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腸を通じて酸素補充。おしり呼吸で超未熟児を救う世界初の医療機器開発:EVAセラピューティクス

執筆者の写真: 森令子森令子

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社EVAセラピューティクス代表取締役 尾﨑 拡氏に話を伺いました。同社は世界で初めてのEVA(腸呼吸)法による医療機器の実用化を目指す東京科学大学発のスタートアップです。

取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)、森令子(ライター)

 

 

尾﨑 拡(おざき ひろむ)氏 略歴

1957年兵庫県生まれ。藤沢薬品・アステラス製薬に27年間勤務し北米事業に従事、カナダ現法の社長も務める。米国バイオベンチャー(バイオジェン)日本法人社長、マザーズ上場バイオベンチャー(そーせいグループ)の日本法人社長を歴任。臨床開発から商業生産、販売まで医薬品バリューチェーンマネジメントを実践。2015年から事業開発コンサルタントとして活動し、現在も顧問を務める株式会社ヘリオスの事業を通じて、EVAセラピューティクス社ファウンダーの武部 貴則 医学博士*と出会う。2021年に、武部氏チームの “腸呼吸”研究を社会実装するため法人設立。


*大阪大学大学院医学系研究科器官システム創生学 教授、東京科学大学統合研究機構・先端医歯工学創成クラスタ― 教授など役職多数


ファウンダーは世界的研究者の武部貴則氏。東京科学大(旧 東京医科歯科大)発の革新的な医療概念EVAを事業化


生態会 大洞(以下、大洞):本日はありがとうございます。まずは、事業概要を教えてください。


EVAセラピューティクス 尾﨑 拡氏(以下、尾﨑氏):世界で初めてiPS細胞から肝臓オルガノイド(ミニ臓器)作製に成功するなど、世界的に活躍する研究者で、当社ファウンダーの武部 貴則と、彼が率いるチームが確立した革新的な治療概念EVA法を、社会実装するために設立した企業です。EVAとは肺に依存しない腸での換気技術で、わかりやすく”腸呼吸”、”おしり呼吸”などとも呼んでいます。


私たちは、EVAの実用化に向けて、現在、腸換気医療機器「EVA-101」を開発中です。「EVA-101」はO2-PFD(人工血液PFDに酸素を含ませた液体)を肛門より注入し、大腸内で換気を行う機器です。2024年にヒトでの探索的臨床試験フェーズ1を完了、患者への安全性・有効性を確認するフェーズ2を2025年に実施予定で、2030年までに日米での社会実装を目指しています。


「EVA-101」は、大腸検査に使われる「直腸バルーンカテーテル」の医療機器を応用した機器で、点滴のように重力によって腸に液体を送り込む仕組みです。PFDは不活性な液体で、体内には吸収されず、腸から酸素だけが吸収されると考えています。

取材では、フェーズ1の臨床試験で使用した「EVA-101」を実際に見せていただきました。
取材では、フェーズ1の臨床試験で使用した「EVA-101」を実際に見せていただきました。

肺が未発達な新生児は国内で年間15000人。EVA(腸換気)法で新生児の命を救いたい


大洞:腸から酸素が吸収されるとは、驚きました!どのような治療を想定しているのですか?


尾﨑氏:「EVA-101」では、肺が未発達な新生児のレスキューセラピーへの貢献を目指しています。肺が未発達な、呼吸困難な状態の新生児は、日本で年間15000人にのぼり、その50%は死亡または重度障害、20-30%は神経学的障害が残っています。肺が未熟な状態では、人工呼吸にも限界がありますが、肺を使わずに腸を使って呼吸を補助できれば、複数の異なる疾患へのアンメットニーズに対応できます。治療が奏功すれば、新生児は死亡や障害から逃れられ、その子の生涯にわたってのメリットにつながります。


小児科の先生方との意見交換のなかでも、現場のニーズは大変高いと確信しています。超未熟児の1/4が死亡している米国においてニーズはさらに高く、シンシナティ小児病院を含む複数の米国施設へのヒアリングでは、新生児へのEVAについて期待の声をいただきました。小児における医療機器・製薬開発は、安全性の担保において非常に難易度が高いですが、この領域にチャレンジすべきと決断し、集中して取り組んでいます。


2024年に実施した臨床試験フェーズ1は大人の健常者、2025年に予定しているフェーズ2は大人の患者が対象です、今後必要となる小児での試験に向けて、小児科医療機関との連携もすでに始めています。


生態会 森(以下、森):2021年に創業し、すでにヒトでのフェーズ1臨床試験が完了しているのは、迅速な進捗ですよね?どのように実現されたのですか?


