関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、独創的な写真を生み出すクリエイターと高品質でオリジナルの写真を求める企業・ブランドをつなぐプラットフォームとしてcizucu(シズク)を展開する株式会社cizucu(シズク)で、代表取締役CEO兼CTOを務める太田優成さんにお話を伺いました。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)
藤本恵子 (ライター)
太田優成(おおた ゆうせい)さん略歴
1998年、大阪生まれ。東京大学経済学部を卒業。大学入学を機に、趣味でアプリ開発をスタートさせ、日本最大級の お料理カメラアプリ「SnapDish(スナップディッシュ)」をはじめとする複数の人気アプリケーション開発に従事する。在学中(2021年)にコーヒーアプリを運営する株式会社 KOHIIを共同創業し、CTOとして同社を牽引。2022年11月に株式会社cizucuを創業。
「Inspire Your Photo Creativity」をミッションに、日本初のコミュニティ・ストックフォトサービスのグローバル展開を目指す。
クリエイターの創作活動をサポートしたい
生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ではありますが、太田さんが現在運営しているコミュニティ・フォトストックサービスをなぜスタートされたのか教えていただけますか?
太田 優成氏(以下、太田氏):はい、実は現会社の前に、大学時代に創業経験がありまして、その際に多くのクリエイターさんと知り合ったことがきっかけの一つでもあります。
西山:大学時代にも、起業されているんですか!
太田氏:はい。東京大学経済学部卒なのですが、周囲に学生起業をする友人も多く、そういった環境に恵まれていたので、起業に対して心理的ハードルがそこまで高くなかったことも大きいと思います。
環境的要因と共同創業することになるパートナーとの出会いが重なり、日本全国のロースターから簡単にコーヒー豆を購入することができるマーケットプレイスを運営する株式会社KOHIIを創業することになりました。その事業を通してたくさんのクリエイターさんとの繋がりが全国にでき、彼らの生み出すクリエイションに毎日驚いていました。会社を離れるタイミングで、お世話になった方々を始め、クリエイターさんの創作活動をサポートできないかと考えたことがきっかけの一つです。
また、それとは別で、クリエイターである友人から「生活が厳しいから夢を諦めるべきかな、何かアイデアないかな」と、同時期に連絡があったこともきっかけです。
周囲にアンケートを取ってみたところ、カメラ・レンズなどの機材への先行投資に平均87万円ほど必要です。撮影の事前準備や納品までの作業などの時間を考えると実質的な時給としてはおよそ750円とリターンが小さく、不安定な職業になっているのが現状です。
フォトグラファーとしての夢を諦めて一般企業などに勤める友人・知人を多く見てきたので、なんとかできないかと思いこのサービスを立ち上げました。
また、自分を含むcizucuの創業メンバーも写真好きということもあり、このサービスへの想いに全員が共感・コミットしたいと思ったことも大きいですね。
今までにない、新しいコミュニティ・ストックフォト
西山:それでは具体的に、どのようなサービスか教えていただけますか?
太田氏:はい、我々は「Inspire Your Photo Creativity - もっと楽しく、もっと自由に。」というミッションを掲げ、あなただけの1枚を生み出す コミュニティ・ストックフォト プラットフォーム「cizucu(シズク)」を2023年3月にスタートしました。
その中で、「ストックフォト」「フォトコンテスト」の2つをメインサービスとして現在は展開しています。
ストックフォトサービスでは、クリエイターが撮影した写真をプライベートな用途で投稿だけに利用したり、ポートフォリオとしても活用できるので、一眼レフのカメラだけでなく、スマホで撮影した写真なども気軽に投稿できます。
購入者である企業やブランドはそれらの画像を購入することができ、その購入金額の一部がクリエイターに支払われます。
西山:私もよく資料や販促物作成に、写真サービスを使います。よく使うのはACフォトやPIXTA、その他無料のサービスなどですが、このサービスの特徴はどんなところですか?
太田氏:一般的なストックフォトサービスですと、たくさんある画像の中から検索して選ぶといった作業が発生してくると思うのですが、cizucuでは「こういった資料でこういう素材が欲しいです」と要望すると候補が出てくるので、他社と比べて求める写真を探しやすくなっています。
また、一般的には料金体系もサブスクや年間契約などが多いと思いますが、cizucuはほしい写真を1枚から購入できます。
西山:私も他のサービスでサブスクモデルと知らずに一度使ってから、そのまま勝手に課金されていることがありました。1枚から購入できるのは嬉しいですね!
写真を購入される企業は、どんな業界が多いのでしょうか?広告代理店などですか?
太田氏:広告代理店に加え、百貨店などもあります。自分たちからも営業をかけ、どういった機能やサービスが欲しいかなどヒアリングと改善を繰り返しながら展開しています。
また、購入サイドとなる企業等と一緒に取り組める他社には無いサービスとして、「フォトコンテスト」があります。これは、企業・ブランドとcizucuがタイアップしてテーマを設けたコンテストを開催できるサービスです。
企業は高品質のオリジナル写真をクリエイターから集めることができたり、普段は言葉で伝えている企業理念やブランドの想いなど、お客様に伝えたいメッセージを写真とし募集できる場となっています。
どんなクリエイターでもコンテストにチャレンジすることができると同時に、企業・ブランドが伝えたい想いに共感して応募していただくといった新しい共創が生まれます。
藤本:これまでどんなコンテストを開催してきたのですか?
