関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は出産・子育てを経て社会復帰する女性支援のため、保育園、人材紹介、マナースクール、ひとり親世帯サポートなど、様々なアプローチで事業を展開されているAnimo株式会社 代表取締役 橋本典子(はしもとのりこ)氏に取材しました。
取材・レポート:森令子(生態会 事務局)・石井詠子(ライター)
橋本典子 代表取締役 略歴
救急救命士としての勤務を経て、出産を機に専業主婦となる。自身の経験から出産や育児を機に企業で働くことから離れた女性の生きにくさに課題を感じる。会社でのマナーやルールを知らない女性が、出産・子育てを経ても働けるスキル、仕事を持てる社会を目指し起業を決意。 2016年に女性のキャリアを支援する「Animo」を設立。同社のほか、照明の「竹あかり」職人としてのパラレルキャリアを実施。プライベートでは3人の子育てを行っている。
■人材支援・マナースクール・保育など必要な支援を事業化
生態会 森(以下、森):本日はお時間を頂きありがとうございます。まず、Animoの事業概要を教えてください。
Animo株式会社 橋本典子(以下、橋本):Animoでは、結婚や出産を機に社会から一度は離脱した女性たちの「社会復帰をスムーズにするための教育」「適材適所の働く場所」「子供を預けながら働きやすい環境づくり」をトータルサポートしています。現在は、人材支援事業・マナースクール事業・保育事業が中心です。
2016年2月にAnimoを立ち上げ、同年5月にマナースクールを開講しました。ビジネスやサービス業におけるコミュニケーションの型は学ぶ必要があると感じていたためです。すぐに、人材派遣事業もスタートしました。
この頃、内閣府から保育環境に関する発表がありました。待機児童の受け皿拡大のため、企業主導型保育事業に対し、助成金として整備費・運営費の支援を行うという内容でした。この発表を受け、私たちは同年6月には保育事業への参入を決意、8月に事業をスタートしました。12月には保育園の給食を効率化するためにAnimo kitchenも開設しました。
起業してから半年間で、人材派遣・マナースクール・保育園をスタートしたため、創業当初は、本当に大変でしたね。
■子育てで離脱した女性が活躍できる社会を目指す
森:保育園運営は人手も設備もノウハウも必要で、大変な事業だと思います。設立直後に、保育事業への参入を決意したのはなぜですか?
橋本:女性が「働くことへの喜び、イキイキと働ける環境づくり」に社会貢献したいという思いがあります。そのためには女性をトータルでサポートすることが必要です。
女性活躍に向け、解決すべき課題として一番注目したのが、保育園と仕事のミスマッチでした。”仕事が決まってないと保育園に入れない” ”企業は保育園が決まってないと採用しない” この状況は大きな社会課題です。民間の立場でも解決できるはず、と思い、保育事業を立ち上げました。保育だけでなく、働き方の多様化を実現するための人材紹介、社会復帰をスムーズにするためのマナースクールなど、様々なアプローチで、女性支援を続けています。
事業開始して6年目の現在、企業主導型保育園を21園運営しています。女性の活躍を念頭に、より良いサポートを目指して事業を開発しており、まだまだ成長中です。
森:女性支援の必要性を、ご自身が実感されているからこそのスピード感ですね。
橋本:そうですね。私たちの事業は”世界オンリーワンの最新技術”といったものではなく、女性がもっと活躍できる社会を実現するための、要素の一つでしかありません。どんなサービスが必要とされているのかを、常に考え、素早く実行することが大切だと思っています。
■大阪府の起業支援「Booming! 」参加が転機に
森:創業当時の様子を教えて頂けますか?
橋本:マナースクール開始時に秘書の方に1人入っていただいたとはいえ、開業からしばらくは、事業開発も人事・経理などバックオフィスも私一人でやっていました。複数の会社を設立したのも、「新しい事業するには、別会社が必要なのかな」と思い込んでいたから。経営に関する知識が全く不足していました。とにかく、自転車操業のような状態でしたね。
2017年に、大阪府ベンチャー企業成長プロジェクト「Booming!」に参加し、公認会計士や先輩経営者などメンターの皆様や起業仲間からアドバイスをもらったり、会社の意義や存在、経営のやり方など多くを学びました。それがきっかけで、会社の数も整理して減らし、銀行から借り入れして財務状況を安定させるなど、経営基盤を強化できました。
■社会のため、社員のための会社づくりで急成長
森:事業拡大とともに、会社規模も急成長されていますね。人手不足と言われる中、保育士や社員の皆様など、どのように採用されているのですか?
橋本:もともとAnimoについて、「私の会社」という意識はなく、社会のため・社員のための会社だと思っています。社員が働きやすい会社にしたい、働き方・価値観を多様性に富む会社にしたいと常に考えています。
現在、保育園スタッフも含め、従業員は約250名です。女性が家庭と仕事を両立しながら活躍できる職場のモデルケースとなるため、短時間勤務や、柔軟な休暇制度、資格取得支援など様々な取組をしています。例えば、残業代も、創業当初から1分単位で支払っています。2020年12月には、大阪市女性活躍リーディングカンパニーの最高位、二つ星認証を取得しました。
2019年4月に本社を移転したのですが、その際も、みんなが働きやすいオフィスがいいと思っていたので、移転先も社員に決めてもらいました。私自身、2日前まで自分がどこに新オフィスがあるか知らなかったんです(笑)。
社員の働き方や生き方も応援できる企業でありたいですね。
■「橋本ができるなら私もできる」と勇気を持ってもらいたい
森:事業開発を常に考えているとのことですが、最新のサービスはどのようなものですか?
橋本:実は、ここ2年ほどは、今後の事業拡大のための準備期間として、組織強化、バックオフィスの整備などに注力し、事業開発や規模拡大のスピードはゆるめていました。そんななかではありますが、昨年、保育園とその近くの求人を一度に検索できる新サービス「ホイサク」をリリースしています。就職したいが保育園の空きがない、保育園が決定しないと就職できない、という課題を解決するために、本当にやりたかったサービスです(コロナ禍の求人減により、現在はサービス縮小)。その後、2020年11月には、緊急性の高い社会貢献施策として、シングルマザー支援の「ママのこれから」を開始しています。
森:女性活躍のためにその時必要なアクションを行われているのですね!最後に、今後の目標を教えてください。
橋本:女性の働きやすさ・職歴格差を是正したいという思いは変わらず、さらに進んでいくつもりです。保育園数は現在の21園から50園規模へ拡大を目指しています。私のように大企業出身でなく、主婦からの起業でも「ここまでできるんだ!」と世の中の女性に勇気を与えたいですね。「橋本典子ができたのなら、私もできる!」と思ってもらいたいです。そのためには、上場も可能性として考えています。
次世代の担い手である娘にも、私の姿を見て「ママができるなら自分もできる」と思ってほしいです。「このサービス、この会社を作ったのはママだよ」と胸を張って言える会社を運営し、世の中を変えていきたいですね。
森:Animoさんの成長に期待しています。本日は貴重な話をありがとうございました!
取材を終えて
子育てしながらのキャリア構築の難しさ、子供の預け先の不足という両方の課題にアプローチしている点に魅力を感じました。また、保育事業が急成長できたのは、保育士さん達の働きやすさを重視したから、というお話にも納得でした。何よりも「女性の働きやすさ・生きやすさ」を一番に考える、橋本社長の一貫した思いに、同じ女性として、母として、とても共感しました。女性活躍を中心にした事業に今後も注目したいです。 (生態会ライター石井)
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