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日本の豊かな食を世界中の将来世代へ:カンブライト

関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、日本の食を次世代に残すため、缶詰を軸に多角的に事業を展開する 株式会社カンブライト 代表取締役 井上和馬(いのうえ かずま)さんにお話をお伺いしました。


取材・レポート:

森令子(生態会 事務局)・奥田菖斗(生態会 学生スタッフ・ライター)

 

井上和馬 代表取締役 略歴


1978年大阪府生まれ。大阪工業大学卒業後、ソフトウェアの受託開発、企業向けパッケージソフトウェア設計、 WEBプロモーションのSEO事業マネージャとして15年間、IT業界に従事する。


テレビ番組をきっかけに、エンジェル投資家である大藪崇氏からの支援を受け、2015年9月2日に株式会社カンブライトを設立。




 

■将来に食を残すためなら”何でもする”

生態会 学生スタッフ 奥田(以下、奥田):本日はありがとうございます。まずは、事業概要について教えていただけますか。


株式会社CANBRIGHT 井上氏(以下、井上):3つの事業を展開しています。一つ目は、缶詰レシピ開発事業。二つ目が、小規模な缶詰加工場の立ち上げを支援するスマート工場開発事業、そして、三つ目がSaaS型クラウドシステムサービス開発事業です。SaaSサービスは、今年2021年の8月の正式ローンチに向け、今一番注力している事業です。


奥田:幅広く展開されているんですね!御社の独自性はどういったところですか。


井上:私たちは、良くも悪くも”何屋かわからない会社”なんです。それが独自性と言えるかもしれません。サービスや商品ありきで始まったのではなく、“解決したい課題”を前提とした会社です。


その課題とは、「子どもたちに豊かな日本の食を残せないのでは」ということです。日本の小規模食品事業者や第一次産業は非常に苦しい状況にあります。持続可能な産業になっておらず、どんどん衰退しており、豊かな日本の食を将来世代へ届けることが困難になりつつあるのです。


食の問題には、以前から関心を持っていたのですが、ITエンジニア時代のカンボジア長期出張が、大きな契機になりました。カンボジアでは、自炊したくても食材のクオリティが悪かったり、日本で数百円の定食に数千円を払ったりと、食事に苦労したのですが、その経験で、日本の食のクオリティの高さと、海外での高い評価を実感しました。


”食”の課題の解決には、小規模事業者が世界市場で戦える力を持つことが必要ではないかと考え、そのためのツールとして、”缶詰”に注目しました。ただ、缶詰を売るのではなく、小規模事業者の支援になる事業をしたい、という思いで突き進み、現在、3つの事業まで拡大しました。



奥田:そうだったんですね。しかし、いきなり食品業界に入るのは大変だったのではないですか。


井上:その通りです。元々、ITエンジニアですから、食品業界のことは知りませんし、もちろん、缶詰の作り方もわかりません。ただ、15年のエンジニア経験から、”課題がわかれば解決できる”という自信はありましたね。何をしたいか明確なら、あとは自分が学ぶだけですから。とはいえ、学べば学ぶほど、缶詰は難しい産業構造でした。


■誰もが参入可能な缶詰業界を目指し、事業拡大

奥田:”難しい産業構造”とは、具体的にどういうことですか。


井上:缶詰は何十万缶という大規模製造がベースで、小規模事業者では参入自体が厳しい業界なんです。製造ノウハウや知識も出回っておらず、とにかく、新規参入するには失敗する可能性が高いのです。


カンブライトも当初、最小ロットである1日2000缶を生産するために、5〜6種類の缶詰を一気に開発・販売しました。結果は、ひどい出来栄えの缶詰ばかりが完成。しかも、製造には1日200kgの原料が必要で、全く採算が合わない状況でした。


奥田:その課題をどのように克服されたのですか。


井上:自前のラボを京都に開設、小ロットで缶詰の製造・開発事業を立ち上げました。5坪ほどの小さな施設に、キッチンのほか、できるだけ小ロットで作れる機械を探して設置し、受託開発を始めたのです。


ラボでは、1種類100缶のロットで商品化を請け負いました。小ロットなので高単価になりますが、100缶程度なら、小規模事業者でも挑戦でき、なんとか売り切れるものです。また、高付加価値なギフトとしての市場を開拓するため、店舗も運営しています。この缶詰開発事業で試行錯誤を重ね、おいしい缶詰作りのノウハウ、売れる商品を育てるノウハウを蓄積することができました。

レシピ開発事業風景
缶詰レシピ開発ラボ

奥田:缶詰業界に身を置いていなかったからこその発想ですね。次に、スマート工場開発事業に取り組んだのは、なぜですか。


井上:開発案件も増え、商品化も成功し始めましたが、私たちは、缶詰製造業をやりたい訳ではありません。そこで、「カンブライトは工場を持たない」と決め、ラボは開発に特化、地方の事業者と共同で工場を立ち上げることにしました。例えば、廃校を工場にし、地元の人たちを雇用し、ノウハウを伝えて製造委託するといったことです。缶詰開発の延長で、工場立ち上げコンサルも事業化したのです。


