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執筆者の写真和田 翔

新たな“死”の選択肢「森と生きる、森に還る、森をつくる」循環葬®とは?

更新日:2023年9月8日



関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、at FOREST株式会社 (アット フォレスト)で代表取締役CEOを務める小池 友紀(こいけ ゆき)氏に話を伺いました。「森と生きる、森に還る、森をつくる」と掲げ、同社が北摂の霊場・能勢妙見山で開始した「循環葬® RETURN TO NATURE」とは、一体どのようなサービスなのでしょうか?

取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)

和田 翔   (ライター)

 

小池 友紀(こいけ ゆき)氏 略歴

アパレル業界を経て、広告クリエイティブの世界に入り2007年独立。商業施設やホテル、コスメなどさまざまなサービスや商品のコピーライティングを手がける。2020年両親の改葬をきっかけに日本の墓問題と向き合い、循環葬®「RETURN TO NATURE」を創案。経済産業省近畿経済産業局が推進する「LED関西2021」のファイナリストに選出され、2022年at FOREST株式会社を設立。2023年6月、北摂の霊場・能勢妙見山にて循環葬®のサービスを開始した。

 

「多死社会」の日本に、新たな選択肢を

MightyNeo株式会社 代表取締役 CEO 鈴木貴之さん
at FOREST株式会社 代表取締役CEO 小池 友紀氏

生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですがat FORESTを起業した経緯について教えてください。


小池 友紀氏(以下、小池氏):まずは社会的な背景からお話しします。現在、日本は高齢化の進行で死者数が増加する「多死社会」へと突入しています。この傾向は今後も加速していき、2040年には1日あたり4500人以上が亡くなるとのデータがあるほどです。


多死社会にともない、すでに社会問題となっている「お墓の管理」にまつわる問題がより深刻化します。高齢化以外にも、未婚率の増加や核家族化、都市部への人口集中などさまざまな問題も重なり、お墓の管理はますます大変になっていくでしょう。


ライター和田(以下、和田):現時点でも「お墓の管理は大変」という声はたびたび耳にします。さらに困難が増すとすれば、大きな問題ですね。


小池氏:また、お墓は旧来の家制度の名残が色濃く、ジェンダー問題をはらむものでもあります。既婚女性であれば、死後は夫の実家の墓に入るのが当たり前とされていますよね。ただ、夫の実家との関係性が悪いわけではなくても「一緒の墓には入りたくない」と考えるシニア層も多いんです。そうしたいくつもの問題が重なり、昔ながらの一般的な墓石の需要は年々下がり続けています。


和田:そうした考えを持つ人たちは、どんな埋葬方法を選ぶのでしょうか?


小池氏:現在注目されているのが「樹木葬」です。ただ、既存の樹木葬は、山を切り拓いて公園や広場のようなスペースを作り、プレート型の墓標を設置するスタイルが一般的です。1本の木の周りにたくさんの墓標が密集していて、墓標の下に骨壺を入れる場所がある場合がほとんどで。


西山:「樹木葬」の名前から連想するイメージとは少し違いますね。


小池氏:私も、抱いていた「自然に還る」イメージとは違うと感じました。疑問を感じたので、海外の先進国の事例を調べてみることにしたんです。すると、高齢化で多死社会が進んでいる点は日本と同じなのですが、海外では死にまつわる問題を解決する「Death Tech(デステック)」というカテゴリーがあって、スタートアップが続々と登場していたんです。


例えば、アメリカでは「コンポスト葬」と呼ばれる埋葬方法があります。簡単に言えば、遺体を堆肥に変えて、自宅の庭などに撒く方法ですね。このコンポスト葬には予約が殺到し、州の法律を変えて実施されたほどです。


対して、日本の状況を見てみると、この分野における新しい選択肢はほとんどありません。今の埋葬方法を全て否定するつもりはありませんが、時代に合った選択肢を提案できないか、と考えたのが起業の始まりです。


西山:起業にいたるまで、スタートアップの支援サービスなどは活用したのでしょうか?


