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執筆者の写真和田 翔

水に溶けない物質を溶かす独自技術で医薬品・食品・化粧品業界に大変革!:B-Lab



関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。株式会社B-Lab (ビーラボ)で代表を務める甲元一也氏に話を伺いました。


甲元氏は、「甲南大学発ベンチャー認定制度」第一号のスタートアップとしてB-Labを設立。同大学のフロンティアサイエンス学部で教授を務めながら、自身の研究で発見したある物質の製造販売に取り組んでいます。果たして、同社の技術は私たちの暮らしをどう変えるのでしょうか?

取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)

和田翔   (ライター)

 

甲元 一也 (こうもと かずや)氏 略歴

1973年生まれ。鳥取県米子市出身。九州大学工学部を飛び級し、同大学院で博士後期課程を修了。その後、JSTの研究員として国際共同研究に携わる。九州を拠点とした研究活動を経て、2004年甲南大学に着任し、研究と並行して新学部設立に奔走する。極限環境生物の代謝物を研究する中で、自然界の化合物を凌駕する物質を発見。その後、独自開発の機能性ベタインとβ-1,3-1,6-グルカンを製造・販売するB-Labを設立した。

 

新発見の物質がもたらす可能性とは?


生態会事務局 大洞(以下、大洞):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、B-Labの事業について教えていただけますか?


甲元 一也氏(以下、甲元氏):B-Labは、「甲南大学発ベンチャー認定制度」第一号のスタートアップとして2023年1月に設立しました。私自身が研究する中で独自開発に成功した機能性ベタインとβ-1,3-1,6-グルカンの製造・販売を行っています。


ライター 和田(以下、和田):それぞれどんな物質なのか伺います。まずは機能性ベタインについて教えてください。


甲元氏:ベタインそのものはアミノ酸の一種です。人間が住めない環境に生息する極限環境生物に由来するベタイン誘導体(※)の研究を進めるうちに、水和能力が極めて高く、水の構造を大きく変化させる新しい機能性ベタインを発見しました。


※誘導体:主に有機化合物で、分子構造の小部分が変化してできた化合物。基本構造はそのままで、一部が他の原子団と置き換わったもの。


インタビュー中の様子。
インタビューに応じる甲元氏。未知の領域を切り開くB-Labの取り組みに、強い興味をひかれます!

和田:水和能力が極めて高いとは、「水によく溶ける」ということですよね。どのように活用できるのでしょうか?


ベタイン誘導体
画像提供:B-Lab

甲元氏:機能性ベタインの水溶液を適切な濃度で混合することで、酵素の反応速度や安定性を高めることができます。例えば医療現場で使われる検査キットへの活用が可能です。 また、高濃度で使用すると、水に溶けにくい物質(難水溶性物質)を溶けやすくできるんですよ。界面活性剤のように泡立たず、粘度も低いですから、食品残渣などの廃棄物から有効成分を抽出するなど、さまざまな用途に応用できます。


加えて例を挙げると、セルロースを糖に分解する酵素であるセルラーゼというタンパク質の活性も上がるので、エタノールを燃料に変えるバイオマス発電にも応用が可能です。


簡単にまとめると、機能性ベタインの発見によって、効率性や安定性が飛躍的に向上した新しい添加剤を作れるようになったということですね。

機能性ベタインの活用イメージ
画像提供:B-Lab

和田:水に溶けやすくなる物質があることで、そんなにも応用の幅が広がるんですね。続いて、β-1,3-1,6-グルカンについても教えてください。


甲元氏:β-1,3-1,6-グルカンは、キノコや海藻の細胞壁に含まれる多糖類で、抗がん作用や抗炎症作用、免疫賦活活性などの機能を持つことで知られています。しかし、自然界に存在するβグルカンは分子量が高く、水に溶けにくい性質を持っています。そこで私たちは、食品添加物に使われる酸とアルカリを用いる独自技術で、このβグルカンを水に150倍溶けやすくしたナノ粒子へと加工することに成功しました。


βグルカン
画像提供:B-Lab

和田:150倍溶けるようになると、どんな利点があるのでしょうか?


甲元氏:身近な食品で考えるとイメージしやすいでしょう。つまりは、必要な栄養素を摂取するために大量の食品を食べなくても、少量で十分になるということです。また、消化酵素にも強く、腸管からそのまま血管に吸収される点も優れています。


さらに面白いのが、このナノ粒子はさまざまな他の物質を捕まえることができる点です。捕まえた物質も同様に、水に非常によく溶けるようになります。先ほど挙げたβグルカン自体の優れた機能に加えて、捕まえた物質の機能を合わせたダブルの効果がより少量で期待できるわけです。

βグルカンの活用イメージ
画像提供:B-Lab

大洞:それらの特性を踏まえると、サプリメントや健康食品への活用が主でしょうか?


