関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、京都の東寺の近くで国際交流スペース“国境のないお家ULU”を運営する、株式会社ULU 伊藤裕子 代表取締役にお話を伺いました。にお話を伺いました。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)
八木曜子(生態会ライター)
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伊藤裕子(いとうゆうこ)氏 略歴:1974年生まれ。大阪大学外国語学部国際文化学科卒業後、シンガポールの工科短大で日本語教師として勤務。帰国後日本語学校、JTB子会社にてイベント・国際会議部門で就業。その後母親の経営する幼稚園・幼児教室で15年勤務。同会社役員を経て16年に英語講師として独立起業。19年から国際交流イベント”dEnglish café“を主催。21年京都市南区に多世代・多国籍の人が集えるコミュニティスペース『国境のないお家ULU』を設立。
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『ALL OK!』 をコンセプトにした交流スペースを作りたかった
生態会 八木(以下、八木):本日はお時間いただきありがとうございます。まず入って壁のパッチワークが印象的ですが、こちらは作られたのですか?
ULU伊藤氏(以下、伊藤):防音対策としてパッチワークで壁を作りました。一つずつ布地が異なることで、一個一個、一人一人が違っていいじゃないか、という思いを込めています。
八木:多様性を表現されているのですね。温かさが伝わってきます。こちらの場所の、“ULU”とはどういう意味を込めているのですか?
伊藤:ハワイ語で“みんなで伸びる”、“成長”、“神様の贈り物”という意味です
八木:素敵な言葉ですね。それでは伊藤さんのご経歴とULU設立の経緯を教えてください。
伊藤:はい。ここ、京都の東寺の近くで国境のないお家ULUというコミュニティスペース運営をしています。『ALL OK!』 をコンセプトに、国籍年齢性別関係なく集まれる場所で、英語学童・親子英語交流スペース・大人の交流サロンなどを開催しています。
私は10歳の頃、隣の家の留学帰りのお姉ちゃんから日常英語で学びました。座学ではない日常生活を通じて英語のレッスンを受け、とても楽しかったことが原体験です。マドンナやホイットニー・ヒューストンの曲を聞いたり、英語でお料理をしたりと斬新な学び方でした。そこから英語を通じて世界が広がったように感じて、楽しくてたまらなくなりました。その後14歳でアメリカ留学をしますが、スケールの大きさに驚き、インターナショナルな世界で生きたいと強く感じました。
高校では留学を繰り返し、大阪大学外国語学部国際文化学科で日本語教師の資格を取った後、シンガポールで日本語教師として就職しました。シンガポールは小さい国ですが、世界中の人が集まっています。アメリカ英語以外にスコットランド英語なども知り、多様性の中で生きるおもしろさを感じました。
そして日本に戻りJTBの子会社でイベント運営業務をメインに働き、日本語教師も続けました。奈良で母が幼稚園・幼児教育・託児所・塾を40年やっていたため、二人の子育てをしながらそこの手伝いをしていました。
ただ、結婚して出産し、子どもが成長していく横で、自分が幼稚園の事務で終わることに悲しさを感じました。そこで、2016年に、オンライン英語講師としてSNS集客のみで起業をしました。
その英語講師活動の中で、日本人は英語を学んでも実践する場が少ないことをもどかしく思い、自分が主催して英語で交流するイベントを始めました。
2018年に京都の南区の銭湯を借りてワークショップを始めると、子連れでお客さんがいらっしゃることが増えました。しかし銭湯というスペースでは子どもの活動を制限する必要があることから、自分で場所を構えることに決めました。
そして2020年にクラウドファンディングで資金を130 万円集めて、国籍年齢性別関係なく人が集まってワイワイできる、国境のないお家「ULU」を始めました。京都市伏見区で探し始めて、ご紹介でこの場所にたどりつきました。
コロナ禍で英語学童に切り替え、多様なプログラムを提供
生態会 西山(以下、西山):2020年というとコロナ真っ只中ですね。
伊藤:そうなのです。国際交流スペースとして運営したかったのですが、インバウンドの方がいなくなってしまったこともあり、まずは今できることをやろうと、2021年1月に英語学童を始めました。
イベントを繰り返しやっていたことから、京都の大学の留学生がリピーターになってくれていました。バイトが無くなって困っていたことも相まって、スタッフとして入ってくれました。現在、14名が手伝ってくれています。
英語学童は、55人ほど参加頂いています。学童は2時半からなので、朝は親子幼児教育をやっています。知能教育を英語で行っている点が珍しいと好評です。
プログラムは、好き放題に組んでいます。月曜日は英語でプログラミング、火曜日はアート、水曜日は幼児英語に特化、木曜日はジャマイカ滞在歴の長い先生の器械体操、金曜日は英語で実験、土曜日は英語でダンスか茶道、など、公立学校では体験できないプログラムを多数開催しています。
多国籍のスタッフと、子どもたちは自由な時間を
八木:英会話スクールではなく、英語を使った交流の場は珍しいですよね。理解されるのが大変だったのではないでしょうか?
