関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、宿泊管理から収益、マーケティング、外部システム連携など、ホテルの膨大な業務を一気通貫に統合した一体型ホテル業務システム「WASIMIL」を開発販売する株式会社AZOOの代表取締役 横田 裕子(よこた ひろこ)さんにお話を伺いました。2021年5月にβ版マーケティング機能を先行正式ローンチしたばかり(「WASIMIL」完成版は、今秋のローンチ予定)。月額料金2万円〜の低価格で高機能で注目のSaaSサービスです。
取材・レポート:森 令子(生態会事務局)、越智のりこ(生態会ライター)
横田 裕子 代表取締役 略歴
兵庫県出身。新卒で毎日放送に勤務したのちインドネシアへ留学。帰国後、 「地方の中小企業を元気にしたい」という想いから環境省、JETRO、JICAで中小企業の 海外進出などに携わり、WEBマーケティング・コンサルなどの経験を積む。
プロダクト開発を率いる共同創業者トーマス氏発案の事業に参画し、共同創業者として京都でAZOOを設立。 第9回京都女性起業家賞(アントレプレナー賞) 京都府知事賞最優秀賞。
■日本初!中小ホテル向け一体型ホテルシステムを開発
生態会ライター 越智(以下、越智):本日はお時間いただきありがとうございます。まずは事業概要について教えていただけますか。
株式会社 AZOO 横田さん(以下、横田):ホテルや旅館向けに、予約受付から宿泊管理、バックオフィスの収益管理、マーケティングまで一括できる一体型ホテルシステム「WASIMIL」を開発・販売しています。特に、中小規模の宿泊事業者向けに開発を進め、2021年5月にβ版マーケティング機能を先行ローンチしました。現在、ユーザーは全国各地の約50社、問い合わせも多く、強いニーズを実感しています。もう一つの事業として、中堅・大手ホテルを支援するコンサルティングも展開しています。
越智:既に50社も登録があるんですね!一体型のホテルシステムというのは、これまで日本にはなかったものなのですか?
横田:大手ホテル向けの多機能システムはありますが、中小向けで、使いやすく、運営を丸っとカバーできる高機能システムを開発・販売しているベンダーはいません。開発の初期コストをかけて多機能システムを開発しても、中小ホテル対象だと、開発コストの投資を回収できないこともあり、これまで一体型のシステムがありませんでした。
越智:私も、小さなホテルのフロントで働いた経験が少しあるのですが、そこでも、予約システムと部屋を管理をするシステムが別々で、すごく煩雑でした!
横田:そうなんです。予約管理だけ、宿泊管理だけ、収益管理だけなど、個別システムを開発・販売している企業は色々あるのですが、現場では、例えば、予約管理だけシステム対応で、部屋の割り振りはエクセルのままといったように、予約、顧客、収益などを別々のツールで管理しているのが実情です。中小のホテル・旅館になればなるほど、うまくシステムを使いこなせず、業務効率が上がらない課題を抱えています。
そこで、バラバラの機能が一つのシステムで完結でき、さらに、マーケティング機能も追加されたシステムであれば、業界のニーズに合致すると考えました。
越智:すでに業界内に、一体型システムへのニーズはあったのですね。
横田:はい。共同創業者ナピオンテックは不動産業界出身ですが、システム分野にも強く、日本のホテルシステムがかなり遅れていること、”ガラパゴス化”していることに気づきました。海外には一体型ホテルシステムがありますが、日本の商慣習の違いや、国内予約サイトと連携できないなど、言語の壁以上に様々なハードルがあり、海外製システムは日本に進出できません。つまり、自社システムを開発すれば、大きなビジネスになるということです。
そこで開発したのが「WASIMIL」です。日本で同じようなシステムを開発しようとすると、本当に莫大な時間とコストがかかりますが、私たちは海外エンジニアとチームを組み、オンラインで業務進行するなど、コストを削減しつつ、迅速な開発体制を整えました。中小規模のホテルや旅館に最新テクノロジーをお届けするため、「WASIMIL」の一番低価格のプランは月額2万円と、リーズナブルな料金でご利用いただけるようにしています。
■コロナは追い風、「WASIMIL」で宿泊業の効率化を支援
生態会 森(以下、森):2020年1月創業ですね。宿泊業界へのコロナの影響は甚大ですが、どんな影響がありましたか?
横田:自社的には、事業フェーズが開発段階だったことから、大きな影響はなかったです。一方で、宿泊業界全体の需要が縮小しており、日々辛い思いをされている中小ホテル・旅館の経営者がおられ心苦しく感じています。「逆境の今こそ、業務改善したい」という声をいただいており、「WASIMIL」はこうした業務効率化のニーズにマッチしたシステムとして、経営改善のサポートを行っていきます。
また、「WASIMIL」はマーケティング機能に独自性があります。「コロナの間もお客様とつながりを保ちたい」という声も多かったため、顧客との関係づくりの面でも貢献していきます。「補助金を活用してシステムを導入したい」という相談も、最近は増えています。
私たちの強みである、”データ分析をベースにしたマーケティング”のニーズも高まっています。中堅・大手ホテルで顕著なのですが、コロナ前は”インバウンドが自然に来る/旅行需要もすごくある"という環境だったので、ホテル側がマーケティングをあまり意識していない時代だったんです。それが、コロナで宿泊需要が激減、集客課題に直面したことで、マーケティング関連の相談が増えてきました。ホテルが蓄積している様々なデータを分析するなど、比較的大規模なホテルに向けてコンサルティングを行っています。
森:マーケティングチームにも、海外メンバーがいるのですか?
横田:ビジネス開発の部門には私を含めて6名おり、日本人に加え、海外のマーケターもいます。私自身、JETROなどで日本の中小企業のマーケティング経験は豊富ですし、海外在住の専門家がチームにいることで、欧米の最新デジタルマーケティング知識も兼ね備えているのも強みです。
■ホテル支援を通して、地方活性化を目指す
越智:「WASIMIL」のターゲットは、中小規模のホテルや旅館ということですね。将来的には、どのような事業展開を目指していますか?
横田:「WASIMIL」で業務改善を支援しつつ、コンサル事業で得た知見を中小のホテル・旅館に還元し、地方創生の力になりたいと考えています。今ご一緒している顧客に、四国の山の中の一棟ロッジがあります。人口1万人もいない地域ですが、ロッジにお客様を呼び、地域の人と交わってもらい、地域の関係人口を増やしたいという素晴らしいコンセプトがあるんです。そのようなホテルや、これから事業をやりたい若い世代を支援していきたいです。
将来的には、「WASIMIL」で得た旅行者データを活用・分析し、その地域の観光行政と連携することもできるはずです。地方活性化に向け、どうやって旅行者を呼んでくるかということに繋げていきたいと思っています。
取材を終えて
中小宿泊業の課題解決を目指す「WASIMIL」は、コロナ禍で生じたさらなる効率化・ 合理化ニーズにマッチしており、システムとマーケティング両方を提供可能な点も魅力に感じました。多国籍・多拠点のメンバーで組織され、全てオンラインで業務進行するなど、経営にも日本人と外国人が共同代表を務めるAZOOらしい多様性・独自性があります。将来的は行政と連携して地方の観光振興に関わっていきたいとのこと、観光の街・京都らしく、かつ先進的なスタートアップだなと感じました。
(ライター 越智)
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