太田氏:直近ですと、あぶらとり紙で有名な京都のよーじやさんとコラボし、「よーじやと私」をテーマにしたコンテストを開催しました。(詳細はこちら)
全国の方々にも「よーじやの肌ケアアイテムの魅力」を知ってもらい、お土産としてだけではなく、日常の何気ない瞬間にもお使いいただきたい。という想いから、生活の中によーじやのアイテムが溶け込んでいるような、いろんな方にとっての「よーじやと私」を表現していただく企画となっています。
その他、これから秋に向けていくつかの企業ともタイアップを控えており、フォトコンテストでタイアップできる企業を更に増やしていく予定です。
その他にも、今後は飲食店業界などとタイアップして、空いているスペースを間借りして投稿写真を飾るなど、オフラインでの取り組みも増やしていきくなど、cizucuを通して色々な方が写真に触れ、楽しめる場を提供していこうと考えています。
西山:市場はどれくらいの規模なのでしょうか?
太田氏:フォトストック市場はグローバルで約4000億円、国内で約150億円(2021年)です。日本国内では小規模ですが、今あるストックフォトサービスを仕方なく使っているといった方も多く、cizucuがイノベーションを起こしていこうと考えています。
一般的に、1枚の写真で最大700文字の情報を込めることができると言われています。また、画質を2倍改善することで広告等のコンバージョンを15%改善できるとも言われています。
昨今、企業が広告制作に使った費用は約4,203億円(2021年)となっており、こういった点から、企業は予算をしっかりと割いて高品質でオリジナルの素材を求めていること、市場が大きいことがわかります。
これらから、独創的な写真を生み出すクリエーターと高品質でオリジナルの写真を求める企業・ブランドをつなぐプラットフォームとしてcizucuが新しい市場を生み出していけると見込んでいます。
藤本:これまで応えることができなかったニーズを考えると、市場のポテンシャルも大きいですね。cizucuとしてはどこを競合として見ていらっしゃるのでしょうか?
太田氏:競合サービスとしてはPIXTAなどをイメージするかと思うのですが、我々はコミュニティー型であることを強化しているので、インスタグラムなども競合として捉えています。
インスタグラムで投稿している画像が購入できるようなサービスだと思っていただけると、イメージしやすいかと思います。
「売れる」と「見つかる」体験を作っていくために、まずはフォトコンテストなどのコミュニティーを築いて行きながら、フォトストックとして拡大させていこうと考えています。
藤本:創業メンバー3名とのことですが、このcizucuのアプリはどうやって作ったのでしょうか?
太田氏:アプリは自分が開発しました。なので、CEO兼CTOなんです。
大学時代にインターンシップで働いていた会社からアプリ開発の要望があり、独学で知識や技術を身につけました。その時の経験が役に立ち、現在のサービスも自分で作っています。
藤本:なんと、、、経済学部卒業と伺いましたが、エンジニアとしての知見も持っていらっしゃるとはすごいですね。
太田氏:はい、大学時代のインターンはとても貴重な経験になりました。なので、ぜひチャレンジしたい大学生がいたらcizucuへインターンとして来て、自分と同じように将来への糧にしていただきたいと考えています。
今後の展望
西山:それでは最後に、今後の展望を教えていただけますか?
太田氏:我々cizucuは2025年までに国内リーディングカンパニーとなり、2028年にNASDAQへ上場し、グローバル進出をしたいと考えています。そこから更なるスケールを行い、2030年には世界最大のストックフォトプラットフォームを目指しています。
スタートアップ企業での資金調達やグロース経験を持つ方、グローバルで活躍するArt Directorなど、多様なバックグラウンドを持つチームメンバーが事業開発に関わっており、グローバルを目指すメンバーとして組織も構成していっています。
スマートフォンの普及によって写真を撮ったことがない人を探すことのほうが難しいほどの時代になりましたが、ストックフォトを使って収益になれば、旅行や食事ももっと新しい楽しみ方ができるのではと考えています。
企業としても、これまで自分たちだけでは表現し切れなかったクリエイティブの価値を、一般ユーザーを巻き込むことで、もっと高めていければと考えています。
西山:今後の展開が楽しみですね。本日はありがとうございました!
取材を終えて
身近にいる友人などがフォトグラファーとして食べていくことの難しさを太田氏は目の当たりにし、「若く、才能あふれるクリエイターが夢を諦めず世界へ羽ばたいていけるように」と本サービスをスタートされました。その裏側では市場インパクトや実現可能性など綿密な調査のもと戦略立てて設計し、25歳ですでに起業家としての成功や失敗の経験が豊富なことに感銘を受けました。
東京大学経済学部約30名のクラスメートのうち、5-6名が学生時代に起業しており、起業はキャリアの選択肢の一つであったという話が印象的でした。
お話を伺い、私も一クリエイターとして、cizucuを通して写真を楽しんでみたいと思いました!(ライター 藤本恵子)
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