伊藤:そのとおりです。場のコンセプトを理解してもらうのに、時間がかかりました。英語学童の説明会に参加いただき、ご賛同いただいているのですが、親御さんからは、もっと塾的な勉強の教え方をして欲しい、との声も出ます。
語学に関しては、可視化が難しいので起こり得ることだと思います。まず子どもたちはリスニングから上達しますが、親が英語を喋れなくて確認ができない。年に1回発表会をして、そこで確認していただくぐらいしか方法がありません。ただ退会率は、大変低いです。子どもたちが楽しく過ごしており、結果的には親御さんにも満足頂いているようです。
西山:競合との違いは、どういった部分でしょうか?
伊藤:多様な英語に触れてもらうために、多国籍 (アメリカ、ブラジル、フランス、スウェーデン、ミャンマー、インド、インドネシア、タイ、メキシコ、韓国)のスタッフを意図的に増やしています。それが独自性でしょうか。また、やりたいこと・自主性を重視して、あえて自由な時間を用意し、ゆるさを出しています。最初は「何したらいいの?」と訊く子どももいますが、「なんでもやっていいんだよ!」とコンセプトの『ALL OK!』の実践を伝えています。管理が楽だからといって、大手の学童のように時間割が決まっている運営方針は取っていません。
ULUの拡大版のコミュニティスペース兼学校法人を作りたい
八木:このULUを、どのように大きくしていきたいとお考えですか?
伊藤:ULUはスペースに限りがあるので、いずれ頭打ちになると考えています。今後は京都に更に大きな国際交流スペースを作りたいと考えています。ULUのフランチャイズ展開は考えていませんが、直営の場所をいくつか増やしながら学校法人を次のステップとしてイメージしています。
この国境のないお家ULUの本質を活かして、2026年にはインドネシアのグリーンスクールのような、コミュニティスペースかつ学校を作りたいと考えています。
生きる力を育むことを大切にしつつ、宿泊施設を併設し、食を重視していて自家発電しながら自然と調和した、京都ならではのサステナブルな場所を作りたいと考えています。いずれは学校法人を取得して、国際バカロレアも取得できて海外の大学に進学できると理想的ですね。
そして学校法人に限定せず、この日本の中でもユニークな京都で英語力が向上でき、多様な人とコミュニケーションが取れて生きた英語を使える、国際交流ができる場をイメージしています。
八木:どうやってその場を作ろうとお考えなのですか?
伊藤:一緒に構想している食関係の先生とともに、考えているところです。フリースクールの設立も、予定しています。また、学校法人だけではなく、観光客の方が1Day visitで来てこちらで宿泊ができるようにしたいですね。アフリカの方がアフリカ音楽を披露できたらディスカウントをするような、突発イベントを含める形で運営していきたいですね。
八木:モデルはありますか?
伊藤:鈴木りんさんが運営されているISAK、が一つのモデルですね。まだ手探り状態ですが、まずは場所を検討しています。
国際交流を増やしながら次の手を模索中
西山:近々は、どのような展開を考えていらっしゃいますか?
伊藤:4月からは中学生向けのフリースクールを、外国人スタッフとで始める予定です。国際的なフリースクールは、珍しいと思います。私の息子が不登校になってしまったことをきっかけに始めることにしました。
また、大人ULUというサロンを開催していて、ここを強化したいです。こちらはスクールとは異なり、国際交流がメインです。また、インバウンド施策としては旅行客を呼び込んで茶道体験教室や発酵料理教室を開催したいですね。
八木:国際交流の要素を、強めたいのですね。
伊藤:そうです。もともと英語学童はコロナ対策として始めたもので、スクールをやりたいわけではなくコミュニティスペース運営がやりたいことです。この拡大として、大きな交流スクールを考えているので、その拡大をどうやったらいいか模索しています。
八木:子を持つ親としても大変共感を呼ぶ事業で、応援したいと思いました。本日はお時間いただきありがとうございました。
取材を終えて:ULUに足を踏み入れるとその場にいることを楽しんでいる方々の笑顔が弾け、会話がはずみ、子どもや大人や年齢性別がバラバラな人たちが交流していて、喜ばれているサービスなんだなあと感じたのが第一印象でした。生態会では珍しいコミュニティスペース運営ですが、コミュニティに軸足を置きつつ、英語学童や幼児教育など時代のニーズを取り入れた求められるサービスです。こういった場が地元にあれば私も通いたいと強く願いました。(ライター八木)
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