関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。 今回は、超音波技術を活用した魚群探知機を開発している株式会社Aqua Fusionに取材しました。
取材・レポート:西山裕子(生態会 事務局)・田代蒼馬(生態会学生ボランティア)
笹倉豊喜 代表取締役 略歴
1973年、古野電気(株)に入社。 主にソナー・魚探など超音波機器の開発に従事。 1999年にフュージョン有限会社を設立し、水中音響機器開発に従事。
2010年に東京海洋大学の客員研究員に就任。 2012年3月に株式会社アクアサウンドを設立し、代表取締役会長に。
2017年1月、株式会社AquaFusion設立
*今回の取材は、取締役COOの竹内様にご協力いただきました。
■AquaFusion、その事業概要
生態会 田代(以下、田代):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。ではまず初めに、株式会社AquaFusionの事業概要を教えていただけますか。
株式会社AquaFusion 竹内氏(以下、竹内): 私たちは、1匹、1匹の魚影までが見える魚群探知機を開発している会社です。独自技術により超音波の連続送信を実現し、従来の100 倍詳細に水中を可視化し、魚体の識別や精細な海底探査を可能にすることを目指しています。
田代:具体的には、貴社のサービスはどういったシーンで活用できるとお考えでしょうか。
竹内:大きく2点あります。
1点目が、資源管理による乱獲の防止です。
魚体の長さを測定することのできる魚群探知機を、弊社は開発・販売しています。これにより、漁業者は狙ったサイズの魚種のみを狙い、無駄な魚の捕獲を防ぐことができます。
日本の資源管理対象種は年々増加し、捕獲できる種に制限が付けられてきていますので、
このような”狙った漁業”はますます求められる時代になってきています。
2つ目が、養殖の効率化です。
弊社の魚群探知機を活用していただくことで、生簀内の魚を非接触・自動で魚体長計測することができます。
現状の養殖業では、魚を人が目視で確認し、成長管理しています。
これは漁業者にとってはコストのかかる重労働であり、底にいる魚の大きさが計測できないといった課題もあります。
こうした課題を、弊社のサービスは解決します。
田代:どうして、従来の魚群探知機では不可能だった、「魚体識別」が御社のサービスでは可能なのでしょうか。
竹内: こちらの図をご覧ください。
魚群探知機は、超音波を海底に送信して魚の探知を行っていますが、この超音波の送信頻度に、大きな違いがあります。
従来の魚群探知機では水深120mの場合、1秒間に約3回送信しますが、弊社のものは
1秒間に30回以上、超音波を送信することができます。
これにより、従来の100倍詳細に水中を可視化し、群れていても魚体の識別を行うことが可能です。この技術により、現在、魚1匹1匹のサイズ計測が可能です。将来的には、AIを活用した魚種識別を実装したいと考えています。
田代:詳しく説明していただきありがとうございます。貴社の魚群探知機の特徴が、非常によくわかりました。
■研究機関に向けた販促を強化
田代:貴社のビジネスモデルを、お伺いしてよろしいでしょうか。
竹内:主に研究機関向けに魚群探知機を販売し、ソフトを用いたデータ解析も行なっています。漁業者より先に、研究機関に対して魚群探知機を販売する理由は研究機関で製品価値を実証することです。
弊社は、Sustainable Oceansの実現を目指し、魚の資源管理を実現したいというビジョンがあります。
それに反して現在、日本は資源管理が欧州などに比べて進んでいないと言われています。
まずは研究機関向けに機器を販売し、製品が資源管理に役立つということを実証し、漁業者全体に向けて、上記の事実を喚起し、必要な分だけを獲る漁業へと変えていきたいと思っています。
ここで製品をブラッシュアップできることによって、漁業者にとって使い勝手の良い製品にしていきます。それにより、アフターフォロー等の工数が最小化できると考えていて、製品の販売まで、効率的に行えると考えています。
田代: 具体的にはどういった研究機関と、取り引きがあるのでしょうか。
竹内: 各都道府県にある水産試験場や水産研究センター、または大学など、「海の調査をしたい」ところがメインになります。
■課題と、今後の展望
田代: 漁業者への機器の導入は、ハードルがあるように感じますが実際いかがでしょうか。
竹内: はい、感じることもあります。
その課題を解決するために、わかりやすく伝えることを意識しています。
魚一匹一匹のデータを数値化するだけではなく、映像を通してそれらを視覚的に伝える機能が必要だと感じています。
田代: その他、事業をやられる上で感じる課題はありますでしょうか。
竹内:海の生態に関しては、未解明の点が多くそこが非常に難しいと感じています。
例えば、海の生物に関するデータは、超音波で得ることができますが、実際釣り上げたり、また海中のカメラ撮影は限界があり実際にどうだったのかの答え合わせが難しい部分があります。
その点、農業分野ではドローンなどを活用し、写真を撮ってデータを収集しているので、海と比較して答え合わせが容易だと言えます。
海の世界は、AI等の学習が進みづらい傾向にあると考えています。
「宇宙よりも謎が多い」と言われている海の世界を、独自技術の超音波を活用して可視化していきたいですね。」
田代:今後の展望を教えていただけますでしょうか。
竹内:はい。現在販売している魚群探知機、ハードウェアの販売だけでなく、そのデータの活用から対価を得られるような仕組みを構築していきたいです。
先ほど申し上げたような、資源管理、養殖といった面で積極的に弊社のソリューションを提供していきたいです。
田代: シンガポールOceans2020への出展など、グローバル展開にも注力されていると思ったのですが、いかがでしょうか。
竹内: 現状、新型コロナウイルスの影響でなかなか海外との取引ができていないのが現状です。
ですが、世界に目を向ければ資源管理、養殖といった市場はとても大きいので、グローバルな市場はもちろん相手にしながらやっていきたいと考えています。
田代:本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございました。今後AquaFusion様がどう事業を展開されるのか、楽しみです。
取材を終えて
従来の魚群探知機と比べ、100倍の分解能を実現しているAquaFusion。 魚の乱獲や、養殖業における非効率なモニタリングシステム等、明確な業界の課題に毅然と立ち向かっている様子が印象的でした。 魚群探知機のみならず、そこから得られるデータを集積・解析して資源管理を実現するプラットフォーム事業など、唯一無二の特許技術を駆使して幅広い展開を行うAquaFusionの今後の動きに注目していきたいと思います。(学生スタッフ:田代)
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