関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。
今回は、医師の業務負担軽減・医学研究の促進・患者側も治療内容や現状を知ることで、
主体的に治療を進めることに繋がるソフトウェアアプリ「SATOMI ®」を開発する
エニシア株式会社 代表取締役 小東茂夫(こひがししげお)氏に伺いました。
取材:西村彩恵 (ライター)、垣端 たくみ(生態会事務局)
代表取締役 小東茂夫氏
大阪大学経済学部卒業後、
東海銀行(現MUFJ)・朝日アーサーアンダーセン(現PwC)・
個人事業主・KPMG・京都市産業観光局を経て、個人事業主と両立しつつ京都大学経営管理大学院に通いMBA修了。
多忙な医師を更に逼迫させる文書作成業務、また難病を患うお母様の通院・転院を通して「どうにか解決したい」と強い思いを抱く。
2017年7月、エニシア株式会社設立。同社開発商品®SATOMI は医師の業務負担軽減・また医学研究の促進・患者側も主体的に治療内容や現状を知ることができるソフトウェアアプリ。
過去に「令和元年度起業家万博」において総理大臣賞、AWS賞、NTTデータ賞、Microsoft賞の協賛企業相とITU賞も同時受賞。
京都大学MBA・⽇本メディカルAI学会公認資格取得
医療の未来を変えるべく、止まることなく学び、挑戦する
生態会 西村(以下、西村):本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございます。
早速ですが、事業立ち上げの経緯をお聞かせください。
株式会社エニシア 代表取締役 小東氏(以下、小東):大学卒業後、会計コンサル勤務を経て、京都市役所産業観光局にてスタートアップ起業支援を担っていました。その後、個人事業主として生計をたてつつ、SDMを学ぶために京都大学経営管理大学へ進学しました。
「替えの利く歯車」ではない事業を立ち上げたい、そのチャンスを掴みたいと常に視野を広げることを意識していました。積極的に起業家人材プログラムに参加し、「カルテの要約」というニーズに出会います。
プライベートでは私の母が指定難病を患い、通院に付き添う中で多くの課題や疑問を抱きました。紹介状や電子カルテがあるけれど、転院先の病院で毎度過去の治療について問われます。直近でなくかなり前の病状、治療内容については明確に答えられないですよね。特に高齢者、また病状が悪化し、話す気力も失われつつある方だと、直近の治療内容も話すことが難しい場合もあるかもしれません。患者とその家族、そして医師の間で、もっと情報確認が素早くできていれば互いに労力も減り、早く治療に進めるのではと課題を持ちました。医師・患者双方の視点から考えたサービスを生み出す、これは本気で取り組みたい、勝負したいと強く思いました。
カルテ要約作成支援ソフトウェア「SATOMI®」イメージ画像
そこでデザイン学で共に学び、活動した仲間に掛け合ったところ、快く協力してくれ、事業立ち上げへと繋がりました。
弊社は今年で5年目ですが、周りの方に支えられ挑戦し続け「歯車」感は全くないです。
今後も医療の未来を変えるべく、サービスをしっかりと形にしていきたいと考えています。
西村:小東さんのチャレンジ精神と持ち前の人柄の良さから、チャンスと多くの協力を得られているのだと感じました。前職の会計コンサルや銀行といった経験されてきた経済学と医学では異なりますし、「SATOMI®」を開発する中で困難なことも多かったのではないでしょうか?
前例のない研究開発への苦難、そこから見える希望
小東:それでも開発に励めたのは実生活、母の闘病を通して抱いた課題解決への糸口となることが大きかったのだと思います。「どうにかならないか、自分がなんとかしたい」とずっと思っていました。もう一つは母の担当医師と関わるうちに、先生方の多忙さを目の当たりにした時です。
そうした中で事業立ち上げのきっかけとなったニーズの出し手である先生から、「電子カルテの使い勝手があまり良くなくて困っている」とお話を伺いました。驚きましたが、多忙な医師が事務作業に費やす時間を研究に充てるためにも、自らシステムを組んでいたそうです。医学専門ではあるけれど、必要なことは学習するので情報システムのこともある程度わかるという上昇志向を持つ先生ばかりでした。自分たちの目指すサービスを必要としてくれ、「医学と他業種での交流がなく、こうして自分たちの課題を解決しようとしてくれる人がいなかった」と医学専門でない私たちにご教授いただき、先生方に協力していただきました。
西村:必要なことは忙しくても専門外でも学ぶ、そこから新しいサービスや交流、可能性が生まれるのですね。
事業立ち上げから今日まで、特に苦労されたこと、またうまくいったことを教えて頂けますか?
