関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家。今回は、食品ロスを未然に防ぎ、その有効利用を目指すプラットフォーム「ロスゼロ」を運営されている、株式会社ビューティフルスマイル代表取締役、文美月さんにお話をお聞きしました。
取材:西山裕子(生態会事務局長)
レポート:ミズノユキ(社会人インターン)
<文美月(ぶん みつき)代表取締役 略歴>
1970年生まれ、奈良市出身。
2001年にヘアアクセサリーECサイト『リトルムーン』を起業。
2015年に2社目を起業し、2018年に「ロスゼロ」事業開始。
2019年大阪府食品ロス削減推進パートナー企業に認定。2019年より大学で食ビジネスの講義を担当。
2020年「食品産業もったいない大賞」審査委員長賞受賞。2021年東大阪市と包括連携協定を締結。
生態会 西山(以下、西山):本日はお時間いただき、ありがとうございます。最初に事業を立ち上げられた背景などを、お聞かせください。
株式会社ビューティフルスマイル代表取締役 文美月氏(以下、文):2社目の起業として、現在、食品ロス削減事業の「ロスゼロ」に力を入れています。私は、1社目のヘアアクセサリー事業のかたわら、社会貢献活動として、使われなくなったヘアクセサリーを日本全国で約4万点回収し、発展途上国をはじめ世界10か国に寄贈。その一部を現地販売して得た資金で就学・就業支援を行なっています。
会社の費用負担がほぼなく、ビジネスと社会貢献が両立できています。これが「ロスゼロ」の原点です。この活動から、「誰かは不必要になったけれども、他の誰かは喜んでくれるものならば、そのリユースには価値がある」、さらに「自分が19年培ってきたeコマースの仕組みを活かせば、ビジネスとしてやっていける」と思いました。もっと大きな社会問題をITの力で解決したいと考えた時、最も”モッタイナイ”ものは食べ物のロスと考え、「ロスゼロ」を始めました。
ミズノ:ボランティアと「ロスゼロ」は、どのように違うのでしょうか?
文:食の課題解決に向けたボランティア活動はたくさんありますが、共通する問題は「続けるための資金」です。私は資金をしっかり確保し、継続的なビジネスとして成立させたいと考えています。そのため、どこにビジネスのドメインをおくかは冷静に見ました。食品ロスは、農家などの生産者、食品メーカー、卸、小売、飲食店、家庭など様々な場所で発生します。家庭の食品ロスを減らすボランティアは多く、飲食店を扱うスタートアップもすでに数社ありました。ただ、食品メーカーにフォーカスする企業は当時まだ少なく、複数の知人経営者から事前に事情も聞いていたので、ここに参入しようと決めました。
ミズノ:具体的に食品メーカーでは、どんな食品ロスが出るのですか?
文:「規格外」の他に、日本独自の「3分の1ルール」というフードサプライチェーン上の商慣習によって、多くの食品ロスが生まれています。例えば、賞味期限が1年間のクッキーは、メーカーが最初の4ヶ月のうちに流通に乗せないと卸事業者が買ってくれなくなります。とはいえネットで直販をやっていないメーカーがほとんどで、どうしたら良いか分からない。でも、私たちならeコマースの経験を生かして、残りの8か月の間、直接お客様に届けることができます。食品ロスになりそうなものって、決して賞味期限ぎりぎりのものだけではないんですよね。その他にも、メーカーと一緒に規格外品の再パッキング販売や新商品開発をしたり、D-to-Cを15年以上やってきた経験を活かしてロスゼロが自らメーカーとなり、余った原材料でオリジナル食品も作っています。
西山:ビジネスの仕組みについて、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか?
文:お客様のご注文量に合わせてメーカーから買い取る場合もあれば、メーカーからお客様に直送してもらってプラットフォーム手数料をいただく場合もあります。これまでメーカーは廃棄するにもコストを払っていたので、私たちが関わることで、想いを込めて作った商品を消費者に食べてもらえるだけでなく、余分な費用を削減でき、環境への負荷も減らせます。さらに、収益の一部で社会課題解決への寄付や食品の寄贈も行っています。
ミズノ:ロスゼロのサイトを見せていただいて、企業名がしっかり書かれていて驚きました。食品ロスの販売が「ブランド毀損」にならないのでしょうか?
