関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、センサーによる人流解析サービスを提供している株式会社HULIXの代表取締役、守屋充雄さんにお話しを伺いました。
取材・レポート: 西山裕子(生態会事務局長)/
近藤協汰(ボランティアスタッフ)
代表取締役 守屋充雄氏 略歴
1973年、岡山生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科卒業後、日本電信電話株式会社にて5年間勤務し、goo(NTTが開発したポータルサイト)のサービス立ち上げに携わる。その後はアクセンチュアで6年間、医療ベンチャー株式会社メディエイドで7年間勤務し、事業立ち上げに従事する。米国ベンチャーの日本代表を務め、2020年に株式会社HULIXを共同創業。
■大阪大学で開発された、センサーを用いる画期的な人流解析技術
生態会 西山(以下、西山):本日はよろしくお願いします!まずは、事業概要を教えていただけますか。
株式会社HULIX 守屋 代表取締役(以下、守屋):私たちが提供しているサービスは、人流解析およびコンサルティングです。
HULIXは大阪大学発のベンチャーで、山口弘純博士などによって開発された解析技術「ひとなび」がベースの技術となっています。
「ひとなび」では、LiDARセンサー*から人やモノを抽出し、時系列の位置データに変換することが可能です。その位置データを、機械学習によってトレンドや推測といった形で分析しています。
*LiDARセンサー:レーダーのように、紫外光、可視光、近赤外光を用いて物体までの距離や形状を計測する技術
そして現在は、取得した位置情報をいかにマネタイズするか、という点に取り組んでいます。
位置情報を用いて価値を創造するには、やはり他の情報と絡めていかなければなりません。そのため、現在のプロジェクトでは、人流を街の活性化や商業施設の売り上げアップにつながる情報と掛け算して、顧客にソリューションを提供しています。
西山:御社の技術は、他社とどの点が異なるのでしょうか?
守屋:今は差別化点に、磨きをかけている段階です。実を言うと、人の位置情報取得に限れば、他社の類似技術でも近い精度は出せます。
大阪大学と連携・推進している一つ目の差別化点は、人の属性情報です。センサーを用いることで、例えば性別や体格など、より細かな情報を取得できます。
さらに高度な解析技術の組み合わせから導き出されるのが、行動の目的です。
「仕事で街中を移動する」といったケースなど、人が行動するには何らかの理由があります。そして、私たちは、「この人の行動にはこういう意図があるだろう」という、行動の目的までを可視化しようとしています。
この情報は、他社が未だかつて取得できていないものなので、差別化点として有力です。
もう一つの観点は、「ある場所にいた人が、例えば食事など、どういう行動をしているか」というものです。これは、カメラを導入したくない施設にとって価値があります。こういった点も、他社がまだ実現できていないため、差別化点となるのではないか、と考えています。
以上の情報を合わせると、街の中でどのように人が動くか、人の属性、そしてどういう目的で移動しているか把握できます。
最終的に、それらを顧客データと紐付けることや、「今どれくらいの人が来ていて、どれくらい混雑しているか」などの可視化が可能です。
西山:なるほど。そして、解析が終了したら、その結果を利用してコンサルティングを行う訳ですね。
守屋:今はそうですね。ゆくゆくは、解析結果などをシステムに組み込み、「センサーを配置するだけで解析結果まで表示される」というモデルにしていく予定です。
■入店から購入までのブラックボックスを可視化
西山:どのような企業が顧客なのでしょうか?
