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執筆者の写真大洞 静枝

関西スタートアップ法務の立役者・五島洋弁護士に聞く!スタートアップの今後の動向

1998年から、関西スタートアップ支援における弁護士の第一人者として、スタートアップの法務支援やIPO支援に携わってきたという飛翔法律事務所の五島弁護士。これまで、「赤ん坊のような企業が成長していく様子を見守りながら、最初は持ち出し覚悟で支援」し、株式会社eWeLL株式会社関通など、9社のIPOに伴走してきた。現在は、140社ほどの企業を担当している。第三次ベンチャーブーム※から、スタートアップ冬の時代を乗り越え、スタートアップの悲喜こもごもを見てきたという五島氏に、スタートアップのこれまでの歩みと今後の展望を伺った。

※1994年から始まったと言われている。1990年のバブル崩壊以降、経済活性化のため、政府主導でベンチャー企業優遇政策が打ち出された。ITブームも相まって、楽天株式会社(1997年)、株式会社ライブドア(1996年)などのIT企業が次々に誕生。1999年には東証マザーズ、2000年にはナスダック・ジャパンといった新興企業が上場しやすい市場が次々と開設された。(参考)太原 正裕. 第三次ベンチャーブームの検証--ベンチャー企業は日本経済活性化,金融資本市場の発展に貢献しうるのか. 城西大学経営紀要 / 城西大学経営紀要編集委員会 編. 


 取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)、大洞 静枝(生態会事務局/ライター)


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五島 洋(ごしま ひろし)氏 

略歴:1971年6月大阪市生まれ。1994年3月岡山大学法学部卒業。同年4月同志社大学大学院法学研究科博士前期課程入学。1995年、同志社大学大学院在学中に司法試験に合格。1996年大学院修了。2年間の司法修習後、1998年4月に弁護士登録し、当初からパートナー弁護士M&A・コンプライアンス法務・スタートアップ支援・人事労務等の分野で企業のリーガルサポートを手掛けている。

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スタートアップと共に歩んできた26年間


生態会事務局長 西山裕子(以下、西山):本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、スタートアップ法務に関わるようになったきっかけについて、教えてください。


五島洋 弁護士(以下、五島氏):弁護士になって今年で27年目になります。弁護士の資格を取得し、司法修習生として研修を受けた後、修習先である事務所でお世話になることにしました。お一人でしている事務所に私は2人目としてパートナーのような存在で入ったので、最初から自分で仕事を探す必要がありました。仕事がない中で、どうしようかと悩んでいた時に、会計士補だった友人からベンチャー企業の存在を教えてもらいました。当時はスタートアップという呼び名はなかったので、ベンチャーと呼んでいたんですね。


1997年7月にディー・ブレイン証券が扱うグリーンシート(未公開株の気配公表銘柄制度)が誕生し、この辺りの企業を一緒に支えないかという提案でした。最初はスタートアップよりも、大企業や中堅企業を担当したいと思っていたのですが(苦笑)、スタートアップが唯一のお客さんだったので、深く関わることになっていきました。実際に接してみると、スタートアップの面白さに強くひかれていきました。


通常、既存の企業であれば、法務部の担当者が会社の中で意思決定された内容で契約書を作り、それを弁護士がチェックします。一方、スタートアップでは、社長からダイレクトに、「こんなビジネスがしたい」「これを契約書にして欲しい」「このサービスにはどのようなリスクがありますか? 」というところから議論が始まります。イチから作っていくというところが非常に面白いなと思いました。


しばらくすると、90年代後半に日本でITベンチャーブームが到来しました。スタートアップ法務に携わっている弁護士が珍しかったので、仕事が増えていきました。近畿経済産業局の新規事業課と接点ができて、局が進めようとしていたスタートアップ支援や産学連携、大学発スタートアップ、国立研究機関発スタートアップなどの案件も請け負うようになり、いつの間にか「関西のスタートアップ法務の元祖」と呼んでいただけるようになっていました。誰がスタートアップ法務の元祖かは、八ツ橋と同じくらいわからないところではありますが(笑)。



一般社団法人関西IPOチャンスセンターのセミナーの様子。100回記念では生態会事務局長の西山が登壇し、関西スタートアップの状況について講演した。

西山:日本全体のスタートアップシーンは、26年前とは随分変化したと思います。五島弁護士から見た26年間はどうでしたか?


