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執筆者の写真下川哲平

イベントレポート:チームの力で新しい価値を創造する「 システムデザイン・ワークショップ」


今回は、ビジネスをする上でもっとも重要な課題の一つである「新しいアイデアの創出」に寄与する、体験ワークショップを企画しました。


たびたび、ユニークな発想をするアイデアマンや起業家がいます。しかしそのような単発のアイデアに頼っていては、仮に短期的な成功を収めたとしても、持続性のある企業運営は難しいでしょう。

個人の偶発的な発想ではなく、組織として確率高く新しい価値やアイデアを生み出し続けられることが理想であるのは、言うまでもありません。


システムデザイン(System design)とは、対象となるモノコトをシステムとして捉えてその「構造」を「可視化」することで、多様な人がそれを理解できるようにするためのモノの見方、あるいは考え方です。


システムデザインを共通言語のように使うことで、(アイデアマンではない)多様なメンバーが本質的なインサイト(気づき・洞察)を探求し、思いもよらなかったような新しい価値やアイデアを発想することができます。

この考え方は、街や社会システムといった大規模複雑なものから、組織マネジメント、新事業創出、商品開発といったビジネス領域まで、幅広く適用できるいわば「思考の基礎体力」のようなものです。


システムデザインを知っていただくために、その代表的なフレームワークをワークショップを通じて体験していただきました。


イベント講師・レポート:下川哲平(生態会社会人ボランティア・株式会社遠藤照明)

 

なぜ”空飛ぶ車”は、梅田の空を飛んでいないのだろう?


この問いかけから、ワークショップは始まりました。

すでにいくつかの企業が、空飛ぶ車を高級車程度の価格で発売しているにも関わらず、梅田の空を飛んでいるのを、私たちは見たことがありません。

商品を開発・生産するシステムが完成しても、それが社会で利用されるには、その周辺にある多数のシステムが成立しなければなりません。

システムを、全体俯瞰して考えることが大切です。

写真:話したいことを詰め込みすぎて進行に焦る下川



人はひとりで全体を見ることはができない


次に、ゴリラの絵を見逃す放射線技師の有名な実験が登場します。

高度な専門家であるほど、認知バイアスの影響で「見つけたいもの」以外のことを見つけることができなくなる・・・この実験結果は、答えがわかっていない未知の問題を考える時には、その道の専門家だけでは解を見つけることが、かえって困難になることを示唆しています。



現代の問題は複雑で不確実


「楽・便利」「性能」「品質」といったシンプルな問題の多くが、十分に開発しつくされた現代社会。

反面、「複雑」で「大規模」で、未来が「確実でない」難しい問題が次々と顕在化しており、私たちはこの複雑な問題を扱うビジネスを考えていかなければなりません。



システムデザインは、多様な人たちがイノベーティブに議論するための共通言語


このような正解のわからない複雑な問題にアタックするには、その道の専門家だけではなく、多様性ある人たちの視点を使って、対象とそれを取り巻く全体を俯瞰して考える必要があります。

しかし、専門家とそうでない人たちが一同に介して、実りある議論をするのは簡単ではありません。

そのような場合に有効となるのが、「システムデザイン」という考え方です。

この考え方を共通言語のように使うことで、対象を構造化・可視化しながら、多様な人たちがイノベーティブに議論できるようになります。

 

システムデザイン・ワークショップ『関西の起業エコシステムを考える』


システムデザインは、フレームワークを使ったワークショップで実践することができます。

今回は生態会の事業課題である、『関西の起業エコシステムを考える』をお題にしてワークショップを体験していただきました。

体験したいくつかのフレームワークを、ここでご紹介します。


なお、このワークショップに参加していただいた篠崎聡氏が自チームのアウトプットをわかりやすくまとめていくださっていますので、こちらのブログもぜひご覧ください。



正しいブレーンストーミング


正しいブレーンストーミングは、ワークショップを行うための基本的な準備作業です。

一般的なワークショップでもブレストが行われると思いますが、いわゆるアイデア出しブレストでは、参加者が知っている既存の解空間のアイデアを出し合うことになりがちです。

しかし本来ブレストとは、アイデア”発想法”ではなくアイデア”連想法”です。

本ワークショップでは連想する言葉を次々に出し続けることで、「バイアスを外して言葉を増やし解空間を広げる」ためのブレストを実施。このブレストのアウトプットは、後に続くワークショップで、既存の解空間の外にある未知の答えを探索するための準備作業となります。

