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執筆者の写真Seitaikai

フレシキブルAIを大学と共同研究、物流エコシステム開発でCO2排出削減

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、AIによる物流エコシステムを構築し、CO2排出削減・ドライバー不足・2024年問題の危機解決を目指す株式会社Air Business Club(エア ビジネス クラブ)代表取締役 大堀 富生氏にお話を聞きました。

取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)

森令子(ライター)


 

大堀 富生(おおぼり とみお)氏 略歴

1965年生まれ、滋賀県出身、工業高校卒。システム会社や商社、卸売業など企業でのキャリアと、ソフト開発、自動倉庫、コンビニなどの起業・経営を経験。物流の上流〜下流まで全てを網羅した経験・知見をもとに、物流エコシステム特許を国内外で取得し、2019年に株式会社Air Business Clubを創業。

 

■CO2排出削減、ドライバーの人員不足や労働環境、2024年問題など物流業界の課題解決に”物流革命”を!


生態会 垣端(以下 垣端):本日はよろしくお願いします。まずは、事業内容を教えてください。


Air Business Club 大堀氏(以下 大堀):フレキシブルAIによる物流エコシステムで、物流業界の課題解決を目指しています。AIは滋賀県立大学と共同研究しています。


物流業界は、社会環境課題であるCO2の排出、ドライバーの人員不足や長時間労働・低賃金、そして、2024年問題(働き方改革関連法によりドライバーの時間外労働管理が厳格化することによる諸問題)など、多くの課題が山積する危機的状況です。


その原因の一つに、トラックの積載効率(トラックの最大積載量に対する荷物の割合)の低さがあります。トラックは配送が完了したら、帰りは空の荷台で走行しますし、積荷の管理もドライバー頼りの場合が多く、効率化が図れていません。積載効率は平均38%と、かなり低い状況なのです。この積載効率を60%まで向上できれば、多くの課題が解決します。


私たちの開発しているシステムでは、今までトラック単位の管理だった荷台をパレット単位で区画化・デジタル化し、AIで配送ルートと荷物の積み込みを最適化、積載効率向上を図ります。実際に、実証実験ではドライバーがスマホ一つで、荷台情報を登録・共有し、AIによるリアルタイムの荷物管理を実現しています。これは、日本で唯一のシステムであり、輸送の概念をくつがえす”物流革命”を実現できると考えています。

搬送計画 ルート最適化


荷台区画化情報の提供

垣端:”物流革命”とは壮大な事業ですね。具体的には、どのように進めているのですか?


大堀:現在、3つの事業を進めています。1つ目は「要求巡回型システム」で、荷主様の依頼に応じて、対象地域でトラックが巡回しながら荷物を積み下ろしする事業です。2つ目は、「最適化調達システム&グループ調達システム」です。製造業の調達部門を対象顧客としており、サプライヤーからの部品輸送を、製造業サイドが手配した巡回トラックで引き取ることで効率化する事業です。3つ目は、自動運転のフォークリフトなどによる積み下ろしの効率を劇的に向上できる「荷台区画アドレス情報提供システム」の提供事業です。


現在、「要求巡回型システム」について、パレット単位の荷物を最適なルートで同時に積み下ろしするサービスの実証実験を、行政とも連携し滋賀県内で行っています。また、調達の最適化については、大手企業と実証実験を進めています。


<参考>Air Business Clubのコンセプト動画



垣端:滋賀県立大学との共同研究を進めているほか、特許も多数保有されてるとのことですね。


大堀:そうですね。物流システムや物流データに関わる方法、装置などに関して、国内6件、海外1件の特許を保有しています。その他、国内外で多数の特許を出願中で、大学と共同出願中の国際特許もあります。


私たちの目指す物流エコシステム実現には、一貫パレチゼーション化(荷物を出発地から到着地まで、同一のパレットに乗せたまま輸送・保管すること)が必要不可欠です。そのために、それぞれのパレットに個体識別番号を設定し、積荷と同様に、AIによるリアルタイムな所在地管理を行うなど、パレットが必ず所有者のもとへ帰ってくるパレット循環フォーメーションシステムも開発しました。この技術も、当社の保有技術であり、特許を取得しています。


■AIが進化した今なら物流効率化は可能。物流とシステムの両方を知る自分がやるしかない!と起業を決意


垣端:この事業を始めたきっかけはなんですか?


