関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は株式会社クロボで代表取締役を務めていらっしゃる北氏 智弘さんにお話をお伺いしました。同社は独自で開発したAIを用い、業界最速、最安値で15もの言語の字幕をお客様の動画に作成し付与するサービスを提供しています。
取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)、大澤碩希(ライター)
代表取締約 北氏 智弘(きたうじ ともひろ)
略歴:龍谷大学を卒業後、WEB広告代理店の株式会社オプトに新卒で入社。広告の運用、知見集約、事例創出を担当。後にインバウンド特化の旅行会社であるフリープラスにインバウンドマーケティング事業の立ち上げ担当として入社。事業責任者に着任後には官公庁、ナショナルクライアントなどのインバウンドマーケティングを支援。2019年株式会社クロボ設立。
生態会 垣端(以下、 垣端):本日はお時間いただきありがとうございます。早速ですが事業概要について教えていただけますか。
クロボ 北氏 智弘氏(以下、 北氏氏 ):弊社は独自で開発したAIを用いて動画を15言語に翻訳をし字幕を貼り付けるところまでを行うサービスを提供しています。また弊社のお客様の中には翻訳からわずか1年で登録者数が20万人から120万人にまで増えた事例や海外からの視聴者が大半を占めるようになった事例もございます。
垣端:ありがとうございます。次に起業背景について詳しくお伺いしたいです。
北氏氏:起業を元々したかったからです。そして起業するのならば、自分の人生の軸である”Cross Border”につながるものをやりたいと思い事業を始めました。実は社名のクロボというのはCross Borderが由来となっています。
私は学生の頃に留学やバックパックなどをしていました。一番印象に残っているのは韓国人の友達との出来事です。カナダのトロントに留学している最中、その友達とラーメンを食べている時に、「俺、うじ(北氏氏のあだ名)と出会ってなかったら、日本人嫌いなままだったわ」と言われたんです。理由を聞くと親や学校から日本人と仲良くするなと言われたり、歴史教育などで日本人の悪いところをたくさん聞いてきたからだということが分かりました。そして、「うじと出会ってから考え方が変わった、ありがとう」とも言われました。
とても衝撃的でした。私は平和のために授業を行うなどの特別なことをしたわけではなく、友達になって、一緒にご飯を食べ、お酒を飲んだだけなのに、その友達の価値観を変えて偏見や差別がなくなり、一歩世界平和に繋がったからです。
そして、その時に「偏見や差別は知らないところから生まれる」、だから国籍、人種、性別や宗教などと関係なく交流できる場を作りたいと思いました。そしてその思いを一言で表すCross Borderというのを社名の由来にしました。
垣端:御社WEBサイトのnoteにも書いてあった韓国人の方とのお話が強く影響を与えているんですね。起業を意識し始めたのはいつ頃からですか?
北氏氏:本気で考え始めたのは大学生くらいの時です。その頃に世界で活躍するビジネスマンになりたい、そして起業したいと考え始めました。そこで何をしたらいいのかと考えた時、ITと英語のスキルを身につけるべきだと考えました。そこからは独学で英語を一年勉強して留学し、ITはインターネット広告の会社に入社して身につけまじた。
垣端:そうだったんですね。その会社での経験で良かった事や、辛かったことなどあれば教えてください。
北氏氏:辛かったことは広告の運営の部署に入ったことです。仕事内容としては、日々エクセルを利用して、細かい作業を1人で黙々と続けるというものです。ただ、じっとすることが出来ない私の性分に合わなく、とても大変でした。
良かったことは二つあります。一つは苦手な事が仕事だったので人並みにできるようになったことです。特にエクセルやスプレッドシートなどは他の人よりも少し得意というレベルにはなりました。二つ目は数字から物事を読むことができるようになったことです。経営者は財務諸表から経営判断をすることになるんですが、広告の運用をしているときも似たようなことをしていました。例えば、数値が0.1%程変わっただけで、人々がどういう気持ちで広告をクリックしていたのか等の仮説を立てていました。
垣端:その会社での経験も関わってくると思うのですが、リーズナブルでスピーディーなサービスを実現できている理由を教えてください。
北氏氏:まず翻訳の工程を約10工程に分割していきます。そして数百本の動画でそれぞれの工程での作業時間を測っていくことによって人件費などの費用がどのくらいかかるのかが分かります。それがオペレーション工数を減らすことに繋がり、人件費を下げることにつながっているんです。
垣端:最初ホームページを見た時にこのハイクオリティーかつこの価格でサービスを提供できるのはAIを使用しているからだと思っていましたが、AIを使用する以外にもコストカットを狙った工夫をされているのですね。
北氏氏:もちろんそれもありますが、AIはまだまだ人間が介入しないといけないのでオペレーションはまだあります。
垣端:YouTubeなどの動画を翻訳する業界においてAIを用いるという流れは加速してきているのですか?