五島氏:26年前は、スタートアップが台頭してきた時期でした。みんなが市場について暗中模索していたような時代です。2000年代前半に、ヘラクレス市場※ができました。しかし、その後、スタートアップ冬の時代と言われる時期が到来し、関西を拠点とするベンチャーキャピタルがほとんど消えてしまったこともありました。上場する会社も減り、ヘラクレス倶楽部という集まりに講師として出向いても、いつのまにか上場支援側の人たちだけが参加している状態になってしまいました。このような時期が続きましたが、企業自体が劣化したわけではありませんでした。その後も何度か冬の時代がありましたが、上場せずとも、スタートアップはずっと存在し続けていました。だから私も、ずっとスタートアップ支援という仕事を続けて参りました。


※大阪証券取引所で2002年から2010年まで運営されていた新興企業向けの株式市場。当初は「ナスダック・ジャパン」の名称で開設されたが、後に「ニッポン・ニュー・マーケット・ヘラクレス」に改名された。ジャスダック、NEOと統合されて「新ジャスダック」となった後、東証市場再編により統合・消滅。


西山:その後もずっと、スタートアップ法務を専門にされているのでしょうか?


五島氏:全体の業務の3 割ぐらいがIPOを含むスタートアップ関係で、M&Aも同じくらいです。それ以外の業務が4割ほどです。残り4割はスタートアップではない企業や 、行政関係及びVC、CVC組成や投資関係などの業務です。基本的に私の二本柱は、IPOとM&Aです。IPOは創業の早い時期から携わり、IPOを見届け、その後も一緒に寄り添っていきます。長期間にわたって伴走する、大河ドラマ的なお付き合いです。 一方で、M&Aは一瞬の大きなドラマのような感じです。複雑でダイナミックな動きはありますが、早くて数カ月で、長くて1年の伴走になります。両者をうまく組み合わせながら、自分の中で業務のバランスを取っています。また、スタートアップ支援とVC、CVCの業務を並行して行うことで、投資する側とされる側の双方の視点で業務しているのも特徴だと思います。


伸びるスタートアップに必要なのは、周りの人々を惹きつける人格と熱意を持った社長


西山:26年スタートアップ法務に携わり、あらためて、印象に残っているスタートアップについて教えてください。


五島氏:NEXT JAPAN※ という会社は、IPO を経て、トラブルが元になり、会社を売却するというところまでご一緒しました。創業から 最後の最後までお付き合いした非常に思い出深い会社です。創業時のメンバーがいなくなった後、古い資料の内容については、社員よりも私の方がよく知っているという状況でした。最初に名前を出すのはもっと良い結果になった企業が良いかもしれませんが、私としては心に残っている企業なので、ます名前を挙げたいと思います。


また、半導体関連のメーカーである株式会社シキノハイテックにも思い入れがあります。本社がある富山県魚津市は人口が4万人で、蜃気楼の街と呼ばれています。人口も減少し、大きな産業はほとんどありません。そんな中で唯一の上場企業になることができました。カネボウ株式会社の電子関連事業を引き受け、事業を拡大し、そこから IPO に向けて動きました。


尼崎に本社を置く物流サービスを展開する株式会社関通は、IPOを目指す際に証券会社から様々な要求があり、IPO基準を満たすための対応が必要となりました。 無事にIPOを果たし、現在はM&Aによって事業を拡大しています。


西山:IPOに携わった社数を教えてください。


五島氏:9社です。直近では株式会社eWeLLで創業2年目から顧問をさせていただき、創業10年でIPOしました。シキノハイテックさんのように、元々メーカーとしてあって、途中から IPO志向になった企業もありますが、ほとんどは創業期から伴走しています。


オール大阪起業家支援プロジェクトの「第18回ビジネスプランコンテスト」で審査員を務めた(上段、左から2番目)

生態会事務局/ライター大洞(以下、大洞):伸びるスタートアップに特徴はありますか?


五島氏:社長が魅力的であることが最も大切です。ビジネスモデルやポジショニングも重要ですが、周りの人々を惹きつける人格と熱意を持った社長がいて、その上で社長を支える優秀な幹部陣がいれば、その会社は必ず伸びると思います。


頭脳や技術はあるに越したことがありませんが、実際に実務を担当するのは社長ではないので、必須ではありません。それ以上に、求心力があったり、周りの人が「この人だったら協力しよう」と思えるような人間的な魅力が必要です。周りの人が寄ってくるような資質があり、熱意を持っていれば、ビジネスモデルが失敗しても、ピボットして軌道修正ができます。ずるくて、儲けたいだけの社長はすぐに見透かされます。


大洞:今、特に注目しているスタートアップはありますか?


