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医療機器の“不”に挑む! iDevice

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回は、コロナで一気に注目度が高まった人工呼吸器に、かねてから改良するためのアイデアを出し、事業化に向けて動いてきた、株式会社iDeviceの代表取締役、木戸悠人さんです。


臨床現場で働いていた時の木戸悠人さん。2020年4月より株式会社iDeviceの代表取締役に就任された

現役の臨床工学技士として日々命と向き合う中で、患者さんの負担が大きい人工呼吸器を何とか変えたいと考えるようになった木戸さん。温めてきたアイデアをあるイベントでプレゼンしたことをきっかけに、一気に事業化を実現。スタートアップの中でもハードルが高いと言われるハードウエア分野で、しかも大手企業がひしめく医療機器製造で、イノベーションを起こすべく挑戦する木戸さんに、起業の経緯や今後の計画を伺いました。


※この記事は2020年1月7日に取材した内容をもとに作成しております。


取材・レポート:池田奈帆美(中小企業診断士・生態会事務局)


 

池田:2018年12月に開催された、記念すべき第一回目の未来戦略セミナーは、私も参加していました。あの場でピッチされたアイデアがこの短期間で事業化されたと聞き、とても感慨深く思っています。


木戸悠人氏(以下、木戸):そうなんです。すべてはあの場から始まりました。


池田:木戸さんが、難易度の高い医療機器の製造で起業しようと思うようになった経緯を教えてください。


木戸: 病院では、主に人工呼吸器を管理する仕事をしていました。十分な酸素量を肺に送るためには、人工呼吸器のマスクを顔に密着してつけないといけないことがあります。ただ、そうすると皮膚に負担がかかり、ひどい場合には褥瘡になることもありました。いくつかある既存のマスクの中から、患者さんの顔の形に合わせてフィッティングしながら選ぶのですが、一人ひとり違う顔の形に完璧に合う製品は、残念ながらないんです。患者さんのために、もっとできることはないかと考える中で、「マスクに蛇腹構造を取り入れると解決できるのでは」というアイデアを持つようになりました。




池田:なるほど。でも、そういうアイデアは、大手メーカーにはなかったのでしょうか?


木戸: マスクの欠点はどのメーカーも把握しているので、毎年少しずつは改良されるんです。でも、何というか、軽微な改良で。患者さんの“不”を抜本的に改良できる製品は出てきませんでした。蛇腹構造のアイデアを、取引のある医療機器メーカーに提案したこともあったのですが、なかなか取り合ってもらえず。「確かにそんなマスクができたらいいですね」くらいで、本気で形にしようとしてくれる人はいなかった。でも、今の医療業界ではそれが普通なんです。


池田:それが、「越境人材を輩出しよう」というコンセプトで、医療業界のイノベーターたちが集まる未来戦略セミナーでは違った、と。


木戸さんがピッチされた第1回目の「未来戦略セミナー」

木戸:はい。第一回目に登壇された原先生は、循環器内科医として多数の実績をお持ちで、論文もアメリカで高く評価されていらっしゃるのに「学術活動だけではなかなかいい治療はできない」と、ご自身で株式会社mediVRという会社を立ち上げられた方。「既存の枠組みの中だけで解決するのではなく、ゼロベースで発想し、患者さんにより良い医療を提供したい」という思いにめちゃくちゃ共感しました。それまでまったく面識はなかったのですが、飛び込みでピッチしてみたんです。そしたら「おもしろいね! 詳細を教えてほしい」と機会をいただいたので、その夜、企画書をメールしました。それに対して「試作品を作ってほしい」とすぐにお返信をいただいたので、3日で試作品第一号を準備しました。






木戸さんが原先生に送った資料の一部

池田:すごいスピード感ですね。


木戸: はい。「このチャンスを絶対に逃すものか!」と必死でした。ただ、試作品ってどうやって作るのか、最初は検討もつかなかったんです。実際のマスクはシリコンで作れたらいいなというアイデアは持っていたけれど、自分一人でシリコンで作るルートはないし、それなら紙で蛇腹を折ってみるかと。数学は得意なので、 設計図を見たら長さと角度は計算できる。何度か試行錯誤を繰り返して、「これは行ける!」というレベルに達したので、原先生の助言のもと早々に特許と商標を出願し、知財戦略も完璧に整えました。他社がやらないなら、自分でやりきろう! と。

コアな構造の特許は取得済み。さらに使い勝手の良い製品にするために必要な関連特許は、今後も随時申請予定


池田:人がやらないなら自分でやりきる。その行動力、本当に尊敬します。それに、チームに医療スタートアップの進め方を熟知された原先生がいて下さるのは、心強いですね。


木戸:原先生と一緒に事業化できたのは本当に幸運です。僕一人ではどうしていいか分からないことも多かったのですが、どのタイミングでどのピッチイベントに出て、どのタイミングでどのように資金調達をして、それをどのように使うか、といったスタートアップならではの事業戦略を立案し、的確にリードしていただけました。


池田:気になるのがお金ですが、現在の運営資金はどうされているのでしょうか?


木戸:昨年、エンジェル投資家から調達できたので、今はその資金で機能試作中です。


池田:機能試作も、超えるのが難しいハードルですね。


木戸:そうなのですが、ありがたいことに、試作品を作るメンバーもとても強力で。健康・医療関連のデザイン実績が豊富な工業デザイナーの大浦イッセイさんに主導いただき、量産を見据えた機能試作を行っています。使用する素材はシリコンがいいと考えていますが、もしかしたら医療従事者ならではのバイアスがかかっているかもしれないので、資金との兼ね合いを見ながら、できるだけ多くの素材を、先入観なく試したいと思っています。


池田:今後の動きを教えて下さい。


木戸:機能試作が完成したら、協力していただける臨床現場に持ち込み、できるだけ多くのエビデンスを取得する予定です。客観的なデータをしっかり集めて、2020年内には次の調達ステージに行きたいなと考えています。


池田:具体的なアクションプランがあって、それを実現できるメンバーが揃っていたら、あとは木戸さん持ち前の実行力で突き進むだけですね。


木戸:これから予想できない落とし穴があったりするかもしれませんが、絶対にやり遂げたいと思っています。こんな強力なメンバーに出会えただけで、すでに奇跡は始まっていると思うので。


池田:木戸さんが発案したマスクが社会標準になる日が来ることを願わずにはいられません。ぜひ頑張ってください!(記事作成:2019年1月25日)


 

取材を終えて。池田より

記事が完成した直後からコロナの影響が日ごとに深刻化し、4月中旬には緊急事態宣言が発令されました。この記事を、今このタイミングで公開するのが正しいことなのか悩みましたが、医療者をバッシングする報道を見て悲しくなり、前線で働く医療者の志をお伝えすることで、少しでも偏った報道を中和できないかと思いました。命を守るために、今より良くできることはないか、を第一線で考え続けているのが医療者です。そしてそれを事業化することで、より多くの人に届けられる最良の手段だと考えるのが、本来の「経済」です。それを「金儲けだ」と批判して終わるのではなく、かけがえのない命にどう向き合っていくのかを、全員が考える時期に来たのではないかと思います。




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