関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、中小企業向けに特化した文書管理サービス「ドキュパカ!」を展開する 株式会社アルパカ 石垣 翔太(いしがき しょうた)代表取締役にお話を伺いました。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)
長谷川明代(生態会ライター)

石垣 翔太(いしがき しょうた)代表取締役 略歴
1988年神奈川県生まれ。高校卒業後、様々な業界で法人営業を経験。27才で転職した大阪の中小製造業にて、現場の紙管理を目の当たりにし業務デジタル化に独学で取り組む。32才で独立。ノーコードツールを活用した受託開発で売り上げを伸ばし、2023年、AI文書管理サービス「ドキュパカ!」リリースを契機に法人化。ミライノピッチ2024にて最多の4賞を獲得。社名の由来は代表の顔がアルパカに似ているという妻の一言から。
■自身の失敗の経験を活かしサービスを開発
生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間いただき、ありがとうございます。まずは、株式会社アルパカの事業内容について教えてください。
石垣代表(以下、石垣):アルパカでは、中小企業向けに特化した文書管理サービス「ドキュパカ!」を展開しています。多くの中小企業では、膨大な書類(請求書などの帳票類、図面、名刺等)を手作業で管理しており、多大な労力が必要です。また、人的ミスも発生しやすいという課題があります。自身の中小製造業での現場経験を元に、文書管理システム「ドキュパカ!」を開発しました。
西山:中小企業で働く中で、どのようなご経験があったのですか?
石垣:20代の頃、私は大阪の中小製造業の生産管理部門で働いていました。70人くらいの会社で、「町工場」というかんじの会社でした。2,000点ほどの部品を扱う受発注の業務を担当していましたが、全てが紙管理で、本当に紙が飛び交うような環境でした。そんな中、帳票登録のミスをしてしまい、、、会社に750万円の損害を出してしまいました。
西山:それは大きな金額ですね。
石垣:反省と共に、こういった手作業のミスは中小企業の現場で日々起こっているのではないか、紙に埋もれて困っている人たちを助けたい、という想いが生まれました。
ライター長谷川(以下、長谷川):そこから、「ドキュパカ!」の構想が始まったのですね。
石垣:はい、紙が溢れる職場で、1人で「DX担当」といったような役割を担っていましたが、自動化が進むにつれて、このモデルは確実に中小企業に必要だと強く感じるようになりました。中小企業は、エクセルで管理をしていたり、業務が属人化していたり、そもそも紙がどこにいったかわからない、、、といった課題で溢れています。
長谷川:必要性とともに市場の可能性も感じられたんですね。
石垣:そうですね。ただ、DXって何から始めたらいいの、システムって高いんだよね、といったお声がある中で、極限までDXのハードルを下げる、1社に1人DX担当者を作る、ということを進めていきたいと思いました。

■中小企業にとことん寄り添うサービスデザイン
長谷川:「ドキュパカ!」について教えてください。
石垣:はい、「ドキュパカ!」は、名刺管理システムの全帳票対応版と考えると、わかりやすいと思います。一般的なOCRソフトとの違いは、AIにより多様な帳票フォーマットのデータ構造を分析し、自動で1つのデータベースとしてまとめているところです。機械学習機能を実装しているので、人の手でデータ読み込みを修正した場合、修正履歴を蓄積し、データ処理を改善していきます。
西山:OCRサービスは他社も展開していますが、「ドキュパカ!」は、何が強みでしょうか。
石垣:「ドキュパカ!」は、中小企業特化型です。大手が展開するOCRサービスは、経理、受発注といった業務ごとに作られており、それぞれに専用システムが存在します。中小企業では、1人の担当者がマルチで業務を行っているため、異なるシステムを扱うことは大きな負担となります。また中小企業にとって、オーバースペックなものが多いです。名刺管理の点でいうと、SNS連携機能といったものは不要で、情報を限られた社内メンバーに共有し蓄積するという、シンプルな処理ができれば十分です。機能が多いと価格も高くなり、中小企業には、導入のハードルが高くなります。属人化されている情報を標準化し、さらに全帳票対応としている点が、「ドキュパカ!」の強みです。
西山:中小企業の課題に添った、設計ですね。現状の導入企業数を教えてください。
石垣:サービス開始から6か月で、製造業を中心に10社ほど導入いただいています。「図面を探す手間がなくなった」、「展示会来場者への挨拶メールが自動化できた」といったお声をもらっています。些細なことのようですが、トータルの稼働削減は大きなものとなります。手入力によるミスがなくなる、といった点も評価いただいています。
サブスクモデルで展開しており、帳票アップロード枚数や機能に応じて3つのプランから選んでいただけます。自社基幹ソフトとの連携ニーズが高く、ほとんどの企業様が最上位のエンタープライズモデルを採用されています。
西山:中小企業向けのOCRサービスは今後増えてくると思いますが、「ドキュパカ!」を選び続けてもらうポイントがあれば教えてください。
石垣:「ドキュパカ!」継続の仕組みとして、AI修正機能を強化し、履歴データをクラウドに保存しています。サービスを切り替えるメリットより、修正履歴や蓄積データを失うことが損失と感じてもらえるよう、さらなる価値に繋げる機能開発を進めています。受託開発の経験を活かし、アプリ追加開発によるアップセルも展開予定です。
アルパカで一緒に働くメンバーは、全員が中小企業出身者です。導入サポートにあたり中小企業の担当者と現場レベルの細やかな会話ができることも、ITで業務改善を進める上で大きな強みと思っています。
また、中小企業の担当者は本当に時間がない。そこで、「ドキュパカ!」導入時の手間を極限まで下げる、「ドキュパカ!スターターキット」を用意しています。高速スキャナーと設定済みPC、簡易マニュアルがセットされた3段キャビネットです。これさえあればすぐに「ドキュパカ!」を始められます、といったものです。
「ドキュパカ!」は現状、「半対面」という形で展開を進めています。何から始めたら良いかわからない、という中小企業に対して、1社1社、丁寧にアプローチをさせてもらっています。中小企業向けのサービスは販売コストを落として数を販売していく、というものが多いですが、「ドキュパカ!」は今後、一定期間は企業様に入り込んでやっていきたいと考えます。その中で、今見えていないものを可視化し、勝ち筋を見つけていきたいです。
中小企業での経験を活かし、機能・導入面において、ニーズをとらえた展開をしていきます。