尾﨑氏:EVAの開発体制は、東京科学大学を中心に名古屋大、丸石製薬、ムネ製薬、伊藤忠ケミカルフロンティアなどとのコラボレーションです。臨床試験の進捗などスピーディーな実用化展開により、2022年には第4回日本オープンイノベーション大賞「科学技術政策担当大臣賞を受賞しました。


ファウンダーの武部は、世界的な研究実績はもちろん、その成果を社会実装するための”ビジネスの勘所”もしっかり押さえている稀有な研究者です。製薬会社などとの臨床試験フォーメーションなどは、私がこの事業に加わる前に、武部が整えていたので、2021年の法人化とともに、契約締結や資金調達など事業推進に集中することができました。


ドジョウの腸呼吸が発明のヒント。ブタでの研究成果により、イグノーベル賞を受賞!


大洞:この研究はドジョウの生態から着想されたとお聞きしました。非常におもしろいですね!


尾﨑氏:研究のきっかけは、武部のお父さんが肺疾患を患われ、ダメージの大きさ、予後の大変さなど、非常につらい経験をされたことだと聞いています。よりよい方法はないか、様々な研究をするなかで、ドジョウなどが低酸素環境下で腸からガス交換をする「腸呼吸」に着目して発明されたのがEVA法です。


呼吸不全のマウスでの研究により、症状改善が実証され、さらに、大動物、大型哺乳類であるブタにおいても腸呼吸により血液中の酸素が大幅に増え、呼吸不全が改善されることを、明らかにしました。


武部のチームは肺を経由しない腸換気による呼吸法”に関わる特許を取得しています。


森:2024年にはイグノーベル賞も受賞されましたね。どのような反響がありましたか。


尾﨑氏:「哺乳類にお尻から呼吸する能力があることを発見した」ことで2024年のイグノーベル賞生理学賞を受賞しました。真剣に研究を続けている武部としては、受賞を聞いた時は若干の戸惑いもあったようですが(笑)、受賞のPR効果は素晴らしく、多くのテレビ番組の取材などもありました。武部をはじめ研究チームも、授賞式では、ドジョウの帽子をかぶったり、ブタの人形を使って説明したりと、楽しんでスピーチしていました。


これまで30分かけて説明しないと理解してもらえなかった”腸呼吸”の概念が、「ああ!あのイグノーベル賞の!」とわかってもらえるようになったのは、とても助かっています。



2030年までの実用化に向け、10億円の資金調達を目指す


森:資金調達の状況を教えてください。


尾﨑2022年3月に1億5000万円の資金調達をしました。次はシーズステージで、2025年前半に4〜5億円の資金調達を目指して積極的に活動しています。2028〜2030年ごろの実用化を目指しており、そこまでの必要資金は、約10億円を見込んでいます。


研究開発型のディープテック企業では、資金調達が最優先かつ困難な課題です。私は製薬業界が長く、サポートしてくださる多くの方に恵まれていますが、これまでの人脈もフル活用で、とにかくがんばっています(笑)。


大洞:今後の事業展開はどのように考えていますか?


尾﨑氏:まずは、ニーズの高い新生児向けにリソースを集中しており、2030年までの社会実装を実現していきます。もちろん、小児以外にも、体外式膜型人工 ECMOの代替、救命救急での活用など、様々な医療現場への展開にも大きな可能性があります。


特にECMOは、コロナ禍に注目されたように、高度な医療環境とスタッフ人数などが揃っていないと稼働できず、様々な活用制約があります。EVAは、医療現場・患者双方への負担が少ないローテクな治療法です。ECMOの代替などを想定した「EVA201」を当社開発機器の第2弾として検討しています。数年後には臨床試験を開始し、早期の実用化を目指したいです。


少しでも早く、患者さんの治療に役立てていただけるように、チーム全員、全力で取り組んでいます。大阪産業局「HeCNOS AWARD(ヘクノス・アワード)」を受賞し、今年の関西・大阪万博では、6月24日〜6月30日の間、大阪ヘルスケアパビリオンに出展予定です。そこでも注目していただけると嬉しいですね。


 

取材を終えて 

世界的に活躍する武部氏の研究を、バイオ事業開発のプロである尾﨑氏が、業界での長年の経験・人脈など全てを駆使した最速の実用化に取り組んでいます。超未熟児の命を救う社会性の高さ、イグノーベル賞での注目などもあり、早期のEXITに期待です! (スタッフ 森 令子)

関西スタートアップレポート説明

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