自社開発のCAN MAKER

実は、この流れは、自社開発した機器「CAN MAKER」でも同じなんです。これは、缶詰製造に必須の真空巻締機という機械なんですが、ラボで使用していた既存の小ロット用機械は、品質に不安がありました。かといって、業界標準の機械は大量製造が前提で、専門技術者しか取り扱えないなど、私たちの事業とは全くマッチしません。


少量多品種の缶詰製造に対応できる機械が、どうしても必要でした。そこで、「なければ自分たちで作ろう!」と、賛同してくれた企業と共同開発したのが「CAN MAKER」です。


奥田:”なければ作る”という突破力が、”何屋かわからない会社”に繋がっているのですね。その一端が垣間見えた気がします。


■”なければ作る”の流れでシステムも開発、いよいよAll in Oneの事業へ


奥田:今一番力を入れているSaaSシステム開発は、どういった経緯で始めたのですか。


井上:2021年6月からHACCAPが制度化し、食品事業者は、工程を記録することが必須になりました。これは非常に面倒なことです。特に、地域の高齢者を中心に事業をすることも多い地方の現場では、かなり困難です。


そこで、書類電子化、受発注・在庫管理など全てを網羅するシステムがないか、探し回ったのですが、どれも一部分に特化したシステムばかりでした。既存システムでは、工場運営のため5〜6種類のサービスを導入し、連携させる必要があります。手間もコストも大きな負担となり、結論としては、小規模な食品事業者のためのシステムは存在しない、ということがわかりました。そこで、またもや「自分たちで作るしかない!」と思い至りました。


その結果、商品・受発注・在庫・製品・製造・記録を管理するSaaS型クラウドシステムサービスの開発に成功したのです。


生態会事務局広報 森(以下、森):事業者の皆さんにとって、頼りになるシステムですね。


井上:そうですね。開発や工場立ち上げなどの経験が豊富な我々が開発したので、システムについては、「製造現場をリアルにわかっている」「早く欲しい!」と、かなり高評価をいただき、期待の大きさを感じています。まずは、このシステムを日本中に広め、小規模な食品製造業のお役に立ちたいですね。その後、他の製造業にも進出したいと考えています。

SaaS型クラウドシステムサービスで食品製造業を助ける

■エンジェル投資家・大藪会長との出会いはテレビ番組

森:システム開発など、事業拡大には資金が必要ですよね。資金調達の面は、どのような取り組みをされていますか。


井上:カンブライト会長でもある大藪崇氏が、エンジェル投資家として、フェーズごとに支援してくれています。ご存知のように、システム開発にはまとまった資金が必要です。外部調達も検討していましたが、まずは、大藪会長に相談したところ、追加投資を即決してくれました。設立前から継続的に支援してもらっており、その信頼には感謝しかありません。


大藪氏を知ったのは、テレビ番組なんです。「社会課題を解決する起業家に投資をしたい」と番組で話されているのを偶然見て、私から連絡し、事業の構想を話したのがきっかけで、本当に素晴らしい出会いでした。実は、直接会ったのは数回だけなのですが、私たちからは、現状や課題、方向性を報告する1時間程の動画メッセージを、毎月メールで送っています。私たちは、ひたすらに明るい未来を語り続けること、とにかく人よりも早く動き続けることを実践しています。「その姿勢を信頼してくれているのかな」と感じています。


奥田:井上さんのビジョンに共感し、信頼してくれているのですね。進み続けるカンブライトの事業ですが、今後の展望はどうお考えですか。


井上:SaaSシステムが完成したことで、缶詰工場開発→機械購入→全体のコンサル→システムで管理、という地方の小規模事業者が参入しやすいフローが出来上がりました。3つの事業、どれがメインということではなく、開発・製造委託・販売といった一連の流れが、管理システムを通したAll in One事業として、ようやく整ったということです。


ここまでで、創業期に描いたビジョンの達成率は50%ほど、まだまだ、やりたいこと、やるべきことはたくさんあります。その一つとして、フードテックベンチャーとして海外への展開も目指しています。


実は、今年、インドの新卒学生4名をエンジニアとして採用しました。開発初期から海外エンジニアがチームに参画することで、将来のスムーズな海外展開を目指しています。また、グローバルな組織として魅力を高め、優秀な人材に集ってもらい、ますます拡大したいと考えています。


奥田:今後の事業展開に、ますます期待が高まりますね。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


(写真左から)生態会 奥田、カンブライト 井上氏、生態会 森
 

取材を終えて

井上氏の事業に対する熱い想いが強く伝わり、その想いを現実にするための準備を、段階を経て、進めてきたストーリーが印象的でした。現在は、SaaSシステム開発まで進んでおり、日本の食を世界へと届ける体制が整いつつあります。飛躍の準備を進めるカンブライトの今後に、ますます期待が高まります。(学生スタッフ:奥田)


追記:こちらの写真は、京都にあるカンブライト直営店舗「ひとかん」で、私が買った缶詰たちです。「ブルーシーフードカレー ワカメのキーマカレー」はご飯と炒めて簡単カレーチャーハンに、店員さん曰く”一番人気”の「青春アヒージョ ハーブへしこのオイル煮」はお酒のつまみに最高でした!


珍しい缶詰ばかりで、選んで楽しく食べておいしく、パッケージもおしゃれで、ギフトに人気なのも納得。通販サイトも充実してますよ!(生態会 森)












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