甲元氏:そうですね。現在は、食品用サプリメント向けの製造販売を行っています。ただ食品以外にも応用は可能で、例えば化粧品の油分を水に変えてベタつきを抑えたり、シャンプーの界面活性剤を減らしたりすることもできます。サプリメント向けに加えて、これらの企業との基礎研究にも並行して取り組んでいます。



大学発ベンチャー第一号としての道のり


大洞:起業の経緯について教えてください。


KNiTが開発したジクセルについて熱心に説明する窪内氏

甲元氏:実は当初、起業するつもりはありませんでした。というのも、オンリーワンの研究技術を基盤にすると、市場規模がそう大きくないだろうと考えていたからです。ただ、2019年ごろでしょうか。アカデミック分野に特化した展示会に出展する機会がありました。


こうした展示会では、ブースに訪れた人と共同研究の可能性を協議するのが一般的ですが、自分のブースに訪れた人たちは、口々に「これ、1キロ何円ですか?」とか「納期はどれくらいですか?」と尋ねてきたんです。


1日に数百人訪れるときもあり、研究室の学生を何人か連れて行っても対応できないほどで……。でも当時は起業していませんでしたから、断らざるを得ない状況でした。


和田:研究段階を飛び越えて、製品化を望むニーズが多かったんですね。


甲元氏:ただ、実際にニーズがあるとわかっても、製造販売するとなると価格を決めなければなりません。そこで、ブースに出展しながら、「キロあたりいくらなら購入しますか?」と来場者にアンケートをとって調査しました。アカデミックの展示会でそんなことまでやっているのは珍しいのではないかと思います。


和田:B-Labは甲南大学発の第一号スタートアップでもありますよね。起業に際して苦労したことはありましたか?


甲元氏:大学は全面的に協力してくれたものの、何せ自分が第一号でしたから、規定を新設したり、会議資料を作成したり、理事会で説明を繰り返したり、手探りの日々が続きました。


ただ2009年ごろから、企業との共同研究を通じてPoCのような活動を続けていましたから、3,000人を超える大学外部との人脈があるんです。それこそ飲みに行くような間柄の方々も大勢いらして、起業につながるヒントをもらうこともありました。そうした助けも得つつ、なんとか起業までたどり着くことができました。


甲南大学にフロンティアサイエンス学部を立ち上げたときもそうでしたが、新しいチャレンジでもなんでも、自分の手で調べて、自分の足で稼いで取り組みたい性分なんですよ。B-Labの立ち上げに際しても、いろいろな助けを受けつつ、自らで取り組みを進めていったと言えますね。


医薬品やサプリ、介護食品への展開も視野に


大洞:それでは、今後の展開についても教えていただけますか?


甲元氏:他のテック系のスタートアップであれば、コア技術を確立して特許を取得して、PoCや実際の検証を経て販売する流れが一般的でしょう。ただB-Labの場合は、私自身の十数年間にわたる研究と、企業と取り組んできた共同研究の実績があるので、現時点で製品販売ができる状況にあります。また、普通ならライセンス販売をビジネスの基本に据えると思いますが、B-Labはあくまで製造業という位置付けです。



和田:やはりB-Labのような手法を採用するのは珍しいのでしょうか?


甲元氏:実際、企業の方と話していても「ライセンスじゃないの?」と驚かれることもあります。ただ、製造のノウハウはこちらに蓄積されていますし、急に大量のオーダーを受けても対応できないことが起こり得ますから、そのときはレシピを販売する方法を選択する可能性はあるでしょうね。


和田:一方で、ニーズに応じて製造規模を拡大する予定はありますか?


甲元氏:これまではラボの中で製造していましたが、研究用に使えても食品や化粧品向けの製造はできません。そこで、大学側と協議して、食品や化粧品分野の規格に対応した製造室を用意してもらう予定です(食品用の製造販売は2024年10月時点で開始済み)。この件に関しても、保健所への相談や業者の見積もりやらが大変でしたが……。


和田:通常のベタインやβグルカンを作るより、ノウハウや手間がかかるわけですよね。設備の拡張を進めても特に問題はないのでしょうか?


甲元氏:はい、設備の改良はほぼ全て自分の手でできますから問題ありません。現在のコストの大半は人件費と言えるまで、生産コストの圧縮と作業の効率化も実現しています。


大洞:現在の取り組みのほかに、挑戦したいことはありますか?


甲元氏:強いて挙げるなら、サプリや薬剤の改良ですね。現在の一般的な錠剤の中にはほんの少ししか有効成分は入っておらず、残りは調整剤などの成分なんですよ。それこそβ-1,3-1,6-グルカンを使えば、もっと小さくて飲みやすい錠剤が作れますし、他の物質とコンフリクトしないので体にも吸収もされやすくなります。


そのほかにも、介護食のように、消化機能が衰えた人たちにも適しているでしょうね。ちょうどラボを置いているこの場所は医療産業都市でもありますから、給食会社などとコラボするのも一つの方法です。


大洞:本当に大きな可能性を秘めた技術ですね。今後の取り組みに期待しています。本日はありがとうございました!


 

取材を終えて

B-Lab は今年5月、ミドリムシ由来の自給自足燃料を用いたトラック走行実証に向けて設立されたコンソーシアムに参加しました。インタビューで甲元氏が語ったように、応用の幅広さはまさに多種多様。近い将来、私たちの暮らしに身近な商品で、B-Labが開発した物質を目にする機会が増えるかもしれません。

(ライター 和田翔 )






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