写真:一人最低50枚!頭で考えずに思いついた言葉をとにかく出し続ける



二軸図でイノベーティブな切り口を見つける


ブレストで出た言葉は、二軸図を使って構造化します。

二軸図で重要なことは、正しくて合理的な分類をしてしまわないこと。とにかくイノベーティブな軸を面白おかしく発想し、言葉の集団から新しい気づきや切り口を見つけることを目指します。

写真:みなさん本当に熱量あふれる発表をしてくださいました



すべてはインサイトのために


ところで、本イベントで体験したすべてのフレームワークには共通した重要なポイントがあります。

それは、『インサイトを見つけることが目的』ということです。

インサイト=本質的な気づき・洞察、といった意味ですが、ピーター・ドラッカーはインサイトに基づかないアイデアを「単なるアイデア」と言いました。


例えば、『老人介護施設の入居者数を増やしたい』という課題があったときに、いきなりアイデアを考えてしまう(単なるアイデア)と次のような答えがで出るでしょう。

・バリアフリーの設備

・おいしい食事

・自然豊かな環境

さてこれは、イノベーティブなアイデアでしょうか?


ここでもし、アイデアを考える前に次のような気づき(インサイト)を得ることができたとします。

『高齢者は自分が人生で経験したことや、出来ることを誰かに教えたいと思っているのでは?』

このインサイトを基にしてアイデアを考えたとしたら、上に挙げたようなアイデアよりも、もっとイノベーティブなアイデアが出る気がしないでしょうか?


まずインサイトをつかむ。システムデザインの多くのフレームワークはあの手この手でイノベーティブなインサイトを見つけるための試みと言えます。

写真:インサイトはなに!?頭フル回転で盛り上がってくれました



バリューグラフで目的を構造化する


バリューグラフは、あらゆるプロジェクトで実施が推奨される極めて汎用的なフレームワークです。

当初の手段の上位目的を問い続けると同時に、その代替手段を洗い出します。これにより、議論の生産性を高めることができます。

・目的の構造を可視化、共有できる

・食い違いやすい議論の抽象度を、合わせることができる

・手段への固執を無くし、バリエーションを増やすことができる

・抽象度の高いインサイトが得られる

写真:後半に行くほどボルテージもあがります



CVCAで価値の連鎖を確認する


ビジネスソリューションにおいて、サプライチェーン(商品生産供給の仕組み)はとても重要です。しかしその前に、バリューチェーン(購入の動機となる価値連鎖)は考えられているでしょうか?

CVCA=Customer Value Chain Analysis(顧客価値連鎖分析)は、「そのアイデアには価値があるのか?」という、当たり前だけれども忘れがちなことを確認・説明するためのとても重要なフレームワークです。

写真:みなさんとにかく話が上手い!頭もキレキレでした


 

各チームの素晴らしい発表。システムデザインの有用性を再確認


システムデザインを十分に理解するには、とても短い時間でした。

しかし、参加者のみなさまのパフォーマンスが非常に高く、最後には3チーム+飛び入りの生態会チームがそれぞれイノベーティブなインサイトをつかみ、素晴らしい発表をしてくださいました。

その一部は前述した篠崎聡氏のブログに掲載されておりますのでご覧ください。



本ワークショップのテーマであった『関西の起業エコシステムを考える』に対し、参加したメンバーの属性はスタートアップ関連の方が3名、その他の6名はスタートアップに知見のない企業の社員でした。つまり少数の専門家と多数の非専門家という構成です。


結果として、生態会のみなさまやスタートアップ企業のみなさまが驚き、喜んでもらえる豊かな発想を得ることができましたが、もしこれがシステムデザインというフレームワークのない「単なる議論」だったとしたら・・・非専門家がうまく機能し、しかも専門家の皆さまが想定しなかったようなアイデアを出すことは、簡単ではなかったと想像されます。


システムデザインは、多様な人たちがイノベーティブに議論するための共通言語。


対象をシステムとして構造化・可視化し、多様性あるメンバーでイノベーティブに発想するアプローチの有効性を感じることのできる、素晴らしい機会をいただくことができました。


 

生態会では、今後も毎月、スタートアップに役立つセミナーを開催していきます。

セミナー情報はNPO法人生態会 Peatixイベントページで公開しています。どうぞフォローお願いします!




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