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執筆者の写真西山裕子

ARモジュールで製造業・医療現場・教育現場を革新するバーインテック

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回はARモジュールの開発・生産を行うベンチャー企業、バーインテック株式会社 の代表取締役社長、増田 麻言(ますだ まこと)氏を取材しました。


取材・レポート:西山裕子(生態会 事務局)・石井詠子(ライター)


 

代表取締役社長 増田 麻言氏 略歴

1961年生まれ、香川県出身。岡山大学工学部卒業。


Panasonic株式会社、キヤノン株式会社にて機械設計業務に従事。その後シャープ株式会社にて光学製品における研究開発に従事。同社を退社後、2016年にブルーオプテック株式会社を設立。


2018年、光学研究開発の技術を用いたARモジュール特化型開発企業、バーインテック株式会社を設立。


 

前身のブルーオプテック社で培った、光学研究開発技術


生態会 西山(以下、西山):本日はありがとうございます。はじめに事業の概要を教えていただけますか?


増田麻言 代表取締役社長(以下、増田):弊社は前身のブルーオプテック社から、ARモジュール開発に特化した会社として設立しました。ブルーオプテックでは、光学に纏わる商品を手掛けています。主には光学製品の設計、試作品の開発、量産設備の開発のコンサルティングを行っています。試作設備も保有しているため、開発・設計・量産設備設計・量産と光学研究開発という、一連の流れを請け負うことができます。この光学技術力を用いてARモジュールに特化した開発を行うためバーインテックを設立しました。


けいはんなオープンイノベーションセンター内に、事務所を設立

西山:なぜ、ARモジュールに特化した会社を設立されたのでしょうか?


増田:ブルーオプテックは2016年11月16日設立ですが、この商品をやりたい!というわけではなく、今までの知識を活かしてお客様の課題解決をしたいという想いからスタートしました。光学開発・コンサルティングを1年半行い、お客様の依頼を受けるうちに、「開発から試作もお願いしたい」「量産設備もお願いしたい」というお声を頂き、どんどん後工程にも関わるようになりました。


名古屋の大手メーカーから依頼を受け、ARの商品に着手してから、2018年10月16日にブルーオプテック株式会社の傘下に「AR技術に特化した、バーインテック株式会社を設立」しました。

ブルーオプテックは、光学技術開発とコンサルティングの会社です。ありがたいことに、沢山のお客様と手を組みビジネスを行っています。

ブルーオプテック社では、光学技術における多数の特許を取得

西山:2018年に設立となりますと、ブルーオプテック社も創業若いベンチャー企業ですね。そもそもなぜ、ブルーオプテック社を起業されたのでしょうか?

増田:新卒でPanasonic株式会社に入社したあと、キヤノン、シャープと研究開発に従事していました。光学やヘルスケア商品の新規事業企画など様々な仕事を行いました。

2016年シャープ在籍時に会社が台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)に買収されました。会社の存続のために新規事業企画は全て見直されました。この時に私は新規事業を担当していました。当時私は55歳でしたし、定年までこのまま会社にいるよりも、新しいことを始めようかと考えたのがきっかけです。


自分自身が、光学開発の受託やコンサルティングを行う会社があればいいなと考えていたので、需要はあると確信していました。


西山:ビジネスを推進しているメンバーは、いらっしゃいますか?


増田:当時のシャープの同僚に声を掛け、会社を一緒に立ち上げました。従業員は現在4名です。技術1名、事務1名、営業2名体制です。技術1名と言いましたが、開発・生産力を強化するために、2018年に台湾のMegaforce社と提携しました。Megaforce社には技術者が30名程度おり、一緒に開発を行っています。


石井:社名の由来を、教えて頂けますか?


増田:Barintec 社名の意味は「Blueoptech  AR  innovation technology」の略です。

ブルーオプテックの光学技術で、ARにおけるイノベーションを起こそうという意味です。


西山:台湾のMegaforce社は、どういう経緯でお知りになったのですか?


増田:知人経由です。我々がARの開発を初めたころ、生産会社を探していると話し紹介いただきました。ちょうど、Megaforce社もAR開発に力を入れていきたいとのことで、1年かけてこういった形態になりました。

元々ブルーオプテック社でAR開発コンサルタントを担当していたのが、スタートです。


歯科大学向け開発品ARグラス

■起業後の苦労


ライター石井詠子(以下:石井):大手メーカーで勤務された後に、起業されてみてどうでしたか?


増田:最初は大変でしたね。私自身が大手メーカーに所属していたのでよく理解できるのですが、製品やプロジェクトが完成したけれども入金されないなど、トラブルはありました。2~3か月に渡り、海外出張も行った、1週間ほど現場に張り付いて開発を行うけれども、入金されない…など苦い経験もあります。技術や企画職で働いてきたので、契約の重要性は理解していたのですが、小さな会社でも契約をきちんと結んで、取り組まないといけない、痛感しました。


立ち上げ当初は仕事を取りに行くため、半ばボランティア精神で開発を行いましたが、それでは経営が立ち行かない。現在は、はじめにNDAを締結し、NDAに基づき打合せを行います。業務委託契約を結び、開発がスタートします。


あとは、働き方が大きく変わりました。メーカー勤務の頃よりも、自由に働けています。やはり大手企業で働いていると、上司に承認を貰うなど、組織で働く大変さがありました。現在それは無くなりましたが、全部自分に責任が返る大変さがあります。とはいえ、自分の思った方向へ、事業を進められる充実さは感じます。


西山:生態会でも、契約の重要性について専門家をお呼びしセミナーの開催を行っています。起業当初だからこそ、トラブルを防ぐ上で契約を結ぶとことは、大切ですね。



■今後の展望

西山:どの程度まで、この事業を拡大しようとお考えでしょうか?