北氏氏:そうですね。翻訳業界全体で早まっています。
垣端:どの業界もAI活用の流れは加速していますよね。ここ数年のコロナ禍は御社にとってどのような影響を与えましたか?
北氏氏:追い風であり、向かい風でもありました。
追い風に関しては、ピボットするきっかけを与えてくれたことです。実は我々は創業時から翻訳事業をやっていたわけではないんです。向かい風だと、二期目に倒産しかけたことです。
垣端:やはり開発費がかさんだのでしょうか?
北氏氏:いえ、一期目と二期目は観光業界向けに人材事業をしていました。簡単に説明すると訪日外国人が多いホテルに多言語話者の人材を紹介していました。2019年からこの事業を行なっており、一期目の途中でコロナが広がりました。その時に30社いたお客様が一社もいなくなり、半年ぐらい頑張ったんですけど、上手くいかずキャッシュアウト寸前までいき、ピボットすることを決めました。
垣端:ピボットしようと思ってすぐに切り替えられたんですか?
北氏氏:とても難しかったです。ピボットすることを決めたのは先輩経営者に、M&Aを経てベンチャーコンサルをしている社長の方を紹介していただいたことが大きく影響しています。その方に話を聞いていただいた時に「撤退しよか、儲からんわこれ」と言われ、いろいろ説明したんですが、最後に「倒産したいん?」と言われ完全にピボットすることを決めました。
垣端:その時から次にやる事業は決めていたんですか?
北氏氏:全く決めていないです。その時から次の事業を考え始めました。その当時、新規事業は強みと強みの掛け合わせだと思っていたので、当時いたアメリカ人の社員と私の強みを掛け合わせた事業を30個程作りました。そしてその中からコンサルの方が「クロボは一発でIPOとかではなくて、まずは硬いキャッシュエンジンを作ろう。だから人がやりたがらない、めんどくさい、ストックがある、の三つの要素を満たしているものにしよう」と言われ、30個の案の中から5個に絞ってくれました。その5つの中でクロスボーダーだったのがYouTubeの翻訳事業でした。
垣端:競合はいますか?
北氏氏:いますが参入してすぐに撤退していきます。翻訳には価格の限界、スピードの限界、品質の限界というのがあるのですが、YouTubeの翻訳事業は、普通の翻訳業界の常識が通じないからだと思います。我々は発想を変えてサービスを提供しているんですが発想を変えないと恐らく通用しないんだと思います。
垣端:では今は独自性を持ちながら、ストックを増やしている段階なんですか?
北氏氏:はい。当時はYouTube翻訳という事業で立ち上がったんですが、今はその域を超えて活動しています。文章の翻訳や吹き替えなど、将来的にやりたい事業があと3つ程あるのでそれについても考えながら今はやっています。
垣端:どのような種類の動画が多いのですか?