小池氏:企画を検討しているうちに、「これは実現できるかもしれない」と考えるようになり、アドリブワークスが運営しているスタートアップスタジオ「NOROSI(ノロシ)」にエントリーして、プロジェクトを立ち上げました。そこでアドリブワークスの山岡さん(代表取締役 CEO 山岡 健人氏)と出会いました。


NOROSIでは、プロジェクトに興味を持ってくれた各分野の専門家がサポートしてくれる仕組みがあるのですが、正直なところ葬送や山林に関する分野に精通した人は、こういったネットワークには参加していないだろうと思っていたんです。


ところが、実際には林業に従事する方や設計事務所の方がいらして、みなさんから山の整備のこと、森の中に物を建てることなど、さまざまな内容を勉強させていただきました。そのときの経験が、後のサービス実現へとつながっています。


循環葬®サービスの実像とは?


(写真提供:at FOREST)

和田:それでは、現在の事業内容について教えていただけますか?


小池氏:人と地球に優しい循環葬®「RETURN TO NATURE」というサービスを、今年6月にローンチしました。法人の立ち上げは昨年の5月で、設立以前の構想期間も加えると、ローンチまで2年弱の歳月がかかりました。私たちはこのサービスを通じて、誰にでも訪れる死を森づくりに、そして豊かな森を未来へとつなげていきたいと考えています。


和田:循環葬®の特徴を教えてください。


小池氏:大きく分けて3つの特徴があります。1つ目は、お寺が保有している森林を利活用している点です。循環葬®のサービスは、関西でも名高い北摂の霊場である能勢妙見山と連携して提供しています。


二つ目は、自然に優しい新たな埋葬方法を、神戸大学で土壌学を研究している鈴木武志先生と共同で開発した点です。土に還りやすいように遺骨を細かくパウダー化して土中に埋めることで、自然と一体化し、森の栄養になるのが循環葬®の特色です。また、森の景観を維持するために、墓標を建てないスタイルをとっています。


三つ目は、ご自身の埋葬費用が、豊かな森づくりへとつながる点です。拠点である能勢妙見山の森の保全はもちろん、全国で活動する森林保全団体と提携し、そこに収益の一部を寄付する仕組みにしています。


(写真提供:at FOREST)

和田:埋葬場所は、お寺の山林を利活用しているんですね。


小池氏:実は、お寺も人員不足などの課題を抱えていて、整備できずに放棄された森林を抱えているケースは多いんです。能勢妙見山でも、同様の課題を抱えていました。


和田:放棄林を整備するとなると、かなりの重労働だと思いますが?


小池氏:まず始めたのはゴミ拾いでした。長い間放棄されていた森林には、放棄された山小屋があったり、プラスチック製品から家電まで大小さまざまなゴミが投棄されていたり、悲しい状況でした。


ゴミを撤去し、森林を整えながら、デッキやベンチなどを設けて憩いの空間へと変えていきました。ちなみに、デッキにはもともとあった山小屋の土台を使ったり、散乱していたレンガはベンチの土台や入場ゲートに使ったり、森の中にあったものはなるべく再利用するようにしています。


そうして生まれ変わった循環葬®の森は本当に気持ちいい空間で、木漏れ日が輝くアート作品のような景色が目の前に広がるんです。その森の中で食事を楽しんだり、ゆっくり読書したり、都会の喧騒とは無縁の時間を過ごすことができます。


(写真提供:at FOREST)

和田:お話を聞くだけでも素敵な空間のイメージが湧きます。そんな場所であれば、お墓参りも従来のイメージとは変わりそうですね。


小池氏:ご遺族にとっても、今までのお墓参りが森林浴でリフレッシュできる時間に変わると思います。お墓参りに来るというか、森に遊びに来るようなイメージを持ってもらえたらうれしいですね。


北摂の霊場・能勢妙見山を「循環葬®の聖地」に


和田:少し話は戻りますが、循環葬®は能勢妙見山の敷地を利活用しているんでしたよね。全く新しい方法に取り組むにあたって、能勢妙見山のように大きなお寺への説得などが難航することはなかったんですか?