小東:そうですね、苦労したことの一つは資金調達です。立ち上げ当初、エンジェルマネーとして京大客員準教授の瀧本哲史先生から1,000万円、また大学院時代の仲間も「これは事業としてやるべき、価値のあるサービスだ」と資金面で協力してくれました。次に調達したのが昨年3月。コロナもあり一年以上かかりましたね。中々うまくいかない時にある人に相談した際に、礼儀や誠意をもって接することが大切であると再認識し、意識の変わり目ともなりました。それから無事、資金調達いただくことになりました。現在弊社の資本金は4,600万円です。
西村:次の資金調達の目処はいかがですか?
小東:今年の夏に調達できるよう、準備を進めています。
西村:生態会でお手伝いできることがあればお気軽にご相談ください。生態会が京都の起業家に取材すると、「京都がスタートアップに優しい」とよく耳にします。
どのようなところが優しいのでしょうか?
学生の向上意欲を止めずサポートしあう街、京都
小東:企業との初交渉で、「どこの出身なのか」聞かれると思います。その際に、京大発スタートアップ企業だとお伝えすると、審査がスムーズ、手続きを進めやすいと感じています。研究の為のデータを依頼したとき、社会人大学院生の時と会社員では対応も違ったように思います。学生へはより親切に次のアドバイスまでくださりました。あとはデッド調達で資金が集まりやすい、それほど応援してくれる企業さんが多いのも、京都の特徴かもしれません。
西村:京都が学生に優しい、とはそういうことも含まれていたんですね。逆に関西で起業することにデメリットを感じたことはありますか?
小東:そうですね、資金調達する際に、銀行に出すような事業計画を多く求められたことです。いかに着実な事業ができるのかが重要視される、沢山要求されるわりにリードは取らない。少し時間が勿体なかったなと思っています。
入居中のフェニクシーにて
西村:最後に、小東さんの2022年抱負をぜひお聞かせください。
2022年「エニシア株式会社」の更なる発展に期待
小東:「トップラインを作る」ですね!去年から有難いことに、医療機器メーカーよりコロナの中でも、お取引が始まりました。これをバネにどこまで横展開できるか、どう勝負していくか具体的に決め、資金調達に繋げるかがになると思っています。
また、データの解像を深め顧客の課題ベースで練り直し、システム開発と事業開発どちらも進めたいです。改良し、医師・患者双方のニーズに応えられるプロダクトを提供したい、そう考えています。
垣端・西村:本日はお忙しい中、貴重なお話し誠にありがとうございました!
取材を終えて
「替えの利く歯車」1回転目、2回転目と同じことを繰り返すだけでは、事業が成り立たない、このフレーズが強く印象に残りました。常にアンテナを張り、チャンスを掴むために自分から出向き、ニーズ・賛同者を得て事業を進め、更なる改良を目指す小東さん。
置かれた環境の中で、「現状を改善したい」と思うことは誰しもあるはずですが、
次の一歩を踏み出すことの出来る人は多くはありません。
他者から協力したいと思わせる人柄、
「会社側のできること」ではなく「顧客が求める課題解決」に向けた製品開発、
強い信念を持ち行動し続けられること、
その積み重ねを出来る人が、事業立ち上げから成功に繋げることができるのかもしれません。
現状に満足せず自身で可能性を広げること、
その一歩を踏み出す勇気を、どの状況でも幾つになっても持つことが大切なのだと
取材を通して学びました。(ライター 西村彩恵 )
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