守屋:三井不動産のEXPOCITYさんには継続的に利用していただいています。また、複数の大学とも契約しており、センサー解析ソフトウェアを提供しています。他には、南海電気鉄道株式会社、阪急阪神不動産株式会社、奈良先端技術大学も顧客ですね。
西山:例えば、大手不動産事業者向けには、どういったソリューションが提供されているのでしょうか。
守屋:商業施設向けには、マーケティングのファネル分析(消費者の購買にいたるまでのプロセスを分析するもの)ですね。
設置されたセンサーを利用して、1)外から商業施設に来た人、2)商業施設の入り口を通過した人、3)商業施設内で移動して買い物をしている人に、消費者を分類しています。
POSデータを持っているのは、商品を販売した店舗・商業施設です。しかし、商業施設の入り口に入ってから、どのように買い物につながったか、という部分がブラックボックスになっています。私たちが捉えようとしているのが、この部分です。
とはいえ、センサーを沢山配置することは難しいので、まずは入り口から、その先の方向を可視化しています。その後は、商業施設に来た人がどのように売上に繋がっているのか、どこから来たかなどの点を分析しています。
西山:御社の強みは、センサーで捉える技術ですか。それとも、解析部分なのでしょうか。
守屋:大阪大学の技術としては、前者が該当します。ただし、事業化という観点で見ると、やはり両方高レベルで出来ないといけません。私はデータ分析に近い領域にいたので、解析部分を補っています。
■豊富な事業立ち上げの経験をもとに、HULIXで挑戦
西山:守屋さんはデータ分析の領域にいたとのことですが、HULIX設立以前に何をされていたのでしょうか。
守屋:私は、早稲田大学理工学部を卒業した後、NTTに入社しました。その頃から、ずっとインターネットに携わっています。
特に、NTTで関与していたプロジェクトは、goo*と言うサービスです。
*goo:NTTグループが運営しているポータルサイト。
gooは、当時のgoogle、Yahooと肩を並べるポータルサイトでした。そのプロジェクトに、技術的な面で従事していました。
その後、新サービスがYahooに負けたことを受け、「どうしたら事業で勝てるのか」ということに関心が向き転職した先が、戦略コンサルティング会社のアクセンチュアです。そこで6年間勤務し、事業立ち上げや営業支援などを経験しました。
ただ、もちろん面白くはあったのですが、大企業の事業立ち上げということもあり、自分でやりたいという思いが募りました。
そこで、医療ベンチャーであるメディエイドに執行役員として参画したのです。この企業では、医療×ITの領域で、事業立ち上げに7年間注力しました。
西山:なるほど、事業立ち上げの経験に溢れていますね。HULIXの設立に至る経緯は何だったのでしょうか。
守屋:きっかけは大阪大学の山口先生との出会いです。
メディエイドでの勤務の後は、大学の先輩が立ち上げた米国シミュレーション企業の日本代表を務めていました。
その会社のソフトウェアを山口先生が利用していたのです。そして、ある日に山口先生と出会い、「山口先生の技術が事業化される」ことを伺いました。
アメリカで事業を立ち上げた先輩も山口先生と懇意にしていて、人流解析はシミュレーションと相性がいいことから、3人で組めば良いのではないかと思っていました。
技術的にも、山口先生がリアルな人の動き、私たちがソフトウェアに強みがあるので、それらをマッチさせればいい技術になるはずです。別会社で事業を推進する方が便宜上良く、会社を共同創業するに至りました。
西山:山口先生の技術を知った時に、「この技術はいい」と感じて共同創業に至ったのですか?
守屋:半分は「いいな」で、もう半分は「今後大化けする余地が大きいな」と言う印象でした。この事業には、技術及び事業がセンサーに依存するという性質があります。そのため、その当時は、「技術は面白いが、センサー技術の普及と同じ時間軸で発展することになるだろう」と感じました。
■組織づくりが事業展開の鍵に
西山:なるほど。今、守屋さんが注力している経営課題はなんでしょうか? 守屋:組織づくりですね。
製品開発の技術的なハードルが高いことから、それを実装できる人材が限られています。そのため、大学で研究している学生に興味を持ってもらうために、いかに魅力的な組織を構築できるか、という点に課題感を持って取り組んでいます。
現在、製品開発において、顧客が強く希望する領域のイメージがあるため、強い組織を上手く構築することで、製品、そして事業開発のスピードも格段に向上します。
私たちの分野は三次元空間の解析で、今で言うとメタバースなどに関連している領域です。その領域に関心があり、何らかの付加価値を提供できる方をお待ちしています。興味がありましたら、皆様ぜひご連絡ください!
取材を終えて:
人流解析は、キーワードとしては十数年前から存在していたものの、各社がマネタイズに苦労していたのだそう。そんな領域に、行動目的・顧客属性の解析という差別化点を創出しつつある、株式会社HULIXが挑みます。既に三井不動産株式会社などの企業が継続的に利用していることから、商業施設にとって価値の大きいソリューションなのではないでしょうか。また、代表取締役の守屋さんは、アクセンチュアやメディエイドでの勤務を通して、事業立ち上げの経験を積み重ねてきたそうです。そのため、人流解析というマネタイズの難しい分野においても、価値創造を実現できると思われます。(スタッフ 近藤)
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