログラムも含まれており、「今すぐにビジネスを始めたい」とまでは思っていない学生も容易に学べるように配慮しています。


その他に、異文化である海外でビジネスプランを考える教育プログラム、ACCESS (Asian Cross Cultural Entrepreneur platform for Sustainable Society)というプログラムがあります。去年は、府大生だけではなく、他大学からも参加者が集まり、14名でカンボジアへ向かいました。常識が違う異国の学生同士がケンカになるくらい真剣にディスカッションします。参加者は素晴らしい刺激を受けていました。


府大(広瀬教授) : 東南アジアの国も、かなり盛り上がっています。VCの投資資金はアジアがアメリカを上回りました。主に、中国マネーとマレーシアマネーが動いています。金額の大きなファンドレイズに集中する傾向にあるため、投資総額が大きくなりやすいのがアジアの特徴です。例えば、モンゴルやカンボジアでもベンチャー・アクティビティは活発です。仮想通貨、バイオなど、日本に存在するようなベンチャーはどの国にもあります。ただし、日本と同じように、国際的に通用するベンチャー企業はほとんどないのが悲しいところです。


府大(松井教授) : 研究成果をベースとしたビジネス・アイディアを持っている学生は、さらに実践的に、ニューメキシコ大(アメリカ)のピッチコーチング研修に参加するというプログラムもあります。研修の結果、英語で3分間ピッチができるようになります。

現在は、これらの多くが博士後期の単位となる正式科目に組み込まれました。


大阪府大 EDGEプログラム

難波(生態会) : そんなにたくさんのプログラムがあったんですね。自分も府大生なのに知らなかったプログラムもありました(笑)

府大は理工系の学生が多い大学ですが、府大が目指す起業の形はありますか?


広瀬(府大) : 特にこれの方がいいという形はありません。しかし、統計的にも、技術ベースの起業の方がビジネス成功率が高いようです。研究の深化だけが大切ではなく、その事業化も大切です。卒業後の就職先が限られるなか、企業で活躍するだけでなく、起業も選択肢の一つとして重要になっています。企業に就職しても自分でイノベーションを起こせる人材になってほしいと思います。常に起業がベストというわけではなく、府大生には幸せになってほしいので。


難波(生態会) : すばらしい考えですね!自分も府大生としてありがたいです。

プログラムに参加する学生の分野に特徴はありますか?


松井(府大) : 満遍なくいます。

ただ、5年一貫のリーディング大学院(物質のことがわかるシステム研究者・システムのことがわかる物質研究者、両方に通じる人材を育成する、高度人材育成プログラム)。の履修生のプログラム参加率が比較的高いですね。


難波(生態会) : 産学連携の状態についてはどのような状況ですか?


松井(府大) : 教育面での連携を政府も意識しており、府大でも、従来の産学連携(年間数百万円規模の共同研究委託、先生の研究と企業のニーズのマッチング)だけでなく、欧米型の組織対組織の連携を促進していこうと考えています。これにより複雑化した課題に対応できるような、複数分野に跨る連携に対応するようなプラットフォームが出来上がります。

既存事例としては、府大の植物工場、アントレプレナーカリキュラム提供=高度人材育成センターなどがあります。


最近の例では、関西経済同友会の「関西ベンチャーフレンドリー宣言に、大学としてはじめて参画しました。府大の特徴はフットワークの軽さです。この案件も学長に確認して、即参加が決まりました。


難波(生態会) : 起業を目指している学生の把握は、できていますか?


松井(府大) : 正直、出来ていないのが現状です。意識を持っている学生はいるが、大学の組織を頼って来ないというのが課題です。現在のプログラムは、主に大学院の学生(=研究分野を持っている学生)を対象に始めた取り組みです。昨年初めて学域生(学士課程学生)対象のプログラムも実施しました。まだまだ、これからの部分もあると思います。


広瀬(府大):起業してから、起業の勉強をするのか?勉強してから、起業するのか?教育を充実すると、起業に寄与するのか?というのは常に議論されている部分です。府大でも10年前に「起業とは教育できるのか?」というシンポジウムを開催しました。全国的にはベンチャー学会で議論しています。海外でも多くの大学で起業家精神の教育充実に努力しています。2014年から文科省が始めたEnhancing Development Global Entrepreneur (EDGE)プログラムを始めた際は、イギリスからも団体で見学しにきたほどです。こちらは、英国のオックスフォード大・ケンブリッジ大の取り組みを研究しているというのに(笑)。


今後、起業の分野でも大学の役割はますます重要になるでしょう。大学で学び、技術のスキルを高めて社会に飛び出すだけでなく、少し疲れたら羽を休めて再度勉強する場所にならねばなりません。ちょうど航空母艦のように、また跳び立てる場所にならねばなりません。


難波(生態会) : 今後のビジョンなどあれば、教えて下さい!


松井(府大) : 現在も大阪府、大阪市、堺市・民間企業、銀行、VCなどいろいろな機関と協力しています。その連携をさらに発展させていきたいと考えています。


難波(生態会) : 長い時間インタビューを受けてくださりありがとうございました!

最後に学生にメッセージなどあれば教えて下さい!


松井(府大) : 若い頃から、自分の強み(=よってたつもの)を身につけて、自分で立ってほしいと思っています。「起業をしなくてはいけない」ではなく、「イノベーティブでないと生きていけない」と考えてください。これを府大の学生さんに身につけて欲しいというのが私の願いです。





産官学連携のもとで事業展開が行われている完全人工光型植物工場研究センター

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