■受託開発の経験から、最適なプロダクトを開発
西山:ありがとうございます。次は、株式会社アルパカ設立から「ドキュパカ!」リリースに至った背景について教えてください。
石垣:当初は個人事業主として、ノーコードプラットフォームを使った受託開発を、中小企業向けに提供していました。私はエンジニア出身ではないため、複雑なシステムを作るためにプログラミングに精通した奥谷を迎え、法人化しました。ただ、2人のうちどちらかが欠けたら回らないという状態は「会社」と言えるのかと思い、汎用性のあるプロダクトを作ろうと思いました。
受託開発案件の半分が、「紙のデータ化」でした。それぞれを1つのサービスにできたら、と考え「ドキュパカ!」のリリースに至りました。
西山:元々は、どのような受託開発をされていたのですか。
石垣:製造業の在庫管理、見積書発行、経費精算など様々です。「アルパカを雇いませんか?」という形で、DX担当者として私と奥谷が会社に入らせてもらい、業務を拝見しプロセスに沿ったシステムを作り、効率化を進めるということをしていました。
西山:「アルパカを雇う」は面白い発想ですね。自社にアルパカ人材(DX担当者)を増やすことは予定されていないのでしょうか。
石垣:「アルパカを雇う」という形態ですと、属人化し企業内にITノウハウが蓄積していきません。代わりに、「ドキュパカ!」カスタマーサポート人材をアルパカ内に配置し、「ドキュパカ!」導入や利用促進をサポートしていきたいと考えます。
■「ドキュパカ!」で作りたい世界
西山:今後の展開はどのように考えられていますか?
石垣:5年で24億円の売り上げを目指し、機能追加、販売網獲得などのロードマップを描いています。2025年には「ドキュパカ!」サービスをより広く展開していくための大規模な開発を予定しています。
「ドキュパカ!」で作りたい世界は、大きく2点あります。1点目は、中小企業の業務への生成AIの浸透です。生成AIの存在は皆さん知っているものの、活用方法がわからず業務で使うに至っていない会社が多いです。2点目は、業務データの蓄積です。業務の中で自然とビックデータとして蓄積し、紙の山を「価値の山」に変えていきます。
経営理念として、「中小企業に1社に1人、DX担当者を作る」を掲げています。大手ではIT部門等が存在しますが、中小企業では専属担当者1人を作ることも困難です。そこをアルパカが「ドキュパカ!」でサポートし、伴走させていただく担当者さんを「1人」作ります。中小企業のDXを加速し、世界に勝てる日本の中小企業をバックアップしていきます。

取材を終えて
石垣代表の、中小企業向けの業務効率化に対する強い情熱を感じました。自らの豊富な経験に基づき、現場のニーズに寄り添う工夫を凝らしておられます。また、柔軟なカスタマイズ性とコスト面での絶妙なバランスによって、中小企業に導入しやすい環境を提供しています。奥様を追って大阪に来られ起業、というエピソードにも石垣代表の熱いお人柄を感じました。ドキュパカ!の広がりが、日本の中小企業の競争力強化を促進することを期待します。(ライター:長谷川明代)
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