今回は、2019年からの生態会の支援企業であり、スタートアップ支援に熱心に取り組まれている株式会社大広をご紹介します。大広 D2Cビジネス推進局 コンサルティングチーム2のチームリーダー吉原 達哉氏にお話しを伺いました。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)、森令子(ライター)
生態会 西山(以下、西山):大広さんには、スタートアップ支援という志を一つに、生態会の設立初期から活動をご一緒いただき、感謝しています。事業概要を改めてご紹介いただけますか?
チャレンジする社風が特徴の大手総合広告会社
大広 吉原氏(以下、吉原):我々は大阪発祥で、売上高1400億円を超える、業界第4位の総合広告会社です。「顧客価値」を基軸にブランドの活動をつくる「ブランドアクティベーション」による課題解決で、顧客企業をサポートしています。
大広は元々、顧客と企業とのダイレクトな関係づくりを重視してきました。例えば、業界に先駆けて、テレビの通販事業やコールセンター対応といったダイレクトマーケティング支援を行うなどの新規分野へのチャレンジや、受注や売上など顧客の事業に直接貢献するサポートにも積極的な社風です。総合広告会社として特徴的だと思いますね。
生態会 森(以下、森):「通販事業でテレビ広告を考えるなら、まず大広さんに相談!」と言う評判はよくお聞きしています。事業に伴走してくれる頼もしい存在ですね。そういう御社の強みが、スタートアップ支援につながっているのでしょうか?
吉原:そうですね、元々、ベンチャー企業を育てる気運は根付いており、例えば、広告などのコミュニケーション領域では、小規模な制作会社の可能性を見出して、積極的に大企業とつないできました。それが、ビジネス領域、事業課題解決にも拡大してきたといえます。
スタートアップ支援においても、マーケティング支援、事業開発、ビジネスインキュベーションなど、総合広告会社ならではの幅広い手法でサポートを進めています。
大企業とのマッチングから出資まで、幅広い手法でスタートアップを支援
西山:御社は、いつ頃からスタートアップを支援しているのですか?
吉原:ラスベガスで毎年開催されている世界最大級のテクノロジー見本市「CES2018」への出展サポートなど、2017年度にはプロジェクト単位での活動は始めていました。正式スタートは2018年春、事業開発支援の専門部署であるビジネスインキュベーション局が設立してからです。
顧客企業に伴走し、コミュニケーション課題と事業課題の両方を解決し、「顧客価値」を積み重ねていく、それが我々の「ブランドアクティベーション」です。スタートアップ支援においては、協業パートナーとなりうる大企業とのマッチングなどですね。大企業にとっても、スタートアップとの出会いが、次なる事業成長につながるようなプロデュースを心がけています。
現在では、関西ベンチャーフレンドリー宣言への賛同、大阪市のOIH シードアクセラレーションプログラム(OSAP)での企業メンター、J-startup KANSAI サポーター、U30関西起業家コミュニティ パートナー、そしてNPO法人生態会への協賛など、いろいろな活動・連携が進んでいます。
資金面での支援としては、2019年に「アコード・ベンチャーズ 2号ファンド」と「DIMENSION」、2つのベンチャーキャピタルファンドへの出資、2021年には、関西のシード期のスタートアップを対象とした「THE SEED 2号ファンド」に出資をしています。ファンドではなく直接出資として、2021年に、D2Cプラットフォーム事業を展開するBrandit社に出資しました。シナジーによるD2Cソリューション力相互強化を目的とし、業務提携を行なっています。
また、グループ会社の博報堂DYベンチャーズでも、シードからレイターまで幅広いステージのスタートアップに活発に投資しています。
最新の動きとして、2022年3月19日に関西の若手起業家にフォーカスしたラジオ番組「林ゆめの教えて!エコノミスト」が放送されます。大広と博報堂DYメディアパートナーズ、MBSラジオ、毎日新聞出版、Zipangが共同で企画推進しています。
若い人たちに起業という選択肢をより身近に感じてもらうためにも、若手起業家や大学発ベンチャーの魅力をわかりやすく発信していく必要性を感じています。メディアと協業した情報発信は、私たちの得意分野ですから、もっと進めていきたいですね。
西山:様々な活動をされているんですね。吉原さんは、御社でスタートアップ支援の中心的な役割を務めていらっしゃいますよね。具体的にどのようなことを手がけてこられたのでしょうか?
