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執筆者の写真西山裕子

三井住友信託銀行の関西活性化PJ:ふるさと納税で、神戸に資金提供。脱炭素で2兆円投資を目指す

更新日:2022年11月3日

生態会は、関西の起業コミュニティの活性化を目指して活動しています。コミュニティの中には、スタートアップに加え、その支援企業、投資家、専門家などがいらっしゃいます。


今回は、2020年から生態会のパートナー企業として共にスタートアップ支援をしている、三井住友信託銀行 の専務執行役員、田中尚宏氏にお話を伺いました。


兵庫県出身、関西学院大学卒。関西活性化に向けて熱く語る田中専務。


取材・レポート:西山裕子、垣端たくみ・橋尾日登美(生態会事務局)

 

関西活性化プロジェクト(PJ)とは


生態会:本日は、お時間いただきありがとうございます。御社は積極的に、スタートアップ支援や産官学連携推進をされていますね。2019年8月、法人企画部に「関西活性化プロジェクト」を作られたのは、どのような背景ですか?


三井住友信託銀行(以下、SMTB)田中:関西では、2025年開催予定の大阪・関西万博をはじめ、うめきた2期等、大企業からスタートアップ、大学研究シーズ、自治体等、幅広いメンバーが集う大規模プロジェクトが続きます。当社は、これらの方々が、プロジェクトに関わっていくことをサポートすることを企図し、関西活性化プロジェクトを立ち上げました。昔は関西のGDPは日本の約25%くらいでしたが、今は17%まで落ち込んでいます。もっと関西を元気にと、立ち上げたプロジェクトです。私が統括しています。


当社の大阪拠点は、業種や規模で法人営業部が1部から4部まであり、それぞれいろいろな情報源をもっています。しかしどうしても、自分達の担当先で終わる、いわゆる縦割りになってしまいました。情報連携をしっかりできる形を作り、大企業とスタートアップのマッチング、万博に関する各社の考えや活動など、全部集約して、踏み込んでいきたいと思っています。


信託銀行というのは、長期に資金をお預かりして、長期に提供するというのが元々の成り立ちです。重厚長大系の企業、あるいは電鉄などのインフラ等、大企業中心の取引が多い。しかし世の中の変化は激しく、大企業だけとお付き合いするというわけにはいきません。スタートアップ企業も、徐々に大きくなり、IPO時に証券代行業務を当社がすることもあります。スタートアップはお金がなく、与信判断がつきにくい。当社で証券代行と融資の連携も、やっていきたいなと。とはいえスタートアップの価値を判断するには、目利き力が必要です。ここは我々も知見がないので、専門家と連携しています。


生態会:関西活性化プロジェクトは、何名位のメンバーで取り組まれているのでしょうか?


SMTB田中:1名の専任者を中心に、関係する部署の約30名の部次長が兼務しています。


生態会:神戸大学や神戸市との連携について、詳しく教えていただけますでしょうか?


生態会の取材に、熱く語っていただきました

SMTB田中:2020年4月から、神戸大学に当社のOBを1名派遣しました。この行員は、神戸大学で「イノベーション創出プロモーター」を務め、各研究室の有望な研究シーズの発掘に取り組んでいます。認知症予防研究、先端膜分離技術、紫外線活用技術、ワイヤレス給電技術等の研究シーズなどを発掘し、それらの研究シーズと当社取引先企業にご紹介しています。さらに、社会実装に向けたハンズオン支援を、関西活性化プロジェクトが推進しています。


大学研究シーズを社会実装させるためには、資金面の支援も必要です。しかし、法人化前の研究シーズには、資金を出せる企業やファンドは限定的です。国(JST:国立研究開発法人 科学技術振興機構)がGAPファンド事業を展開しているのも、そのためです。


そこで2022年3月、神戸市の大学研究シーズの社会実装支援事業である「大学発アーバンイノベーション神戸」に対して、 「企業版ふるさと納税」制度を活用した3,000万円の寄付を実施しました。企業版ふるさと納税の財源を活用した大学研究シーズの社会実装支援は、全国初の取り組みであり、当社が初めての寄付者です。当行の中でも、初めての事例となっています。