大堀:私のこれまでの経験の結果が、この事業なのです。1社目のシステム会社で、情報処理の技術を身につけました。その後、商社で、海外工場の生産管理や調達、経理の責任者などを担当、その時に、「トラックの帰り便は空で走っている」とか「トラックはいつ来るかわからない」といったことも現場で経験しました。30年前から非効率のまま、今に至っているんですね。


ソフトウェア開発会社や自動倉庫の会社を起業し、経営もしていました。西日本最大の自動倉庫の立ち上げに関わり、物流業界での知見を得たりもしました。偶然とはいえ、サプライチェーンの上流から下流まで、ほぼ全てを経験していたので、2010年に故郷の滋賀に戻った時、「こうなったら、小売も経験しなければ」とコンビニエンスストアのオーナーになりました。学生に店舗運営を任せる、ちょっと変わったスタイルで経営しており、とても元気な良い店でした。


ある時「地元の野菜を売ろう!」とJAに話をしにいって、それがきっかけで、組合長と懇意になり、JAのサポートをすることになりました。農作物の販路拡大のために「パレットに野菜を乗せて、東京に持っていけないか?」というアイデアを聞いて、「AIが進化した今なら、物流の効率化ができるはず、物流業界を広く知り、システムもわかる私がやるしかない!」と、今の事業のベースとなる物流システムを考案しました。その特許を国内外で取得できたことが、株式会社Air Business Club創業のきっかけです。


 日本でインターネットが始まったのが1995年ですが、私は、1996年にインターネットを使った「インターネット求貨求車」を考案し、稼働させました。ソフトウェア開発会社を起業した頃です。「インターネット求貨求車」は、現在のウーバー始め多くのマッチングサイトの先駆けのシステムで、日本だけでなく、世界でも初めてだったはずです。しかし、残念ながら、特許出願前に新聞記事が出てしまい、特許をあきらめるという残念な結果となりました。その経験を踏まえ、このAir Business Club の事業では、次世代物流実現に必要な特許を保有してから事業を開始したんです。


森:全てのご経験が、今のビジネスにつながっているとは驚きです。起業後も、アクセラレーションプログラムやビジネスコンテストなど精力的に活動されていますね。


大堀:滋賀銀行サタデー起業塾ビジネスコンテスト最高賞「野の花大賞」や、「ディープテックグランプリ2021」などのビジネスコンテスト受賞や、大阪産業局「令和3年度スタートアップイニシャルプログラムOSAKA」、2022年度中小機構アクセラレーション事業「FASTAR」といったアクセラレーションプログラム採択など、おかげさまで、多くの支援をいただいています。


滋賀は大学、銀行、行政など非常に濃いサポートがあり、しっかりとつながることができます。物流業界としても、滋賀は交通の要で、大手企業の工場も多く立地しています。実証実験などもやりやすく、物流業界を変革するのに、適した環境だと思っています。


垣端:業界の変革に向け、着実に繋がりを行動していらっしゃるご様子ですが、今後の展開はどのように考えていますか?


大堀:物流業界の2024年問題に向け、実用化を急いでいます。そのためには、システム投資が必要です。実証実験の成果を評価してもらい、2023年に資金調達をできればと考えています。その先にも、高齢ドライバーの引退による、さらなる人員不足、自動運転への対応など、次々と課題はあります。IPOを目指して、事業を拡大していきたいです。


垣端:物流業界の危機を救う、新たな物流エコシステムの実現に期待しています。本日はありがとうございました。



 

取材を終えて

交通の要所であり、地元の連携が強い滋賀だからこそ、この事業が進められるというお話は、他のスタートアップでも聞いたことがあり、滋賀県での起業のメリットを感じられているようです。企業でのご経験、そして、起業や会社経営のご経験、どちらも豊富な大堀さんが、行政や企業、大学と幅広く連携し、社会変革に果敢に挑戦されています。明るく熱意溢れるお人柄も印象的でした。

(ライター 森令子)


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