北氏氏:最近だと海外のゲームの大会の動画やドラマの翻訳などです。今までは翻訳のオプションはノーマルのみだったのですが、今ではハイクオリティ、プレミアとあり、計3種類展開しています。ノーマルだとほぼ100%AIで完結しており、ハイクオリティ、プレミアは95%程がAIによる作業になっています。
垣端:最後の5%は人による作業なんですか?
北氏氏:そうです。実は動画の翻訳ってとても奥が深いんです。文章を翻訳する場合は意味があっていればいいんですが、動画の場合だと字幕が出る秒数が決まっているので短すぎても伝わらないし、長すぎても途中で切れてしまうんです。なのでノーマルだと字幕が表示される秒数や字幕の長さなどの調整は全く行わないんですが、ハイクオリティやプレミアだと細かく調整していきます。
垣端:5%だとしても大きな違いが生まれそうですね。今会社が抱えている課題を解決するために、他者に協力を求めることは何かありますか?
北氏氏:ヒアリングをさせて欲しいです。これからは法人向けにサービスを展開していきたいなと思っています。ですが、法人さんが何に悩んでいるのかなどよくわかっていないために、ペルソナを作るときにすごくぼんやりとしたままになってしまうんです。
垣端:何か想定している業界などはありますか?
北氏氏:やはり映像のエンタメです。例えばポーカーの大会の動画とか映像系の会社、あとはテレビ系の放送局です。
垣端:先ほどオペレーションに関するお話が出てきたと思うのですが、他社からしたら真似しにくいことなんですか?
北氏氏:結論、私はやろうと思ったらできると思います。ただ翻訳をやりたがるスタートアップの社長さんが少ないんだと思います。理由としては三つあります。まず一つに日本人が言語に弱いということ。二つ目に単純に面白くなさそう。翻訳作業と動画の編集作業をするのは非常に手間のかかる作業の割には華やかなイメージがないということも理由としてあげられます。三つ目はとても市場自体が小さいことです。翻訳業界で一番大きな会社ですら売り上げが100億程しかなくてそんなに大きいわけではないんです。
垣端:今後の展開を教えてください。
北氏氏:まずこの2、3年で動画翻訳業界でトップになることです。翻訳業界で大成したあとは、AIでの翻訳というところをベースに事業を伸ばし切る。そして今考えているビジネスモデルを実行に移していこうと思っています。
垣端:そうなんですね。ビジネスモデルの勉強というのは日々されているんですか?
北氏氏:そうです。時価総額の高い会社のビジネスモデルについて考えることが多いです。時価総額が高い会社は新しいビジネスをやっている可能性が高いんです。なのでなぜ儲かっているのかなどを考え、ビジネスモデルを見たあと、自分の会社にも応用できないかなと考えたりしています。
垣端:人材だとどのような方を採用したいですか?
北氏氏:人材だとエンジニアの方と翻訳のプロジェクトマネージャーみたいな人が欲しいです。また、オペレーションがとても得意な方も募集しています。
我々クロボはM&Aは考えておらず、IPO基準で考えています。IPO基準にしている理由としては、今すぐのIPOを目指している訳ではないものの、選択肢として残しておきたいからです。いつか証券会社の方から「IPOしてくださいよ、クロボさん」と言われる会社にして行きたいです。
垣端:素晴らしい目標ですね!本日は取材のご協力ありがとうございました!
取材を終えて:インターネットが普及している今の時代、多くの人が海外の情報に触れることが可能ななか、クロボさんのような様々な言語で翻訳してくださる企業があることによって私たちはその国の情報を知るハードルがさらに下がっているなと感じました。
翻訳と世界平和がつながるとは取材前までは考えたことがありませんでしたが、北氏さんがおっしゃっていたように偏見や差別は知らないところから生まれるという言葉にとても共感し、また翻訳をした動画を通して平和な世の中に一歩近づいたらなと思いました。これからも応援しています!取材ありがとうございました!(ライター大澤)
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