関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回は、社員の生産性向上を目的とした、肩こり・腰痛対策アプリ「ポケットセラピスト」を提供する 株式会社バックテック 代表取締役、福谷 直人(ふくたに なおと)さんです。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)・濱本智義(学生スタッフ)
代表取締役:福谷 直人 略歴
藤田医科大学でリハビリテーションを学び理学療法士の資格を取得。卒業後、理学療法士として勤めながら同大学大学院で修士号を取得。その後、京都大学大学院で博士号を取得し起業。大阪市のシードアクセラレーションプログラムで採択され、早期に資金調達も実現。著書:『「腰が痛い」と思ったらとにかく読む本』
生態会事務局 西山(以下、西山):事業概要を教えていただけますか?
株式会社バックテック 福谷さん(以下、福谷):社員の生産性向上を目的とした、肩こり・腰痛対策アプリ「ポケットセラピスト」を提供し、企業の健康経営をサポートをしています。独自のアルゴリズムによる原因分析とエビデンスに基づいた情報により、肩こり・腰痛に対する効果的な解決方法を提案しています。
このサービスには、 ”セラピスト(カラダの痛みの専門家)がいつもポケットに いるような安心感を”という意味が込められています。実際に、理学療法士など医療資格を持った約200名の専門家が、マンツーマンで相談に乗っています。
西山:どのようにして「ポケットセラピスト」を発案したのですか?
福谷:私自身、セラピスト(理学療法士)として働いていたことがあり、健康相談のためだけに半休をとって受診する患者を数多く見てきました。そしてその大半が、仕事が忙しくてなかなか病院に行けず、長年体の痛みに悩んでうつ傾向になっていたんです。このような働く人々の健康を支えるには、現在の医療の仕組みだけでは限界があると感じました。そこで、国家資格を持つセラピストとオンラインで気軽に健康相談できる「ポケットセラピスト」を発案したんです。
生態会学生スタッフ 濱本(以下、濱本):原体験を通してアイデアを思いつかれたのですね。その頃から起業を考えられていたのですか?
福谷:その時は、自分が起業するなんて全く思ってもいませんでした(笑)。私は人を幸せにするという強い使命感を持って、大学で医療を学びながら医療現場で働いていました。しかし、1年間のうちに医療現場で診断できる患者数はせいぜい120人程度であり、幸せにできる人数に限界が見えていました。その限界が見えたとき、「自分の人生はなんてちっぽけ人生なんだ。」とふと思ったんです。
もっと世の中をハッピーにできる手段が他にあるんじゃないか。そう考えていたとき、最初に浮かんだのが研究でした。そこで、修士課程を卒業した後に京都大学の博士課程に進みました。しかし、そこで自分のやりたいことは研究ではないということに気づきました。というのは、京都大学では英語の論文を中心に書くことになるのですが、例え良い社会に役立つ研究結果を英語の論文で書いたとしても、日本の医療従事者で英語論文を読んで、適切に現場の業務に活かせる方は、多くないのが現状です。結局、研究だけでは、社会を変えるような多くの人を幸せにすることは難しいと思いました。
そんな悩みを抱えていた頃、ある転機が訪れました。当時お世話になっていた准教授(現 教授)に、「ピッチコンテストに出てみないか。お前にはこっちの方が向いてるだろ。」と勧められたんです。そこで生まれたのがこのサービスでした。出場したコンテストでは立て続けに賞を取り、ある大会では優勝を果たして日本代表として世界大会に出場したこともありました。そして投資家の方々の後押しもあって、博士号を取得した後、そのまま起業しました。
濱本:人を幸せにできる手段を追求した結果、行き着いたのが"起業"だったんですね。「ポケットセラピスト」は実際にどのようにして使うのでしょうか?
福谷:まず、肩こり・腰痛の原因を特定するためにアンケートを取ります。そのアンケート結果をもとに、独自のアルゴリズムで原因の特定・分析を行います。腰痛の原因には、運動不足のほかに、人間関係などのストレスが原因になることがあります。そのようなストレスが原因の場合、運動だけでは健康状態を改善できないため、ストレスが原因かどうかも見極めながら、その人の肩こり・腰痛のタイプに応じて最適なソリューションを提案しています。実際に、腰痛は12種類ものタイプに分けられ、それぞれ適切な運動や解消方法は変わってきます。
また、それぞれの運動に目標値を設定しており、クリアするごとに目標値が貯まっていきます。そして、一週間単位で経験値を振り返り、KPIを設定し直します。このようにして、継続的に社員の健康をサポートし生産性の向上を図っています。なお、医療リスクが高く緊急の場合はお医者さんへ繋げています。
西山:社員からの評判はいかがですか?
福谷:「生の人間がアドバイスをしてくれるので継続しやすい。」という声が多いですね。国内にいくつかAIのヘルスサービスが存在していますが、AIでの管理だけではあまり継続できないという方が多いようです。私たちのサービスには、約200名の医療に関する国家資格を持っているセラピストが登録されています。また、自社の試験に合格した者のみで構成されており、医療職の質をコントロールする意味で、サポートの質をスコアリングしています。スコアが低い人にはイエローカードを出したりと、評価の高い人しか、当社の専門家チームに残らないような仕組みにしています。
西山:私もAIのヘルスサービスを使ったことがあるのですが、なかなか続けられなかったので気持ちがよくわかります(笑)。実際にどういった企業で導入されているのでしょうか?
福谷:主に、大手企業さま向けに販売を行っています。その結果、従業員数1万人規模の企業さまが最も契約数が多い状況です。企業と健保の割合は、だいたい半々となっています。現在、新型コロナの影響もあり、テレワークの支援ツールとしても評価いただき、導入されています。
西山:今後の展望を教えてください。
福谷:最近では、コロナ禍で在宅勤務が増えたため、肩こりや腰痛を訴える人が多くなってきています。また、健康経営に対する意識が高まり、生産性向上のために従業員の健康に気を使う企業が増えてきました。このチャンスを逃さずに、一気にアクセルを踏んでいこうと考えています。
取材を終えて:お話を聞いて、「一人でも多くの人が幸せになれるようなプロダクトを開発したい。」という福谷さんの強い思いを感じました。「ポケットセラピスト」は、客観的なエビデンスに基づいた分析と提案が特徴である信頼性の高いプロダクトです。理学療法士として働いた経験と博士号を取得された福谷さんだからこそ作れるものだと思います。このコロナ禍で、医療×テクノロジーの分野はますます成長していくことでしょう。(学生スタッフ 濱本)
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