吉原:私は、2017年のCESプロジェクトから関わっています。まずは、どんなスタートア
ップがいるのかを知り、ネットワークを広げるため、関西のスタートアップ・コミュニティとは全てつながろうと、イベントやピッチ、アクセラレーションプログラムなどに、とにかく数多く参加し、支援機関や大学などスタートアップに関係する多くの方々にお会いしてきました。現在は、大企業の新規事業開発とスタートアップのマーケティング支援を両輪でやっており、OSAPやU30関西起業家コミュニティではメンターも務めています。社内でも「スタートアップなら吉原」と、色々な話が集まってきますね。
スタートアップのブランディング成功事例「ロスゼロ」
我々のスタートアップのマーケティング支援として、生態会さんも取材していた注目スタートアップ株式会社ロスゼロの事例をご紹介します。
同社は、食品ロスの解決を目指すECプラットフォーム「ロスゼロ」を運営しています。OSAPメンターとして事業の初期に出会い、食品ロスの解決のため事業の成長を目指す社長の強い思いもよく理解していました。起業家社長のビジョン・ミッションを社内外に伝えるためには、広告会社が得意としているブランディング観点でのアプローチが非常に有効です。同社からの依頼で、「ロスゼロ」のブランド人格を明確化から、メッセージへの落とし込み、ロゴやスローガンの開発まで、ワークショップ形式で行いました。
大企業に提供するサービスをかなりシンプルにして、内容もコストも事業フェーズに合わせた提案ができたと思います。「ロスゼロ」の最近の成長は素晴らしいですよね、我々も、価値ある提案で、貢献できたと手応えを感じています。
西山:ロスゼロのロゴは、非常に印象的です。ブランディングが後回しになるスタートアップも多いと私も感じますが、事業を成長させるために、とても重要なことだと思います。
吉原:そうですね、皆さん、ロゴマークなどでもなんとなく作りがちですが、そうではないんです。我々はブランディングを人に例えています。「企業人格をつくりましょう」とスタートアップの皆さんにも、よくお話ししています。
マッチング会はスタートアップとつながれる場所
西山:御社は、生態会の法人プランに2019年1月から参加され、「関西スタートアップレポート」を創刊号から購読されています。生態会の支援企業となったきっかけ、活動の感想などを教えていただけますか?
吉原:生態会の設立は知っていましたが、スタートアップ関係のイベントで、生態会ファウンダーの樺澤さんにお会いしたのが初対面です。自分だけでは、全てのスタートアップを探しきれないことは実感していたので、関西のスタートアップの情報が掲載されている「関西スタートアップレポート」の創刊は、大変ありがたかったです。
自分が知らないスタートアップをレポート記事で知ることができ、さらに、生態会が、直接つなげてくれるのもありがたいですね。私は、定期的に開催されているマッチング会が特にいいと思っています。記事を見て知っている、顔を見たことがあるといった関係でなく、直接会って具体的に「こうしよう、ああしよう」と相談をして関係が築けるのは、非常に価値がありますね。
生態会のマッチング会で話して、その後、定期的に連絡をとっていたり、実際にパートナーを紹介したり、広告出稿のサポートをしたりといった企業が何社もあります。
西山:私たちの活動に価値を感じてくださり、大変嬉しいです。それでは、生態会に期待することはありますか?
吉原:スタートアップとの接点づくりの点では満足しています。今後は、大広ができることをスタートアップに情報提供していただき、「大広がサポートしたらいい」と生態会が思うスタートアップを紹介してもらうなど、よりマッチングの精度をあげていけるといいですね。
総合広告会社は「なんでもできます」なので、「何頼んだらええねん?」となりがちなんです。我々も、わかりやすいサービスやツールを紹介するなど、工夫していこうと思っています。
西山:生態会も、精度高いマッチングはどんどんやっていきたいと思っています。今日の取材のように、支援企業の特色をよくお聞きして、今後の活動に活かしていきたいです。最後に、今後の展望を教えてください。
吉原:スタートアップにとって、広告会社は敷居が高い存在のようです。「値段が高い」とか「中抜きしてボロ儲けする」とか、、、(笑)。
ですが、広告会社というのは、元々、誰かの役に立ちたいというモチベーションを持つ人間の集まりです。課題解決に向かって燃えてる人を支えたい、うまく行ってなかったらなんとかしてあげたい、という気持ちが強いんです。1→10のフェーズに強い、事業拡大の専門家でもあります。スタートアップにとって我々の視点は絶対に役立つと、日々感じています。
マーケティング担当者を採用するだけでなく、マーケティング専門家である広告会社、クリエイティブ専門家である制作会社など、様々な専門家が関わることで、本当にいい相乗効果が生まれるはずです。スタートアップ支援を事業として拡大し、広告会社のイメージを変えていきたいと思っています。
Comments