田中専務(写真左)、神戸市の小原副市長(同右):神戸経済ニュースより

生態会:ふるさと納税を利用というモデルは、非常に面白いですね。神戸市に本社がない企業の寄付なら、実質1割負担で済むということなのですね。


SMTB田中:はい、この寄付を通じて、資金が十分でない研究シーズ段階の研究技術へ資金提供をします。また、社会実装化を産官学連携で支援し、企業や投資家からの資金還流を生み出すことを目指しています。神戸市とは、KOBEスマートシティ推進コンソーシアムに参画するなど、市民生活の豊かさと利便性の向上、地域課題の解決に向けた取り組みを図っています。当社は、コンソーシアムの運営委員にも就任し、神戸市スマートシティの具体的な戦略や事業計画を検討・審議し、議案の策定や事業の執行管理を行うとともに、プロジェクトの選定・評価も行います。


神戸市との連携イメージ(ひょうご経済プラスより)

神戸市からは、これらの活動を評価いただき、2022年6月に「大学都市神戸の新たな産官学共創モデル」づくりに向けた事業連携協定を締結し、あわせて、神戸市が別途募集していた「産官学連携コーディネート業務」の第一号受託者として選定されました。「産官学連携コーディネート業務」 とは、「大学発アーバンイノベーション神戸(企業版ふるさと納税活用型)」の実施にあたり、企業のニーズと大学研究シーズとのマッチングを通じて産官学連携の推進を図るとともに、当社に続いて、企業版ふるさと納税を寄付する企業を発掘する業務です。なお、これは、2021年11月の銀行法改正で、新たに設けられた銀行法施行規則第13条の2の5「経営相談等業務」を根拠とし、当社初の業務受託となっています(まずは神戸市に限定)。


生態会:本当に、幅広い取組みをされているんですね。大企業の方とお話しすると、「関西を元気にしたい」「スタートアップの支援も必要」と口ではおっしゃいます。しかし、短期的な利益やメリットが見えないと、なかなか取り組まれない。御社ではなぜ、スタートアップ支援という、長期的な取り組みを推進されているのですか?


SMTB田中:当社ホールディングスは、「社会的課題の解決と経済的価値の両立」を企業のパーパスとしています。将来に向けて、流れを作る必要があります。たとえば今、脱炭素とか、ESGなど言われていますね。我々は、今後10年で、この分野にエクイティで累計5,000億円出資する予定です。


生態会:5,000億円ですか!


SMTB田中:はい、我々が呼び水となって、投資家の資金も合わせて2兆円規模の市場を創りたいと。我々はプライベートエクイティへの投資も、20年以上やっています。分散をきかせて毎年コツコツ積みあげて、今一定の残高になっています。パフォーマンスレコードも出ています。こういうものに、年金などを運用されている機関投資家の方の資金を集めていきたいですね。これは日本全国、場合によっては海外にも。


生態会:すごい規模の投資ですね。ところで田中専務は東京勤務も長かったそうですが、関西の強みや課題は何だと感じておられますか?


SMTB田中:モノづくりの強みはありますね。また、オーナー企業が多く、人と人のつながりが強い。コンパクトで、世間が狭くて、すぐにつながりますね。創業起業家でエンジェル投資をされている方も、結構いますよね。

課題としては、京都・大阪・兵庫と、もっと一体感を持ってやれないかと思うことでしょうか。それぞれ、対抗意識があったり(笑)。まあ行政の方も、関西広域連合として、県単位でややこしい手続きも簡素化して、連携されようとしているようです。一つの経済圏として、もっとしっかり進めていければよいですね。


(写真左)伊藤航氏(関西活性化プロジェクト審議役)、(写真右)田中専務

生態会:2019年に関西活性化プロジェクトが始まって、その後、田中専務が当初思い描かれたように進んでいますか?


SMTB田中:はい、進んでいます。情報が集約し、動きやすくなっていますね。いろいろやることが増え、人手が足らないのが悩みです。人員増も計画しています。今後も、さらに大企業やスタートアップの連携、出資等を進めて、関西経済の活性化に貢献していきたいと考えています。生態会さんには、関西スタートアップレポートを通じて、ここだけにしかない情報を提供してもらい、ユニークなスタートアップを紹介してもらっています。引き続き、当社の取組みをサポートいただけると、ありがたいです。


多数の行員が「なにわなんでも大阪検定」を受験し、大阪の知識を深めているそう

 

取材を終えて:信託銀行の事業モデルや、市場を創るというスケール大きな話に、ワクワクしました。三井住友信託銀行は、大企業ではありますが、担当の方々はフットワーク軽く、スピード感があります。統括する田中専務は、関西経済について熱く語られ、スタートアップ支援にコミットする情熱が伝わってきました。

引き続き、共に関西スタートアップの育成支援に取り組んでいきたいです。(事務局:西山裕子)




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