増田:ARは2~3年様子を見ながら、開発を進めようと考えています。B to C市場で考えると、AR市場はまだまだ小さいです。B to B市場では工場の遠隔支援、教育現場、医療現場でのニーズが高まると予想されています。ほかには自動車、宇宙産業でも活用が期待されていますね。

B to CではAppleやMetaが、新商品を生産することを発表しています。こちらのニュースの方が一般の方はなじみが深いのではないでしょうか?B to Cの製品もB to Bの製品も、5Gの普及での市場拡大は、2~3年程度かかると予想しています。我々はまず、B to B領域で事業を拡大していきたいと考えています。特に工場の遠隔支援、医療現場では特に介護現場、教育現場に注力しています。


ARモジュールの市場

石井:B to Bの現場でARモジュールを使用する場合、具体的にどのように使用するのでしょうか?


増田:例えば工場で使用する場合、日本法人のメーカーが海外工場で操業するとき、日本人以外の従業員の事故防止に役立てることができます。溶鉱炉など、危険な現場で新入社研修を行っても、立ち入り禁止などの事項がうまく伝わらない場合があります。作業中に危険領域に誤って踏み入りそうになっても、ARモジュールを身に付けることで、視覚的に危険だと、知らせることができます。


レーザーを用いたメガネ型AR商品

他には介護の現場ですと、メガネに取り付けるタイプのARモジュールの実証実験を行っています。

お年寄り(患者)とコミュニケーションを取り、認知症の進行度など医師が診察する際に、コミュニケーションを行うのは看護師の場合がほとんどです。医師から看護師に、事前に患者に聞いてもらいたい事項をデータで送り、PCにデータを移しながらを患者と会話します。そうすると、うまくいかないことが多いそうです。


人と人とのコミュニケーションは、目と目を合わせて行うことでスムーズに進みます。質問事項が書かれたPCを見ながら会話するというのは、患者(お年寄り)からすると話にくいという印象を与えます。


そこで、ARモジュールを搭載したメガネを掛けながら看護師が話すことで、看護師の視界に質問事項が移ります。患者の目を見ながら質問事項を確認できます。こういった使い方も行っています。


西山:資金調達状況は、どうでしょうか?

増田:調達意欲はあります。今後の事業拡大を目指し、total 2億円を目標としています。会社としては、市場拡大にかかる2~3年程度は様子をみつつ、その後上場したいと考えています。

VCの方にアドバイスを頂いていますが、やはりお客様を得ることの重要性を感じています。アメリカだと「その技術は面白いね」と、技術価値のみで資金を貰える場合もありますが、日本や台湾だと、プロダクトとしての価値を示さなければ厳しいと感じています。「その技術は面白いね。で、どう使うの?」という考えです。台湾だと日本よりさらに厳しく、「明日売れる製品でなければ、投資しない」という雰囲気です。日本も台湾も、顧客の存在が見えて初めて投資の話が机上に上がります。


弊社では現在、工場での実証実験をお客様とともに行っています。実験が成功すればPOC(サンプル製品)をご購入いただいて、量産フェーズに入っていきます。調達目標を達成するためには、まず「お客様に製品を購入していただいた」という実績を作っていきたいです。ARモジュールを使って業務改善を行いたいなど、一緒に製品を開発させてもらえる企業様を募集しています。


西山:今後、採用意欲はございますか?

増田:ARモジュールの採用企画を行える方を、募集しています。ARモジュールは用途が多く、製品が統一しにくいという特徴があります。ARを活用する分野ごとに製品を立ち上げると、膨大な数になってしまいます。お客様のニーズ・世の中のニーズを製品にし生産する、お客様の要望を満たしつつ製品数を少なくし低コストを実現していくことが、メーカーとして重要です。


どのメーカーでも共通ですが、こういった市場のニーズ・自社の技術・コスト目標を実現できる企画を考えられる人がますます必要になってくると思いますね。弊社も商品企画を考えられる人材を募集しています。



石井:本日は貴重なお話をお聞きすることができ、大変勉強になりました。ありがとうございました!

 

取材を終えて:初めて起業されたブルーオプテック社での光学技術を応用したARモジュール製品は、工場現場・医療現場・教育現場において業務革新が起こる素晴らしい技術です。工場現場では多言語な現場でも、危険領域をARモジュールで知らせるなど安全性の向上が期待できます。医療現場、特に介護現場では眼鏡型モジュールを使用することにより、患者の目を見ながらカウンセリングが行えるため、医師・看護士・患者のスムーズなコミュニケーションが図ることが可能です。


台湾のMegaforce社と提携し開発・設計・生産を行っているとのこと。グローバルな事業展開に今後も注目したい企業です。(生態会ライター石井)





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