小池氏:実は以前から能勢妙見山の副住職は「今の時代に合った埋葬とは」「森を使って森林葬などできないか」と考えておられたそうです。ですが、なかなか実行に移せずにいたところ、弊社が提案にやってきたと。提案する側の私たちは、副住職がそのような思いをお持ちだとは知らず、断られる覚悟でお話ししたのですが、話を進めれば進めるほど意気投合して。


和田:お寺側も同じ思いを持っていたんですね。サービスの運営に関して、場所の提供以外でも連携しているのでしょうか?


小池氏:私たちは企画運営を担っていて、あくまで経営主体は能勢妙見山という形になっています。スタートアップである私たちは、生まれたばかりで信用度が低く、倒産の可能性もあるのが現実です。一生の中で最後の大きな選択であるお墓を、そんな私たちが担う形式は、お客様にとっても心理的ハードルが高いでしょうから。


和田:6月にサービスを開始して、当面の目標はどのように考えていますか?


小池氏:私たちは、ここ妙見山を何年もかけて「循環葬®の聖地」として確立させたいと考えています。そして、未来志向のお墓として打ち出していきたい。それが当面の目標です。


オープニングレセプションでは、小池氏が循環葬のレクチャーを行なった。(出典:PR TIMES)

「死に方を選べる」ことで変わる未来


和田:今後チャレンジしようと考えていることがあれば教えてください。


小池氏:お葬式に関して、家族葬などの小規模なものが増えている状況です。さらにもっと小規模な葬儀の形として、「直葬」という方法をご存知ですか?


和田:初めて聞きました。どのような方法なのでしょうか?

森の中にある憩いのベンチ(出典:PR TIMES)

小池氏:お通夜や告別式などを行わず、火葬場で小規模なお見送りのセレモニーを行なう方法です。コロナ禍の影響もあり、少しずつ増えてきているんですよ。


現在私たちは、この直葬のスタイルをアレンジして、「森の中の小さなお別れ会」として開催しようと計画しています。今までのお葬式のように、暗い空気の中で冷たい仕出しを食べるのとは違って、森の中でちょっとしたパーティーを開くイメージです。大切な人が亡くなった悲しい気持ちを、森林浴やおいしいご飯で癒す、そんな新たな方法を提供したいと考えています。


和田:そうした新たな埋葬や葬儀の形が広まると、私たちの暮らしにどんな変化が生まれるでしょうか?


小池氏:私たちが提案する方法が「死の選択肢を広げる」一助になれたら、と思っています。今まで縛られていた慣習から解放されることで、先ほど述べた根強く残る家制度やジェンダー問題など、従来の意識を変えることにつながるのではないでしょうか。


和田:「死に方を選べる」ことで、老後の暮らし方や考え方にも変化が生まれるかもしれませんね。


小池氏:自分自身もそうですが、「老年期や終末期も自分らしく生きたい」と考えている人は大勢いると思います。そんな人たちが明るく自分らしく生きられて、自分らしい選択ができる、そんな世の中にしていきたいです。


西山:本日はどうもありがとうございました!

 

取材を終えて

昨今、お墓の管理にまつわる問題で頭を悩ます人は多いと思います。他方「自分らしい生き方の選択肢が増える一方で、誰にでも必ず訪れる『死』の選択肢は数少ない」との小池さんの指摘には、大いに考えさせられるものがありました。これらの問題に向き合う「循環葬®」のサービスが広まることは、これまで諾々と従っていた既存の価値観に、新たな視点をもたらすきっかけとなるかもしれません。(ライター和田翔)




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