五島氏:頑張って欲しいスタートアップは何社もあるのですが、ここでは2社挙げます。1社は障害者施設向けのe-ラーニングを提供する株式会社Lean on Me(リーオンミー)です。 障害者介護施設での虐待は後を絶ちませんが、多くの場合、単なる思い込みや無知から生まれた対応の難しさに起因します。Lean on Meでは、虐待のリスクを減らすため、介護従事者がe-ラーニングで知識を学びます。従事者の立場に立って、本質を解き明かす取り組みを行っていて、とても画期的です。


もう1社は、トランクルームを運営する株式会社アンビシャス。非常に情熱的な会社で、自分たちが上場することがゴールではなく、従業員から次の経営者を輩出するという壮大な人材育成にも取り組まれています。上手くいって欲しいと思っています。


関西勢は存在感を示すことが大切


西山:関西スタートアップの活性化に尽力されていますが、東京と関西スタートアップの違いは感じますか?


五島氏:関西と東京では情報の入手にギャップがあり、優れたスタートアップでも東京のVC等の目に留まりづらい面があります。関西の課題は、東京との情報格差をなくすことです。私は近畿経済産局主導の J-Startup KANSAIで制度審査員を務めています。J-Startupの関西版ができた理由は、東京の VC からの推薦に、関西の企業の名前がなかなか挙がらないからです。J-Startup KANSAIは実質的にJ-Startupの予選のようになっており、関西で選出されて知名度が上がると、J-Startupに選定されるというパターンがよく見受けられます。


本来は、企業として同じポテンシャルがあるのであれば、関西の企業であっても、東京のスタートアップと同じように評価されるような環境を整えていくべきだと思っています。そのためには、情報発信力を高め、人材育成の環境を整備し、投資家の目に留まるように、関西のスタートアップ企業を盛り上げていく必要があります。行政、支援機関、専門家が一丸となって生態系を活性化させることが不可欠です。


微力ながら、2016年には一般社団法人関西IPOチャンスセンターという組織を立ち上げました。IPOに必要なノウハウを、毎月のセミナーや独自のネットワーキングを通して提供することで、関西から次世代を担う企業の輩出に向けた活動を行っています。毎回人数は変わりますが、毎月10 人~50 人ほどの集まりとなっています。月に1 度の会で、起業家、サポーター、証券会社、信託銀行、VCなどが参加しています。興味がある時にだけ参加できる、無料でゆるい会なので、興味がある方は是非参加してみてください。



関西IPOチャンスセンターの第100回記念セミナーで登壇する五島氏

社会課題解決型のスタートアップは今後の伸びに期待


西山:関西スタートアップの2023年の振り返りと2024年度の展望について教えてください。


五島氏:2023年に特徴的だったのは、民間企業の CVC組成が増加したことです。昨年は、ある大手の証券株式会社や別の大手機械メーカーの関係でのファンド組成を行いました。これとは別に、関西の尼崎信用金庫並びに関東の東京東信用金庫、しののめ信用金庫といった地域金融機関3件のファンド組成を行いましたので、1年間で5件ものCVCファンドの組成に携わったことになります。無限責任組合員(GP)と有限責任組合員(LP)とがファンドを組成するための組合契約の設計や、投資する際の契約書関係や法律問題のアドバイスを行っています。また、上記以外にも株式会社南都銀行のナントCVC というファンドでは、アドバイザリーボードを務めています。


企業系ファンドだけではなく地域金融機関もファンドを組成するのは、融資するだけの金融機関から脱却し、投資を新たな収益の柱にしていこうという目的が見えます。現在、国の方針も含め、経済界全体がスタートアップに資金を流そうという背景もあるので、今後、資金調達はしやすくなるのではないでしょうか。前述の通り、私は、投資を受けるスタートアップ企業側と投資する側のファンド側の双方の視点を知る者として、このような状況を見て参りました。


2023年の後半くらいから、BtoB向けのSaaS系ビジネスの上場が厳しい状況と言われています。とはいえ、環境問題やSDGs、人口減少の問題など、今の社会が抱える社会課題については、既存の会社よりもスタートアップの方が対応しやすいと思います。社会課題解決型も含めたスタートアップ企業は、今後も勢いよく伸びていくだろうと思っています。実際、私のところにも、スタートアップ企業からのご相談はコンスタントに来ていますし、元気な企業も多いです。また、IPOだけではなくスタートアップ企業が成長してM&Aをするという案件も増えてきています。金融緩和政策が続いているので、VCの投資や事業会社からの直接投資、CVCも増えるでしょう。現在の停滞した状態の経済を回復する術としても、スタートアップ支援は欠かせないと言えます。



西山:本日はどうもありがとうございました!



左:大洞 中央:五島弁護士 右:西山事務局長


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