文:ロスゼロでは基本的に企業名も出していただき、商品への想いや、ロスとなった止むを得ない事情をきちんと掲載します。「もったいないものも、積極的に食べきろう」という機運が社会に広がったことで、消費者からの理解も得やすい時代になってきたと思います。ですので、メーカーのブランドが傷つくことがなく、新しい顧客につながるメリットも出ます。この取り組みが評価されて、メーカー同士の口コミで多くの企業からのお問い合わせをいただいています。
西山:企業と顧客をつなぐB-to-B-to-Cの事業は最も手間がかかる、と言われていますが、なぜ敢えてそこに挑戦されているのでしょうか。
文:私たちには一社目で培った、100万人をはるかに超えるカスタマーサービスやデータ管理の経験があります。1日1,000件の即日発送を行うノウハウも持っています。これを強みと考えています。しかも、消費者に直接かかわることで、ニーズや社会の動きを把握できるメリットもあります。現在、ロスゼロの事業は、ほぼ3人で全てを行っているのですよ。
西山:えっ!わずか3人ですか?
文:厳密にいえば、もっと少ないかも(笑)。これまでのECの経験から、速くて低コストのオペレーションで最大の売上を作る仕組みを作っています。でも、「モノだけでなく、作り手のキモチも届ける」ことを一番心がけています。できるところは最大に自動化しますが、アナログな時間も大切にしています。人の気持ちはシステム化するものでも広告で得るものでもありませんから。具体的には、販売サイトとブログを直結させてサイト自体をメディア化し、食品ロスの必要性がより多くの人に届くようにしています。また、行政や学校での講演や啓発活動は、私たちの事業への信頼性を高め、営業活動を不要にしています。
ミズノ:販売サイト「ロスゼロ」以外の事業についても、お聞かせください。
文:レストランやカフェでロスになりそうな食材を使った食事会、「ロスゼロ食堂」を不定期で開催しています(現在休止中)。生鮮食品ロスのネット販売は難しいけれど、レストランと農家や漁師さんがコラボすれば美味しい料理として提供できます。この取り組みは新しいお客さんを取り込みたい、と考える飲食店にもメリットとなります。
食品ロスの削減には二つのアプローチがあって、「発生してしまったものをシェアリングして廃棄を防ぐ」側面と、そもそも「廃棄が発生しないように工夫する」側面があります。2021年1月からは未利用原材料で作るオリジナル食品「Re:You」の販売を開始し、ロスゼロは両方からアプローチできるようになりました。他にも、百貨店さんとの取り組みもスタートし、他業種の企業さんともいろんな可能性を探っています。
ミズノ:食品ロスの市場規模は、どのくらいとお考えでしょうか。
文:現在、日本の食品ロスは年間612万t(H29農林水産省推計)で、ロスゼロが削減に貢献できたのはまだ僅か。国は事業系、家庭系食品ロスともに、2030年度までに2000年度比で半減させる目標を立てています。つまりこれから「ロスを減らすためのマーケット」が数字として現れてきます。
例えば、チョコレートはバレンタイン期間だけでも1,300億円以上の市場ですが、ロスを仮に3%程度と推測した場合、毎年40億円が行き場を失っていることになります。何らかの理由で、畑で捨てられている野菜や果物などを入れると、さらにマーケットは大きいと考えられます。なので、私たちは食品ロスを通じて食分野のイノベーションをどんどん起こしていきたいと考えています。これから活動を拡大させていきたいので、一緒に進める仲間も大募集中です!
ミズノ:「食品ロス」はまるで、「都市鉱山」のようですね!新事業スタートが楽しみです。 今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
取材を終えて:文さんのお話を伺い、食品ロスは「ゴミ」ではなく「宝の山」に見えてきました。「社会問題をビジネスの力で変えたい」、「環境問題に配慮しながらも、買い物や食べることの価値を高めたい」。その強い思いを、ひしひしと感じました。約20年間、ECの世界で蓄積したノウハウを惜しみなく投入する一方、2度目の起業として初心に戻って、貪欲に新しいビジネスを生み出そうとする姿勢に、感銘を受けました。現在、大手商社や異業種からの問合せや商談が相次いでおられ、注目度の高さを感じます(社会人インターン・ミズノ)。
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